No.278220

夏の朝

別名、30分でさくっと文章を書いてみよう企画その2。
うん、王道を書けば良いんじゃない、というアレです。特にコンセプトも何も無し。
ちなみにこんな経験したこともないでございます。もげろ。

2011-08-19 02:30:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:288   閲覧ユーザー数:287

 寝起きの悪い俺にとって、夏の朝ほど酷いものはない。

 なにしろ、部屋が異常に蒸し暑いのだ。それもそのはず、俺の部屋はよく日光の入る位置にあった。

 だったら冷房を、と思うかもしれないが、うちの家族は、やたらと節電信者であるから下手に付けられないし、何より俺自身、冷房はあまり好きじゃない。効き過ぎた部屋にいると、たちまち具合が悪くなって、トイレに駆け込みたくなるくらいだ。

 結局、その蒸し暑いのに耐えざるを得ない。汗だくで気持ちの悪い自分自身を嫌悪しながら起きるしかないわけだ。

 

 まあ、良かった点も無いわけではない。

 例えば、自分自身を不快と感じるからか、自然と早起きが出来る。まあ、早起きしないとシャワー浴びれないからな。

 後は、早起きが出来るおかげで、夏場は絶対朝食を抜かすことはない。おかげで今年の猛暑でも、俺はぶっ倒れる、という悲しい悲しい事態に見舞われることはなかった。

 

 これだけなら、まあ悪くはない、と思えた。これだけなら、な。しかしながら、これらの利点を相殺するどころか、完全にマイナスに持って行ってくれるような出来事も、大抵セットなんだよな。

 

 今日の朝も、腹に良い一撃を入れられて目が覚めた。……毎回、腹の辺りを叩いて来るんだが、時折鳩尾に入るんだよな。

 俺はうめき声を上げて、苦痛に耐え、大きく深呼吸をする。苦痛に耐えるためのおまじない、みたいなものだ。そして、寝起きで出せる全力で、俺は飛び起きた。

「おはよ。今日は十秒ぐらいかな」

 冷ややかな声が頭の上から降り注ぐ。振り返るまでもない。奴だ。

「もうちょっと優しく起こしてもらえると、俺はもっと清々しい目覚めになるんだけどな」

 どうせ言っても意味がない、とわかりながら、俺は毎朝言っていることを、幼なじみに言った。

 

 よくあるケースだ。ずっと小さい頃から近所に住んでいて、しかも親同士が仲良しだった、というだけ。それでまあ、よく遊んでいたわけだ。これが幼なじみとの付き合いの始まり。

 そしてまあ、恐ろしいことに小学校から高校まで、まあさすがにずっと同じクラス、というわけではなかったが、なんやかんやで同じ学校で、しかも大概何らかの関わりがあった。

 例えば中学校の頃、俺は文化祭の実行委員長になった。そしたら恐ろしいことに、奴が副委員長に食い込んできた、という具合だ。

 かといって、そういう意識――まあつまり、恋愛感情だ――というのは、実はもった覚えがない。相手は違うかもしれないが、少なくとも、俺は。

 鈍い方なんだろうかね。まあ、恐らくはそうなんだろう。比較的恋愛に興味を持たない人間だからな。

 その原因は、何となく分かる。恐らくは、奴との付き合いのせいだろう。あまりにも長く一緒に――しかも、友達以上恋人未満、という奴を満たし続けたせいで、あまりそういうのを意識しにくくなっている。

 

 ――が、今はそんなこと、どうでもいい。まずは目の前の問題を解決することだ。

「早く起きなよ。もう六時半だよ? シャワー浴びたりして遅くなるんだからさ」

 言われなくても、そうするさ。俺はベッドから抜け出し、奴の肩をぽんぽん、と叩いて、部屋から出た。

 

 俺の家は、恐らく一般的中流階級という奴だろう。ごくごく平凡な商社マンの親父に、何でもこなす専業主婦のオカン。まるで絵に描いたような家庭だ。

 家もこれまた中流階級、といった感じで、二階建てのそれほど大きくはない家。よくテレビなんかで宣伝していたような家だな。

 二階の俺の部屋から降りて、台所のオカンに挨拶し、リビングで新聞を広げながら、朝のコーヒーを楽しんでいる親父に挨拶。そして真っ直ぐシャワーに直行。

 

 浴び終わって部屋に戻ると、幼なじみは俺のベッドに腰掛けて、何か本を開いていた。

「何読んでるんだ?」

 何とはなしにそう聞いてみると、奴は凄まじく焦ったようにその本を閉じて、手提げ鞄の中に放り込んだ。

「ケケ、ケンちゃん、いつからそこにいたのよ?」

 いつからも何も。どうやら相当夢中だったらしいな。それにこの焦りよう、どうやらあまり俺には見られたくない類の本だったらしい。

「……いや、いいんだ。オカンが飯出来てるから一緒にどう、だと」

 シャワーから帰る導線上で言われたことを、そっくりそのまま伝える。

「ごちそうになるために来たようなものだもの。行くわよ、もちろん」

 と、奴は手提げ鞄を片手に、俺の部屋を出て、階段を駆け下りていった。

 照れ隠しなんだよな。アイツはむしろ小食の方だ。それに、俺のためにわざわざ家に来ているって事は、それより遙かに前に起きて、準備を整えて俺の家に来ているって事だから。

 

 オカンと幼なじみが楽しく談笑しているのを横目で見ながら、新聞を読む親父と談笑したりして、朝食をあっさりと平らげた。もう一度部屋に戻り、俺は自分の荷物を持つ。

「じゃあオカン、行ってくる」

 そう挨拶すると、わざわざやらなくてもいいのに、オカンはやっぱり、毎日のように玄関まで出てきて、行ってらっしゃい、と見送りをしてくれた。

 恐らくはオカンも、俺とこいつの事、期待しているんだろうな。そうでもなければ、わざわざ家事を中断して見送りに来るわけがない。

 奴は奴で、信じられないような素晴らしい身振りでオカンに挨拶した。全く、俺に対してもそのおしとやかさならば歓迎なんだがな。

「さ、行くよ。ゆっくりしてると遅刻しちゃうからさ」

 奴がそう、俺の背中を押した。笑顔だ。この時は、満面の笑みを浮かべて、俺の事を突き飛ばしてくる。ドS……いや、そうだな。そうでもなければ俺の鳩尾を叩いて起こそうとなどするわけがない。

 奴と笑い合い、今日の授業や課題について話し合い、世間話で盛り上がる。これが平和な毎日なんだな、と実感する。

 

 そして俺たちは、真夏のまぶしい日差しの元、二人で笑い合いながら、学校へと向かって歩いて行った。


 
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