No.26510

Bios-story1-(BL注意)

柘榴さん

オリジナルのBL小説です。設定も固まっていないので、書きながら固まったら・・・いいな、と思います。
BLですが、まだお相手が出てきてないのでそういう描写は濃くないです。

タイトルの意味
「Bios」ギリシア語で「生命」

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2008-08-23 21:51:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:879   閲覧ユーザー数:849

 

 

日本が江戸幕府に統治されていた時代、つまり江戸時代である。

それ程までに昔から代々続く侍の家系に生まれた彼は黒を基調とした今世紀では時代錯誤な袴姿で物陰にひっそりと身を隠して息を殺していた。

 

少し紫がかった黒髪は長く、左耳だけを隠すように流して後ろに高くも低くもない位置で一つに結い上げており、その姿は和服には良く似合っていた。

彼は名を黒田鴉と言い、名は体を現すように黒い烏のように全身を黒く覆う。

鴉の本業の身分は大学生であったが、現状ではその身分を隠して家の仕事である裏家業を遂行中である。

 

かの新撰組が旧幕府軍の駒であったように、黒田家は政府の下請けを請け負っていた。表現が悪いが、事実であり、鴉もその評価に異論もなく従っている。

僅か二十一という年齢でこれは達観しすぎている点でもあったが、大人として分別が出来ている証拠だ。

そして、彼は政府から寄越された仕事の最中であり、扉を一つ隔てた向こうの部屋の会話に耳をそばだてている。

 

此処は人里離れたリゾートホテルで、直ぐ近くに湖があることで有名な場所であった。真っ白な外観と青みがかった窓は日が沈んでいる時間帯ではその姿を拝めないが、ホテルの至る所に設備されたライトがその存在感を語っている。

二十五階建てのホテルの1107号室のリビングには清潔そうな室内に合わせた白くて四角いテーブルがあり、その上には必要最低限に用意されていたのレースの付いたナプキンと硝子の灰皿。更にこの部屋に泊まっている主が用意したのであろう「ワインの女王」という別名で有名なカベルネ・ソーヴィニオンが二つのワイングラスに注がれており、赤黒い色を黄みがかった照明の下で鈍く揺らめかせていた。

 

豪奢では無いが、品良く程良い装飾を施されている白いソファに座っている男の年齢は初老を過ぎているだろう。

彼は両手の十の指全てに様々だが、どれも石の大きい指輪をはめ、腕にも高級そうな時計やブレスレットを身に付けていた。豪華そうだが、煌びやかではない。

余りにも重そうなその右手で彼はワイングラスを手に取り、目の前の一人掛けのソファに座る相手に乾杯を求めた。乾杯を求められた相手は口元を笑み形に歪めて、自分の為に注がれたワイングラスを手に取り乾杯に答える。

 

指輪だらけの無骨な手がワイングラスを口元に持っていき、彼がワインを口に含み飲み込んだ喉元を見送ってから、彼の目の前に座る人物もワインに口を付けた。

 

「随分用心深いものだ」

 

「痛い目に何度も遭っているのでね、気に障ったなら謝罪しましょう」

 

ワインに毒が入っていないか用心した金髪の青年の行動を咎めることをせずに、寧ろ好意的だと受け取った初老のその男は彼の言に首を横に振る。

 

「いや。しかし、グラスに毒が塗ってあるとは思いはしなかったのか?」

 

「その可能性は全否定出来ませんが、私は少々の毒でしたら耐えられる。それを抜きにしても、貴殿

方のやり方は粉をワインなどの液に溶かす方法を主流にしているはずです」

 

此方も仕事だからと下調べは隅々まで行っていた。

青年の態度に男はにやりと笑い、ワイングラスを持つ手首を器用に回して赤ワインをグラスの中でゆらりと転がし、渦を一瞥してから青年のスーツから覗く首筋から顎のライン、口元を青玉(サファイア)の瞳を舐めるように見つめる。

その視線を不快な顔を見せずに受け止めた青年は二十八という年齢ながら整った顔をしているものの童顔の為に笑うとあどけなさが残っていた。

 

「我々の手の内はバレているようだ」

 

初老の男は満足そうに呟き、ワインを飲み干すと底に少しだけ赤い滴を残したワイングラスをテーブルの上に静かに置いてソファから立ち上がる。

青年は微動だにせず、ソファに身を沈めたまま彼の動きを目で追うだけ。自分の傍らで立ち止まった男は青年の顎に手を添えた。

 

「交渉はベッドルームでいかがだろうか」

 

「それはそれは情熱的なお誘いで」

 

どちらかというと側に立った初老の男はせっかちそうに見えたが、手順はまあまあ紳士であることに青年は目を丸くして男を見上げた。しかし、それも一瞬だけで幻だったのではないかと思うほどに次の瞬間には艶やかに口元を緩める。

青年からの了承を得られた男は女性のように柔らかくはなさそうだが、綺麗な桜色をした唇に顔を近づけた。

 

「麻薬密売人の容疑で貴方には話がある」

 

だが、その時間は一本の日本刀で遮られ、男は冷や汗を背中に感じる。

自分と目の前の青年とは違う第三者の声は冷たく、何よりも気配が無かった。

男は喉元の刃に当たらないように慎重に唾を飲み込み、目下に座る金髪の青年を睨む。

 

「貴様、騙したなッ」

 

「おや、人聞きの悪い。貴殿の後ろにいる彼とは知り合いですが、私の仕事とは無関係の相手です」

 

青年は両手を肩の高さまで持ち上げて心外だとアピールするが、その顔に焦りが無いのは突然姿を現した鴉が近くにいたことに気付いていた証拠である。

 

「貴様も無駄口を叩くな」

 

「それが年上への態度とはね。カラス君」

 

青年の出身はアメリカのために鴉の名の発音が少々ずれており、鴉は眉間に皺を寄せたがそれも一度だけで直ぐに表情を改める。

初対面の時に「チェリーボーイ」などと呼ばれていた頃に比べれば随分マシなのだ。

嫌な過去を思い出して再び眉間に皺を寄せそうになったが僅かに首を左右に振り掻き消すと同時に尻尾のような髪も一緒に揺れる。

 

「シルバさんの仕事を邪魔したのは悪いと思っていますが、不純同性交際に持ち込まれても困ります」

 

金髪の青年の名はシルバ・レオニスと言い、日本に滞在中でスパイやらテロリストらしき仕事をしているらしいが、詳細は不明である。

出身が海外だからと言う理由は偏見があるだろうが、それを抜きにしてもシルバは正真正銘の男色家であった。勿論、好みはあり、鴉のような華奢な少年よりも掌が大きい大人の男性が彼のストライクゾーンだ。

 

今回のターゲットである初老の男は少しばかりシルバの好みとは違うが、身体の相性が合えば目を潰れる外見である。

その性癖を鴉は知っており、半目でソファに座る彼を見下ろしたが、彼は特に気にした様子を見せずに立ち上がると初老の男の左手首を掴んだ。

 

「手榴弾・・・古典的だな」

 

男がスーツの上着ポケットから取り出していた小型の手榴弾は殺傷能力は高くないが目眩ましには適しているだろう。

最後の手段であった男の策は容易くねじ伏せられ、彼は膝から力を抜いてしまった。


 
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