華琳「一刀はどうしたの?」
朝議の時間になっても、玉座に居るべき一刀の姿が居ないと重臣たちは心配し始めた。
一部の人たちは、別段彼が朝議に遅刻するなど大したことではないように静かにしていたが、さすがに放っておいてもいけないものだった。
蜀の反応
桃香「また寝坊してるのかな。月ちゃんと詠ちゃんは?」
愛紗「二人もまだ見ていません。……はっ、まさか!二人とも朝からご主人さまと…!」
星「ほぉ、主は朝から相当性務に励んで居られるか……」
雛里「あわわ、さすがにそれは…」
朱里「いや、案外それで合ってるのかもしれません」雛里「朱里ちゃん!?」
ねね「あいつの場合、『案外』ではないところが問題なのです。まったく、最近のところ真面目にやっているかと思えばやっぱり奇遇だったのです」
紫苑「でも、本当にどうしちゃったのかしら」
桔梗「紫苑が絞りすぎたせいではおらぬか」
紫苑「やーね、あなたも一緖に居たじゃない」
他全員「……え?」
魏の反応
春蘭「華琳さま!私が今からでもあいつの部屋に行って奴を連れだしてきます」
華琳「………」
秋蘭「華琳さま、どうかなさったのですか?」
華琳「……いえ、なんでもないわ。もう少し待つことにしましょう。月たちが居るから寝坊だったらそのうち来るでしょうし、何かあるとしても月たちが知らせに来るはずよ」
風「その『何か』が月どのたちと絡んでいることでなければの話ですがね……」
宝譿「朝から性務で熱心だな、兄さんも」
稟「ふがふが……」<<既に手遅れ
凪「沙和、起きろ」
沙和「…む……へへへ、隊長、もう無理なの。これ以上だと沙和壊れちゃうの……」
凪「<<ピキッ>>ほぅ……<<ごごごー>>」
真桜「ちょっ、凪やめいって!沙和、しにたくなかったら早う起きろや!」
呉の反応
蓮華「思春がここに居ないのが幸いだったわ。でなければ、今頃一刀の部屋に突っ込んでいたでしょうね。」※思春現在妊娠中
明命「蓮華さま、私がさっと見てきましょうか」
冥琳「なーに、北郷が遅刻するなど、そう大変なことでもあるまい。そのうち来るだろう」
亞莎「ですが、一刀様はこの大陸の象徴、常に何事があってもおかしく無いお方です。私から言って何ですが、一刀様の日頃の嗜みを見ると、昔の私ぐらいでもその気なったら直ぐに始末できそうな……」
祭「亞莎は最近北郷に抱いてもらえなくて口が荒くなっておるようじゃの。その辺、儂はしっかりと栄養補給しているのじゃが……」
蓮華「……明命、亞莎、私が許しましょう。ヤりなさい」
明命・亞莎「御意<<シャキン!>>」
祭「ちょっ、まっ!」
こんな感じで、皆口では心配するも誰一人行動は行っていないうち、
やっと内側から誰から走って来る音が聞こえてきた。
ガラッ!
