No.277160

三人の御遣い 獣と呼ばれし者達 EP5 自由な小覇王と怠け者の赤獅子

勇心さん

だいぶ投稿が遅くなりました。駄作ですが、それでも読んでくださる方々には大変お待たせしました。卒研やら家の事情などで色々ごたごたしていたので……と一応言い訳をしてみました。
今回は兵衛が呉に降り立ったところを書いています。寝不足の頭で書いたので内容めちゃくちゃかもしれませんが、広い心で読んでくださると幸いです。

2011-08-18 02:26:24 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:2608   閲覧ユーザー数:2121

一刀が桃香達と薪割をしている頃

 

 

 

 

 

北郷一刀の親友である巽兵衛は面倒な状況に立たされていた。

 

 

 

???「それで、結局お主は一体どこから来たのじゃ?」

兵衛「だ~か~ら~何度も日本だって言ってるじゃん!」

???「だから、それはどこにあるのかと聞いておるのだ!いい加減わかりやすく説明せんか!!」

 

兵衛の目の前には妙齢の女性が立っており、もう幾度目かという問答が兵衛と女性の間で繰り返されていた。

女性は繰り返される問答に疲れたのか、溜息を一つ吐くと部屋の隅に置かれている椅子に腰掛けた。

 

???「……では、一度状況を整理するぞ。このままではお主の素性どころか会話すら成り立たなく恐れがあるからのぅ」

兵衛「………………」

 

女性の提案に兵衛は黙って頷いた。このまま話していても埒が明かないと判断したためだ。

女性は兵衛が頷くのを確認すると、ふっと安心したように笑みを浮かべ、話を続ける。

 

???「それでは小僧……いや、まずは自己紹介から始めるかの。それが礼儀というものじゃ」

 

女性は椅子から立ち上がると自身の胸に手をあて、自己紹介を始めた。

 

黄蓋「わしの名は黄蓋、字は公覆。お主の名は?」

兵衛「黄蓋?どっかで聞いたことあるな……確か……」

兵衛(確か……一年の時に一刀が貸してくれた『三国志』とかいう本に出てくる武将だよな?あの時は珍しく一刀が嬉しそうに話すから思わず借りたけど、どっちかっていったら本よりゲームの三国志の方が俺的には面白かったんだよな~)

 

兵衛は当時のことを思い出して笑っていると、兵衛の反応を見ていた黄蓋は不思議そうに首を傾げる。

 

黄蓋「なんじゃ、急に笑い出して。その様子だとお主はわしのことを知っておるのか?」

兵衛「いや、知ってるって言えば知ってるけどね。だけど、それはあんた個人を知ってるわけじゃないよ。なんて言うか……歴史的な意味で知ってるって言うか……」

黄蓋「???……よくわからんことを言うのぅ、もっとわかりやすく説明できんのか?」

兵衛「あははっ、それはちょっと無理かな~、自分でも今の状況が飲み込めてないからよく分かってないんだよね。一刀だったら上手いこと説明するんだろうけど、俺は頭の中こんがらがってるから説明どころじゃないよ」

黄蓋「ふむ……それじゃまた夜にでも尋問に来るとしよう。それまでに自分のことと今の状況を整理しておけよ?尋問の際にはわしが仕える主と軍師を連れてくるから覚悟しておけ」

 

黄蓋はそう言い残すと部屋から出ていこうと扉に手を掛けた。

しかし、扉に手を掛けたまま黄蓋は思い出したかのように兵衛の方に振り返り、一言問う。

 

黄蓋「そういえば忘れていた。わしだけ名乗るのは不公平じゃからな。おい小僧……お主の名は?」

兵衛「それもそうだね。俺の名は巽……巽兵衛」

黄蓋「性がタツ、名がミ、字がヒョウエか?」

兵衛「いやいや、性が巽で、名が兵衛だから。字っていうのはないよ」

黄蓋「……字がない?ふむ、随分と変わった名じゃのう……」

 

字がない事に訝しむ黄蓋だったが、少し考えた後に呆れたように溜息を吐いた。

 

黄蓋「まぁよい、それも夜に聞けばわかることじゃろう……」

 

黄蓋はそういい残すと今度こそ兵衛の部屋を後にした。

 

その夜

 

???「……い……きろ………巽!!」

兵衛「ん~~まだ眠い~」

黄蓋「何を言っておるんじゃ!!夜にまた来ると言っておいたじゃろうが!?ええい!!早く起きんか!!」

 

バシンッ!!

 

兵衛「痛えーーーーーーっ!!」

 

兵衛はあまりの痛さにベッドから跳び上がり、叩かれた自分の耳を勢いよくさすった。

 

黄蓋「まったく、お主はどういう神経をしとるんじゃ?夜に尋問に来ると言ったであろう?怖くはないのか?」

兵衛「あぁ~痛かった……いや、でもね黄蓋さん?尋問されるからって、あたふたしてもしょうがないでしょう?怖くないと言ったら嘘になるけど、だからって俺になにか出来るわけでもないしね。だったら少しでも睡眠不足を解消するほうが効率的というもので―――」

黄蓋「言い訳無用!!この馬鹿者が!!」

???「まぁまぁ、いいじゃない祭、これくらい肝が据わっているほうが面白いわ」

 

怒鳴る黄蓋を一緒にいた女性が笑いながら嗜めた。

 

