No.280578 【まどか☆マギカ】Blind Guardian【まどさや】2011-08-21 10:49:49 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:828 閲覧ユーザー数:825 |
「おーい、美樹。ちょっと相談っていうか、用があるんだけど」
安らかな昼休みは、無粋な男子生徒の声で破られた。見滝原中学校1年生のさやかとまどかは、きょとんとした顔で男子生徒を見る。
「……ろぅっで、だにぉ」
「さやかちゃん、ご飯飲み込んでから喋ったほうがいいよ」
「…………用って、何よ」
目を白黒させながらおにぎりを胃に押し込んださやかは、とんとんと胸をたたきながら男子生徒に尋ねる。
「いやさ、今日の放課後、暇?」
まどかの顔がかあっと赤くなり、さやかはしばらく真面目に悩んでから「まあ暇っちゃ暇だけど?」と返す。その返事を聞いて、まどかの顔が一層真っ赤になった。
「おー、助かった! いやさー、ちょっとゲームのメンツが足りなくてさ。美樹に手伝って欲しいんだよ」
「ゲーム?」
デートだと思い込んでいたまどかは、話の行き先が怪しくなってきたのを感じて軽く眉をひそめる。せっかく、告白されるさやかちゃんを影から見守ってウェヒヒってしようと思ってたのに!
「うん。ゲーム」
「なんであたしなわけ? あたしPSPとか持ってないよ?」
「あー、そういうのはいらない。もともとさ、恭介のヤツが参加する予定だったんだけど、あいつ『外国から来た先生が今日でないとレッスンできない』とかナントカで、早退しちまったじゃん?」
「ああ、そういえば」
「だからさ、恭介の嫁さんに代理を頼もうぜってことになってよ」
それを聞いたさやかの顔は、一瞬でゆでダコのようになった。
「だ、だ、だだだだだだだだ誰が嫁だああああああああっ!!!
貴様そこに直れ!! 手打ちにしてくれるわ!!!!11!」
「さやかちゃん、落ち着いて、ドウドウ」
まどかが慌ててとりなす。
「こ、これが落ち着いていられるかっつーの!!
ヤダ。あたし絶対ヤダ。絶対そんなゲームしなーい」
「さやかちゃん、意地悪しちゃ駄目だよぅ。
あ、そうだ! ねえ、そのゲームって、私にもできる?」
思わぬ失言に焦っていた男子生徒は、救いの女神降臨とばかりにまどかの言葉に激しく首を縦に振る。
「できるできる。ルールは簡単だし、人数の調整もそれなりに効くからさ。鹿目も、美樹も、二人とも入ってくれても大丈夫だから」
「だってさ、さやかちゃん。あの上条君がゲームだなんて、面白そうじゃない? 一緒に参加させてもらおうよ」
「う、むむむむ……しょうがないなあ……」
言いつつ、さやかは勢い良くまどかにヘッドロックを極める。
「さやかちゃんの嫁がやりたいって言うんじゃしょうがない!