だけど、すごい音と一緖に現れたのは一刀ではなく、月と一緖に一刀の部屋に行っていたはずの詠の姿だった。
詠「はぁ……はぁ……」
桃香「詠ちゃん、どうしたの?ご主人さまは?」
詠「……桃香……華琳、蓮華」
詠に呼ばれた各国の王たちは彼女の息が詰まっている声を聞いて、事態が尋常じゃないことを感づいた。
三人とも詠が居るところに集まると、詠は息を整えながら小さく言った。
詠「今直ぐ医者を……華佗に連絡を取って頂戴。三人は私に付いてきて」
蓮華「どうしたの、一体。一刀に何か……」
華琳「蓮華、今は黙って詠の言う通りにした方が良さそうよ」
事情を聞こうとした蓮華は、ふと他の将たちが不安そうにこっちを見ていることに気づいた。
蓮華「……わかったわ。明命!ここに!」
明命「はいっ!」
明命が蓮華の命に従って彼女たちの近くに来る。
蓮華「華佗のところに行って、理由は問わずに彼を連れてきなさい。他の者にはいわず、大至急で」
明命「!!わかりました」
明命は蓮華の話を聞いて深刻さを理解し、それ以上問い詰めずにその場から消え去った。
・・・
・・
・
詠が他の将たちには何も語らず、王の三人だけ連れて来た場所は言わずとも一刀の部屋。
三人がそこに入って見たのは……
「「!!!」」
「一刀!」
「静かにしてください!」
一刀の姿を見て最初に近づこうとした華琳を、月がすごい剣幕で止めた。
「……どういうことなのよ」
「…わからないわ、私たちが入った時にはもうこんな状態だった」
「……ご主人さま……」
「…。ぁ……はあ………ぁ……」
一刀はベッドの中に倒れこんで、ろくに喋ることもできず咳払いをしながら居た。
それだけならまだ酷い風邪にかかったのだと思えば良い。
詠があんなに血が抜けた顔で現れて、説明もせぬまま彼女らをここに連れてくることもなかっただろう。
だけど、
「どういうこと…?一体一刀に何が起きてるのよ」
「私……これを見たことがあるわ」
「なんですって?」
「華琳さん、本当ですか?」
「………一刀が秋蘭の危険を教えてくれて倒れた時も、こんなことがあったの。そして、
彼が私の前で消えてしまった時も…」
北郷一刀の姿は半分透けていた。
明命SIDE
「華佗さん!いらっしゃいますか!」
蓮華さまの顔、そして詠さんの顔を見て、状況が尋常ではないことは気付きました。
一刀様は、きっと今すごく重態なのに違いありません。早く華佗さんを連れて帰らなければ……。
でも、華佗さんが居るはずの家は静かでした。
いつもなら華佗さんと…あと、貂蝉さんと卑弥呼さんまで居てすごく賑やか(というかうるさい)はずの家ですのに……
「華佗さん?」
まさか、こんな大事な時にまたどこか遠くにでも行かれたのでしょうか。
私は失礼と知りつつも、奥側へ足を進みました。
奥側に入ると、昨夜酒を飲んでいたように、円卓に酒の瓶が散らばっていていました。
そして、空いている椅子の中一つだけ、誰かが座っている椅子がありました。
「!」
華佗さんかと思えばそうではなく、というか、殿方ではありませんでした。
酒に酔い潰れて眠ったせいか、服が妖艶にズレて眠っている女性が一人居ました。
「……ぅん?」
「あ」
「…………ぅぅ…頭が痛い…」
起きられた女性は二日酔いらしく頭に手をつけながら唸りました。
「あ、あの、どちら様ですか?」
「……うん?そういうあなたは………あら、周泰ちゃん」
「!」
この人、私の名前を知っています。
しかも馴れ馴れしく周泰ちゃんとか呼んでます。
「………あぁ、そうね。確か昨日、何故か卑弥呼のおじさんに呼ばれて来てみたら酒宴を開かれて………」
「あ、あの……」
「馬鹿じゃないの?」
「はい?」
いきなり何を……
「ちょっと冗談言っただけなのに、貂蝉あいつムキになりやがって…僕は結以しか目にないのよ。ちょっとからかい半分で『華佗のこととっちゃおうかな』と言っただけなのにあいつ本気で殺りにくるのよ?氏ねよ、変態女装ホモやろう。女装していいのは男の娘だけよ」
この人まだ酔ってるみたいです。言ってる意味がわかりません。