兵衛「え~と、失礼ですがどちら様で……?」

???「クスッ、どちら様はこっちの台詞なのに面白い子ね」

???「どちら様とはご挨拶だな?今から尋問される者が逆に問うてくるとは随分肝が据わっている」

 

兵衛の問いに先ほどの女性は笑いながら、隣の眼鏡の女性は不満気に答える。

 

兵衛「それは失礼したね。確かに、人に名を訊ねるなら自分から名乗れって言うもんな。それじゃ、自己紹介をさせてもらうよ。……俺の名は巽……巽兵衛。聖フランチェスカ学園の二年生だ。よろしく」

孫策「私の名は孫策伯符。性は孫、名は策、字は伯符よ。あなたのことは祭から聞いているわ。中々面白そうな子だって……よろしくね、兵衛!」

周喩「周喩だ。これからする尋問によってお前の処遇が決まるのでな、よろしくするかはそれ次第だ」

兵衛「それもそうだね。……うん、いいよ。何でも聞いて」

周喩「うむ……ではまず、生地はどこだ?」

兵衛「日本の東京」

周喩「日本?東京?それは一体どこにある?」

兵衛「う~ん、多分東の方に行って海を渡ったところにあると思うけど……」

周喩「なるほど遥か昔徐福が向かったとされる場所のことか」

兵衛「よくわかんないけど……多分そうじゃない?それに俺のいた場所はこの世界とは別の世界だと思うから、場所聞いても意味ないと思うよ」

孫策「別の世界?それってどういうこと???」

兵衛「俺はこの世界の住人じゃないってこと。簡単に言うとあんた達が遥か昔に死んだ御先祖様に会うような感じ?俺のいた時代より何年前なのかはわからないけど、少なくとも二千年くらい前のはずだ。上手く説明できなくて申し訳ないけどね」

 

兵衛の適当な説明に三人はとても理解が追いつかない様子だった。

説明している兵衛自身も理解しきれていないのだから無理からぬ話だが、このままの状況が続けば、確実に兵衛の立場は悪くなる。

しかし、兵衛にはこの状況を解決するだけの頭脳とボキャブラリーは存在せず、ただただ溜息を吐く事しかできなかった。

 

 

 

誰もが頭を悩ませていると、その場にいる一人が不意に口を開いた。

 

 

 

雪蓮「ということは、兵衛は天から来た『天の御遣い』って事?」

 

口を開いたのは孫策だった。

 

雪蓮「ねえねえ、どうなの?難しい事はよくわからないけど、要するに兵衛はこの大陸の人間じゃないのよね?だったら天の世界から来たって解釈でもいいのよね?」

兵衛「んん~、若干違う気がするけど、そっちがそういう解釈の方がわかりやすいなら面倒だからそれでいいよ」

雪蓮「なら、決まり!冥琳もそれでいいわよね?」

周喩「私は別に構わんぞ。聞く限り荒唐無稽すぎる話だが、嘘を言っているようにも見えない。少なくともこいつが我々とはまったく違った価値観と知識を有しているということは理解できたし……何より悪人には見えん。」

兵衛「それだけわかってもらえれば助かるよ」

周喩「それでは次の質問だ」

兵衛「どんとこい」

周喩「貴様が先ほど名乗った時に言っていた聖ふらんちぇすかというのは何だ?」

兵衛「……発音かわいいな」

周喩「///う、うるさい!いいから質問に答えろ!!」

 

兵衛の一言に周喩は顔を真っ赤にして叫んだ。

それを見ていた孫策は腕をブンブンと振って

 

雪蓮「こらーーー、冥琳をからかっていいのは私だけなのよ~」

 

とさりげなく所有権を主張していた。

 

周喩「雪蓮、少し黙ってて……話が進まないわ。おほんっ!それでは巽、質問を続けるぞ」

兵衛「あいよ~」

周喩「それで?その聖ふらんちぇすかとは何なのだ?」

兵衛「……やっぱ発音かわ---」

周喩「それはもういい!!」

 

兵衛がからかおうとすると周喩が先回りしてそれを遮った。

そんなやり取りはその後も半刻ほど繰り返され、気付くと外はすでに明るくなっていた―――

 

 

兵衛「そんじゃ外も明るくなってきたし、質問に答えますか。……質問にあった聖フランチェスカだけど……聖フランチェスカっていうのは学校の名前なんだ」

周喩「学校?学校とは何だ?」

兵衛「簡単に言うと学問を学ぶ場所のことだよ。子供から俺くらいの年齢の若い人達が集まって、将来のために教育を受けるところを学校って言うんだ」

周喩「ほう、貴様のいたところではそのような場所があるのか?」

兵衛「まぁね、実際俺もそこで勉強してたし……て言っても、俺はあんまり勉強好きじゃなかったからサボってばっかりいたけどね……」

 

答えながら兵衛は自身の頬をぽりぽりと照れ臭そうに掻いた。

 

周喩「なるほど、巽が不真面目だったのは置いておくとしても、若者を一箇所に集めて勉学を教えるとは中々効率の良いやり方だな。是非、我が呉でも取り入れたいものだ」

 

周喩は兵衛の拙い説明でも感心してくれたようだった。

しかし、感心する周喩の隣では孫策と黄蓋が難しい顔をして考え事をしていた。

その様子に気付いた周喩は孫策に声をかける。

 

周喩「どうした、雪蓮?何か問題でも?」

兵衛「俺、なんか不味いこと言ったかな?」

孫策「う~ん、確かに効率はいいと思うんだけど……」

黄蓋「そうじゃな、確かに効率は良い。それはわしも認める。しかしのう……」

 

