No.269123

真恋姫無双 天遣三雄録 第二十九話

yuukiさん

虎牢関の戦い。
始まり、終わる。

2011-08-10 23:41:13 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:5037   閲覧ユーザー数:4076

始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。

なお、オリキャラ等の出演もあります。

 

そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。

 

 

第29話 男には負けるとわかっていても戦わなきゃいけない時が有るけど、

     あんまり無理するとマジで死んじゃうからみんな気を付けろよな!  by左慈

 

 

右肩が、焼けるように熱い。

霞む視界に映るのは、地面に突き刺さった刺突剣。

俺はそれを、少し離れた場所で眺めていた。

 

 

力が欲しかった。

強くなりたかった。

誰にも負けない様に。

何にも傷つけられない為に。

 

けれど、

 

強くなれば強くなるほど。

特別であればあるほどに。

人は一人になって、自分の弱さを思い知る。

頂に立つ者は、いつも一人。独りきり。孤独。隣には誰もいない。いてくれない。

 

死ぬことなんて怖くない。本当に怖いのは、一人でいること。孤独。寒い。独りきり。寂しい。

周りにいる人とのの間に引かれた線を知ること。孤独。虚しい。淋しい。

 

だから、一刀に惹かれた。

同じだったから。独りきりだったから。

笑っていても分かるくらい、寂しそうだったから。

天の御使い。この大陸で、たった一人な人。

 

たった一人の恋の理解者。

 

けど、一刀は恋を捨てたんだ。

なら、

もう二度と、独りきりにならない為に。

手にした繋がりを、失わない様に。

 

恋が一刀の全部を奪う。

 

 

 

 

「あ、左慈。それロン。110符1飜。3600かな」

 

「なぁ!」

 

「ふむ、これで三回連続安上がりですか。一刀君らしい牌回しですね」

 

口を開けたまま固まっている左慈。動かないから点棒を勝手に貰っていく。

 

「お、俺の最後の親番がこんなゴミ手でぇぇ!」

 

「おいおい、左慈。ゴミ手とか言うなよ。麻雀なんて上がるのだけでも相当難しいんだぞ?」

 

「素人だったらの話だろうが!つーか、北郷はさっきからそればっかだな!リーチのみとか、喰いタンとか勝つ気あんのかよ!于吉に34400点差離されてんだぞ!」

 

「いいんだよ。俺には俺のやり方があんだよ。ごちゃごちゃいうな、焼き鳥野郎」

 

「左慈は大物手を狙い過ぎてますからね。しかも大車輪とか百万石とかマイナーな物ばかり。名前がかっこいいからって、拘ってたら勝てませんよ?」

 

「うるさい!俺には俺のやり方があるんだ!」

 

「じゃあ、俺のやり方に口出すな。俺にも俺のやり方があるんだよ」

 

「ぐぬぬ」

 

唸りながら配牌する左慈にため息をついていると、隣から話しかけられた。

 

「なあ、私、どうしてお前達と麻雀なんてやっているんだ?」

 

「ハブられて暇だからだろ?公孫賛さん」

 

「はっきり言うなよぉ」

 

目を涙に潤ませながら俯く公孫賛さん。

どうして彼女が此処にいるかと言えば、

 

「なんでか、私だけ呂布との戦いに呼ばれないし、麗羽にもなにも命じられないし、挙句の果てには桃香にすら話しかけられないし、、、どうなってんだよぉ。私、苛められてるのか?」

 

と、言うことがあったからだ。

前の汜水関でも何の戦闘にも参加しなかった公孫賛軍。

てっきり、虎牢関では戦線に入るものだと思ってたんだけど、どうも呼ばれなかったらしい。

ポツンと立つ公孫の旗が、とてつもなく哀れだったから卓に呼んでみたんだけど、数合わせには丁度よかったな。

実力もそこそこ、普通だし。

 

「まっ、けど、今回ばかりは地味でよかったと思うぞ」

 

「そうですね。地味で声がかからなかった分、幸運です」

 

「地味でよかったじゃねえか。得したな」

 

「、、、、地味地味っていうなよぉ」

 

椅子の上で膝を抱えて落ち込み始めた公孫賛。

 

「下着が見えてるぞ?いいのか?」

 

「っっ、見るなよ!」

 