「っていうか、何でこの作者の管理者って皆同性好きなのよ。変な誤解されたらどうするつもりよ。僕は結以のこと好きとして、あの二人はまぁ、そうでしょうけど、管路とか于吉までそういう趣味だともう当てになるのは徐福ちゃんしかないのにあいつも最近『私バイにも目覚めそうです』とか言い出しながら僕に相談してくるのよ。知るかよ、南ちゃんとちちくりやってなさいよ。んもう…皆して僕のこといじめすぎなのよ………」
うわぁ、何か泣いてます。
「か、華佗さんはいらっしゃらないようですし、私はこれで失礼……」
「ちょっと待ちなさい」
止められました。
これ以上酒の絡み者にされるのは御免です。
早くしないと一刀様が……
「北郷一刀今大丈夫なの?」
「!!どうしてそれを……」
「分かってるよ。だってそれ頼まれてここに来たんだもの。さ、行きましょう」
「え、ああ、ちょっと待ってください!」
「うん?あ、そうね。僕の紹介がまだだったわ」
部屋を出ようとする足を止め、その人は私の間近に立ってとても優しい目で私を見つめながら言いました。
「僕は左慈っていうの。貂蝉たちと同じ、外史の管理者で、後、男はショタ好きだからそこんところは心配しなくても良いわ」
華琳SIDE
あの思い出したくもない夜。でも確かにあったあの日。
一刀は私の前から消え去った。
歴史の大局に逆らってまで私を助けてくれた一刀はその歴史の波に流され、私の手の届かないところに行ってしまっていた。
だけど、彼は戻ってきた。
今度はいつまでも私たちと一緖に居てくれるって、そう約束してくれた。
なのに……
「どうしてまたこんな……」
「華琳!」
「華琳さん!」
足に力が入らなくてその場に座り込んでしまおうとする私を、両側の桃香と蓮華が支えてくれた。
「しっかりしなさい、華琳、さっきの話もうちょっと詳しく言って頂戴」
「…………」
「華琳さん」
「……私の世界で一刀は私の前から一度消えたことがあるわ。あの時も、一刀の姿があんな風に透けて…まるでこの世の者ではなくなるように見えた」
「じゃあ、このままだとご主人さまも消えちゃうの?」
「何か方法があるはずでしょ?あのままだと一刀が死んでしまう」
一刀の姿は以前に私が見ていたものとは比べ物にならなかった。
あの時、秋蘭の死を知らせる前の一刀は一瞬痛みを感じて2日間倒れていた。そして赤壁の時は、全ての戦いが終わってから症状が進んで、やがて消え去った。
だけど、あんなに苦しんでいる姿なんて見たことはない。
今でも一刀は息を絶えそうに苦しんでいた。
「いつからこんな状態になっていたの?」
「わからないわ。起きるのが遅くて、また寝坊かと思って部屋に入ってみた時にはもうこんな状態だった。手で触れようとしても触れないし、何をすればいいのか分からなくて……」
「ご主人さま………ご主人さま……」
月は涙を流しながらただ一刀を呼ぶだけだった。
そんな月と私たちの気持ちとはうらはらに、一刀の苦しみ滲んだ唸り声は絶えることを知らない。
「華佗さんはまだ来ないんですか?」
「明命が行ったからもうすぐに来るはずだ」
「早くしないとご主人さまが死んでしまうかも……」
「物騒な言い方はやめなさい、桃香!」
桃香の言い様に、私は我慢出来ず怒鳴ってしまった。
「っ…ごめんなさい」
どうも冷静さが保っていられない。
急すぎる。
一体どうなってるのっていうの?
もう乱世は終わった。もう大局なんてものも残っていない。残っているのは一刀と私たちが作っていく物語だけ…なのにどうして今になってまた一刀が消えようとしているの?
がちゃ!
「蓮華さま!」
「明命!華佗は……」
「すみません。それがいらっしゃらなくて…」
「「「!!!」」」
華佗が…居ない?
こんな時にどこに…!
「それはどういうことよ、明命!」
「それが……」
「周泰を責めて成るものではありません、孫呉の若き王様」
「!」
そして、明命を責める蓮華の声の後に、聞こえてくるどこか馴れ馴れしい女の声。
「華佗は彼氏たちと旅行中です。代わりに僕が来たけどよろしいでしょうか」
「何奴!」
「待ちなさい、蓮華!」
太腿にまで来る長くて白い髪を三つ編みに結んで、対照的な黒い旗袍(チーパオ)を着た女は、明命の横に立って私たち三人と目を合わせた。
「あなたは誰?」
「孟徳さま、僕を紹介をするのもいいでしょうけれど、先ずはそこで苦しんでいる方を見る方が先ではないかと」
「何者かも知らない奴に今の一刀を触れさせるわけにはならないわ」
「……」