二人は腕組をしながら、低く声を唸らせた。

 

周喩「一体どうしたのだ雪蓮?これほどの政策、取り入れないことに利があるとは思えんが……」

孫策「うん、冥琳の言うことも最もなんだけど、私はその政策を取り入れることが必ずしも利を生むとは思えないのよ」

兵衛「どういうこと?」

黄蓋「簡単に言えば、孫家に対して不満を持っている輩が知恵をつける可能性があるから困ると言っておるのじゃよ、小僧」

周喩「ふむ……なるほど」

孫策「知恵をつければ余計なことを企てる奴が出てくる。知恵をつければ、政の裏まで目を向けるようになってしまう……」

黄蓋「今までは、民達に知恵がないために政に関してそれほど不満は出てこんかったが、知恵をつければ不満は更に大きくなるじゃろう……結果、どうなるかは言わんでもわかるな?」

兵衛「なるほど」

孫策「私たちは善意で国を治めているわけじゃないわ。支配者の特権という利があるから治めているの。いいえ、『治めてやっている』という虚構があるからこそ、特権を行使する事ができるの。その特権をわざわざ危険に晒す意見には、悪いけど賛成出来ないわ」

 

孫策は毅然と言い放つ。

そして、そんな孫策に兵衛は溜息混じりに話を続けた。

 

兵衛「まあ、別に俺は賛成だろうと反対だろうとどうでもいいよ。なんだったら保留にしてもいいんじゃない?今ここで結論を出さなきゃいけないわけじゃないんだし……」

周喩「確かにな……」

孫策「…………」

兵衛「この先、もしかしたら学校が必要になる時が来るかもしれないんだから、答えを焦る必要はないと思うよ?」

孫策「…………」

兵衛「今は戦乱だもんな。油断してれば足元をすくわれる。その考えは上に立つ者として正しいと思う。……だけど、それだとつまらなくないか?」

孫策「つまらない……ですって?」

 

兵衛の言葉に孫策の眉がぴくりと動いた。

 

兵衛「つまらないだろ?人は人を信じるから会話一つでも楽しくなれる。なのにそれを放棄したら、世の中つまんなくなっちゃうよ。今は戦乱だからしょうがないとしても、これから先はどうするの?平和になった後でもそう考えるの?」

孫策「…………」

兵衛「まあ、難しいことは俺にはわからない。孫策には孫策の考えがあるだろうから、これ以上は言わない……だけど、平和になった時にはゆっくり考えてみてほしい。俺はいつでも答えを待ってる」

 

 

兵衛はそう告げると今まで一番の優しそうな瞳を孫策に向けた。

孫策もまた、それに応えるように優しい瞳を兵衛に向け

 

孫策「……そうね。その時にでもゆっくりと……」

 

二人は静かに微笑み合った。

 

部屋を後にした孫策達は廊下を歩きながら兵衛について話をしていた。

 

孫策「あははっ!あっさり毒気抜かれちゃったわね~」

黄蓋「随分嬉しそうじゃな、策殿?」

孫策「当たり前じゃない、祭。まさか、あの男があんなに面白い逸材だなんて思いもしなかったわ♪」

黄蓋「……逸材じゃと?肝は据わっていたのは認めるが、逸材とは随分と買っておるのじゃな?」

周喩「どういうことだ、雪蓮?」

孫策「簡単よ……あの男はまだ何か隠している」

周喩「隠している?そんな様子はなかったと思うぞ。あの後もいくつか質問したが、あの『けーたい』なるものや、『しゃしん』といった天の物は隠し事をしている者がおいそれと出せる代物とは思えなかったが……」

孫策「それは少し違うわよ、冥琳。あれには確かに驚いたけど、私が言っているのはあの男の態度のことよ」

周喩「態度?」

孫策「そう……あの態度――あの余裕な態度。私達に対してあの余裕過ぎる態度に私は嬉しさを通り越して恐怖を感じてしまった」

黄蓋「恐怖……じゃと?」

孫策「だって、そうでしょう?あの時の私達は少なからず彼を警戒し、殺気を出していたのよ。常人だったら、まず耐えられない。耐えられるとしたら―――」

周喩「相当な実力者のはず……か」

孫策「その通り♪」

黄蓋「なら、策殿は一体どうしたいのじゃ?奴の実力でも調べるのか?」

孫策「そうね、彼を天の御遣いとするのなら実力を測るのも必要かもしれないわね」

周喩「雪蓮……まさか、お前」

孫策「冥琳の想像通りよ。明日……私は彼の実力を試す」

 

 

江東の麒麟児は妖艶に、そして心底楽しげに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、次の日―――

 

 

 

 

三人が試合のために部屋を訪れると、兵衛の姿はどこにもなかった……

 

黄蓋「探せ!!とにかく手当たり次第に探し出せ!!」

周喩「慌てるなよ!二人一組で行動し、城の中は侍女に任せて兵士達は街の中を捜索しろ、袁術達には気取られるなよ!」

兵士「はっ!」

 

次の朝、兵衛が姿を消した事で城の中は騒然としていた。

 

周喩「ちっ、油断した!まさか、こうも早く動くとは……」

黄蓋「何?冥琳、お主こうなることがわかっておったのか!?そうならそうと何故言わなかった!!」

周喩「あくまで可能性の話です!仮に奴が他の国の間者だとしても、動くならもっとこの国の内部を探ってからだと、そう踏んでいたのです!!」

黄蓋「奴が他国の間者だと!?」

周喩「まだ断定は出来ませんが、姿を消したことを考慮すればその可能性は高いと思われます!」

 

