― 孫権Side ―
月が陰る漆黒の闇。
水上に
敵軍の船上で燃え上がった炎の勢いは既にない。
私は自軍の最後方・・・・・・本陣でその様子を見ていることしか出来ない。
姉様達は最前線で戦っている。
だけど私は他の皆よりも安全な本陣に居る事しか出来ない。
悔しい。
私にもっと力があれば・・・。
私にもっと知があれば・・・。
今、前線で戦っている者達は命をかけている。
姉様だって、母様だって、祭だって、他の皆だって、兵達だって命を掛けて戦っている。
それなのに『王』である私は、ただ本陣で戦場の全てをこの目で見続けることしか出来ない。
姉様は言った。
「蓮華、貴方は孫呉の『王』その背中には呉に住む全ての民達を背負っていると知りなさい」
わかってる。
『王』となった私が死ねば孫家・・・そして呉の国が終わると言う事。
皆が私の事をこう言う。
私は乱世で輝く器ではなく治世でこそ輝く器だと・・・。
買いかぶりすぎだと思う。
私はまだまだ未熟で『王』など務まる器じゃない。
きっと『王』であった姉様や・・・・・・一刀だったら今のこの状況もきっと・・・・・・。
「蓮華様」
冥琳が私の名前を呼ぶ。
「何かあったのか?」
「いえ・・・・・・蓮華様、ここは本陣・・・本陣を守る孫呉の『王』がそう言った表情を為されていると士気に関わります」
「・・・・・・すまん」
そんなに顔に出ていたのかしら・・・・・・。
自分では気付かなかったその表情を無くそうと精一杯平静を装う。
「蓮華様、もっと自信を持って下さい」
「自信?」
今度は藍。
「何故、本陣に蓮華様の護衛の将が一人も居ないかわかりますか?」
「・・・・・・本陣に将を裂く余裕がないのだろう?」
「残念ながら違います」
「では、どうしてだというのだ?」
今、この戦場において本陣に私を守る為の将を置けるほど余裕なんかあるはずがない。
そうじゃない?
じゃぁ、どういった理由なの?
「簡単な事。・・・・・・雪蓮や美蓮様、他の皆も同様に思っているからこそのこの布陣。
皆信じているのだ・・・・・・蓮華様に任せておけば、いざと言う時でも本陣が落ちることは無いと」
「その通りです。私達は常々こう考えています。
孫家の将において、守りの戦では蓮華様に適うものは居ない・・・・・・と」
「そんな筈はない!守りの戦においては一刀が一番なはずだ!!」
守りの戦において一刀を差し置いて私が一番なはずなんて在り得ない。
「それは違います。
攻勢時・・・・・・それも兵や将を守る事に関してはこの大陸で一刀さんに適うものは居ないでしょう。
ですが、陣や城を守る事に関しては蓮華様のほうが上だと断言できます。
一刀様は、極端に言えば戦時において後の先を取る為に守る守備の将です。
ですが、蓮華様は防衛戦において堅実に、尚且つ確実に守りきる防備の将。
だからこそ皆安心して蓮華様に本陣を任せているのです」
「藍の言う通り。
雪蓮も美蓮様も皆も・・・今この時でも本陣が落ちる心配などしていない。
もし・・・・・・もし、一刀がこの戦場に居たとしても・・・・・・」
冥琳と藍。
二人は真剣な眼差しで私の目を見ている。
二人が・・・・・・皆が思っているほど私は強くはない。
だけど・・・・・・だけど、皆がそう思っていてくれるのなら塞ぎこんでいる場合じゃない。
一刀の名を呼んだ冥琳の表情、藍の揺らいだ眼差しを私は見逃さなかった。
二人が言うように一刀も私を評価してくれていたと言うのなら・・・・・・。
「不甲斐ない所を見せてしまったな・・・・・・。
公瑾!子敬!・・・本陣の事は私に任せ、お前達はこの戦況を覆す為の策を考えよ!!」
「御意。必ずやこの戦況を覆して見せましょう」
「御意。本陣は蓮華様にお任せいたします」
姉様、母様、皆・・・・・・一刀。
私は必ず本陣を守りきってみせる。
だから、だから皆も・・・・・・。
強い決意を胸に抱き、私は戦場を見つめ続ける。
― 一刀Side ―
「・・・・・・報告は以上だ」
影からの報告。
影に礼を言って、俺はキシキシと痛む身体と
街へ出て大通りを歩いている途中、意外な人物の意外な状態が目に写る。
「・・・・・・何やってんの?」
「ん?あぁ、北郷か・・・・・・少々・・・な」
冥琳はそう言って苦笑いを浮かべながら足元を見る。
「お兄ちゃんだ~れ?」
・・・・・・。
冥琳に子ど・・・・・・。
「先に言っておくが私は子を生んだ記憶はない」
流石は冥琳。
思考を読まれた気がするのは気のせいじゃない筈だ。
「え~と・・・・・・どう言う状況?」
「
「な、なるほどね・・・・・・」
なんだか意外だ。