「見るさ。可愛い子の下着なんだから」

 

「か、可愛ああ!」

 

「、、、、一刀君。少し下品ですよ」

 

「はは、まあ、ともかく。よかったな、恋と戦わずに済んで」

 

配牌された牌を捲る。

来た、勝負手。

一九字牌が多く紛れ込んだそれを見て、口元を吊り上げた。

 

「、、、、呂布って、そんなに強いのか?」

 

「強いさ。倒す為に手を組んだのって、華琳と孫策と馬超だろ?勝てないよ。少なくとも、後三人は愛紗とか春蘭ぐらい強い奴がいないとな」

 

「強いって、そんなにか?劉備のところにいる趙雲は、前は私に仕えていたから知っているけど、あいつだって相当強いぞ?」

 

不要牌を切りながら、公孫賛の言葉に答えていく。

于吉は、わけ分かんない捨て牌だな。6切ってことは、暗刻系か?好きだしな、暗刻。

左慈は、また無茶な大物手だろうから気にしなくていいよな。

問題は、まだ傾向の分かんない公孫賛だけど、どう打つかな。

 

「強いの次元が違うよ。蟷螂って、虫の中じゃ強い方だろ?けど、虎には勝てない。そういう差の違いだな」

 

「、、私たちは虫で、呂布は猛獣か?」

 

「いや、龍だ。だから、無理なんだよ。戦場で恋に勝つことなんて、最初っから不可能。この世には確かにいるんだよ。無敵って、奴がさ。、、しゃ、ツモ。国士無双!16000-8000。逆転だな」

 

だから、恋と戦場でなんて戦っちゃいけないんだよ。

 

 

 

予想通り、華琳達は呂布に敗北した。

袁招軍、袁術軍は華雄隊と張遼隊相手に話にもならなかったという事だ。

そして、前の汜水関で負った傷を癒していた劉備軍と卓を囲んで遊んでいた俺たち北郷軍と公孫賛軍が戦線に参加しなかったせいで、まさかの事態が起きていた。

 

「ひ、姫が、姫が攫われちまったー!」

 

「お、おお、お落ち着いて文ちゃん!」

 

天幕の中に何とも言えない沈黙が流れる。

攫われるって、まあ、戦場であんなに派手な格好をしていれば良い的だったんじゃないかな?

可愛そうに、袁招さん。南無三。

 

「え、え~と、これから、どうするんですか?」

 

桃香は困惑した顔で言う。

 

「どうするもこうするもねぇ」

 

孫策はあきれ顔で。

 

「、、、総大将が討ち死にじゃ、普通に考えて連合は解散ね」

 

華琳は口元を引き攣らせながら。

 

「ちょ、討ち死にって何だよ!姫はまだ死んでねーぞ!攫われただけだ!」

 

「麗羽は仮にも反董卓連合の総大将よ?敵に攫われたんだから、良くて斬首、悪くて磔ね」

 

「ひ、姫―!!」

 

「ちょ、駄目だよ文ちゃん!一人で行ったら、文ちゃんまで捕まっちゃうよー!」

 

「だって姫が、姫がぁぁ!」

 

飛び出して行こうとする文醜を押しとどめる顔良。

袁招って、意外に部下に慕われていたんだな。

 

「なあ、于吉。どうする?」

 

「何がです?」

 

「袁招が攫われちゃったけど、俺はこれからどうすればいいのかな?反董卓連合がなくなるなら、月達と戦う理由もなくなるし、長安に帰ろうか?」

 

「そう、簡単に行けばいいのですけどね」

 

「やっぱ、無理かな?」

 

「ええ、この連合は、元々色々な思惑の元、動いています。袁招一人が死んだ程度で止まらない人もいるでしょう。、、、主に、一刀君の想い人とか」

 

于吉の見ている先を視線で追う。

 

「わかったわ。私が新しい総大将になりましょう。反董卓連合はこのまま洛陽を目指す。それで、暇があったなら麗羽の救出も行うってことでどうかしら?」

 

「姫を助けてくれるっていうなら、」

 

「異論はありません」

 

「良いんじゃないかしら?袁術ちゃんだってこのままじゃ引き下がれないでしょう?」

 

「あたりまえじゃ!袁家の家紋に泥を塗った報いを受けさせてやるのじゃ!、、、ついでに、麗羽姉様の捜索もするのじゃ」

 