二人が城内を駆け回っていると

 

孫策「お~~い」

 

どこからか声が聞こえ、辺りを探していると中庭には明らかに酒盛りをしていると思われる孫策が二人を手招きしていた。

 

周喩「雪蓮!?何を暢気にしているのだ!奴が……巽がいなくなったのだぞ!!」

孫策「へ?兵衛がいなくなった?何言ってるの、冥琳」

周喩「何って……」

 

酒を飲みながらあっけらかんと言う孫策の態度に周喩は言葉が出てこなかった。

そして、孫策はそんな周喩を無視して衝撃的な言葉を続けた。

 

孫策「兵衛なら、街で子供達と遊んでるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周喩・黄蓋「「……は?」」

 

 

三人は兵衛を探しに街に行くと、そこには道の真ん中で子供達と追いかけっこをしている兵衛の姿があった。

鬼の役をする兵衛に追いかけられている子供達は笑いながら必死に逃げており、その光景はまるで兄弟が仲睦まじく遊んでいるようだった。

 

周喩「こ、これは一体……」

孫策「これはも何も……見たままよ。ただ遊んでいるだけ♪」

 

悪戯っ子っぽく言う孫策に周喩は溜息を吐いた。

 

周喩「はあっ……そんなことは見ればわかる。私が言いたいのは奴の目的だ。まったく奴の考えが読めん。あんなことをして何になると言うのだ……」

孫策「何にもならないわよ」

周喩「……何?」

黄蓋「どういうことじゃ、策殿?」

 

二人の疑問に孫策は言葉を続けた。

 

孫策「あの子はたぶん……ただ『したいことをしている』だけなのよ。そこには打算的な考えや邪まな目的は存在しない。ただ純粋に仲良くなりたいという気持ちだけで街の人達と触れ合っている」

黄蓋「はっはっはっ!それは、随分と欲のないことじゃな!普通なら策殿のような上に立つ者に近づくのにのぅ」

周喩「ふむ……」

 

黄蓋は心の底から愉快そうに、周喩は未だに納得できないというように唸っていた。

 

周喩「だが、雪蓮……なぜそのようなことがわかるのだ?奴とはつい先日話をしただけだろう」

孫策「もう~、らしくないわよ冥琳!そんなの子供達の顔を見れば一目瞭然でしょ?」

 

そう言うと、孫策は子供達の方を指差した。

そこには笑顔で走り回る子供達の姿があった。

 

黄蓋「なるほどのぅ……確かにそう言われてみればそうじゃな。子供は警戒心が意外と高いから邪まな考えを持った者をそうやすやすと受け入れるわけがないということか」

周喩「なるほど……純粋だからこそ出来る芸当ということか……」

孫策「そういうこと♪」

 

その光景を見ていた三人は知らずの内に笑みをこぼしていた。

 

 

 

孫策「それにしても、ほんとよく遊ぶわね~」

周喩「そうだな、あそこまで楽しそうにされると疑っていた自分が馬鹿らしくなってきた」

黄蓋「それも仕方のない事じゃろ?わしらの立場を考えれば無条件に信用するという訳にはいかんのじゃからな……しかし、お主がそう思う気持ちもわからんでもない。あのような顔を見せられては……な」

 

三人はかなりの時間、兵衛達の様子を観察していたため、案の定孫策が文句を言い始めた。

 

孫策「はぁ~、もう飽きちゃったわ。そろそろ帰りましょうよ~」

黄蓋「それもそうじゃな。あの様子では日が落ちても遊び続けるじゃろう」

周喩「二人共!!本来の目的を忘れてもらっては困ります!我々の目的は巽を連れ戻す事で―――」

 

周喩が二人を諌めようとした瞬間―――

 

???「おらーーー!邪魔なんだよ、ガキ共!!」

 

兵衛達のいる所から誰かの怒声が聞こえてきた。

三人がそちらに目を向けると兵衛達が酔っ払いと思われる男五人に囲まれていた。

五人は全員が屈強な体格をしており、明らかに素人ではない雰囲気を出していた。

 

孫策「ねえ、あの五人なんか危なっかしくない?」

黄蓋「ふむ、確かにのぅ……しかも、あの五人よく見ると最近兵達が手を焼いているチンピラではないか?チンピラのくせにかなり出来るらしいぞ」

周喩「ああ、報告にありましたね。確か、五人とも武芸を嗜んでいたようですが、その素行のせいでどこにも受け入れられず、そのことを逆恨みし各国で悪さを働くようになった札付きの悪です」

孫策「そんな奴らに絡まれるなんて、兵衛も運がないわねぇ~」

黄蓋「どうする、策殿。助けるか?」

孫策「その必要はないわよ♪」

周喩「なぜだ?このままでは奴は確実に痛めつけられるぞ。下手すれば殺されてしまう」

孫策「まぁ助けたほうがいいっていうのには私も賛成なんだけど、どうしても確認したい事があってね」

黄蓋「確認したいことというのは……奴の実力のことかの?」

孫策「正解♪」

周喩「はぁ~~~、また悪い癖が出たな、雪蓮」

孫策「別にいいじゃない♪兵衛の『隠しているもの』を確認する絶好の機会じゃない?」

周喩「それはそうだが―――」

 

ガッシャーーーンッ!!!

