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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第16話

葉月さん

今回は後半に各軍勢の心境を書いています。
いよいよ次回から反董卓連合軍に参加します。

では、ご覧ください。

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2011-08-07 18:18:02 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:9549   閲覧ユーザー数:6860

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第16話

 

 

 

 

【それぞれの思い】

 

《一刀視点》

 

「ふぅ……おやっさん。もう少し木炭と炉に空気送ってくれ!」

 

森の奥深くで俺は玉の様な汗を流しながら作業をしていた。

 

「あいよ!……しっかし、こんな熱くなるとは思いやせんでしたぜ」

 

「純度の高い物を作るにはこうしないといけないのさ。それに、一回使ったらその炉はもう使えないんだ。そうしないと取り出せない仕組みになっているからね」

 

「なるほど……おい、もっと木炭もってこいや!」

 

「あいよ!」

 

おやっさんは弟子に指示を出しもう一度炉を見て呟いた。

 

「それにしても三昼夜も燃やし続けなきゃいけないなんて考えられねぇよ」

 

「普通はそうだろうね。でもこれは普通の作り方じゃないんだ」

 

はっきり言って爺ちゃんに作り方を教えてもらってなければ作ろうとも思わなかった。

 

爺ちゃんが言うには『刀を知るにはまず作り方から知るべき』ってことらしい。

 

そう。俺は今この時代には無い製法で物を作ろうとしている。

 

確かにこの時代にも鉄製造はある。

 

だけど、それはまだ未熟だ。俺が作っているものはある意味で完成されたものだ。

 

きっとこの先の大きな力になるだろう……でも、俺としては必要になって欲しくはないと思っている……

 

俺は炉を見つめながらこの後に起こる戦いに顔をしかめた。

 

「御遣いの旦那!木炭くべ終わりました」

 

「うん。それじゃおやっさんたちは休憩して、日も大分傾いてきたし、まずは俺が火の番をするからさ。四刻後くらいに起こしに行くよ」

 

「わかりやした。では」

 

鍛冶屋のおやっさんたちは炉の近くに建てた簡易的な小屋に休みに行った。

 

「桃香たちは何してるのかな。怒ってないといいんだけど……は、ははは……」

 

帰った時、愛紗が目尻を吊り上げて仁王立ちしている姿を思い浮かべて身が笑いを浮かべた。

 

………………

 

…………

 

……

 

――その頃、

 

「まったく。こんな大事な時にご主人様は何を考えておいでなのか」

 

愛紗は腕を組みながら兵達の調練を見ていた。

 

「そこっ!もっと気合を入れんか!」

 

「おう!」

 

夕暮れになっても愛紗は兵達の調練をしていた。

 

「あ、あの愛紗さん……」

 

「なんだっ!」

 

「ふぇ!えと……えと……」

 

遠慮しがちに話しかけた雪華は愛紗の怒気に涙目になってしまった。

 

「す、すまん。少々気が立っていたようだ。それでどうした雪華よ」

 

「その、もう夕暮れですけどいつまで調練を続けるのですか?」

 

「何を言っているまだ明るい……暗いな」

 

「は、はい」

 

「よ、よし!今日の調練はこれまでだ!各自適度に体を休めて解散しろ!」

 

兵達はやっと解放されたことに安堵の表情を浮かべていた。

 

「やっぱりご主人様が暫く居ない事に怒っているのですか?」

 

「当たり前だ。理解はしても納得はしていない。反董卓連合に参加すると決まって直ぐに一月ほど城を空けるなど」

 

「き、きっとご主人様はお考えがあってのことだと思います」

 

「それはわかっているが……はぁ、ダメだな。ご主人様を信じると決めていたのに」

 

愛紗は自分に呆れて苦笑いを浮かべていた。

 

「よし、雪華。少し手合わせをしてくれ。もう一度喝を入れなおすためにな」

 

「はい!……え?ふえええぇぇぇ!?む、無理ですよ!私が愛紗さんと勝負なんて出来ませんよ!」

 

「大丈夫だ手加減はしてやる。だが、怪我をしない保障は出来ない」

 

「ふえええぇぇぇっ!!!」

 

雪華の声が調練場に木霊した。

 

――翌日……

 