冥琳ってこんな感じだから、子供とかあんまり好きじゃないイメージだったんだけど・・・。
「すまんが手が空いているのなら手伝ってはくれないか?」
「ん?あぁ、もちろん!」
冥琳にしがみつく女の子の目線にあわせしゃがむ。
「お嬢ちゃん、お母さんは?」
「ここ!!」
そう言って女の子は冥琳を指差す。
やっぱり・・・・・・。
「だから違うと!」
「っ!?・・・・・・う・・・・・・うわぁぁぁぁぁん」
「「・・・・・・あ」」
俺と冥琳は二人してしまったと言う顔をする。
そして、冥琳は小さく溜息をつきながら女の子を抱き上げてあやし始める。
「よしよし・・・・・・急に大声を出してすまなかった」
そんな光景についつい見とれていた俺。
何時もの口調の冥琳。
だけどその表情は、なんだかとても優しい感じがした。
次第に泣き止む女の子。
その様子を、あやしつつ小さく微笑みながら見ている冥琳。
「なんかいいな・・・・・・」
「何がだ?」
「!?」
無意識に口にしていた自分に驚く。
恥ずかしくて慌ててごまかしながら二人+一人で街を歩きだす。
夫婦ってこんな感じなのかなぁ・・・なんて思いながら歩いていると女の子の母親らしい人と遭遇。
冥琳に似た服を着た母親に引き取られ、女の子は街の喧騒の中に消えていった。
「お疲れ様」
「お前もな」
そう言って、二人とも笑う。
「そう言えば・・・・・・この間の礼をまだ言っていなかったな」
「ん?」
「・・・・・・私の病の事だ」
「あぁ、別に気にしなくていいよ」
「そんな訳にはいかない。
私の命の恩人といっても過言ではないのだからな・・・・・・本当に感謝している」
冥琳はそう言って俺に向かって頭を下げた。
「ちょっと!?頭を上げて!!
俺は冥琳にそんな事して欲しくて助けたわけじゃないんだから・・・・・・」
「しかし、それでは私の気が・・・・・・ふむ、ではこう言うのはどうだ?」
そう言いながら冥琳は俺に近寄って来て、耳元で小さく呟く。
・・・・・・。
「っ!?」
「これならば一刀も受け取ってくれるだろう?」
「いや、っちょ、え?」
突然の事に頭がついていかない。
「では、早速・・・・・・」
「え?えぇぇぇ!?」
「そうだ・・・・・・すまんが、私は少し本屋へとよっていく事にする。後で部屋に伺わせてもらうから用があるなら済ませてくるといい」
「え?・・・・・・って言うか何故に本屋に?」
「決まっているだろう?どうせなら子育てに関する書籍でも・・・・・・な?」
「・・・・・・」
そう言って冥琳は颯爽と街の本屋へと向かって歩いていった・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「マジか・・・・・・」
俺は身体のキリキリとした痛みを感じながら、期待と不安に・・・・・・。
その後どうなったかはお察しと言うことで・・・・・・。
― とある男Side ―
「ここにいらっしゃいましたか」
「ん?あぁ、お前か・・・・・・」
仕事を終え、何時ものように城の書庫で書を読みふけっていた。
そこへ見知った人物が現れる。
「最近は忙しくて余り話す機会がなかったですからね」
「そうだな。元気にしていたか?」
「はい、兄さんこそお元気でしたか?」
「私は相変らずだ」
私を兄と呼ぶ人物。
私の弟。
家に居た私と違い、弟は己の好きな学問の知識を深める為に各地を漫遊していた。
私の少し後、曹孟徳にその才を見初められ、この洛陽で仕える事となった。
お互いに文官として働く一方、こうやって話す機会がなかった。
「・・・・・・あの人は相変らずのようですね」
「そうらしい・・・・・・」
弟の口から発せられたあの人と言う単語。
あの男の事。
弟も感じる所があるのだろう・・・・・・。
あの男は他者に与える印象を気にする事などしない。
あの男はそう言う人間なのだ。
話題を変えようと思うがそうも行かない理由がある。
「・・・・・・そうですか。自分の目で見ることが適わなかったので・・・ずっと信じる事が出来ませんでした」
「私もだ。自分の目で確認しても疑ったくらいだからな・・・・・・」
私達二人は沈黙に包み込まれる。
不安だったのは私だけではなかったのだ。
弟も同じなのだろう。
その後、私達は他愛の無い会話を始める。
私達二人が抱える不安から逃げるように・・・・・・。
― 公孫賛Side ―
「だからあいつはそんな事する人間じゃない!!」
「だけど、実際に襲われちゃったんだよね!?」
少し前から続いている口論。
原因は伝令が
「どうしたんですか!?」
「朱里ちゃん!