 

急な物音に三人は音のするほうに目を向ける。

 

チンピラ1「おら、ガキ共!!さっさとどけや!道の真ん中で遊んでんじゃねーよ、目障りだ!!」

 

チンピラの一人が子供たちを恫喝していると、チンピラの前に兵衛が立ち塞がった。

 

孫策「見て見て冥琳!いよいよ兵衛の本気が見れるわよ」

周喩「言われなくても見ればわかる。いちいち服を引っ張るな」

黄蓋「さあ、お手並み拝見……といったところかの?」

 

三人が兵衛の一挙手一投足に目を向けていると

 

チンピラ1「あ~ん?なんか用かよ、赤毛の兄ちゃん?」

 

チンピラは足元から頭まで舐めるように見ると鼻で笑った。

どうやら兵衛のことを弱いと判断したようだ。

チンピラが大声で笑っていると、兵衛の左手が動いた。

 

三人(((動いた!!!)))

 

三人はチンピラを叩き伏せるであろう兵衛の動きに注目した。

 

 

 

 

 

しかし、兵衛の左手はチンピラを叩き伏せはしなかった。

左手は兵衛自身の頭の後ろに回り、そのまま兵衛は頭を下げた。

 

三人「「「………………………は???」」」

 

三人は目の前で何が起こったのか理解できず、目をぱちくりとさせていた。

そんな三人をよそに、兵衛はチンピラになおも頭を下げていた。

 

兵衛「どうもすいません~、次からは気をつけるんで勘弁してくれないですかね~?」

 

一瞬の沈黙後、兵衛の目の前にいるチンピラは大声で笑った。

 

チンピラ1「かーーーーかっかっか!!おもしれーな、この兄ちゃん!とんだ腰抜けだぜ、こんな衆人環視の中平気で頭を下げるなんて、どんだけ誇りねーんだよ!?」

 

周りのチンピラたちも大声で笑い始め、兵衛はなおも頭を下げ続ける。

傍から見たら、その姿はあまりにも無様で、あまりにも情けなかった。

そんな光景を見ていた孫策は静かに舌打ちした。

 

孫策「ちっ!何よ、あれは……」

周喩「雪蓮?」

孫策「なんでもないわ……」

 

孫策の機嫌が悪くなっていることにいち早く気がついた周喩はすぐにフォローの言葉を言う。

 

周喩「ま、まあ~あれだ!巽のあれが騒ぎを大きくしないための策だとしたら大したものだな、雪蓮?」

孫策「……」

黄蓋「そうかのぅ?あれじゃ相手につけあがってくださいといっているようなもんじゃぞ」

孫策「…………」

 

黄蓋の空気の読めない発言に孫策の周りの空気が黒く歪んでいった。

それをみてしまった周喩は空気の読めない黄蓋を一睨みする。

その視線に気がついた黄蓋はしきりに首を傾げるだけだった。

 

 

 

三人がそうこうしているうちに兵衛の情けない態度にチンピラ達は調子を良くしたのか、なおも兵衛達に絡んでいた。

遂には、チンピラの一人が兵衛の胸倉を掴み、金をせびる始末だった。

それでも兵衛は愛想笑いを浮かべたまま謝るだけだった。

 

兵衛「いや~、暴力は勘弁してくださいよ~。怖いな~」

チンピラ1「なら、さっさと金出せや兄ちゃん!怪我したくねーんなら、おとなしく従った方が身のためだぜ!?」

兵衛「そう言われても金なんか持ってないですし、子供も見てるんですからあんまり物騒な事は―――」

チンピラ1「うるせーーーー!!」

 

次の瞬間、チンピラの拳が兵衛の顔面を捉えるかと思ったその時―――

 

ガッ!!

 

チンピラ1「痛ええええっ!!!」

 

チンピラの足元で鈍い音が鳴り響いた。

 

男の子「にいちゃんを……いじめんな!!」

 

チンピラの足元には木の棒切れを持った男の子が立っていた。

その男の子は先ほどまで兵衛に一番懐いていた男の子だった。

 

兵衛「お前……」

チンピラ1「このガキがーーー!なにしやがんだ、ああん!?」

男の子「にいちゃんを放せ!このぶさいくーーー!!」

 

男の子は更にチンピラの足に殴りかかろうとすると―――

 

チンピラ1「ぶ、ぶさいくだと!?こ、このガキがーーーー!!!」

 

チンピラは非常にも男の子の腹部を蹴り上げた。

男の子は衝撃で後方にすっ飛ばされ、地面に何度も叩きつけられた。

男の子は倒れた状態からピクリとも動かなかった……

 

 

 

ブツンッ―――

 

次の瞬間、誰かの『何か』が切れる音がした

 

 

 

その光景を見ていた孫策達は

 

孫策「もう、これ以上見ていられないわ!あいつら全員残らず皆殺しにしてやるわ、行くわよ祭!!」

黄蓋「応!!」

周喩「待ちなさい、雪蓮!!考えもなしに動くな!奴らの近くには子供達がいるのだぞ、もう少し策を練ってからでも―――」

孫策「そんなの待ってられないわ!奴らごとき、私と祭だけでも十分よ!」

黄蓋「そうじゃぞ、冥琳!奴らに策など無用!!わしらだけでやつらを懲らしめてやるわ」

周喩「だから、そういうことを言ってるのではなく―――」

 

どさっ!