「えっと、私たちも異論はありません。洛陽がどうなっているのか、自分の目で確かめなくちゃいけませんから」

 

「私たちも異論はないぜ。元々、涼州は洛陽を見てくることが目的だしな。此処で引けるかっての」

 

「、、、一刀。貴方は、どうするのかしら?」

 

華琳の視線が、俺に突き刺さる。

 

「どうするもこうするもね。流石に空気くらいは読むよ」

 

「そう」

 

「正し、条件がある。呂布攻略は俺の軍に一任してもらいたい。総大将になったんだし、それくらい命じる権限はあるよな?」

 

「、、、、どういう積りなのかしら?一刀。呂布は本当に強いわ。一軍で対処できるわけないじゃない」

 

「別にいいだろ。孫策軍の策も外れたんだし、華琳達じゃ勝てなかったんだから。次は、俺達の番ってことで」

 

どことなく、心配そうな華琳の言葉を一蹴する。

 

「、、、、そう。汜水関だけではなく虎牢関での功も取ろうとするのね。その強欲さ、出来れば私のところにいた時に見せて欲しかったものね」

 

「平穏に暮らしてた頃の俺は、これ以上ない位、強欲だったよ。何もしないでも、君の傍にいられたんだから。その強欲さが嫌で、華琳は俺を追い出したんだろう?」

 

俺は立ちあがって、華琳を見つめる。

 

「言ったじゃないか。何もしない俺が嫌いだって」

 

「ええ、言ったわね。そんな貴方は必要ないと」

 

華琳の言葉が、胸の奥に突き刺さる。

 

「、、、、なら、見ていれば良いだろ?俺が恋に殺される様を」

 

俺は天幕から出て行く。後ろに于吉や左慈が続いてくれるのが、たとえようもなく嬉しかった。

 

「、、、、、、必要無いといったけれど、不要だとは言ってないじゃない。ばか」

 

そんな華琳の声は、俺の耳には届かない。

 

 

 

 

 

「に、してもよ。随分とお優しいな、北郷。誰も巻き込まない気か?」

 

左慈の言葉に、口元を吊り上げる。

 

「何のことだよ。俺はただ、欲しいだけだよ。この連合で得られるだけの功がさ」

 

「ふふ、嘘おっしゃい。けれど、一刀君。自覚は、持たなければなりませんよ?天下を、取るというのなら」

 

「捨てることや、諦めることが王の自覚だっていうなら、そんなものは要らないだろ。欲しい物全て、守りたい全てを守れないなら、王になる意味が無いだろ?俺は守りたい物全てを守るために、全てを求めるんだよ」

 

俺がそう言うと、後ろに続いていた左慈と于吉が足を止める。

俺も立ち止まる。けれど、振り返らない。

二人が浮かべている表情なんて、簡単に想像できる。

 

「等価交換。一刀君の好きな漫画にも出てきていたでしょう?何かを得るのなら、同等の代価を支払う。世界の全てを欲するというのなら、世界の全てを捨てねばならなくなりますよ?」

 

「守りたい全部が守れて、欲しい物が全部その手の内に入るほど、この世界は甘かねぇぞ。北郷」

 

「于吉、左慈。なんか、この世界に来てからお前ら、つまんない男になってないか?、、、空、見てみろよ」

 

「はい?」

 

「なんかあるのかよ?」

 

「今、この空をみて未来への夢を見ている人がどれだけ居ると思う?果てなく続くこの空の下に、俺達は生きてるんだぞ。、、、、どうせなら、でっかい夢を見ようぜ」

 

俺達が生きるこの世界は、ちっぽけな人一人が見る夢を叶えられないほど、小さくはないだろう。

 

「、、、、ふふ、そう、ですね」

 

「、、、、くく、ああ、そうだな」

 

果てなく続く、無辺の空の下、俺達は顔を寄せて笑いあう。

願わくば、俺達が天下を手にする日まで、この笑顔が消えることのないように、そんなことを思いながら。

 

 

 

 

「孤高狼虚の陣。とでも名付けましょうかね」

 

「一人ぼっちの嘘つき狼か。らしくていいんじゃないかな」

 