参加してあげるから、ありがたく思いなさい!」
「うっし。じゃあ放課後、ラウンジ集合なー。遅刻すんなよ」
放課後、二人が黄昏の光が差し込むラウンジに行くと、そこには3人の男子生徒と数冊の文庫本、そして紙と鉛筆が広がっていた。
「おーっす。さやか様が来てやったぞー」
「こんにちはー。よろしくお願いします」
美少女二人に挨拶された男子生徒たちは、ほんのわずかたりと色めきたつこともなく、淡々と「おっす」「ちーす」などと簡単なご挨拶。その間も、手は何やら細かい計算をし続けている。
(あちゃー、こりゃ想像しとくべきだったかなー。恭介、ああ見えても頭いいもんなー。なんかこういう数学っぽいゲームとか、超やってそう)
(だ、大丈夫だよ、さやかちゃん。簡単って言ってたもん)
(ばっか、こういう連中は自分たちにできることはなんでも「簡単」って言うんだって)
(うわわ、そうかも……)
ヒソヒソ話を続ける花の女子中学生二人をよそに、男子生徒はもくもくと計算をし続けていた。そのうち、彼女たちをこの場に呼び込んだ首謀者である男子生徒が、1枚の紙をさやかに差し出した。紙にはいくつものマス目と、それを埋め尽くすような数字の海。
「はい、これ」
「……は、はあ」
成り行きで受け取ってみたが、さやかは既に頭のてっぺんにタンポポが生えかけている。まどかは帰りたい気持ちで一杯なお顔。
「で……これ、何するゲームなの?」
さやかがその問いを発した瞬間、微妙に場が凍りついた。3人の男子生徒は、教理問答を受ける佐倉杏子(この段階で彼女らが杏子のことを知るすべはないとはいえ)のような顔になり、それから曖昧な笑みを浮かべる。そうして、仕方ないといった風情で、真ん中に座った男子生徒が口を開いた。
「これはね、RPGだよ」
「RPGって、ドラクエとかファイファンみたいな?」
「さやかちゃん、ファイファンって言うとまたネットで叩かれるよ。エフエフって言わないと」
「うっせー! あたしにとってあれはファイファンなの!」
「……いいかな。まあ、だいたいそんな感じ。ドラクエとかFFとかの、元になったゲームなんだ」
「へー! でもさ、PSPもDSもないけど、それでRPGできんの?」
「もちろん。このタイプのゲームが最初にできたのは、だいたい1970年頃なんだ。その頃は、PSPどころかファミコンすらなかったからね。その代わりに、全部人力でRPGを遊んでたってわけ。こっちが元祖だけど」
「元祖ってことは、本家もあるの?」
「さやかちゃん、そのツッコミよくわかんない」
「まどかも前橋市民なら元祖と本家で2軒、同じ名前の煎餅屋があることくらい……すみません、話を続けてください」
「ははは、あのお煎餅、僕のママは本家のほうが好みだね。
ともあれ、話を戻すとね、だいたいのイメージとしては、僕がコンピューターの代わりをして、みんなは僕の用意したダンジョンを踏破したり、敵と戦ったりする、って感じ」
「それさ、あたしらすっごい不利じゃない?」
「不利?」
「だよね、私もちょっと公平じゃない気がする」
「……ええと、何が分かんないのかな?」
さやかはオレンジジュースを啜ると、こんなこともわかんないのかこいつ的な上から目線を作る。
「だってさ、あんたはすっごい強い敵とか、踏んだら即死みたいな罠とか、勝手に作れるわけでしょ? でも見た感じ、こっちはこの数字を使ってそれをどうにかする、んじゃないの? あたしらも、ヒットポイントを9999にするとか自由にできなかったら、全然フェアじゃないじゃん」
「だよね、さやかちゃんのRPGツクール、絶対にクリアできなかったもんね」
「ああ……なるほど。うーん、まずね、そもそもこれは、誰か一人が勝つっていうゲームじゃないんだよ」
「へ? じゃなんでゲームすんの? つーか、これ何するゲームなの? てかそもそもこれってゲームなの?」