 

三人がぎゃいぎゃいと騒いでいると何かの倒れる音がした。

その方向に目を向けると、先ほどまで兵衛の胸倉を掴んでいたチンピラが、まるで糸の切れた人形のように倒れていた。

 

黄蓋「なんじゃ!?なぜあのチンピラが倒れておるのだ!!何が起きたのじゃ!?」

周喩「わかりません……ですが、恐らく何者かが遠くから攻撃を加えたのかもしれません」

孫策「違うわ……」

 

周喩の言葉を孫策が静かに否定した。

 

周喩「しぇ、雪蓮?」

黄蓋「違うとはどういうことじゃ、策殿?」

孫策「あれをやったのは……他ならぬチンピラの目の前にいた…………兵衛よ」

 

そう言って兵衛を指差している孫策の頬には薄っすらと汗がつたっていた。

 

 

 

チンピラ2「お、おい!!大丈夫か!?」

チンピラ3「て、てめぇ!こいつに何しやがった!?」

チンピラ4「こんなことしてどうなるかわかってんだろうな!?」

チンピラ5「このまま無事に済むと思うなよ!!」

 

チンピラ達は各々に兵衛に罵声を浴びせていると―――

 

兵衛「黙れ……」

 

瞬間、兵衛から日本刀のような鋭い殺気が発せられ、チンピラ達を後退させた。

兵衛はゆっくりと倒れているチンピラ1に近づくと、その頭を踏む。

チンピラは頭を踏まれたことで、小さく呻き声を漏らした。

 

チンピラ4「て、てめえ!!倒れて意識のない人間にそこまですんのかよ!?」

チンピラ2「そ、それでも人間か!?」

 

怯えながらも仲間を助けるために兵衛に罵声を浴びせるチンピラ達に兵衛は心底気だるそうに答える。

 

兵衛「あ~~~、うっせえな~。お前らどの口がそんなこと言ってんだ?『それでも人間か~』なんて、お前らだけには言われたくないんだけどね」

チンピラ3「う、うるせえ!さっさとそいつを放せや!さもねーと……」

兵衛「さもないと?」

 

兵衛が聞きなおすとチンピラ達はじりじりと距離を詰めてきた。

どうやら一斉に襲い掛かるつもりらしい。

兵衛は溜息を一つ吐くと、臨戦態勢に入った。

両腕をだらりと下げて、いかにも無防備なように見せるその構えこそが

 

無双流 壱の構え『流水』

 

無双流基本の構えにして、兵衛が得意とする変幻自在の構えの一つである

 

兵衛「さあ、来いよ……遊んでやるよ」

 

兵衛の言葉を聞いた瞬間、チンピラ達は一斉に襲い掛かった。

 

 

初めに兵衛に襲い掛かったのはチンピラ2だった。

チンピラは兵衛のがら空きの顔面に向かい、拳を叩き込もうと振りかぶると、

 

兵衛「遅いよ」

 

眼前にはすでに右足を振り上げ、踵落としの体勢を取っている兵衛の姿があった。

 

チンピラ2「あ……あ…あ」

 

チンピラ2は口をパクパクと開けている事しか出来ず、次の瞬間には振り上げられた踵が自身の鎖骨を砕くところを見て意識は途切れた。

 

兵衛はチンピラ2の鎖骨を踵落としで砕くと、鎖骨に踵を引っ掛けたまま地面に思いっきり叩きつけた。

 

兵衛「ふう……次」

 

兵衛の言葉に今度はチンピラ3とチンピラ4が襲い掛かる。

チンピラ3と4は手に短刀を持っていた

 

チンピラ3「くらえやーーー」

 

チンピラ3が短刀を突き出すと、兵衛はそれをなんなくいなし、その腕を捕らえると瞬時に逆関節を極め、一本背負いを喰らわせた。

投げを放った瞬間、逆関節を極められたチンピラ3の腕はまるで小枝を折るかのように鈍い音を立てあっさりと折れた。

 

チンピラ3「ぐああぁぁぁぁあああぁぁあ!!!お、俺の腕がーーーーー」

 

チンピラ3が折れた腕を押さえてのたうち回っていると、チンピラ4が兵衛の背後から襲いかかろうとしていた。

チンピラ4は兵衛の無防備な背中に短刀を振り下ろし、勝利の笑みを浮かべた。

 

しかし―――

 

チンピラ4「………………………へ?」

 

しかし、気付いた時にはすでに自身の手に短刀はなく、チンピラ4は空を見上げる形で宙を舞っていた。

その光景を見ていた孫策達は

 

周喩「な、何だ今のは……」

黄蓋「わしらは悪い夢でも見ておるのか?」

孫策「悪い夢ならどれだけいいことか……残念だけど、これは現実よ。そして、これで確信したわ。やっぱり彼は……『化物』よ」

周喩「雪蓮……奴は今何をしたのだ?私の目では奴が背を向けたまま一瞬揺らいだところまでしか見えなかったのだが……」

孫策「そうねえ……私もはっきり見えたわけじゃないから、なんとも言えないのよね~。祭、お願いできる?」

黄蓋「……恐らく、左足による後ろ回し蹴りといったところではないか?正確には後ろ回しでチンピラの短刀を弾き、振り抜いた左足で返す蹴り……これも恐らくじゃが、足刀蹴りをチンピラの喉元に叩き込んだのじゃろう……」