次の日、俺達は本当に一軍だけで虎牢関の前に陣取っていた。

無謀?無茶?そんなことはわかってる。

けど、これが于吉の出した策だったんだから、仕方がないじゃないか。

 

「多分、これだけあからさまに挑発してれば、恋も霞も華雄も、全員が出てくると思う。それを俺達だけで相手すればいいんだよな?于吉」

 

「ええ、これが戦場で呂布に勝つただ唯一の作戦でしょう。まあ、欠点があるとすれば、手柄を誰かにくれてやらねばならないという点ですね」

 

「俺達が足止めしてる間に、誰でもいいから虎牢関を落としてくれればいい。手柄なら汜水関で立てたし、くれてあげればいいよ。まっ、そう言う訳だから。左慈、華雄の相手は、またお前に任せたからな」

 

「ああ。北郷、歯を喰いしばれ」

 

「わかった。がはぁっ」

 

言われた通りに歯を喰いしばったら、腹に膝蹴りをいれられた。

馬の上でやられてたら、落馬して死んでたな。

 

「、、お、まえ、な、蹴りは止めろよ。自分の脚力、知ってんだろ」

 

「悪かったな。代わりに、俺を一発殴れ」

 

「い、いのか?」

 

「お前も呂布の相手をするんだろ?なら、よく考えれば俺と立場はそう違わんことに今気づいたっあ!っくっ」

 

「なら、遠慮なんてしなくてよかったよな?」

 

「あ、ああ」

 

互いの腹に一発ずつ。

明かに戦前に無意味な負傷をした気がする。

 

「まあ、これであいこだ。華雄の足止めは任せたからな」

 

「北郷こそ、呂布の時間稼ぎはしっかりやれよ!」

 

「ははは、二人とも大変ですねぇ「「于吉は霞(張遼)だからな」」はぁぁ、、私だけ死にそうな気がしますねぇ」

 

引き攣った笑顔の于吉をみて、一頻り笑った後、拳をぶつけ合う。

 

「じゃ、行くか」

 

「おう!」

 

「ええ」

 

そして、その時を見極めたかのように城門が開いた。

 

 

Side 于吉

 

 

まず、初めに皆さまにわかっていてもらわなければいけないことがあります。

当然、というか、当たり前のことなのですが、私こと于吉は、軍師であり武人ではありません。

つまり、ありていに言えば、私に戦闘能力など無いのです。

確か、孫策軍には武もこなす軍師がいるとかいないとかいう与太話を周瑜殿から聞きましたが、私はそんな例外的な軍師ではありません。

あくまで軍師、去れども軍師、何処まで行っても軍師なのであります。

 

だからこそ、私が張遼さんを抑えることなど、出来るわけがないではありませんか。

そりゃ、一刀君もそれを慮って、私の隊の兵を多めにしてくれましたが、彼らも張遼隊の兵を足止めするので精一杯なようで、結果として、私は独りきりで張遼さんのことを抑えねばならなくなってしまいました。

 

そりゃ、死にますよね?

 

「でりゃゃ!」

 

「ああ、今私の腕が斬り落とされました」

 

「うりゃゃ!」

 

「ああ、次は足が殴り潰されました」

 

「そりゃゃ!」

 

「ああ、また首が飛んだ。いったい、私は何度死ぬのでしょうか。『増!』」

 

甲高い謎の音と共に、私が次々と湧いて出ます。

 

「なあああ!なんなんや!この阿呆みたいなそっくりさんは!いったい何体湧いてくるんや!」

 

「阿呆みたいとは失敬な。知的な顔立ち、知性を感じさせる眼鏡、そして何より美しいその黒髪。私ほどの天才が天才たるゆえんが全てつまった素晴らしい姿ではありませんか!」

 

私、達は腕を大きくあげバンザイをしながら大股で張遼さんに走っていきます!