「それは確かなんですか?」
「いや、まだ確定じゃないんだ。それに長城には私達の兵を駐屯させてある。
それに烏桓とは交易するほどの仲なんだ・・・・・・それなのに突然村を襲ったりする筈がない」
烏桓とは確かに長年揉めていた。
それを何とか解消しようと私は努力し続けてきたし、烏桓の
そうして数年前に
お互いに争う事を止め、交易や民との交流も盛んになった。
最初は確かに小さな
だけどその
そうやって様々な問題を時間を掛けて解決し・・・今がある。
「だけど、現に報告があったんでしょ?そんな事言っていたら犠牲者が増えちゃうよ!?」
「いけません、桃香様」
「どうして!?現に危ない目に合っている人たちが居るんだよ!?」
「それでもです・・・・・・。桃香様のお気持ちはわかります・・・・・・。
ですが白蓮さんの言う通り、長城にはそれなりの数の兵が駐屯しているのもまた事実なんです。
仮に本当に烏桓の人達が村を襲おうとしていたとしても長城を超える為にはその駐屯兵を全て倒さなければいけ無いと言う事。
長城の付近にある村を襲う為に多大な犠牲を払う必要性は・・・・・・」
「その通りだ桃香。烏桓にとっては犠牲を払ってまで村を襲う必要性はない。
そんな事をしなくても私達と交易をしたほうが得るものが大きいんだ」
「・・・・・・じゃぁ、どうして伝令がくるの!?何かあったから伝令が来るんだよね!?」
「だから今、星が・・・・・・趙雲が向かってるんだろ?」
「本当に襲われてたら?間に合わなかったら?趙雲さんだけじゃ助ける事が出来なかったら?」
「桃香様!!・・・・・・失礼を承知で申し上げます。桃香様・・・・・・桃香様はなんですか?」
朱里が桃香に対して大声を荒げる姿を初めて見た。
実力は知ってる。
だけど、主に対して声を荒げる事なんてないと思っていた。
そんな朱里が桃香に声を荒げた。
「何って!?私は劉玄徳だよ!」
「そうです。桃香様は唯の劉玄徳です・・・・・・。
では、そちらにいらっしゃる白蓮さんはどうですか?」
「白蓮ちゃんは
「その通りです。・・・・・・桃香様は白蓮さんに口出しする権利はありません。
白蓮さんのお優しさに救われている身だと自覚してください・・・・・・」
「・・・・・・」
朱里の言葉に私は驚くほかなかった。
あの朱里にこんな事を言われる桃香にも・・・・・・。
星、お前が孫伯符から聞いた事は正しいのかもしれない。
あの朱里にここまで言わせる桃香を目の前にして私は初めて実感が沸く。
孫伯符が言っていた言葉。
見ない、聞かない、知ろうとしない。
・・・・・・桃香、お前は何時からそんな風になったんだ?
「じゃあ・・・・・・それじゃ私達は指を咥えて見ていればいいの!?」
「その通りです・・・・・・私達は唯の民なんですから」
「!?」
朱里、そこまで言わなくても・・・・・・。
・・・・・・そうか、誰も何も言わないからそうなったんだな。
私はわかった気がした。
桃香がこんな風になったのは近くでお前を
そして、朱里はその事に気付いていた。
だからこんな風になった今、朱里はそれを如何にかしようとしているんだろ?