周喩「そ、それは本当なのですか、祭殿?」

黄蓋「お主が疑うのもわかるがのぅ……言ったわし自身ですら、自分の言を疑っているくらいじゃ。その反応も致し方ない」

周喩「い、いえ!疑っているわけではありません。ですが、そんなことがあの一瞬で本当に可能なのですか?」

孫策「可能……なのでしょうね」

周喩「ど、どうした雪蓮、震えているのか?」

雪蓮「私が?そう……私は今震えているのね?」

 

孫策は自身ではわからない震えた体を両手で強く抱きしめた。

 

周喩「……怖いのか?」

孫策「怖い……そう怖いわ!私はあの男が恐ろしい!!さっきまであんなチンピラ風情にぺこぺこと頭を下げていた癖に子供が傷つけられた瞬間、鬼神の如き強さで元武芸者四人までをあっさりと叩き伏せるあの強さが……私は恐ろしくて堪らない」

黄蓋「確かに恐ろしい。策殿でなくとも奴の実力に鳥肌が立たん奴はおらんじゃろう」

周喩「では、どうしますか?二人ほどの達人が恐れるあの男を我が陣に入れる件、改めますか?」

 

周喩は額に冷や汗を浮かべながら軽口を叩いた。

それが、今の周喩に出来る精一杯の強がりなのを孫策だけがわかっていた。

 

孫策「改めるつもりはないわよ。彼は絶対に私たちの仲間になってもらうわ。あれほどの実力だもの、『天の御遣い』としても、武官としても利用価値は十分じゃない。ここで彼を逃すのは今後の私達にとって大きな損失になるわ」

黄蓋「では、奴には正式に呉の将になってもらうということかの?」

孫策「そうね。まあ、それもこの騒動が終わった時にでもゆっくりと話しましょう。ほら、そろそろ終わりそうよ」

 

孫策はそう言うと兵衛の方を指差した。

 

 

 

チンピラ5「な、何だよ!?もういいだろう、こんだけやったらよーーー」

 

仲間をやられて残ったチンピラ5は後ずさりながら近くにある物を投げて精一杯の抵抗を試みる。

しかし、そんな抵抗も虚しく、投げられた物はゆっくりと歩いてくる兵衛に一つ残らず地面に叩きつけられる。

チンピラの目の前まで兵衛が歩み寄ると、チンピラは腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。

 

チンピラ5「ば、化物……」

 

それがチンピラ5の覚えていた最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

兵衛「化物だろうと……人でなしより数倍マシだ」

 

 

チンピラ達を一瞥すると、蹴り飛ばされた子供を抱きかかえ、赤い獅子は静かにそう呟いた。

 

 

 

兵衛がチンピラ5人を倒したことで、街の人達は大騒ぎだった。

チンピラ5人には街の人達も多くの被害を受けていたらしく、皆は口々に兵衛に感謝した。

街の人達の押し寄せる賛辞に威圧されて、兵衛は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

孫策「ちょ~と、ごめんね~♪」

 

兵衛が街の人達にもみくちゃにされていると、人混みを掻き分け孫策達が近づいてきた。

 

兵衛「孫策か……」

孫策「やっほ~♪中々良いもの見せてもらったわよ、兵衛」

周喩「うちの兵士ですら手をこまねいていた奴らをあっさりと叩き伏せるとは、どうやら私は貴様の実力を見誤っていたようだ」

黄蓋「わしもこんなに熱くなったのは久しぶりじゃ!ぜひとも今度手合わせ願いたいものじゃな」

 

三人が口々に兵衛を褒める。

しかし、兵衛はそんな三人の賛辞を無視するかのように子供達のところに歩み寄った。

すると、そこには先ほどチンピラに蹴り飛ばされた子供が目を覚ましていた。

兵衛はゆっくりと男の子に近づくとその場にしゃがみ込み、男の子の頭を優しく撫で、

 

兵衛「ありがとうな……俺なんかのために戦ってくれて」

 

精一杯の感謝の言葉を口にする。

男の子は兵衛の胸に顔を埋め、力一杯泣いた。

 

 

 

男の子が泣き止むのを確認すると、兵衛は子供達に遊んでくるように言い付けると、孫策達の方に向き直った。

 

孫策「私たちを無視して子供に真っ先に歩み寄るなんて、随分と胆が据わってるのね……いえ、『優しい』の間違いかしらね」

兵衛「そんな大層なものじゃないよ。ただ、あの子は俺のために戦ってくれたんだ。俺のために動いてくれた子と、それを『黙って見ていただけのどこぞの君主様達』、どちらに敬意を払うべきかなんて子供にもわかる理屈だと思うけど?」

三人「「「!!!」」」

孫策「いつから……」

兵衛「ん?」

孫策「いつから気付いてたの?」

兵衛「最初から……かな。俺が子供達と遊んでるのを陰から見てただろ?中々上手く気配を消していたようだけど、消すなら消すでもう少し離れたところから消さないと、いきなり孫策達みたいな達人の気配が消えたら俺じゃなくても警戒するぞ」