仕方がないと言わんばかりの目でため息をつきながら、彼女は軽くお辞儀をした。
「僕の名は左慈。貂蝉や卑弥呼と同じく外史の管理者として、対外的に醜いあいつらを出演させないために代わりに出てきました」
「管理者…?じゃあ、あなたも…」
「ええ……あ、いえ、女装男子ではありません、正真正銘女です」
「その話じゃないわよ!」
いや、その話もややあったかもしれないけど。
「そんなことはどうでも良いから、左慈さん、早くご主人さまを……!」
「ふふっ、分かりました。他の二方もよろしいのでしょうか」
「……ええ、蓮華」
「華琳、あなたは……」
私とてさっきの話だけで彼女を信用するわけではない。
だけど、
「今は他に方法がないわ」
「……」
私たちが横に避けてやると、左慈は一刀の前に近づいた。
「ちょっと失礼します」
「あ」
そして、一刀の顔近くにいた董卓を立たせて自分が前の椅子に座り、彼の姿を診た。
「………うん、あなたはいくら年をとってもお子様ですね」
「……ぁ……」
「ふぅ…成長済んだ子を一々助けてあげるのは性に合いませんが、今回は特別です」
そして、彼女は一刀の手を掴んだ。
そしたら、
すーー
どんどん一刀の姿が確かに見えてきた。
「あ」
「しーーっ」
一刀に近づこうとする桃香を彼の手を掴んでいる左慈が無言のまま唇に他の手の指し指を当てながら止めた。
「暫く放っておいたら気が付くでしょう。ですが、今は彼の様態よりも大事にしなければいけないことがあります。皆さんは他の方々を御殿の前に集めさせてください」
「一刀はもう大丈夫なのでしょうね」
「完全に…とは言えません、根本的な問題が解決できない以上、僕がしたこと
「根本的な問題?」
「詳しい話は皆さんが集まったところで……メイドのお二人は心配になるならここに居てもよろしいですが、僕としては全員が話を聞いたところで決めてもらった方がよろしいかと……」
「「……」」
そうやって、三国の王たちが戻った御殿にて、更に会議に参加してなかった恋姫達まで全て集まったところ、左慈は口を開けた。
左慈「皆さん既にご存知な方もいらっしゃるかと思いますが、今朝、北郷一刀さんは急な症状にて倒れてしまいました」
愛紗「ご主人さまは無事なのだな!」
左慈「今では…ただ、これからでもそうであるとは限れません」
春蘭「どういうことかはっきりしろ!」
秋蘭「それで、北郷はどんな病気なのだ」
左慈「……ぶっちゃけて言いますと
懐郷病、です」
……皆が皆して何が何だかわからない顔をした。
左慈「他の言葉だとホムシックとも言います」
翠「い、いや、ちょっと待ってよ。懐郷病って、そんな酷い病気だったのか?」
蒲公英「そんなわけないでしょ?懐郷病って、ただ長く故郷に帰れなかった人が故郷に帰りたくても帰れな……くて………」
翠と蒲公英の会話に皆の頭の上に浮かんでいた?が!に変わった。
北郷一刀はこの世界の人物ではない。
他の世界に、ここだと天の世界と呼ばれる別世界からの人だ。
そんな北郷一刀には、元の世界に戻れる術がない。
ここに居る皆が、たまには故郷に、ある者は忌日に親たちの墓参りに行ったり、まだ生きている母のところに行って久しぶりに母が作ってくれた料理を食べたり、故郷が遠くにいる人たちはたまに休みを得て戻ったりもする。
だけど、北郷一刀はそれができない。
華琳「つまり…何なの?一刀が自分の世界に戻りたいと思ってるってこと?」
左慈「そんなことになります」
桃香「そんなのだめ!」
愛紗「桃香さま、落ち着いてください」
桃香「そんなの絶対だめなの!ご主人さまが天の世界に帰るなんて……そしたら私たちは……!」
愛紗が止めることも聞かずに、桃香は我を失って叫んだ。
左慈「………何か以前からこうなる予兆があったはずです。皆さん気づいていた方はいらっしゃいませんか?」
華琳「……この前、一刀が一人で夜空を見上げながら泣いているのを見たわ」
秋蘭「!!華琳さま、そんなことを……」
華琳「あの時は単に、それでも私の側に居てくれて嬉しいとばかり思っていたけど……私が思ったより一刀は苦しかったようね」
左慈「……天の御使いの意志は彼をこの世界に居させるにもっとも重要な力です。彼が元の世界を懐かしめばするほど、この世界に居ようとする意志も薄くなってしまいます」
