No.266718

天駆ける風の魔術師は機械仕掛けの天使の夢をみる

たけとりさん

pixivから転載。15話ネタバレです。
スカイハイさんの話で空シスなのに、何故かバーナビー視点です。
しかもオジさんの方がスカイハイさんより目立っているような。でもバーナビー視点だから仕方ないよね、うん。

2011-08-09 15:40:31 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:790   閲覧ユーザー数:779

「ええ!?」

 突如上がった甲高い声に、僕は読み込んでいた資料から顔を上げた。

 確かあの声は……と視線を巡らせると、トレーニングルームの真ん中で、ブルーローズとドラゴンキッド君とファイアーエンブレムさんが、スカイハイさんを取り囲んでいる。

 いわゆる女子組は興味深々な表情を浮かべていたが、スカイハイさんは眉を寄せ、あの人にしては珍しく、酷く困惑しているように見えた。

「おう、どうした?」

 僕の横に座っていた虎徹さんは、資料を読むのに飽きたのか、スカイハイさんを手招きしている。

 虎徹さんのサインに気付いたスカイハイさんは、それにすがるように駆け寄ってきた。

「ワイルド君、聞いてくれ、そして聞いてくれ!」

 そしてその後ろから、女子組がトコトコとついてくる。

 困惑したスカイハイさんの声に、近くにいたロックバイソンさんと折り紙先輩も、驚いた表情で顔をこちらに向けている。

 スカイハイさんは虎徹さんの前に立つと、手にしていた資料をつきだした。それは今僕らが読んでいるものと同じで、びっしりと埋まった文字の間に、両親の同僚だったという科学者と顔立ちがすっきりとした女性が肩を並べている画像が載っていた。

「私が会っていた女性がこの人で、でもこの人はもう死んでいるんだ!」

 スカイハイさんは興奮した面持ちで、要領が得ない説明を繰り返している。

「んん?」

 虎徹さんは立ち上がってスカイハイさんをなだめながら、横に立つファイアーエンブレムさんに視線を向けた。その意図を理解して、ファイアーエンブレムさんが小首を傾げながら口を開く。

「いやね、スカイハイが恋した子が、この子だって言うのよ」

「恋?!」

 虎徹さんは、素っ頓狂な大声を上げた。

「池にいるやつか?!」

「そんなわけないでしょ!」

 動揺する虎徹さんに冷たい眼差しを向けたブルーローズは、「これだからオジさんは……」とこれみよがしな溜め息を吐いている。

 ファイアーエムブレムさんが、ここ最近のスカイハイさんの身に起きた事を順を追って説明してくれた。

 要するに、僕達がここにあまり顔を出せないでいる間に、スカイハイさんが公園で偶然出会った女性に恋をしたらしい。

 そしてその女性が、資料にあった画像の人だというのだ。

 僕は、眉をひそめた。

 数日前、僕と虎徹さんはアンドロイドに襲われた。いや、偶然アンドロイドが暴走する現場に居合わせたというべきか。

 暴走して街を破壊するソレを僕と虎徹さんで取り押さえようとしたが、僕達二人の能力でも手に負えず、予想以上に苦戦した。しかし駆けつけたスカイハイさんによって見事ソレは破壊され、事無きを得たのだ。

 アンドロイドの暴走は事故ということで、それを制作し、運搬していた博士は罪には問われなかった。しかし対NEXT用兵器として開発され、かつ密かに僕達のDATAが入力されていたので、取り調べを受けている。