黄蓋「では、わしらに見られてるのを承知の上で実力を見せたのか?」

兵衛「まあね、本当は孫策達が助けに入ってくれるのを期待してたんだけど……どうやら期待外れだったようだから、仕方なく……ね」

周喩「それについては申し訳ないとしか言いようがないな。我々も本意ではなかったとはいえ、ただ傍観していたというのは事実だからな」

孫策「でも、御陰であなたの実力は見せてもらったわ。最も……あれがあなたの全力だとは到底思えないけどね」

兵衛「…………」

孫策「黙っているということは、肯定と受取っていいのよね?」

兵衛「さあね」

孫策「ふふっ、まぁいいわ」

兵衛「……それはそうと、俺に何か用があって来たんじゃないのか?」

孫策「そうね、本当は城に戻ってから頼もうと思ったんだけど、ついでだし話しちゃおうかな」

周喩「雪蓮、いいのか?」

孫策「別に構わないわよ。ていうか、私の勘が『今言わなきゃまずい』って言ってるのよね」

周喩「……ならば、何も言わん」

黄蓋「策殿の勘は無視出来んからのぅ」

兵衛「どっちでもいいから早くしろよ。ガキ共待たしてんだからさ~」

孫策「それは悪かったわね。……それじゃ、単刀直入にお願いするわ」

 

孫策は一呼吸置くと、今までにないほど真面目な顔つきで言う。

 

 

孫策「巽兵衛……あなたに私達の『天の御遣い』になってほしいの」

 

 

孫策の唐突な頼みに初めは理解が追いつかない兵衛だったが、フォローに入った周喩の説明に助けられ、どうにか孫策達の思惑を理解した。

 

一つ目は『天の御遣い』の噂は管輅という占い師が占ったことから流れ、孫策達は独立のためにその噂を利用するつもりということ

 

二つ目はその天の御遣い兼武将に兵衛を就かせるつもりということ

 

そして最後に、今後合流するであろう呉の武将達を抱き、天の血を呉に取り入れること

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「………………………………………………は?」

 

兵衛「いやいやいや、そんなん無理だっての!見ず知らずの子を抱けなんて、あんた何考えてんだ!?」

孫策「や~ね~♪別に無理矢理抱けって言ってるわけじゃないわよ。もちろん、お互いに納得の上っていうのが前提条件よ」

兵衛「そ、そうか良かった。……じゃなくて、俺の意志は無視かよ?」

孫策「無視はしないけど、出来れば素直に了承してくれると嬉しいわね」

兵衛「…………」

周喩「別に嫌なら断っても構わんのだぞ?こちらとしては、貴様の力を貸してもらえるだけでお釣りがくるほどの収穫だ」

兵衛「……いや、受けるよ。ただし、条件がある」

黄蓋「条件?なんじゃ、それは」

兵衛「一つ目は俺を客将として迎えること。二つ目は俺の親友二人を捜すことに協力すること。そして最後に……」

孫策「随分と……欲張るのね」

兵衛「俺の力が欲しいんだろ?十分正当な対価だと思うけど?」

周喩「ふふっ、言ってくれる。それで、最後の要求は何だ?」

兵衛「最後は要求と言うよりは、『お願い』だな」

孫策「お願い?」

兵衛「子供達が……子供達が安心して笑顔で暮らせる世の中を作ってくれ。さっきみたいに……ただ見ているだけなんて格好悪いこと、二度としないでくれ」

三人「「「…………」」」

兵衛「それさえ約束してくれれば、俺はいくらでも力を貸すぜ!一宿一飯の恩もあることだしな……」

 

兵衛はそう言うとにこりと優しげに微笑んだ。

 

三人「「「//////」」」

 

三人は兵衛の笑顔に一瞬心を奪われたが、すぐに正気を取り戻し

 

孫策「そ、そうね!約束するわ!絶対に子供達が笑顔でいられる世の中にしてみせると、孫策伯符の名に誓って約束するわ」

兵衛「なら、契約成立だ。それじゃ、話はこれでお終いだ。俺はこれからガキ共と遊ぶ約束してるから、もう行くわ」

周喩「まだ遊ぶのか?」

兵衛「ガキの仕事は遊ぶことさ。小さいうちは友達と精一杯遊んで、精一杯喧嘩して、精一杯楽しむことが何よりも大事だ。大人になれば嫌でも現実の辛さを味わうんだから、せめて今だけは……な」

周喩「そうか……」

 

そう言い残すと兵衛は子供達の方に歩いていった。

その後姿は先ほどまで鬼神の如き強さを振るっていた者とは思えないほどに憂いを帯びていた。

 

 

 

 

 

 

孫策達と別れた兵衛は歩きながら誰に聞こえるでもなく、一人呟く。

 

兵衛「はははっ……『子供達が安心して暮らせる世の中を作ってくれ』なんて、どの口がほざいてんだか……誰よりも人を不幸にしてきた俺が誰かの幸せを願おうなんて、偽善以外の何だって言うんだ?……そうは思いませんか、『師匠』?」

 

一人呟く兵衛の言葉は誰にも聞こえることなく風の中に消えていった……

 

 

 

あとがき

 

どうも勇心です。

まずは、謝罪をします。

お待たせしてすみません。

卒研とか色々あって忙しかったので中々執筆が進みませんでした。

読んでくださる方々には大変お待たせしました。

まあ、このような駄作を待ってもらっているなんてうぬぼれたことを思ってはいませんが、それでも仮に待っていてくださった人がおるのなら、この場で感謝の意を唱えたいと思います。

誠にありがとうございます。

アドバイスラウンジなども利用しているので、アドバイス等がありましたらぜひともコメントよろしくお願いします。

今後とも駄作ではありますが、勝手に自由に書いていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

 

次回は、予想できると思いますが、あえて予告します。

 

次回は曹操の元に烈矢が降り立ちます。

設定では女性に弱いという列矢君が果たして女性ばかりの恋姫ワールドでどれだけ頑張れるのか!?

乞うご期待……なんつって(笑)


 
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