男子生徒たちの間に微妙な空気が流れた。が、その空気を押しつぶすように彼は言葉を継ぐ。
「このゲームは、参加者全員が楽しめれば勝ち、っていうゲームなんだ」
その言葉を聞いた別の男子生徒が一瞬口を開きかけたが、すぐに押し黙った。
「だから僕は君たちが絶対に勝てないような敵はまず出さないし、そういう敵を出すときは何か解決法も用意しておく。そうじゃないと、君たちは楽しくないだろう?」
「でもそれじゃあ、コンピューターの代わりをする人って、作った謎は全部解かれちゃうし、出した敵は全部倒されちゃうし、全然楽しくない、ような……」
「だよなー、それで楽しいって、はっきり言ってただのマゾだよなー」
男子生徒は軽く苦笑する。
「マゾかー。まあ、否定はできないなあ。でも僕としては、僕の作ったお話とか、これくらいの敵なら苦戦するけど倒せるかな? っていう戦いとかを、みんなが楽しんでくれたら、それでかなり楽しいんだよ」
「ふーん。まあ、いいや。で、これってどうやったら勝ちなの?」
「……さやかちゃん、さっき『みんなが楽しんだら勝ち』って」
「そんな綺麗事、あたしは信じないねー。『体育祭は、頑張ったみんなの優勝なんです』とか、早乙女先生それ無理でしょってみんな思ったじゃん」
「あはは。とりあえず、美樹さんたちは4人で1つのチームを組んで、まずは今から探検しようとしてる迷宮から目的のアイテムを取ってこれれば勝ち、かな。ゲームだから、戦闘でキャラクターが殺されちゃうこともあり得るけど、そういうことは少なければ少ないほどいい。君たちは仲間だからね」
「死んだらリセットすればいいじゃん」
「このゲーム、リセットはないんだ。そこは現実と一緒」
「おー、なるほど……それはちょっと面白そう」
「さやかちゃん、マゾゲー大好きだもんね。Dead SpaceとかGears of Warとか、よく最高難易度で遊ぶなあ、って。あんな難易度、絶対おかしいよ」
「うるさーい。あー、じゃあさ、ふと思ったんだけど、そのアイテムを取りに行くってのは、断ったりできないんだよね?」
「普通なら断ってもらってもいいんだけど、今回のゲームは、1週間前のゲームの続きなんだ。上条君が『取りに行くべきだ』って言い張って、それで取りに行くことになった、というところで次回に続くになったってわけ」
「恭介め……あたしに面倒な仕事を押し付けおって……」
「はーい、じゃあ私はー、目の前のこいつを剣で殴りまーす。
くらえ、さやかちゃんアタック!」
さやかはそう叫びつつ、サイコロを2個振った。
「うわっちゃー、また4かー。なにこのサイコロ。低い目しか出ないよ」
「そんなことないよ、さやかちゃん。
さやかちゃんがサイコロ振ると、低い目しかでないっていうだけ」
「まぁまぁ、ダイスは偏ることがあるから。出目の悪い人ってのも、いないわけじゃないけど」
「うーん、7以上で命中……ねえ、これってどれくらいの確率なの?」
「2D6で7以上は、5割強だね」
「にでぃーろく?」
「サイコロを2個振った合計、ってことだよ、さやかちゃん」
「あー、そうだったそうだった。英語わかんないよ。つーか半分以上で命中するんじゃん! まだ1発も当ててないよあたし!」
「きっとこれからは命中連発だよ、さやかちゃん」
「じゃあ、ゴブリンの攻撃。美樹さん回避して。6以上」
「おーし、じゃあ今度こそ! って、今度は5かよー!」
「さやかちゃん、頑張ったよ、攻撃するときより1増えたもん」
「こんなのは結果がすべてなの!」
「ダメージは6点ね」
「えーと、鎧が何点止めるか決めるんだよね? それ! あ、12」
「鎧だけで全部止まったね」
「へへーん、そんな攻撃が効くもんか!」
「さやかちゃん、倒せないけど倒されないのが上手だよね」
「まどか、それ全然褒めてない……ん、いやいや、さすがまどか! いいことに気がついたじゃん! よーし、じゃああたし、もっと前に出るよー。敵のど真ん中に突っ込む! さやかちゃんとつげーき!」