火の晩をおやっさんたちと交代で行い。ようやく朝を迎えた。

 

「どうですかい。御遣い様」

 

「うん。あとは炉の熱を冷ましてから壊して取り出そう」

 

「わかりやした。では、あっしらはいったん鍛冶屋に戻りやす」

 

「わかった。ゆっくり休んでてくれ、この後も大変だからね」

 

おやっさんたちはその場から居なくなり俺一人になった。

 

「ふぅ。こんなに大変だとは思わなかったな……でも、この後も大変なんだよな」

 

なんせ、玉鋼を精錬して武器を作らないといけないんだから

 

「さてと。俺も少し仮眠を取るかな……ふあ~~」

 

俺は伸びをしながら大きな欠伸をひとつして小屋に入り一眠りつくことにした。

 

その後、再び集まった鍛冶屋のおっちゃんと炉を壊し、昼夜を問わず鉄を叩く音が工房から聞こえてくるのであった。

 

………………

 

…………

 

……

 

玉鋼を精錬し始めて約二十日、ようやく完成した。

 

「出来やしたね、御身遣いの旦那」

 

「ああ……あとはこれをはめ込んで……完成っと」

 

俺は小さな宝玉を取り出しはめ込んだ。本来は双龍天舞じゃないと宝玉は発動しない。でも、この小さな宝玉は通常の宝玉より遥に能力は低いが誰でも扱えるようになっている。

 

まあ、それでもそれなりの腕の持ち主ならかなりの脅威にはなるんだけどね。だからこのことは誰にも教えない。単なる飾りと思わせておく。桃香たちなら間違った使い方はしないと思うけどこんな力、使わないに越した事は無い。

 

それにどの道俺が使い方を教えないと宝玉は発動はしないんだから。

 

というか、この武器すら出番なんか来てほしくはないんだ。

 

「しかしこの28年間、こんなに充実した物作りは初めてでしたよ。御遣いの旦那には感謝のしようもありません」

 

「何言ってんだよ。おっちゃんの力がなければ実現しなかったんだからこっちこそ感謝だよ」

 

「そう言って貰うと照れちまうな」

 

鍛冶屋の親方は照れくさそうに頭をかいていた。

 

「あ、それと例の物出来たかな?」

 

「へい、出来ておりますよ。おい!」

 

親方は弟子に声を掛けに持ってくるように伝えた。

 

「これでございます。御遣い様」

 

「どれどれ……よっと!」

 

俺はそれを手に取り軽く振り回してみた。

 

うん。持ちやすいし、長さも丁度いいかな。

 

「うん、いいね。ありがとう」

 

俺は財布を取り出してお金をおっちゃんに手渡した。

 

「御遣いの旦那からお金なんて受け取れませんよ」

 

「いやいや、ちゃんとした依頼なんだから受け取らないと」

 

「とんでもない!こんないい仕事が出来たんです。逆にお金を払いたいくらいですよ!」

 

「でも、奥さんに怒られるんじゃないの?今、物入りなんだろ?」

 

「う……」

 

「それに、働いてもらっている人たちにも給金を払わないといけないだろ?」

 

「うう……」

 

「だから、気にしなくていいんだよ。それに俺はそんなにお金使うことが無いからね。こう言った事で使わないと」

 

「そ、そうですか?なら、ありがたく頂戴いたします」

 

「うんうん、これからも頼りにしてるよ。それじゃ、俺はこれで戻らせてもらうね」

 

「へい、今回の連合軍、がんばってくだせえ」

 

「ああ、もちろん」

 

俺は手を上げて鍛冶屋を後にした。

 

《愛紗視点》

 

「あ、あの桃香様?」

 

「……」

 

「つ、追加の書簡をお持ちしました」

 

「うん、そこに置いておいてね」

 

「は、はい……」

 

ただただ、黙々と書簡に判を押していく桃香。

 

ご主人様が城を出てから20日が過ぎた。

 

多少遅れてはいるものの反董卓連合に参加する為の準備は整いつつあった。

 

だが今問題なのはそんな事ではない。あれ以来桃香様は、仕事以外のことは余り喋らなくなっていた。

 

「はぁ……一体どうすれば……」

 

ため息を吐きながら廊下を歩いていると。

 

