もしも一つだけ願いが叶うとしたら、あなたはどんな願い事をしますか?
富?
名声?
永遠の命?
それとも……?
そう。
願いは人の数だけ、それこそ無数にあると思います。
さて、今回のお話はまさにそのものずばり、
『もしも、何の対価もなく、どんな願いでも一つだけ叶ったとしたら、一体何を望みますか?』
というもの。
さて、その機会を与えられたある少女は、一体何を望んだのでしょうか―――――?
「はあ~。もうこんな時間になっちゃった。まさかただの買い物でこんなに時間がかかるなんて……」
てこてこと。少々大きめの紙袋を抱え、夕暮れ時の通りを一人歩く少女。猫の耳の形をしたフードが着いたパーカーを羽織った、皆さんご存知のその少女。荀彧、字を文若。真名を桂花である。
「ったく。華琳さまからの頼まれ事はいいとしてもよ。何で私が種馬の変わりに買い物に行かないといけないのだか。……珍しく、風邪なんて引いてんじゃないっての、あの馬鹿は」
とどのつまり。桂花は己の主である人物―曹操こと華琳―から、病気になって寝込んでしまったとある人物の代わりに、主の買い物へと出かけるよう言い渡され、こうして一人街へと出たわけである。ただ、その買い物が思った以上の難物であったため、少々予定よりも時間がかかってしまい、昼に城を出たにもかかわらず、夕方のこの時間までかかってしまったわけである。
「……こんなに遅くなってしまって、華琳様、怒ってらっしゃらないといいけど。……ん?」
ふと。桂花は路上に座り込んでいる一人の老婆に目が止まった。フードを深く被っているためはっきりとは分からないが、その顔は相当にやつれ、腕や脚もかなり細くなっていた。
「……珍しいわね。この街に物乞いなんて……。放っておいたら目覚めが悪い、か」
今にも命の火が燃え尽きそうに見えたその老婆を、彼女は見過ごしてその場に捨て置く事もできなかった。すたすたとその老婆のそばに近寄ると、老婆のほうもそれに気づいたのか、彼女に対して自分から声を出してきた。
「……十日ほど、もう何も口にしておりません……どなたか存じませぬが、なにか食べるもののお恵みを……」
「大丈夫ですか?お饅頭ぐらいしか今は持っていませんが、これで良ければとりあえず食べてください」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます……!!」
老婆は涙を流して喜び、桂花の差し出した饅頭をほおばった。そして、桂花の勧めで難民の救済用に作られた施設へと、兵士達の案内で連れて行かれた。
「……夜食用に買っておいたお饅頭だったけど、まあ、人のために役に立ったし、今夜は我慢しておこうかしらね」
そんな事を呟きつつ、いそいそと城へと戻った彼女。そしてその夜―――――。
「ん、んん……」
彼女は夢を見ていた。
『……優しき娘よ。我が名は天帝。我は千年に一度、ただの一人にのみ、どのような願いでも、唯の一つだけ叶える事にしている。此度はそなたにその名誉を与えよう。先のように、死に瀕した状態を演じた我に、助けの手を伸ばしたのはそなたのみであったがゆえに。さあ、願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう』
「……夢よね、これ。でもまあ、どうせ夢だし、そうねえ……やっぱりアイツを……あの種馬をこの世から消し去って欲しいかしらね。北郷一刀……あいつさえいなければ、華琳さまの御寵愛は私だけのものになるもの。あいつがいなければ、世の害悪は他に無くなるしね」
『……よかろう。されど覚えておくが良い。叶いしこの願い、どのような事があろうとも、けっして無かった事には出来ぬ。そのこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ……』
「……」
そして彼女は目が覚めた。
「……変な夢。どんな願いも叶う、ねえ。……まさかね」
ふっ、と。見た夢の内容を一笑し、寝台から降りて朝議へと向かった桂花。しかし、彼女はそこで知る。それが、ただの夢で無かった事を。
「おはようございます、華琳さま」
「おはよう、桂花。今日は随分早いのね」
「はい。何故か早く目が覚めてしまいまして。……他の者達はまだなのですか?北郷も今日は遅いですね」
「……?」
「華琳さま?」
「ねえ、桂花……」
「ホンゴウ……って、誰?」
「……は?」
「だから、その“ホンゴウ”って言う名前、誰の事を言ってるの?そんな名前の者、この城に居たかしら?」
「……え」
『そうねえ……やっぱりアイツを……あの種馬をこの世から消し去って欲しいかしらね。北郷一刀……あいつさえいなければ、華琳さまの御寵愛は私だけのものになるもの。あいつがいなければ、世の害悪は他に無くなるしね』
ふと。桂花の頭によぎったその言葉。夢の中で、天帝と名乗った声に、自身で答えた『願い』。
「……あの、か、華琳さま?何かのご冗談……ですよね?北郷ですよ?あの全身性液の種馬で節操なしの孕ませ男の、北郷一刀の事ですよ?」
「……何者よ、その破廉恥極まりない言葉の塊は」
「……っ!!」
夢ではなかった?あれは全て、現実だった?