 

「「「「ウホホ、ウホホ、ウキキ、ウキツ!」」」」

 

「、、、、、、、」

 

「、、、、、、阿呆丸出しやないか」

 

「私は前に進めと命じているだけです。あれは、私ではありません」

 

どうもうまく操れませんね。

私の分身でありながら、なんと気品のない動きか、練習する必要がありそうです。

 

「まっ、ええけど。お前、妖術使いやったんか?」

 

張遼さんは駆け寄ってくる私を一撃で何人も軽く吹き飛ばした後、目を細めながら聞いてきます。

 

「正確に言うのなら私の家系は陰陽師なのですが、この大陸の言葉でいえばそれが妥当なのでしょうね。まあ、もっとも、こんな馬鹿げた真似が出来るようになったのは左慈どうよう、この世界に来てからですがね」

 

「ふーん。まっ、はっきり言えば人外って訳やな。お前、その術あんま使わん方がええで。此処は砂煙が舞っててなんや視界悪いからええけど、誰かに見られでもしたら、、、差別される所の話やない」

 

「構いませんよ。元々、人に距離をとられるのはなれていますし。私には、左慈と一刀君が居てくれればそれで構いませんから」

 

「けど、今なら引き返せるんやないの?妖術ちゅーもんは、使えば使うほど呑まれていくって聞くで?」

 

張譲さんは私を斬る手を止め、そう言います。そう言ってくれます。

忠告をした上、心配までしてくれるとは、優しい人なのですね。

人の優しさとは、こんなにも胸躍る物でしたか、あまり馴染みが無いので知りませんでした。

 

「、、、確かに、使えば使うほどに自分が何か、別の物になっていく。いえ、別の自分になっていくような、そんな薄ら寒い恐怖を感じます。しかし、それでも一刀君と左慈の力になれるというのなら、智だけでは力に成れぬというのなら、私はどんなに汚らわしい力にも手を出しましょう。この力は今、貴方に対する為に必要な物です」

 

「そか、そうまでして、一刀と左慈を守りたいんやな。なんか、ウチと似てるわ」

 

張遼は笑ってそう言います。

戦場であり、私は敵だというのに笑っています。

何故でしょうか?まだ、少し私には分かりかねる感情という物があるのやも知れません。

 

「似てなどいませんよ。私は男、貴方は女なのですから。その差は絶対です。そんなことよりも、いまだグランギニョル(人形劇)は始まったばかり。存分に、踊り狂おうではありませんか」

 

「は、ははは!ああ、ええなぁ、それも。なら、于吉。ウチをもっと、たのしませてぇなぁ!」

 

迫りくる張遼を前に、私は臆することなく叫びます。

たとえどれだけ異様異能異質異色異型異形異系な力であろうとも、それが私の大切な友を守るものだというのなら、構うものですか。

 

「『増!』」

 

「でりゃぁぁぁぁ!」

 

「「「「ウホホ、ウホホ、ウキキ、ウキツ!」」」」

 

「、、、、、、、」

 

「、、、、、、、」

 

取りあえず、帰ったら操作の練習でもしましょう。

シリアスな場面が台無しです。

 

 

 

 

Side 左慈

 

大切に守って来た物を、壊したいと思ったことはあるか?

美しく繊細な物を、傷つけたいと思ったことはあるか?

心の底から愛した人を、殺したいと思ったことはあるか?

 

「左慈ぃぃぃ!」

 

「華雄ぅぅぅ!」

 

金剛爆斧と俺の脚が交差する。

互いが弾き合いながら、俺達は飛ばされた。

 

「俺は、ない!」

 

「なら、どうして私を裏切った!私は、本当にお前のことを、愛していたんだぞ!」

 

「っっ、、、、それしか、道はなかった!」

 

「ふざけるな!お前は、選んだんだろう。私じゃなくて、あの二人を。だから、お前は私と殺し合っているんじゃないかぁ!」

 

「違う!違うと言ってるだろうが!お前も!董卓も!一刀や于吉も!全員を救うためには、こうするしか無かったんだ!俺は、その為に仕方なくお前と「戦ってるというか!」くっぅ」

 

「理由なんて何でもいい。どうあれ、お前は、私を捨てたんだよ」

 

「違う。違うんだ。俺は、本当にお前のことを、、」

 

前と戦った時とは違う。

今の俺と、華雄の力は拮抗していた。

武の差を埋めたのは、華雄の怒りか?

それとも、胸の奥で疼くこの痛みが、俺の動きを鈍らせているのだろうか。

 

「身体の痛みなんて、感じない。だが、心が、痛い。なんだ、これは」

 

「いいさ、お前がそう言うなら、私とて、私だって!」

 

 

「左慈なんて、大っ嫌いだ!」

 

 

「っっ、、、、ふざけんなよ。なんだ、なんだってんだよぉ!どうして、どうして、こんなに痛てぇんだよ。、、、、北郷、お前、陳留出た時から、華琳から離れた時から、、、、こんな痛てぇ思いしてたのかよ」

 

好きな奴に離れられる。

それは、こんなに辛いってのに、お前はそれでも、あんなに笑っていたのか?