 そのため、ヒーロー達もこの情報を共有すべきということで、そのアンドロイドと博士の資料が配られた。

 それがついさっき、五分程前の事だ。

 手元の資料には、アンドロイドの画像は金色のヒト型の外格しか載っていない。しかし僕達が最初に遭遇した時、あのアンドロイドは、確かにこの女性の姿をしていた。

 スカイハイさんが指し示したページには、その女性は博士の娘だが、10年程前に事故で死去したと記されている。

「でも、資料には既に死んでるって書かれているじゃない?」

 首を傾げるファイアーエムブレムさんに、スカイハイさんは反論した。

「でも私は会ったんだ、確かに!」

 涙目で訴えている以上、見間違いや勘違いではないのだろう。しかも、あの事件の日以来、出会えていないそうだ。

 ということから導かれる結論は、一つ。

 しかしそれを本人につきつけるべきか否かと考えて、すぐさま否と結論づけた。

 ならばどう誤魔化すべきか思案していると、虎徹さんの脳天気な声が耳に入った。

「あぁ、こりゃこの前襲ってきたアンドロイドにもそっくりだなぁ」

 ストレートに事実を告げる虎徹さんに、僕は目を剥いた。

 いまここでそう告げたらスカイハイさんがどう思うか、気付かない虎徹さんじゃないはずだ。

 僕は信じられないものを見る面持ちで、虎徹とスカイハイさんを見比べた。

「えっ?」

 案の定、事実を呑み込めていないスカイハイさんが、呆気にとられたように虎徹さんを見返している。

「お前が戦った時は骨格しかなかったけど、俺達が襲われた時、あのアンドロイドはこんな姿だったんだよ」

 虎徹さんは資料に目を落として、画像を指先で叩いた。

 スカイハイさんの顔がみるみる凍りついていく。

 僕だけでなく、この場にいる皆も、ただならぬ雰囲気に身をすくめ、息を呑んだ。

 けれど虎徹さんだけはそれに気付かない様子で、呑気な口調で言葉を続けた。

「でもお前さんが会ったって子とは別人だろうなぁ」

「ど、どうしてだい?」

「だって外見は人間そっくりだったけど、触ったら人間じゃないって分かったもん」

 それにさぁ、と腰に手をやり、資料を持っていない方の手で頬をかいた。

「そのアンドロイドは、一方的に単語を羅列するだけだったんだよ」

 訝しむように首を捻って、それからスカイハイさんの顔を覗き込んだ。

「お前はその子とちゃんと、会話ができたんだろ?」

 穏やかで、しかし真っ直ぐな眼差しを、スカイハイさんの蒼い瞳に向けている。

 「話」ではなく「会話」と表現した事に僕は少し引っかかったけれど、スカイハイさんはその視線を受け止め、首を大きく横に振って否定した。

「もちろん、そして勿論だとも!」

「じゃぁただのソックリさんで決まりだな」

 スカイハイさんが好きになった相手は破壊したアンドロイド説を、虎徹さんはばっさりと切り捨てた。

「だって、俺らが戦った時ですら、全然会話になってなかったんだぜ?」

 なぁ、と僕に同意を求めてきたので、僕は無言で頷いた。

「資料を見る限り、今の技術じゃ、お前と会話するのは無理だ。だからその子は人間だ」

 どういう方向にもっていこうとしているのかはよく分からないが、ここは虎徹さんに任せた方がいいのだろう。

 スカイハイさんの背後で、ファイアーエンブレムさんが意味ありげな視線をロックバイソンさんに送っているが、ロックバイソンさんは無言で首を横に降っている。

「うーん、世の中には同じ顔の人間が三人はいるっていうからなぁ」

 しかしそんなアイコンタクトに気付く様子もなく、虎徹さんは腕を組み、「偶然って凄いねぇ」と頷いている。

 この様子だと多分虎徹さんは、スカイハイさんが恋したという相手がそのアンドロイドだという可能性に、本気で気付いていないのだろう。でなければ、真っ先にその可能性を提示しないはずだ。