そんな言葉が彼女の脳裏を横切る。そこに、
「華琳様、おはようございます」
「華琳様、おはようございます」
「あら、春蘭に秋蘭。おはよう、二人とも。……そうだわ、貴女たち、ホンゴウカズトって言う人間を知っているかしら?なんでも桂花いわく、全身性液の種馬で節操なしの孕ませ男、だそうだけど?」
お願い、知っていると言って!そう願いつつ、彼女は二人の返事を待った。だが、
『……何者ですか?そんなふざけた男がこの城に居るのですか?』
「……そん、な……」
へたり、と。その場に力なく座り込む桂花。その顔面は蒼白となり、瞳は虚ろに宙を見つめる。
「ちょっと桂花!?一体どうしたの?!」
「おい桂花!何がどうしたと言うのだ!」
「そうだぞ、桂花!お前ほどの者がそれほど放心するなど、そのホンゴウカズトとやらは何者なのだ!?」
「…………………」
華琳、春蘭、秋蘭の、その声も全て、今の彼女には空しい只の音に過ぎなかった。
夢だと思った。
だから、いつもの通りの、そんな九割方本心の、一割方冗談交じりの挨拶を、桂花は夢の中でとは言え、天帝にねがった。
……そして、それが叶えられた。
『されど覚えておくが良い。叶いしこの願い、どのような事があろうとも、けっして無かった事には出来ぬ。そのこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ……』
そんな天帝の言葉が、桂花の頭の中で何度も往復をする。
(……本当に、消えてしま……った?あいつが、北郷が、本当に?……私のせい、で?)
いや、消えた、と言うよりも、元から存在しなかった事にされている。華琳様も、春蘭も、秋蘭も、誰も覚えていない……?
「っ!!」
「桂花?!ちょっと!待ちなさい!何処へ行くの?!」
桂花は一目散に駆け出した。彼の事を知っている―いや、知っているはずであろう、他の仲間達の下に。
「……にいちゃん?誰それ?ぼくには兄弟は居ないけど?」
「兄様、ですか?……さあ?私には何のことか」
「かずと~?誰やの、それ」
「警備隊の隊長、ですか?でしたら私ですが」
「せやなあ。うちらの隊長は凪やで?」
「そうなの~。桂花ちゃんてばどうしちゃったの~?そんな“当たり前”の事聞いたりして~」
「おにいさん、ですか?はて?風には思い当たる節が無いですよ~?」
「かずとどの……はて?どこのどなたですか?」
……誰も、彼のことを知る者が、居なかった。長期の遠征にでている役満姉妹も、おそらくは同じことを言うだろう、と。桂花はがっくりと頭を垂れながら、力なく、街の大路を歩いていた。
「……なにしてんだろ、私」
あいつが居なければ。そう願ったのは自分なのに、こうまで必死になって、彼のことを覚えているものを探し、街中を一人で駆け回った。何故、自分だけが、彼のことを覚えているのか?何故、それほども彼を求めるのか?……どうして、こんなにも、目から涙が溢れてくるのか―――――――?
「……ばかだ……私……う、うぅ、ひっく、ひぐっ、ぐずっ……私は……ば…か……かず…と…」
泣きじゃくり、一人、城へととぼとぼと歩く桂花。
空には満天の星があり、月は煌々と輝く。しかし、彼女の心は、後悔と言う名の雲一面に覆われて、涙という名の雨が、いつまでも彼女の頬を濡らし続けた……。
~後編に続く~
超シリアスの短編。
こんなものをちょっと書いてみたりしました。
どんな願いも一つだけ叶うとしたら、そういわれた桂花なら、多分ああ答えるだろうと思い(本心はともかく)、実際にそうなったらどうなるかというのを、まずは前半まで投稿です。
もちろん、ちゃんとオチは考えてますよ?
桂花を泣かせたままになんて、このボクがするわけ無いでしょう?w
とりあえず、オチについては後編をお楽しみにって所です。
さて。今回ご紹介する作品と作者様は以下です。
作品『桔梗√ 全てを射抜く者達』
作者『黒山羊』
いつもラウンジでもお世話になってますが、これからも頑張って欲しいものでございますw
それでは皆様、次回後編にてお会いしましょう。
であwww
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お祭り参加の投稿作品、その四ですw
今回はちょっとシリアスにお届け。
前後編の二回に分けての、お送りです。
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