 

「やっぱ、北郷、お前はどっかおかしいぜ。けどよ、多分それが、お前らしさなんだろう。痛みとことん、鈍感なとこがよぉ」

 

自分は痛覚が鈍い癖しやがって、他人の痛みには敏感すぎる。

ふざけんじゃねえ。そんな奴が、そんな奴が!

 

「くそったれがあああぁぁ!餓龍、回激轟ぅぅ!」

 

「なっ、くっああああぁぁぁ!」

 

吹き飛ばされる華雄を見て、その身を蹴った感蝕の残る左足が悲痛に疼く。

零れ出る涙を止める術を、俺は知らない。

 

「そんな奴が、俺の親友なんだよ。守ってやんなきゃ、なんねぇんだよ!」

 

「くぅ、はぁ、はぁ、、、やはり、左慈は、私を選んでは、くれないのだな」

 

「違う!俺は、どっちか一つなんて選べねぇ。北郷は守る。お前も救う!だから、今は、死なねぇ程度に、お前を殺す!」

 

愛情と友情。

どっちが重いかなんて、誰にも分かんねえだろうが。

 

 

 

Side 一刀

 

 

天に掲げた深紅の呂旗が、迫りくるその恐怖を俺は今、肌で感じていた。

敵が迫りくるのは眼で理解出来る。しかし、体が動かない。

蛇に睨まれた蛙の気分を味わう。

 

一人にして千人の一軍に匹敵する。

一騎で戦局を左右する最強の武人。

 

戦場に立つのは恋ではない。

 

「あれが、、呂布か」

 

恋は止まらない。たとえ歩む先に北郷一刀という男が居ようと、止まらない。

当然だ。恋には果たすべき使命がある。反董卓連合の打破。

そして―――

 

「月の涙は、、恋が止める」

 

涙の元凶は、白い輝きを放つ服を着た。あの男。

 

 

『うううううああああああああ』

 

 

恋は、駆けた。赤い髪を置き去りに、その姿はまるで、赤い龍によう。

一直線に俺に向かって駆けてくる。無論、その前には北郷軍の兵士が立ちはだかった。

 

「これ以上、行かせるなあ!」

 

「このままでは、北郷様の元に!」

 

「絶対に此処で止めろ!」

 

「かかれえええ!」

 

 

         『どけ』

 

 

叫びは龍の咆哮。聞き取るには人の耳では未熟すぎる。

 

「「「「っっっっ」」」」

 

龍の逝く先に、人いたら、咆哮するのはなぜ?

龍の鱗が傷つくからじゃない。警告しているのだ。

 

 

『どけえええぇぇぇ!』

 

 

死にたくなかったら道を開けろと、警告しているのだ。

 

 

並列の人垣に亀裂が走る。槍兵も剣兵も弓兵も誰もが道を開ける。

俺と恋との間に、道が出来た。誰がわるいと言う訳じゃないだろう、あんなものを前にしてそれでもなお、自分の命より他者を守りたいなどと喚く者が居るのなら、それはただの狂人だ。

 

「は、はは、いいさ。これでいい。来い、恋!他の者になど眼もくれず、俺の胸に飛び込んで来ると善い!北郷一刀は、此処に居るぞぉぉ!」

 

「、、、、、一刀」

 

恋は、不敵に笑う。否、笑わない。龍は、笑わない。

 

 

 

 

両足を地面に付けて、俺は腰から刺突剣を抜く。

構えは何時もの通り、前後に大きく足を開いて、腰を曲げて腰を落とす。

そして、右手で構えた刺突剣の先端を的に、恋に向ける。

 

恋もまた、馬から飛び降り方天我戟を抜く。

構えは無い、いや、恋が構えるなどという次元に居ない事くらい、俺でも知っている。

自然体。あらゆる武術における、最終形にして完成形の構え。

 

見れば見るほど、勝ち目なんてなかった。けれど、どうしてか、退く気にもなれない。

 

恋の流すあの涙を見て、それでも逃げるという男が居るのなら、死んでしまえばいい。

 

