No.278354

『江東』を制する者 【第2回恋姫同人祭り】

一郎太さん

SS制作とイラスト使用の許可を頂いたので、書いてみた。
yagami様に感謝です!

ではどぞ。

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2011-08-19 08:40:19 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:9224   閲覧ユーザー数:6682

 

『江東』を制する者

 

 

 

――――――数十万の強者が蠢いている。

 

「………よいのか、策殿?」

「今さらね、祭」

 

――――――奴らは疲れを知らず、恐れを知らず。

 

「雪蓮、昨日までの傷は………」

「ようやく慣れてきたところなの。止めないで、冥琳」

 

――――――私はただ、私の求めるものの為に進むだけだ。

 

「さぁ、行きましょう!」

 

――――――戦の、始まりだ。

 

 

 

 

 

 

「………ついにこの時がやって来たか」

 

私は開いていた書を閉じる。表紙に書かれた題名は擦れ、『目録』の文字しか読めない。だが、私はそれが何の目録か知っている。そして、この本の価値も。

 

「さて、兵力は如何ほどのものか」

 

私はこの戦に勝利する為の兵力を想定する。

雪蓮は外せない。彼女こそが我らの王であり、指針であるからだ。

祭殿は当然必要となる。弓将としての眼は、あの場で最も必要となるもの。

穏には当日の作戦を補佐して貰わなければならない。

明命もだな。少なくない可能性で、彼女の隠密としての力を使う事となるだろう。

次に亞莎。智と武を兼ね備えた彼女は独立した遊撃手として動いて貰う事も出来よう。

思春は蓮華様の護衛。だが、おそらく戦の最後の方ではそれも必要としなくなるだろうな。

蓮華様にはまず戦の流れを見て貰おう。だが、最後に決めて頂くのは蓮華様に他ならない。

小蓮様は………まだ若い。残念ながら城で留守番だな。

 

「ふふふ……我が布陣に隙はない!………これで、勝つる!!」

 

私はひとり、ほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

ついにこの時がやってきた。目の前には蠢く強者。かつてないほどの数。だが、そんなもの、我らの敵ではない。その証拠に――――――

 

「私の勘が言ってるわ。ここにはお宝があるって♪」

 

――――――我が友はいささかの怯みも見せておらぬ。

 

「ふっ……孫呉の兵は既に配置した。いつでも行けるわ、雪蓮」

 

だから私も、こうして微笑むのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「明命!有名円団(さぁくる)から週刊少年『(じゃんぷ)』の同人誌を片っ端から買い漁れ!その他の雑兵は無視してかまわん!!」

「了解です!」

「亞莎!恋愛ものの遊戯(げぇむ)のみ買って来い!(あぁる)(ぴぃ)遊戯(じぃ)や格闘ものは捨ておけぃ!」

「任せてください!」

 

中央と右翼にそれぞれ指示を出す。いずれも元気よく返事を返し、周囲の兵に負けぬ勢いで走り出した。

 

「走らないでください!戦場では走らないでください!!」

 

くくく……禁軍(すたっふ)が何やら阿呆な事を抜かしておるが、これは戦なのだ。そのような甘い考えで生き残れると思うな。

 

「冥琳。私は何をすればいいのかしら?」

「雪蓮の出番は明日よ。今日は大人しくしていて頂戴」

「でも、私だって暴れたいわよ」

「ふふっ、明日になれば分かるわ。今は、戦場のこの区画の構造をしっかり頭に叩き込みなさい」

「はーい」

 

珍しく雪蓮が大人しく引き下がる。

 

「………!」

 

いや、あの眼………雪蓮は分かっている。明日こそが激戦の時という事を。………さすが、『江東』の小覇王ね。

 

 

 

 

 

 

2日目。

まだ陽も射さぬ早朝。祭殿と蓮華様、そして思春の後詰の部隊を加えた私達は、軍議を開く。

 

「雪蓮、わかっているとは思うけれど、今日の戦いが最も激しいものになるわ」

「えぇ…既に血が滾っているもの」

 

獰猛な瞳で、雪蓮が舌なめずりをする。通常の戦ならば暴走の危険性を考えてしまうが、今回ばかりは頼もしい事この上ない。

 

「それで公瑾よ、今日の作戦はどうするのじゃ?」

「はい。本日の戦……右翼は捨てます」

「なっ―――」

 