「まぁ、あと考えられるとしたら……」

「死んだ博士の娘の幽霊……でござるか?」

 恐る恐るといった口調で、折り紙先輩が口を挟んだ。

 それを皮切りに、場が騒然となる。

「ええええ、じゃぁスカイハイが会ってた人って幽霊!?」

「実はスカイハイにしかみえていなかったとか?」

 慌てふためくドラゴンキッド君とブルーローズに、スカイハイさんは狼狽えた。

「いや……他の人にも見えていたと、思う。……多分、そしておそらく」

 腕を組み、首を傾げる様子は、かなり自信なさげだった。

「最初はジョンも吠えていたし……ちゃんと彼女の方を向いていたし……」

 潤んだ瞳を伏せ、大きく眉を寄せて考え込む姿は、爽やかな笑顔を振りまいている普段からは想像できない。

 キングオブヒーローと僕以上に讃えられていても同じ人間なのだなと、僕は妙に納得した。

「あの、ワイルド君」

 戸惑った表情を浮かべて、スカイハイさんは顔を上げ、虎徹さんを見つめた。

「もしかして、私が会ったのは天使だったのだろうか」

 真顔で呟かれた言葉に、僕は息を止めた。

 こういう時、僕はどう返せばいいのか分からなかい。

 けれど虎徹さんは、目を細めてスカイハイさんの頭へそっと手をやり、ブルーローズに時々するように、軽く叩いた。

「もしそうだとしたら、親父さんの研究を、偶然出会ったヒーローであるお前さんに止めて欲しかったのかもしれないなァ」

「そう……だろうか」

 スカイハイさんは、頭を撫でる虎徹さんを見つめたままだ。

 その様子から、僕の脳裏には何故か、大型犬の頭を撫でる虎徹さんの姿がイメージされた。

「なぁに、ソックリさんの別人って可能性も捨てきれてないんだぜ?」

 虎徹さんはスカイハイさんの頭をくしゃくしゃに撫でながら、下手なウィンクをしてみせた。

「また会えるといいのだが」

 自分を励ましてくれた御礼を伝えたいと、スカイハイさんは頬を僅かに上気させた。

「大丈夫だって!生きてりゃ、きっといつか会えるさ」

 虎徹さんの言葉に続けるように、バイソンさんがスカイハイさんの背中を優しく叩く。

 そのスカイハイさんの肩に、ファイアーエンブレムさんが抱きついた。それを真似したドラゴンキッド君が、両手を広げてスカイハイさんの胸に飛びつく。それに負けじと、ブルーローズと折り紙先輩もスカイハイさんに抱きついた。

「重い、そして重いよ、皆!」

 笑い声の混じったスカイハイさんの声が、トレーニングルームに朗らかに響いた。

 

 

「なぁ、バニーちゃん」

 次の取材場所に移動する車の中で、虎徹さんは窓辺に肘をついて、流れていく町並みを見つめている。

「なんです?」

「スカイハイが会ってた子って……もしかしなくても、やっぱあのアンドロイドだよなァ?」

 まるで明日の天気を話すかのようにさらりと吐き出された言葉に、僕は目を剥いた。

「気付いてたんですか?!」

 正面に向けて腰掛けていた身体を乗り出すように、虎徹さんの方へ身体を向ける。

 てっきり気付かないで、天然同士で会話していたと思っていたのだが。

「あれ?バニーちゃんは俺が気付いてないと思ってたの?」

 おどけるように肩をすくめて、虎徹さんは僕へと顔を向けた。

 少し目を細めた眼差しは、僕を温かく包み込むように優しい。

「それなりに長く生きているとさ、真相が必要じゃない事だってあるもんだ」

 どこか遠くを見るように、虎徹さんは車の天井へ目をやった。

「それにさ、もししそうだったとしたら、お伽話にしても悲しすぎるだろ?」

 風を操る魔術師が恋をした。けれど相手は実は人形で、しかも魔術師は彼女だと気付かずに壊してしまった。

 愛するこの街に住む、多くの人々を守る為に。

 ……確かに、そんな結末は哀しすぎる。

 それに、博士は言っていた。

 運搬中に誤作動を起し、何処かに消えたと。そして回収後にも誤作動を起し、暴れたと。

 スカイハイさんが公園で会っていた女性がそのアンドロイドだったとしても、何故「彼女」はそこに行き、そこに居たのだろうか。もし、そこに至るまでの偶然が、僕達の手の届かない何かで導かれたのだとしたら。

「だから天使でいいんだよ」

 アイツがそう信じれば、それが事実になる。

 虎徹さんはそう呟くと、再び下手なウィンクをした。

「同じお伽話なら、ハッピーエンドの方が断然イイだろ?」

 眉を僅かに寄せ、小さく笑っている。

 けれど僕にはそれが、何故か泣き出しそうな顔に見えた。

 

<了>


 
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