「、、恋が、月の、霞の、華雄の、ちんきゅの、詠の、みんなの涙を、、止める」

 

「俺は、退かない。退けないんだ。月のことを助ける為。そして、君の涙を止める為にも」

 

交差の瞬間は一瞬、互いの声など置き去りにして、刺突剣と方天我戟は交差する。

 

その場に居る誰もが見る間もなく。戦いは決していた。

呂布の突撃から時間にして僅か五分。恋と俺が直接対した時間だけなら、ほんの五秒。

諸候達が呂布と北郷の戦闘に気づいた時には、全てが遅かった。

 

「強いな、恋。どうして、君は、そんなに強いんだ?」

 

「弱い、一刀。どうして、一刀は、それほどまでに弱いの?」

 

「ふ、はは。酷いな、恋は」

 

「どうして、強くいてくれないの?恋が、勝てないくらい。一刀が、強ければ。恋は、ひっく、恋は、一刀を、傷つけなくてすんだのに」

 

「ああ、酷いのは俺の方か」

 

振り返り、恋の顔を見て微笑む。見れば、その幼い泣き顔の頬に、一筋の傷跡があった。

 

「泣くなよ、恋。清純な乙女を傷つけた代償が、腕一本。安いものじゃないか」

 

俺は、熱い、焼き鏝を押し当てられたように感じられる右肩を左手で押さえながら、地面に突き刺さった刺突剣をみていた。

 

「恋。君は、俺を殺すのか?」

 

視線をやれば、ゆっくりと方天我戟を上げる恋がいた。

表情は、無い。歓喜も、嗚咽も、涙も、こと此処にいたれば消え失せていた。

 

「恋は、一刀が好き。でも、月を守る。だから、だから、」

 

「狂っているわけじゃない。心が消えたわけでもない。それが、君の居る意味なんだろう?いいさ、ならいい。俺程度で揺るぐなら、それは恋、君であっても。呂布じゃない」

 

恋の前で膝をつき、痛みと貧血に頭を垂れる俺。傍から見れば、処刑人の前で首を差し出す罪人のように滑稽だったんだろう。

 

「最強の元、御使い死す。これは、天の敗北か」

 

「ん。ばいばい、一刀」

 

最後に、恋のその優しい声を聞いて。俺は、眼を瞑った。

 

 

 

 

最初におかしいと感じたのは、一秒が過ぎ。二秒が過ぎたころ。

そして、次に感じたのは耳の内に鉄と鉄がぶつかり合う凄まじい激音が響いた時。

激音に聴覚がイカレ、思わず、歯を噛みしめながら眼を開けると。

何処かで見た凶悪な鉄球と、それを受け止める恋の姿が有った。

そして、距離を取った恋に追い打ちをかけるように見慣れない円盤の様な武器が顔の横をかすめて行く。

 

「は、はは。天は、御使いを見捨てず。か」

 

「兄ちゃん!」

 

「兄様!」

 

ようやく、戻った聴覚に響くのは。懐かしい季衣の声と、聞いたことも無いが俺を兄と呼ぶ誰かの声。

 

「邪魔を、するな」

 

「うわ!」

 

「きゃ!」

 

恋は向かい来る二つの鉄槌を、一度、戟を振るうだけで弾き飛ばす。

最強の前に、二つの武はあまりにも小さかった。

俺は膝を震わせながら立ち上がり、地面に突き刺さった刺突剣を引きぬく。

 

「一刀」

 

「悪い、恋。俺一人なら、死んでやっても善かったんだけど。季衣ちゃんと、誰だか分からないけど可愛い女の子も巻き添えってなら、覚悟が鈍る」

 

「ん。一刀らしくて、いい」

 

一度だけ、微笑んだ後はもう、最強は立ちはだかるだけ。

俺は構える。いつもと同じ様にはいかない。柄を握るのは、左手。

剣先は力なく震えていた。

 

「なあ、季衣ちゃんと、そのお友達?一つ言っとくけど、此処から立ち去る気はない?脇目も振らず、背を向けて走り去ってくれると嬉しいんだけど」

 

「もし、そうしたら兄様はどうするんですか」

 

「心残りなく、死ねる」

 