「むむ、そうなると、じゃあこのゴブリンも、こっちのも、美樹さんの騎士を攻撃することになるなあ」
「でしょ! でもって、攻撃……は、6……くううう、1足りない」
「さやかちゃん、次はきっと命中するよ!」
「じゃあ、美樹さんとこに3匹のゴブリンから攻撃が1回ずつ。やっぱり6以上ね」
「5、4、3! なにこれ!」
「ある意味すごいね、さやかちゃん。順調に悪くなった」
「全部命中かあ。本当にすごいね」
「鎧を抜けなきゃいいのさあああああっ! さやかちゃん鎧頑張れ! それ、10、12、11! ほーら全部止まった!」
「さやかちゃん、さすが!」
「じゃあ、私、弓でこの子、撃ちますね。
あ……あの……」
「ん、命中判定はこの数字を」
「あー、あの、そうじゃなくて、この子、さやかちゃんを攻撃してたんだから、もしかしたら私からは背中が見えてるんじゃないかな、って……」
「ああ。うん、そうだねえ。じゃあ命中に+4のボーナスをあげよう」
「ありがとうございまーす。えい、出目が10で、合計14。命中したよ!」
「まどか……普通に出目だけで命中してるよそれ……」
「ダメージは、えーと、やっぱりサイコロで……あ」
「クリティカルだね。もう一度振って、ダメージを合計していってください」
「えい! あっ」
「……クリティカルだね。もう一度」
「えい! ああっ」
「…………クリティカルだね。もう一度」
「えい! あー、あの、ごめんなさい」
「………………クリティカルだね。うん、もういいよ、その段階でゴブリンは死んでる」
「まどか、なんかさっきからそういうの多いね」
「うん、なんだか弓で攻撃すると、必ず1発で倒しちゃうみたい」
「まどかーッ その運をわしにくれやーッ」
「さやかちゃん、背中煤けてる」
2時間ほどたって、外はすっかり暗くなり始めていた。ゲームのほうはというと、天然の防壁・騎士さやかと、確率を無視したスナイパー・まどかの巧みなコンビネーションもあって、一行はついに迷宮最深部でラスボスと対峙することになった。
「こいつがボスだな! ようし、さやかちゃんの剣の錆にしてくれる!」
「でもさやかちゃん、いまのところさやかちゃんの剣に錆ができる要素、全然ないんだけど」
「うるさーい!! ヒーローは! 最後に! 決めるんだって!」
「ちょっと時間も押してるけど、せっかくだからボスに口上を言わせてくれないかな。『貴様ら、ここまでたどり着いたことは褒めてやる。だが貴様らに私は倒せぬ。決して、な』」
「おー、いかにもボスって感じだ。ねえねえ、これってあたしも何かセリフとか言っていいの?」
「もちろん」
「いいね! ああそっか、人間が審判してるから、このあたりは結構いろいろ好きにできるってことかー」
「そういうこと。Bボタンで飛ばすだけじゃないってわけ」
「よーし。じゃあ、うーん、『お前が他人を不幸にしてきたぶん、あたしたちがお前を倒して、みんなを幸せにしてやるんだ!』」
「『かような血塗られた幸福をもたらす者など、誰も祝福すまい』」
「むむ……むむむ……
うわー、結構難しいなあ、セリフ考えるのって。あたし、やっぱ馬鹿なのかなー」
「ん、いや、美樹さんは初めてなのに、すごく活き活きとロールプレイできてると思うよ」
「ろーるぷれい? あ、ああ、ロールプレイングゲームのロールプレイって、こういうことなんだー。なるほど納得だわー。確かにこのゲーム、恭介が好きそうなの、分かる分かる」
「上条君も、ゲームのときはすごい熱血プレイするんだよね。美樹さんそっくりだよ」
「へ、へえ……あいつが、ねえ」
「――えーと。お話中、申し訳ないんですけど……」
「あっと、ごめんね、鹿目さん」
「いえいえ。あの、わたし、この人がさやかちゃんと言い合ってる隙に、弓で撃っちゃいたいいんですけど、できますか?」
「……まどか……あんたって子は……」
