狭苦しいコクピットシミュレータの全面ディスプレイに光が入る。
仮想された廃墟の大通り、大型のバーグナムを中心にレイチェとレフトハンドが左右を固めている。
「至近に機影ナシ」
「ヒトハ、右につけ。雨岸さん、シェアセンサオープン」
「はい」
ばくんという音がしてバーグナムの背中についている小さなハッチが開くと、内部のジャックが飛び出してくる。
レフトハンドがいつのまにかチェーンガンに換装されている右腕からケーブルを打ち出し、バーグナムと接続する。
「お?田北、いつの間に右腕」
「センサー。乗っ取るよ」
「え!?ちょ!ま!」
バーグナムのセンサーはあっという間に乗っ取られ、雨岸のディスプレイには紫がかった肉眼に近い映像が映し出される。
『直通回線。方位330、時計塔の天井のあたり』
『……これ、どういう映像ですか?』
雨岸はディスプレイに映し出された時計塔を拡大して行く。
時計塔の屋上の縁の映像が波打っている。
『波紋の中心。カドだし、距離限界近いけど、抜ける?』
『ちょっと待ってくださいね…いけます。あそこには三林さんが?』
雨岸にはこの映像が何を写しているものかわからない。
音探であれば壁の向こうは捉えられないだろうし、熱探もちがう。
『わからん。ただ、レイチェだと思う』
『6秒後に砲撃します。センサー切って大丈夫ですよ』
レフトハンドがバーグナムから離れ、雨岸のディスプレイは簡略化された緑のワイヤーで構成された世界に戻る。
「まだヒトハに見せるつもりは無かった」
「へっへっ。偵察にきて正解だったぜ」
バーグナムは四本のキャタピラをしっかり地面につけ、右腕を時計塔にむけて構える。
「3秒後に連続砲撃。ソニックが発生、備えてください。直後は約2秒移動不可になります」
「至近に機影ナシ。了解」
「標的のベクトル微弱。定点動作」
ぶーんと低い機械音が次第に大きくなり、どどんと大きな音がする。
「ば!」
ソニックに押されて宮川のレイチェが揺れる。
「残弾二。オーバーダウン」
「弾着。ニ連?」
一瞬の間を置いて時計塔の屋上で戦車の爆発が見える。時計塔の崩壊もはじまったようだ。
「ニ連発です。単発なら足も止まりませんよ」
「そ、か。レイチェ一台大破確認」
「……おいてけぼりだ。何で見えるんだ。何で届くんだ。何で壊せるんだ」
宮川は困った様子でため息をつく。
「……接近……を確認、方位300……295……多数、距離1800。方位240……3……か?距離800……240に行く。ヒトハ、フロント」
「おう。240は深山と大賀氏だろ。あそこはアツアツだし」
「了解。あら、そうなんですか」
レイチェを先頭に仮想された廃墟のわき道に入り歩き始める。バーグナムもキャタピラを立て、交互に動かして器用に歩く。
「なんだそれ。無茶苦茶な」
「無限軌道使うとうるさいですからね」
「!正面標的ロスト!方位45、60、70、高速移動を確認、1。巡航ミサイル?見られたか?」
最後尾を歩いていたレフトハンドが振り返り、12連装のチェーンガンがわき道に入り込んできた巡航ミサイルを打ち落とす。
間近まで迫ったミサイルが爆発すると、閃光とともに辺り一面を白い液体が塗装する。
「チャフ!?通じてますか?」
呼びかけても二人から返事は返ってこない。レイチェにはかかってないようだが、バーグナムの通信は封鎖されているようだ。
衝突音。ダメージはほとんど無くとも、どこかから銃撃されている。
レフトハンドが通路に横向きになって右腕を通路の入り口に、左腕をバーグナムの上に向けるのが見える。
バーグナムのセンサーは天頂から30度が死角になっている。
「上!?」
後ろにはレフトハンド、前には振り返りながら走り始めたレイチェがいる。
機体を下ろしてキャタピラ機動の準備をはじめながら、右腕を上に向け、存在するであろう脅威にレールガンを撃つ。
「あぐ!」
三連続の衝撃。シミュレータの椅子が揺れる。
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小説というよりは随筆とか、駄文とか、原案とか言うのが正しいもの。 2000年ごろに書いたものを直しつつ投稿中