「駄目です!季衣がどれだけ、どれだけ、兄様のことを心配したと思っているんですか。私だって、ずっと季衣から兄様の話を聞いていて、ようやく会えたのに。すぐに、お別れなんて、、嫌です」

 

「そっか、そりゃ、残念だ」

 

消えそうになる意識とどめながら、無理やり笑う。

そんな俺を、季衣はただ睨んでいた。

 

「怖い顔だな。季衣ちゃん。なんかいいことでもあったのか?」

 

「兄ちゃん。ボク、怒ってるから。兄ちゃんがなにも言わないで出て行ったこと、すごく怒ってるから」

 

「いや、一応。季衣ちゃんにだけは声をかけて出てきたんだけど。やっぱり、あのときは寝ぼけてたんだ」

 

「そんなの知らないよ。とにかく、ボクは怒ってるの!だから、だから!絶対に後で、謝ってもらうからね。、、、、ボク、ちゃんと待ってるから」

 

「ふ、はは。何だ、しばらく見ない間に。いい女になったな」

 

「お話、終わった?」

 

首を傾げる恋に頷きを返す。正直、もう言葉を喋ることさえ苦痛だった。

右肩のから噴き出す血が、刻一刻と俺の意識を狩っていく。

 

「俺の時間は、あまりないからな?一気に、決めるぞ」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「、、、来い」

 

最強の武の前に、たった三個の武器の煌めきは頼りなさすぎた。

それでもと、前に踏み出そうとした瞬間。視界の端に、無数の煌めきが映る。

 

「お前、達」

 

「我らも、戦いますよ。さっきは、呂布の覇気に当てられましたけど。もう、大丈夫です」

 

「懐かしい許緒将軍が居るのに、いつまでもこのざまはないでしょう」

 

「貴方には生きてもらわなくちゃいけない。ようやく、故郷が復興したんだ。俺はもう、あの平穏を失いたくない」

 

「安心してください。相手が最強の武なら、俺達は無限の武です!」

 

武器の煌めきは、三つではなかった。槍、剣、弓。数十、数百の輝きが有った。

表情を凍らせながら、手を振るわせながら、涙を流している者さえ居た。

けれど、その輝きが失われることは無い。誰も、その輝きを笑うことなど出来ない。

 

「これが、兄様の力?」

 

「うん。そうだよ。兄ちゃんは本当に、人に好かれる人だから」

 

季衣達の声が聞こえた気がしたが、もう、俺にはそれを理解するためだけの血が足りていなかった。

こみ上げる嘔吐感と立ち眩みを踏みつけて、叫ぶ。

 

「わかってるな、お前ら。打ち破れない壁は無い!なんて、戯言は言わない。けど、打ち破らなきゃならない壁はある!明日を見る為に、愛した誰かを守るために、乗り越えなきゃならない壁が有る!なら、越えろ!道が有るなら、可能かどうかなんて関係ない!ただ、歩め!」

 

「うん!兄ちゃん!」

 

「はい!兄様!」

 

「「「「御意に!御使い様!」」」」

 

数百の武器が、恋へと向かう。

恋は動じることもせず、空を見上げていた。

 

「さあ、恋。始めようか。俺と、俺達と、もう一度。戦いを」

 

「雨、、赫いのが降るよ。きっと」

 

「ああ、わかってる。けど、こうなっちゃ、むざむざとやられる訳にはいかないだろ?誰かが、御旗を必要だというのなら、前に立つのが君主の仕事だ」

 

「ん。一刀は、偉い」

 

「あ、あぁ。ありが、と」

 

霞む視界の中で、恋を見る。刺突剣を天に上げ、下ろした。

もう、声も出ない。わかりに、傍らから聞き知った声が響く。

 

「全員、突撃しなさい!」

 

数々の武器の輝きが流星となって、天にただ唯一輝く恒星へと降り注いだ。

 

恋に向かっていく、兵士達を見て。倦怠感が、体を包む。

役目が終わった。そう思うと、全身から力が抜けて行く。

そして、地面に衝突した筈なのに、何故だか痛くは無かった。

 

「お勤め、御苦労さま。貴方の力は十分に見せてもらったわ。だから、もう、私の元に戻ってきなさい」

 

眼に映ったのは、赤い恒星にも劣らぬ。金色の月の色。

俺は、そこで意識を失った。

 

 


 
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