私の言葉に、場が騒然とする。戦時において、片翼を捨てるなど以ての外だ………通常の戦ならな。

 

「皆、聞いてくれ。此度の戦で、これまでのものなど児戯にも等しいものと知る事となるだろう。だが、忘れないでほしい。この、年に2度の大戦。『江東』の虎・孫文台が命を落とした場だという事を」

 

皆が沈黙する。そう、先代の王であり、雪蓮や蓮華様の母でもある御方が命を落とした場なのだ。生半可な覚悟では切り抜けられない。だが……だからこそ、奇策を仕掛ける。

 

「それで?左翼と中央でどう攻めるつもり?」

 

雪蓮が問いかけてくる。他の者も、私をじっと見つめていた。

 

「あぁ。まず中央に蓮華様に大将としてついてもらう」

「私に?」

「はい。思春はその護衛だ。穏、お前が補佐をしろ」

「御意」

「はぁい」

 

不安そうな蓮華様を他所に、部下たちがしっかりと返事をする。

 

「蓮華様にして頂きたいのは、陽動及び牽制です。雪蓮と共に左翼を攻めると見せかけ、途中進路を中央へ変更。それにより、こちらに来ようとする敵兵たちを抑えて欲しいのです」

「なるほどなるほど?大丈夫ですよ、蓮華様。穏がしっかり補佐をしますから、指揮の方をよろしくお願いしますねぇ」

「その通りです。蓮華様は私がお守り致します」

「………わかったわ、冥琳。その大役、引き受けた」

 

雪蓮よ。お前の妹は立派に育っているようだな。

 

「そして、左翼は残りで固める。雪蓮を先頭に祭殿と亞莎で『東方企画(ぷろじぇくと)』関連の作品を全円団から奪い取って下もらう。だが、おそらく敵も相当の勢いでなだれ込んでくるだろう。細かい選定など出来ない場合も予想される。よって、明命は独立して動き、雪蓮たちの取りこぼしたものを手に入れて欲しい」

「なるほどね。『東方企画』か。そりゃぁ、流石の母様でも単騎で無理なわけだ………」

 

雪蓮が伏し目がちに呟く。だが、気にしている訳にはいかない。まもなく開戦の刻だ。

 

 

 

 

 

 

「「「「「おおおおおおおおぉぉおおおおおおぉぉぉぉおおっっ!!!」」」」」

 

男たちの怒声と地響きが轟く。

 

「敵は既に動き出しているぞ!遅れをとるな!!」

 

雪蓮の叱咤に亞莎と祭殿も気合を入れる。

 

「あぁん、転んじゃいましたぁ」

 

見事だ。衣服の隙間から除く穏の肢体に、男たちが『かめら』なるものを構えだす。馬鹿な奴らだ。それこそが狙いだと何故気づかぬ。

 

「これとこれとこれ、あとそれも三冊ずつ頂戴。時間が勿体ないからお釣りはいらないわ」

 

流石、王族。金に糸目をつけない。

 

「ほれ、さっさとせんか!む?………そこぉ!最後のひとつは儂が貰ったわ!!」

 

祭殿はその卓越した視界と遠距離攻撃で売り切れ直前の獲物を見事射抜く。

 

「この絵の筆感(たっち)……『東方企画』はほんの数枚であとはどうでもいい内容のものしか載っていませんね?」

「な、なんでそれを!?」

「ふふ…伊達に軍師見習いはしておりませんので」

 

亞莎もこの戦で才能を開花させているようだ。

 

「くくく、例大祭(せきへき)を生き抜いた我々に隙などないっ!」

 

私は笑みを零す。

 

 

 

 

 

 

戦も終わり、夜が訪れる。すでに敵兵は陣を敷き、野営を行なっていた。やはり、最後まで気が抜けないな。

そんな風に対策を考えるなか、見慣れた背中を見つける。そこにはいつものような堂々とした雰囲気はない。私はその背に向かって声を掛けた。

 

「どうされました、蓮華様」

「冥琳……」

「眠れませぬか?」

「えぇ……」

 

力無く返事をする。彼女が何を悩んでいるかわかる。そしてその対応方法も。だが、彼女の口からそれを聞くまでは、教えてはいけない。

どれほど無言の時間が続いただろうか。蓮華様が口を開いた。

 

