君と初めて会ったあの時、桜の花びらが静かに舞っていた。その中で佇む君は、とても幻想的に見えた。
艶のある漆黒の髪の毛も、黒目がちの大きな瞳も、桜色に染まった小さな唇も、どれもとても綺麗で、僕は思わず見惚れてしまったのを覚えている。
―――――でも、君の隣にはいつもあいつがいたね。
あいつは君を守ろうとしているかのように、君の傍を片時も離れなかった。
しばらくは君を見ているだけでも幸せだと思っていた。でも、君が僕と話している時に、あいつが邪魔をするように君を呼び、君がすぐ嬉しそうにあいつに駆け寄った瞬間。
僕の中で何かが、弾けたような気がした。
君は僕じゃない奴の名前を呼んで、愛らしい笑顔を浮かべる。
君は僕じゃない奴に触れられて、恥じらったように頬を赤らめる。
君は僕じゃない奴を瞳に映し、
君は僕じゃない奴の声を聴く。
全部、全部、僕じゃない。
君はまるで胡蝶のようだ。ひらひらと僕の周りを舞い、捕まえようとするとするりと逃げていく。君を守る騎士を気取ったあいつの元へ。
だから僕は罠を張った。巧妙な、巧妙な罠を。蜘蛛が獲物を待ち構えて、決して逃げられないような細かい巣を張るように。
君は『大好きな彼氏』にこっぴどくふられたね。僕が身の程知らずのあいつに「 」と言ったからかな?あの時のあいつの顔は思わず吹きだしてしまいそうになるほど、間抜けで滑稽だった。ざまあみろと思ったね。
それから君は『大事な友達』にも裏切られたね。僕が裏であらゆることを吹き込んだからかもしれないね。
さらに君は『気心の知れない仲間』全員から無視されるようになったね。僕は何もしていないよ?
君は今まで信じていた人たちから全員に見放されてしまったね。でも僕だけは変わらず君の傍にい続けた。
君が嗚咽を零していたら、理由を聞かずハンカチを差し出して泣きやむまで寄り添った。
君の元気がないようだったら、ことさら明るく振舞い、笑わせようとした。
君は次第に僕に心を開くようになった。前の彼氏にも見せたことのない、蕩けるような笑顔を見せるようにもなった。
―――――もうすぐ、もうすぐだ。
僕は内心でほくそ笑みながら、それをひた隠して常に穏やかに君に笑いかけて見せた。
「………好き……です」
雪が静かに降り、空気が凍てついたように厳しいものになっていたあの日。君は白い肌を真っ赤に染めて、震える声で僕にそう告げたね。
僕は本当に嬉しくて、君の小さく弱々しい体をきつく抱き締めてしまった。君は驚いていたけど、幸せそうな笑みを溢して僕の背中に手を回してくれた。
全てが、上手くいった瞬間だった。
それから僕たちは付き合い始めた。
「どうして僕を選んでくれたの?」と訊くと、「誰からも見放されてしまって苦しかった時、あなただけがずっと私の傍にいてくれたから」と頬を染めながらそう答えてくれた。
手を繋いで伝わってくる君の体温が、とても心地よかった。
それから数か月間、僕は望みが叶ったという幸せを噛みしめると同時に、狂いそうになるほどの嫉妬心に駆られた。
君がクラスの男子と話している時も、担任の男性教師に質問している時も、僕以外の男と話したりしているのが許せなくて、湧き上がる嫉妬心を抑えることができなかった。
その瞳に映るのは、僕だけでいい。
僕だけを愛し、僕だけを見、僕の声だけを聞き、僕だけに触れられ、僕だけに笑いかけ、僕だけに愛されればいいのだ。
ほかの奴らに君の無邪気な笑顔を見られるなんて、耐えられない。
――――――そうして、気が付いた。君を僕だけのモノにしたいなら、だれの目にも触れないところに閉じ込めてしまえばいいのだと。
君が「やめて」と目に涙を溜めて叫ぶ。『君は僕だけのモノ』だとわかるようにと、君の細い手足にとても似合う手錠をかけてあげているのに、何故そんなに怯えているの?
「助けて」と泣き叫ぶ君。助けて?君を救ってくれる人なんて誰ひとりいない。皆君から離れていってしまった。
どうしてそんなに震えているの?これからずっと、二人だけでいられるのに。
どうしてそんなに暴れているの?まるで僕から逃げようとしているみたいに。
どうして怯えた目で僕を見るの?悪い子にはお仕置きをしてあげようか?
僕しか見えなくなるように、君の耳元で愛を囁こうか。
「愛してるよ。永遠に君を放さない」
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今回はなんかすごく病んでますね^^; これも部誌として提出したものです(「こんな病んでるの部誌に出していいの?」というツッコミは聞こえません←) “僕”が“君”の彼氏に何と言ったか(「 」の部分ですね)はご想像にお任せします^^;結構えげつないこと言ったんじゃないかなーとは思ってますが。 あと「僕は何もしていないよ?」のところ、とぼけているだけで裏でまたなんかやってますよ、絶対;;