「はぁ……ご主人様、早く帰ってきてくださらないでしょうか」

 

「ん、雪華ではないか」

 

「ふえ?あ、愛紗さん」

 

お互いに苦笑いを浮かべる。

 

「やはり、雪華も桃香様とお話できていないのだな」

 

「はい……私もと言うことは愛紗さんも?」

 

「ああ、政務以外のことは全て無視をされている状況だ」

 

「「……はぁ」」

 

「ん?二人してこんなところでなにしてるんだ?」

 

二人して溜め息を吐いたその時だった。私たちの背後から待ちに待った声が聞こえてきた。

 

「「ご、ご主人様!!」」

 

「ああ、ただい、ま……ど、どうしたんだ二人とも?そんな怖い顔で……ってどこに連れて行くんだ?!」

 

「とにかく付いて来てください!」

 

「もう、ご主人様しか頼れる人は居ないのです!」

 

「え?え?どういうこと?ちょ!説明してくれ!」

 

私と雪華はご主人様の腕を取りある場所へと向かった。

 

(ばんっ!)

 

「桃香様!」

 

「……」

 

しかし、桃香様は顔をあげることもせず書簡を見ていた。

 

「ご主人様が帰ってきました!」

 

(ピタッ)

 

雪華が告げると桃香様の筆の動きがピタリと止まり顔を上げてこちらを見てきた。

 

「や、やあ、ただいま……長い間留守にしてごめん」

 

「ご主人様っ!」

 

(ガタンッ!)

 

桃香様が勢いよく立ち上がったため椅子が倒れてしまったが、桃香様は気にせずご主人様に走りより抱きついた。

 

「おっと……ごめんな桃香」

 

「何も言わないで行くなんて酷いよご主人様!」

 

「本当にごめん。どうしたら許してくれるかな?」

 

「それじゃ、頭を撫で撫でしながらギュってしてくれたら許してあげる」

 

「わかった……これでいいかい?」

 

「うん……えへへ♪」

 

桃香様の目尻には薄っすらと光るものが輝いていたが、その表情は満面の笑みだった。

 

「そうですよ。私たちだって心配したんですからね。ご主人様」

 

「ぐすん」

 

そこへ、腰に手を当てて頬を膨らませる朱里と両手で帽子を押さえ涙目の雛里が近づいてきた。

 

「朱里と雛里もごめんね。大変な時だったのに」

 

「そうですよ。今度からはちゃんと言ってくださいね」

 

「ああ」

 

「ふ、ふええ~ん、ご主人様~~!」

 

雛里は泣き出しご主人様に抱きついた。

 

「よしよし」

 

「はわわ……雛里ちゃんに先こされちゃったよぉ」

 

「朱里もおいで」

 

「はわわっ?!い、いいのでしゅか!?」

 

「いやならいいけど」

 

「いやじゃないです!」

 

「そ、そう……」

 

ご主人様は朱里が大きな声を出したことにびっくりしておられた。

 

ご主人様に抱きつく桃香様、朱里、雛里を見ていてほっとしていたのもつかの間、段々とその行為が腹立たしく思えてきた。

 

あれだけ桃香様の機嫌を直すのに色々してきたのは私と雪華だ。そう思うとなんだか私たち二人だけが損した気分になってくるではないか。

 

「ご主人様、抱きつきすぎです!」

 

「ふえぇ~、ご主人様のバカァ~」

 

「ええ?!な、なんで?!」

 

目を吊り上げる私と涙目になる雪華。

 

どうやら雪華も同じことを思っていたのかご主人様に文句を言っていた。

 

「えっと……ちょっとごめんね。三人とも」

 

ご主人様は桃香さまたちに断りを入れて私達に近寄ってこられた。

 

「「?……っ?!」」

 

「これでいいだろ」

 

「な、ななっ!」

 

「ふぇ~~っ!」

 

近寄られてきたかと思うと主人様は私達を引き寄せ抱きしめてくださった。

 

「おやおや、帰ってきて早々に逢引ですかな主よ」

 

「あー!愛紗や桃香お姉ちゃんずるいのだ!鈴々も抱きつくのだ~~~!」

 

そこへ、報告に来たのか運悪く星と鈴々が現れて場はさらに慌ただしくなった。

 

「ちょっ!おまえら!」

 

「あー!星ちゃんも鈴々ちゃんもずるい!私だってご主人様が居なかった分、いーっっぱい抱きつくんだから♪……んっ」

 

桃香様は笑顔で答えながらご主人様の頬に接吻を……ってっ!