「ははははは、まあ、アリだね。命中判定して。えーっと、8以上か」
「えい! 12です」
「問答無用で命中だね。ダメージをください」
「えい! 11です」
「クリティカルだね」
「12」
「クリティカルだね」
「10」
「クリティカルだね」
「12」
「クリティカルだね」
「12」
「……もういいです。ボスの頭に矢が突き刺さって、首がすっ飛んでしまいました」
「やったあ!」
「……まどか……恐ろしい子……」
「ところが! 首がなくなったにも関わらず、すぐにそのボスの首は元通りになってしまいます」
「――ええええええ! ずるいぞそれー! 怪我が勝手に治るとか、うわー、私もそういう能力ほしいー! 超ほしいー!」
そのとき、いままで比較的物静かにプレイしてきた男子生徒の一人が、サイコロを手に取った。
「マスター。あのボスが何者なのか、分かっていい?」
「そういう知識が君のキャラクターにあるかどうか、判定をどうぞ」
「……えっ? それ、ボスの正体、ふたりともご存知なんですよ、ね? 弱点とか、そういうのを?」
「そうなんだけどね。俺は知ってても、ゲームの中のキャラクターが知ってるとは限らないだろ? 実際に俺が剣を振り回して、ゲームの中のモンスターを攻撃するわけじゃないんだから、逆も一緒ってこと。ほい、とりあえず合計で15と言ってみるけど」
「15かー。ごめん、時間押してるし、全部分かったことにしよう」
「サンキュ。じゃあ、言うぞ『あいつは、不死の怪物、リッチだ! どんなに体を滅ぼしても、核となるフィラクタリーを破壊しない限り、何度でも再生する! 今の我々に勝てる相手じゃないぞ!』」
「ふぃらくたりー?」
「宝石みたいなものかなー。リッチの魂を、宝石にしたような感じ」
「リッチって、えーっと、どんなヤツなの?」
「ゾンビの親玉だと思ってくれればだいたいOK」
「うへぇ、あの手かー。あたしゾンビホラーだけは苦手なんだよねー」
「さやかちゃんはLeft 4 DeadでもKilling Floorでもチェーンソー持って勝手に前に出過ぎるからねぇ」
「うっさい! あたしは突っ込むのが好きなの! つうかこれどうすんのよ。倒せないよ、そんなバケモノ」
と、また別の男子生徒がチッチッチと人差し指を振る。
「マスター、魔力感知を使うぞ。発動は成功。さあ、この近くに魔法のアイテムがあったら教えてくれないかな。フィラクタリーは、間違いなく魔法のアイテムだ。リッチはフィラクタリーを大事に隠してるものだけど、こいつはまだ新米リッチくさいからなあ」
「リッチにも新米とかいるんだ」
「ゾンビにもなりたてとかいるだろ?」
「うへぇ。そりゃそうか」
「ゾンビになって長いヤツのほうが強い、と思う。俺の勝手な推測だけど。でもって、このリッチは、リッチにしては簡単に侵入を許しすぎ。だから新米なんじゃねーの、ってね」
ゲームの首謀者――ゲームマスターを務める男子生徒は、メガネを抑えつつ苦笑した。
「まあ、いい読みだね。魔力感知でいろいろ引っかかるけど、特大の反応が、この広間の一番奥の壁の向こうに感じられる」
「よしよし。それをみんなに教えるよ。『フィラクタリーはあの壁の向こうだ!』」
「よし、じゃあみんなで壁を壊しに行こ!」
「美樹よぅ、まだリッチ様がいるんだが。あれをなんとかしつつ、壁に穴をあけるとなると、かなり厄介じゃないか?」
「あああ、そうかー」
「……これは、あれだな。痛み分けで妥協しないか? 俺たちは別にリッチを殺しに来たんじゃなくて、剣を探しにきただけ。リッチさんとしては、フィラクタリーの位置を把握してる人間と戦闘する、みたいなリスクは負いたくないと思うんだ。俺たちは剣を拾って、リッチさんは100%の安全を確保。これなら取引できると思うんだけど」
「えー、悪いボスと取引とか、さやかちゃん的にはナシだなー」
「でも現実的に言って、あれ殺せないじゃん」