流琉「兄様がもう私たちと一緖に居たいと思わないってことですか?」
流琉が悲しそうにそう聞くと、左慈は頭を左右に振った。
左慈「懐郷病というのはほんの一時の症状です。少し気が落ちていたりして…あなたたちが一度休みを取って故郷に帰ってから帰って来ないわけではないのと同じです」
蓮華「なら、一体どういうことなんだ?」
左慈「この玉を天の御使いとしましょう」
左慈は懐からちょっと大きめな水晶球を地面に置いて皆の中央に転がしながら言った。
地面に置いてある水晶球は、そのまま置くと地面にくっついたままです。重力が作用しているからです。その地面に居るのが元の正しい姿、いわば、地面にある水晶球は、天の世界にいる北郷一刀と言えます。ですが…」
左慈が手を伸ばすと、地面にあった球は宙に浮かんだ
恋姫「「「「!!!」」」」
左慈「そこに何らかの力が作用して球が宙に浮かんでくる。これが、北郷一刀がこの世界に居るという状態です。今この球を浮かせている力は、僕の仙術です。球を浮くようにする方法は他にもあります」
球はどんどん移動して、近くにいた雛里のところ言った。
左慈「鳳統ちゃん、その球をこれから落とします」
雛里「ふえ?あわっ!」
左慈が咄嗟にそう言うと、球は落ちようとした。
反射的に雛里はその球の落ちる先に自分の両手で置いてそれを止めた。
左慈「こんな風に他の者の手に塞がれても、球は地面には落ちません」
華琳「要点だけ言いなさい」
左慈「……天の御使いを宙に浮かせること、つまりこの世界に置くようにするために使われる力は全部して3つあります。一つは管理者たちによった強制力。北郷一刀が初めてこの世界に落ちる時、私たち管理者は、流れ星という手段で彼をここに来るようにします。二つ目は恋姫、あなたたちの願いです。あなたたちがかつて願った者たち、大陸の平和、覇道、孫呉の安寧、その願いに応じて天の御使いはこの世界に居た。そしてその願いも叶った今になって、北郷一刀をここに居させる最も強い力が3つ目の力」
そう言った左慈は雛里から水晶球をもらってそれを上に投げた。
一度投げた球が地面に落ちそうになるとき、突然その水晶球だと思っていたものの真ん中が割れて、その中から小さな鳥が飛び上がって宙を舞った。
左慈「北郷一刀、天の御使いご自分の意志、これらが、北郷一刀をこの世界に居させる力の源です」
華琳「だけど、今の一刀は懐郷病にかかってると言ったわね」
左慈「はい、故に、この世界に居たいという気持ちと、家族たちがいる世界に帰りたいと思う気持ちが互いを相殺して、結果的に彼の意志を弱くしているのです。
一度高く宙を舞っていた鳥は何か重いものでも負わされたかのようにどんどん飛ぶ高さを低くしていた。
最初は羽をもっと早く羽ばたいてなんとか飛ぼうとしていた鳥も、どんどん疲れてきたのか力を失ってどんどん地面に落ちてきて、やがては左慈の手前で地面に落ちてしまった。
左慈「………」
蓮華「この前、一刀がこっそり私の屋敷に来たことがあったわ」
明命「へ?」
亞莎「本当ですか?」
祭「この前黄柄が父を遊んだと言うと思えばもしやあの時……」
左慈「彼も自分の娘たちを見ながら、自分の懐郷病を沈めようとしたのでしょう。なにせ、元の世界に戻れないということは、彼自身が良く知っていたわけですから」
桃香「………」
愛紗「…桃香さま」
桃香は複雑な顔をしていると、華琳が愛紗に聞いた。
華琳「愛紗、桃香も何か心当たりがあるの?」
愛紗「……実は…この前」
桃香「愛紗ちゃん、私が話すよ」
愛紗「よろしいのですか?」
桃香「良くない……だって……これじゃまるで私たちが悪いのみたいじゃない…」
華琳「桃香………」
桃香「ご主人さまも喜んでくれていると思ったのに…私たちとこうして、多くの人たちを助けながら過ごす日々を、楽しんでいると思ったのに……私たちの前で見せていたあの笑顔は、実はご主人さまの辛さを隠すためのものだったのでしょう?」
桃香らしくもない言葉に皆が息を飲んだ。
いつもなら嬉しくて仕方ないないような顔で、どんなに辛くても笑顔で居ようとする桃香が、こんなにも崩れてしまうなんて……