 

「「「「あーーっ!」」」」

 

「ほほう、やりますな」

 

星はニヤリと笑い、鈴々以外の全員は驚き叫んだ。

 

「なっ!、と、桃香?」

 

「きゃーーーーーっ!」

 

桃香様は両手で頬を押えて執務室から恥ずかしそうに走って出て行かれた。

 

「「「「……」」」」

 

「うっ……」

 

みなの目線がご主人様に集まる。

 

「そ、そうだ、雪華に渡したいものがあるんだった!」

 

「ふえ?私にですか?」

 

ご主人様はこの場から逃げる為なのか大袈裟に言ってみせていた。

 

「ああ、今もって来るから待っていてくれ」

 

「あっ!ご主人様!」

 

「ああ、朱里、連合軍の準備の報告は後で聞くから、纏めておいてくれ!」

 

「わ、わかりました」

 

「朱里ちゃん、私も手伝うよ」

 

「うん、ありがとう雛里ちゃん」

 

朱里と雛里は資料を揃えるべく執務室を後にした。

 

「よし、それじゃちょっと待ってくれ!」

 

ご主人様は走ってご自信の部屋へと戻られた。

 

「まったく。ご主人様と来たら……」

 

「でも、ご主人様が戻られただけでこんなにも賑やかになるのって凄いですよね」

 

「みな主に惚れているからな。仕方ないであろう」

 

「なっ!せ、星!何を言い出すのだ!」

 

「別に的を外した答えではないと思うが?」

 

「ぐぬぬ……」

 

星の言葉に何も言い返せなくなる。

 

「え、えへへ♪ごめんねぇ~。急に走り出しちゃって」

 

桃香様は恥ずかしそうに執務室へと戻ってこられた。

 

「いえ。それは良いのですが」

 

「ふふっ。主との接吻は如何でしたかな桃香様」

 

「も、もう星ちゃんったら、そんな恥ずかしい事聞かないでよ~♪」

 

「はっはっは。桃香様は立派な乙女ですな。まったく、何処かの誰かも見習ってもらいたいものだ」

 

「ふん。別に結構だ」

 

「おや。別に愛紗の事を言った訳ではないのだがな。自覚はしているということか」

 

「ぐっ!」

 

しまった。つい星の戯言に乗ってしまった。不覚!

 

「ダメだよ愛紗ちゃん。好きな人には積極的に行かないと!そうだよね星ちゃん」

 

「うむ。桃香様の言う通りだぞ」

 

「ぐっ……」

 

段々と旗色が悪くなってきた。桃香様と星は私の事を見てニヤニヤと笑っていた。

 

「お待たせ」

 

暫くするとご主人様が戻られた。ふぅ、助かった……

 

「お帰りなさいご主人様♪」

 

「ただいま。ん?なんでそんなにご機嫌なんだ桃香」

 

「えへへ♪……そんなこと言わせるなんてご主人様の意地悪♪」

 

「……」

 

「いひゃい、いひゃい、ひゃんで?!」

 

「知りません!」

 

ご主人様はなぜ摘まれたのか分からずにいた。

 

まったく、ご主人様と来たら……

 

「だ、大丈夫ですか。ご主人様」

 

「ありがとう雪華。雪華だけだよ俺を心配してくれるのは……」

 

「ふぇ~、そ、そんな事ないですよ。ご主人様が居なくなって皆さん凄く心配していました」

 

「そっか、皆にも悪い事したな」

 

「それより主よ。その手に持っている物はなんですかな?」

 

「ああ、これは……龍爪、雪華の新しい武器だ」

 

「ふえ?!」

 

「ほう……これはこれは……」

 

布を取ると現れたのは一本の槍だった。

 

その形は、星の龍牙に似ていたが、刃の色は白く、突きだけではなく薙ぎ払いにも対応できるように刃全体が鋭く研がれていた。

 

だが、何処と無く雪華の父上の形見である龍背九節棍に似ているようにも感じられた。

 