「むむー。ゲームでくらい、現実的じゃないことをしたいぞ」
「でも一歩間違えれば俺たち全滅だぜ? リッチ、マジ強いから」
「そっかー……あたしだけだったら、突撃ー!ってとこ、なんだけどなあ……そっかあ、あたしら、友達だもんなあ。あたしの意見で、みんなを危険に晒すってのも、悪いよねえ」
「まあ、あれよ、生きてれば、こいつを退治するチャンスも巡ってくるさ」
「ぐぬぬぬぬ……悔しいけど、仕方ないんかなー……」
そのとき、まどかが小さく挙手した。
「えーっと、その、フィラクタリー? なんですけど、いまそれがどこにあるか分かってるんだぞ、って、リッチさんを脅してる、みたいな感じなんですよね?」
「うん、まあ、それに近い。厳密には、プレイヤーだけに許されたテレパシー会議みたいなものだけど、そこはまぁ勘弁して」
「ちょっとよく分からないですけど、ええっと、このゲームのなかの私は、フィラクタリーさんの場所がわかるんでしょうか?」
「分かっていいと思うよ」
「じゃあ撃ちます」
しばし、全員が押し黙った。
「……え、あれ、それって、あの、やっちゃいけない、ことです、か……?」
「――まどか。うん、あたしのカンだけど、やっちゃ駄目ってことは、ないと思うんだ。でもさ、壁だよ? 壁。カベ。カベの向こうに、なんかちっさい宝石だよ? 弓矢で壁をぶち抜くって、そりゃあちょっと、現実的に考えて……」
「ゲームなんだから、ちょっとくらい現実的じゃなくてもいいかなって」
ゲームマスターは、眉間を押さえつつも、公平な判断を下した。
「――いいよ。まずは命中判定だね。正確に、フィラクタリーに当たるように撃たなくちゃいけない。難易度は、どれくらいになるかなあ……」
ゲームマスターが悩む横で、まどかはサイコロを振った。サイコロは、6の目を2つ出して静止する。
「12です」
「……絶対成功だね。じゃあ、鹿目さんが撃った矢は、正確に壁の中のフィラクタリーめがけて飛んでいく。ダメージを……出してみて……」
「えいっ。12です」
「……クリティカルだね。もう一度どうぞ」
「12です」
「クリティカルだね」
「12」
「クリティカルだね」
「12」
「クリティカルだね」
「12」
「クリティカルだね」
「12」
「クリティカルだね」
「12」
「……もういいです。鹿目さんの撃った矢は、神秘的なオーラを纏って飛び、壁を貫通して、その向こうのフィラクタリーを正確に射抜きました。何かが砕ける音がして、目の前のリッチは床にぱたりと倒れました。予想通り、まだフレッシュなリッチだったようで、見た目は普通の死体です」
「やったあ!」
「――まどか、あんた一生分の運を使い果たしたんじゃないか……?」
「――こっちも半年分のシナリオの予定を使い果たされたんだけどね……」
まどかは、にこにこと笑っていた。
二人の女子中学生は、夜の街を家路についていた。
「楽しかったね、さやかちゃん!」
「あー、まあ、あれだなー、うん、でも面白かった」
「あのゲーム、どこで売ってるのかな」
「さあ? 聞けば教えてくれるんじゃない?
まどかは、あれがそんなに気に入ったの?」
「ちょっと、面白いなあって。私が、げーむますたー、とかいうのをするから、さやかちゃんと恭介君で冒険しない?」
「……嫌だ」
「じゃあ、仁美ちゃんも呼ぼうよ」
「……いやさ、そういう問題じゃなくてさ……」
まどかは首を傾げて、悩ましげな親友の顔を見た。
「まどかが、あたしの敵側でゲームするってことになるとさ……たぶん、最初にでてくる敵が、あたしらを全滅させて終わると思うんだ……」
「そうかも。ウェヒヒ」
「ウェヒヒじゃねー!」
(完)
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まどかとさやかが1年生の頃のお話です。長いけど全編ネタっす。TRPGとか知ってるとモアベター。