左慈「…玄徳さま、先ほども言ったように、北郷一刀をこの世界に居させるにもっとも大事なのは彼の意志です。が、北郷一刀が元の世界の全てを捨ててまで守ろうとしていたのは、何者でもないあなたたち。貴女達に対する彼の気持ちに一点嘘でもあったと疑うものなら、それは彼への冒涜、そして、あなた達と北郷一刀の間の関係を嘘滲んだものにしてしまうことです」
桃香「…………」
左慈「あなたたちが彼を信じてくれなければ、彼も貴女達を信じて貴女達の側に居てくれることが出来ません。それを忘れないように……」
桃香「……はい……ごめんなさい」
心を落ち着かせた桃香は、皆に以前北郷一刀が街の子供たちに話していたお伽話を話した。
華琳「……それはいつの話なの?」
愛紗「一ヶ月ぐらい前です」
蓮華「一ヶ月前からあんなことを思うほどだったら、一体一刀はいつからこんな悩みをしていたの?」
左慈「天の御使いになった者たちは常にこういった悩みをします。それで自分の身を害するようになるか否かは、その思いを深めないよう干渉する存在が居るか否かの問題でもあります」
星「つまり、私たちが自分たちの役割に充実していなかったせいだと……」
左慈「……ぶっちゃけると、こんなに人が多いのに、北郷一刀を一瞬でも放っておくというのは些か問題があるのではないかと…」
北郷一刀を好きな子たちは多かった。
でもその多い数の壁で、互いが互いを警戒するはめになって、中々一刀の近くに居続けることができなかった。そのため、逆に彼を一人にしまう時間が長くなってしまったというわけだ。
一人になった北郷一刀は、その孤独さに元の世界に置いてきた家族や、親友たちのことを思いながら、帰りたい、帰りたいを求めてしまう。一瞬の迷いでも、それは、彼がこの世界に居ることに大きな障害となる。
左慈「貴女達が縄張り主張しているうちに、一人になった仙女さまは毎日天の世界に置いてきた絆を思い返しながら枕を濡らしていた、というわけです」
愛紗「そのようなこと……!」
左慈「人は、一人じゃなくても孤独になれるのですよ、関雲長どの」
愛紗「…!!」
左慈「僕が枕を濡らしていると言いましたが、実際に孟徳さまと閨を共にした日も、彼は外で夜空を見上げながら泣いていたと言っていました。彼が症状がそれほど深刻になった時点で、もう勝負はついちゃってるのです」
恋姫「………」
自分たちは北郷一刀と一緖にいて楽しかった。
もちろん、彼もそれを楽しんでいたと思う。
だけど、彼女たちが彼と一緖にいながら故郷に帰ったり、忌日に墓参りに行ったりするように、彼も元の世界を恋しがっている。
だが彼の場合、その恋しさはつまり皆とのお別れを現していた。
明命「左慈さんがさっきしたようにしたら、また一刀様が消えそうになっても大丈夫なのではないですか?」
左慈「管理者の強制力は弥縫策に過ぎず。使いすぎると身の破滅を催します。帰りたいと思う度に今回以上の痛みが全身を走り、高くに居たものが落ちる時、低くから落ちるものより強い打撃を受けるように、管理者の力を使い続けることは、いずれ訪れる終末を伸ばし、やがては……」
左慈が残っていた水晶球の高く投げた。
今度は何もそれをつかまることができず、水晶球は重力によって地面に落ち、欠片になって地面に散らばった。
「…………」
どうすれば…一体どうすれば、一刀は私たちと一緖に居てくれるだろうか。
どうすれば、彼とこれまでのように一緖に居られるだろうか。
皆が散らばった水晶球の欠片を見つめながらそれだけを考えているところで……
月「……帰して……さし上げたらどうなるのですか」
一人だけ、それ以上を行く人が居た。
詠「月…あなた何を言って……」
月「もし、このままご主人さまが望んでいるように帰してさし上げたら、ご主人さまがさっきのように苦しむようなことは…ないのですか?」
左慈「…今なら、何の害もなく、帰られるでしょう」
愛紗「何を言っているんだ、月!ご主人さまが帰られるんだぞ!そんなことできるはずが……」
月「じゃあ、愛紗さんはあのままご主人さまが苦しむことをまた見てもいいと言うのですか?!」
愛紗「そんなことさせるものか!今からでも…遅くないはずだ。これからでも、私たちがご主人さまのことをもっと大事にすれば、ご主人さまもきっと天の世界などお忘れになって、また今までのように私たちと一緒に幸せにいてくださるはずだ」
だけど、月は頭を振るった。