「私って、ダメね………」

「……」

「今日も穏の策通りに動いただけだったわ。思春に守られながら、私はただその場にいる事しかできなかった」

「………」

「このままだと、姉様の後継者なんて名乗れないわ………」

 

私の親友と同じ色の瞳から涙が零れ落ちる。もしも私が男ならば、今すぐにでも彼女を抱き締めていただろう。だが、私は軍師であり、彼女のもう一人の姉なのだ。私がすべき事は決まっている。

 

「蓮華様。私も雪蓮も、貴女は十分に雪蓮の後継者足り得ると思っています」

「そんな慰め、いらないわ」

「いいえ、慰めではありません。その証拠に、ひとつお教えしましょう。明日の右翼側に――――――」

 

私の言葉を聞き、蓮華様の瞳の色が変わる。その体躯からは覇気が滲み出ているのがわかる。やはり………この御方も『江東』の王族なのだ。

 

 

 

 

 

 

3日目が来た。

 

「明命、亞莎!雪蓮と共に美少女(ぎゃる)遊戯(げぇ)の陣へと向かえ!雪蓮!『(たいぷ)(むぅん)』は任せたぞ!」

「任せなさい!商業円団なんて一瞬で終わらせてあげるわ!」

 

勇ましい返事と共に、雪蓮が若手2人を引き連れて駆け抜ける。まさに『江東』の小覇王の名にふさわしい。

感慨に浸るのも束の間、祭殿と穏が話しかけてきた。

 

「それにしても冥琳様ぁ」

「どうした?」

「よかったのか、蓮華様に思春しか護衛つけんで?」

「あぁ、その事か」

 

納得がいった。だが、2人の言う事は的外れも甚だしい。今の蓮華様には、思春の護衛すら必要ないのだから。

 

 

昨日夜――――――。

 

「それって本当なの!?」

「はい、確かな情報です。あの円団『月詠』の要員(めんばぁ)が、名を変えて明日の敵陣にいるとの事です」

「で、でも名前を変えてるなら――――――」

「そしてこれは公開されていない情報なのですが」

 

蓮華様の疑問を遮る。これさえ伝えれば、明日は問題ない。

 

「なんとその円団、『新約・御遣いと天子』の二次創作本を出すとの事です」

「なんですって!?でも、我々(ふじょし)向けの本は初日の筈では………」

「はい。だからこそ名前を変えているのです。『御遣いと天子』の派生作品である『新約』をさらに性別を転換させた、いわば『御遣いと天子』の三次創作本とも言えるでしょう。希少価値(ぷれみあ)で言えば、この戦最大のものと成り得ます。

明命が得た情報なので、信憑性は相当高いです。そして蓮華様。貴女には右翼のすべてを任せます。どうぞ、その才を存分に振るってください」

 

私はそれだけ告げると、蓮華様から離れる。これで、明日の仕込みも完璧だ。

 

 

「なるほどぉ。だったら蓮華様だけでも大丈夫ですね」

「そういう事だ。今頃、向こうは血の海だろうな」

「怖いのぅ。じゃが、蓮華様も『江東』の虎の娘だという事じゃ」

 

そう言って笑い合う。間もなくこの戦も終わる。雪蓮たちを迎えてやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「たくさん手に入りましたね、亞莎」

「はい、おそらく全円団まわる事が出来たかと思います」

 

若手の2人はほくほく顔で今日の戦果を見ている。そんな2人に声をかけるは、我らが王。

 

「駄目よ、2人とも。家に帰るまでが虎巳化(こみけ)なんだから」

 

流石だな。だが、少しだけ違う。

 

「甘いぞ、雪蓮。冬の陣に申し込むまでが虎巳化なのだ」

 

さて、帰るか。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

※スタッフの指示には必ず従いましょう。

 

今回はyagami様の絵にインスパイアされて書かせて貰いました。

 

ビッグサイトって江東区だったよね?

 

ちなみに、一郎太はまだコミケ童貞です。いつかは逝って…間違えた、行ってみたい。

という訳で、ちまちま持ってるコミケに関する知識に加え、以下のサイトを参考にしました。左翼右翼言ってた意味が分かるかと。

 

ttp://www.comiket.co.jp/info-c/C80/C80genre.html

ttp://www.bigsight.jp/general/guide/index.html

 

まぁ、ベテランの皆様にとっては既知のことと思いますがwww

 

という訳で、これから東京に戻ります。

 

バイバイ。

 

 

 


 
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