「それじゃ・・・・・・「桃香様!!いつでも出陣できます!!!」・・・・・・愛紗ちゃん!!」
「っちょ!?え!?」
「待ってください愛紗さん!!」
「待つわけには行かないのだ朱里!!白蓮殿が出ないと言うのであれば私達が出ればいいだけであろう!」
「ですが!」
「行くよ朱里ちゃん!」
「桃香様!!」
・・・・・・。
桃香は愛紗を連れて部屋から出て行った。
唖然とする私の前に朱里が立つ。
「白蓮さん・・・・・・本当に申し訳ございません。本当に・・・・・・ッグス・・・・・・申し訳・・・・・・」
「・・・・・・朱里、お前は良くやったよ。こっちは私が何とかする・・・だからどうにかして桃香を止めてくれないか?」
「グス・・・・・・はい・・・・・・」
「朱里ちゃん・・・・・・」
「雛里ちゃん・・・・・・行こう」
「・・・・・・うん」
二人は、私に一度だけお辞儀して部屋から出て行った。
「二人とも頑張れ・・・・・・」
あんな二人に仕えてもらえれば・・・・・・そんな事を思いながら私は走り去っていく二つの背中をずっと見つめていた。
― 凌統Side ―
ここにはもう用がないな。
そんな時、太史慈は在る人物から声を掛けられた。
「ちょっと待ってくれ!!」
「・・・何か用か?」
見た事がある顔だな。
確か・・・・・・。
「城の奴らが騒いでたんだ・・・・・・『天の御使い』の知り合いと名乗る男が来たってさ。お前の事だよな?」
確か馬超孟起・・・・・・だったか?
「その通りだ。・・・・・・それがどうかしたのか?」
太史慈は問い返す。
「・・・・・・『天の御使い』は本当に死んだのか?」
「事実だ」
太史慈は肯定する。
あの時、北郷一刀様は確かに死んだ。
それは紛れもない事実だ。
「そっか・・・・・・。やっぱりおっさんの言ってた事が正しいのかな・・・・・・」
「ほう?」
「こんな事をあんたに言っていいのかわかんないけどさ、おっさん・・・・・・韓遂が言ってたんだ。
盲目的に漢王朝を崇拝するだけの時代は終わったんだって・・・・・・。
一つの物だけしか見ていない人間はその内とんでもない事をしでかすって・・・・・・」
馬超はそう言いながら空を見上げる。
「ある人物が言っていた・・・一つの物と見ることが悪いとは言わない・・・だが、それだけしか見えていなければそれ以外を省みない。
そうなれば自分にとっても周囲にとっても不利益にしかならない・・・とな」
「・・・・・・そうだよな。他にも見なきゃいけない事だってあるよな」
「簡単に言えばそう言うことだ」
馬超はそのまま何かを考え込んでいた。
「・・・・・・突然呼び止めてわるかったな。あたしも、もう少し深く考えてみるよ」
「そうか。・・・・・・さて、俺はもう行くとする。やらなければならない事があるからな」
「気をつけてな・・・・・・」
「お前もな」
そう言って太史慈はその場を後にした。
あとがきっぽいもの
赤壁の 戦の話 書き終わる 獅子丸です。
投稿に間が空いてしまいました。
赤壁の場面を書いていたので(ぁ
ここで少しお詫びを入れておきます。
知っている人も居るかもしれませんが書いておきます。
ラウンジの某スレで色々と意見を出しました。
作者個人の偏った意見ですので反感を買う内容があったかもしれません。
無いとは思いますが、もし何かあった場合こいつ馬鹿やらかしたんだなぁっとでも思って下さいw
では今回の時系列。
未来→現代→現代→現代→未来
となっております。
では未来は省いて・・・・・・。
最初は一刀くん。
原作の拠点をアレンジして見たお話。
まぁ、アレンジですのでパクリではありません(ぇ
いや、パクリかもしれません(ぁ
後は・・・・・・一刀くん、体調が悪そうですね。
でも・・・・・・その後はお察しw
そんなお話。
お次は、とある男さん。
とある男さんの世間話な話。
また別の誰かが出てきましたね。
徐々に正体に近づいていってます。
誰だかわかってもコメントに名前をあげたりしないでね♪
そんなお話。
最後は公孫さん。
公孫さん
あら不思議・・・一発で変換できる。
そんなおは(ry
ではなく、諸葛亮さん決意する・・・と言う話(ぇ
いや、マジで公孫さん空気すぎ・・・・・・。
まぁ、色々考えてはいたんでしょうけど他の人達がね・・・・・・。
頑張れ公孫さん!負けるな公孫さん!どうなる公孫さん!
そんなお話。
最後に補足。
未来時間軸に付いてですが、主に最後に来る人物の話。
太史慈と凌統の二人に該当するんですが、あえてわかりにくく書かせてもらっています。
正直な話、わかりやすく書くと話が続かないw
文才があればもっとわかりやすく謎を表現できるんでしょうけど・・・・・・。
文才がないのでその辺は察してくだされば嬉しい事この上ないです(ぇ
では、今回はこの辺で。
次回も
生温い目でお読みいただけると幸いです。
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第四十九話。
少し間が開きました。
サボってたわけじゃありません。
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