月「私が桃香さまとご主人さまたちに会って、助けられた代わりに董卓の名を失った時、長安には私の父様は母様もいらっしゃいました」
愛紗「……!」
月「だけど、ご主人様と一緖にいられて嬉しい中でも、お父様やお母様たちには私が生きているという手紙一つ送ることができませんでした。結局、乱世が終わる頃には二人とも私を失ったと思って、あまりの悲しみに自らの命を絶ってしまいました」
桃香「………!!!」
詠「月…」
月「私には分かります。皆さんと一緖にいられて、私はとても、とても嬉しかったです。ご主人さまと一緖に居られるなら私はどんなことをできます。だけど……だからってあんなことがあったことに悲しみを感じないわけではありません。会いたいをおもわないわけではありません……愛紗さんには、その気持ちが分かりますか?」
愛紗「………」
月「もし、ご主人さまが望むことが天に戻られることなら、私はそれでもかまいません。ご主人さまが私と一緖に居ることがいつかご主人さまを怪我すことになるとすれば……私はご主人さまが安全になる方を選びます」
北郷一刀を、このまま天に帰す。
ダメだ。そんなこと出来るはずがない。
そう思いながらも、月の言葉を聞いた恋姫たちは迷った。
いくら自分たちが居ても、一刀が元の世界のことを思っているとすれば、この世界に残っていることが彼には傷になってしまう。
自分たちが愛している人と一緖に居ようとするのが、愛している人の破滅を誘う。
左慈「彼の今までの記憶を消すという方法もあります」
恋姫「「「!!!」」」
左慈「彼を記憶を消して、空になると天の世界も何も忘れて、貴女達のことしか分からなくなるでしょう」
蓮華「だけど、そうしたら、一刀は今までの私たちも忘れてしまうんでしょ?」
左慈「はい」
蓮華「ならそんなこと出来るはず……」
左慈「3つの方法があります。あなた方が北郷一刀を失うか、彼に耐え切れない苦痛を永久に感じさせながらこの世界に居させるか、記憶を消す薬をちょっと使って彼の頭を真っ白にしてからこれからの思い出を大事にしていく幸せな方法があります」
桃香「何か他の方法があるかもしれないよ。愛紗ちゃんの言う通り、これからもでもご主人さまのことをもっと大事にすれば……」
左慈「……貂蝉が僕にこの仕事を任せた理由がわかります」
恋姫「?」
左慈「彼は怒っていたのです。彼は自分が愛する人をこんなにしてしまった貴女達のことを憎んでしまったのです。管理者としての身分がかるからここで暴れることを避けて僕にその代わりの役を任せたのです……だけど、今日初めて貴女達を見る僕も貴女達のこの強欲さに反吐が出そうです」
恋姫達「…………」
左慈「彼をいつまでも苦しめるわけには行きません。だからって彼を返したらこの世界はまた乱世に崩れ落ちかねないでしょう。一日を上げます。それまでご決断を下さなければ、僕が強制的に彼の記憶を排除します」
愛紗「そんなこと、させない!」
春蘭「貴様、聞いていたら勝手な口を叩き折って……」
華琳「愛紗、春蘭、やめなさい!」
我慢の限界だった両国の武神たちが左慈にとりかかった。
が、
「愚かでしかも弱い」
パーン!
愛紗「なっ!」
春蘭「くふっ!力が入らない……」
左慈の近くに至る前に、二人とも何かの衝撃によって姿勢を崩してその場に座り込んでしまった。
左慈「……一日です……月さん、よければお手伝いお願いできますでしょうか」
月「はい……」
詠「ボクも行くわ」
左慈はそうやって月と詠を連れて一刀のいる部屋に向かった。
残された恋姫達は、どうすることも出来なく、ただ無気力に彼女らの姿を見守ることしかできなかった。
・・・
・・
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こんにちは、勝手に第二回同人恋姫祭り韓国代表TAPEtです。
今回は最初からすごい作品の波で、驚きながら思いつきの作品を挙げてみます。
その前に自分が普段書いてる作品です。前にも紹介した『鳳凰一双舞い上がるまで』です。雛里√を目指して描いていますが、かなりファンタジー高めな作品でちょっと違和感があるかもしれません。
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