真昼の猛暑も過ぎ、段々と涼しい風が吹き始める夕暮れ時。
椎名は園の動物たちを全て人型に変身させてから華に「園の事を任せた」と言って園の事をほっぽり出して近くの森を歩いていた。
理由は特にない。ただ、何かに導かれるように外に出たのだ。
人気は無いと言っても念のため、帽子を深々と被り、1人で森の中を彷徨う。
ふと、目をやると薄紅色の小さな花を咲かせたフジをひと回り小さくさせたような植物を見つけた。
椎名は思わずその花の前へ歩み寄ってみる。薄紅色に咲いたそれは、椎名の目線より少し下の方で咲き誇っていた。
椎名にとって、本来、どうでもいい縁もゆかりも無い花である。だが、偶然にもほんの数時間前に華がたまたま読んでいた植物図鑑に載っていて知っていた。
彼女が持っていた植物図鑑は、その植物の特徴・動物との関係性以外にも花言葉や誕生花、あらゆる情報が詰まった便利な図巻である。
華は草食動物たちが好んで食べる植物を調べているときに椎名も一緒になって目を通していた。
椎名の頭の中で微かな情報を巡らせた。
こまつなぎ
まめか こまつなぎぞく
たんじょうはな 8月17日……
はなことば………、
「…あ」と、椎名はある事を思い出したようで、その花を2,3個もぎ取り、踵を返した。
歩いて10分ほどで椎名は園に戻る。
閉園後の掃除を行っている華を呼びつけ、いつもの様に「なんですか?えんちょー」と小走りで寄ってきた華に椎名も自ら華の元へ歩み寄る。
椎名は左手の手袋を外し、元に戻った人の手で先ほど取ってきたコマツナガリの花を華の左耳付近へと掛けた。
急な行動に唖然として椎名を見る彼女の頭を、ポンと手を乗せ「いつもありがとな、蒼井華」と言った。
状況がよく飲み込めないうえに、椎名らしくない言動に顔を瞬間的にボッと赤くさせ「え…あ……え、えんちょう?」と動揺を露わにさせていた彼女にもう一言付け足した。
「今日はお前の誕生日じゃろ?おめでと」と言い、そして、「これはお前にふさわしい花じゃ。お前にやる」と付け足して、その場を去ってしまった。
取り残させた華は暫く呆然と立ち尽くしていた。
暫くして掃除を一通り終わらせ、ひと段落した華は先ほど椎名から貰った花の意味を調べてみた。
コマツナギ
マメ科コマツナギ属
誕生花 8月17日
花ことば……、
『希望をかなえる』
『しなやかな強さ』
それはきっと、彼にとって華は「希望をかなえさせてくれる掛け替えの無い大切な存在」であり「どんなことにも屈しない、物事を柔軟に受け入れる強さ」の意味があるのかもしれない。
あくまでそれは憶測であり、花ことばに込められた本当の意味を知るのは椎名だけ。
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