「雪華と星の戦い、それと稽古した感じから、やっぱり槍が向いてるかなと思って作ってみたんだ」

 

「確かに、雪華の突きは私と引けを取りませんでしたからな」

 

「で、ですが。私は」

 

「うん。お父さんの武器で大陸を平和にしたいって気持ちはわかるよ。でも、慣れてない武器で戦うことは凄く危険なんだ。それにそれだけ相手に隙を与えちゃうからね」

 

ご主人様の意見は最もだ。慣れていない得物ほど、隙は生じ易くなる。だが、雪華にも事情がある無理強いは出来ないですよご主人様。

 

「もちろん。強制じゃない雪華がイヤだって言うなら……」

 

「……いいえ。ご主人様のご好意を無駄にする事はできません!ありがたく使わせていただきます!」

 

「無理しなくてもいいんだよ?」

 

「無理じゃありません!それにお父様もきっとご主人様と同じ事を言うと思いますから」

 

「そっか。それじゃ、これを雪華に託すよ。大事に使ってくれ」

 

「はい!」

 

雪華は嬉しそうにご主人様から新しい得物を受け取った。だが……

 

「ご主人様、まさかこれを作るために二十日近くも留守にしていたのですか?」

 

私は少し目を細めてご主人様を睨み付けた。

 

「違うよ。これは前々から頼んでたんだ。それを受け取っただけだよ」

 

「では、何を作っていらしたのですか?」

 

「う゛そ、それは……まだ秘密」

 

「なっ!」

 

「はっはっは、主は焦らすのがお好きのようだ。では、その日を楽しみにしているとしましょうか」

 

星は笑って納得していたが、私は納得をしていなかった。

 

「雪華にだけあって、私には無いのか……」

 

ブツブツと呟く。

 

「?愛紗はどうしたんだ」

 

「気にするな主よ。愛紗も女子ということだ」

 

「ん?」

 

「なっ!星!」

 

私は顔を赤くして星を睨みつけた。そこへ。

 

「ご主人様、準備が出来ました……何かあったのですか?」

 

「いや、なんでもないぞ朱里。では、主、桃香様、玉座の間へ参りましょうか」

 

「あ、ああ、そうだな。それじゃ、桃香も一旦仕事は中止して行こうか」

 

「は~い。ほら、愛紗ちゃんも行くよ~」

 

「と、桃香様……」

 

「ん?なに?」

 

「な、何でもありません……はぁ」

 

今まで口を利いてくれなかったのを忘れているかのように話しかけてきた桃香様に私は溜め息を吐かずにいられなかった。

 

「はぁ……鈴々、我々も行くぞ。兵の事もご主人様に報告するのだから」

 

「わかったなのだ!」

 

私は、気を取り直して鈴々と王座の間へと向った。

 

「それじゃ、報告してくれるかな」

 

「はい、まず兵糧についてですが、なんとか工面する事は出来ましたが」

 

「ですが長期戦になると苦しくなってしまいます」

 

朱里と雛里は十分に兵糧を集められなかった事にすまなそうにしていた。

 

「朱里も雛里もそんなに気にしなくてもいいんだよ。これだけ集められれば上等だよ」

 

「そうだよ。朱里ちゃんに雛里ちゃん、ありがとうね」

 

桃香様もにっこりと微笑み二人にお礼を言っていた。

 

「では、次は我々の番だな、軍の編成は滞りなく終わった。直ぐに訓練を始め、今は指示があるまで休ませている」

 

「了解。それじゃ明日にでも行ける状態にはなってるんだね」

 

「はい。留守の間の政・警備も既に手配済みです。政の引継ぎは『ご主人様』以外すでに終わっています」

 

私は遭えてご主人様を強調して報告を終えて席に着いた。

 

「あ、あはは……すぐに引継ぎ作業をするよ……他に何かないかな?」

 

「……無い様だな。それじゃ明日は朝早く出発するから今日は夜更かししないようにな、特に星」

 

「おや、私ですかな?」

 

「ああ、夜に蔵に忍び込んで酒と肴をくすねて月見酒なんてするなよ」

 

「なっ!主よ。どうしてそれを!……はっ!」

 

星はご主人様に驚きながら自分の言った言葉に「しまった!」と周りを見回していた。

 

「ほほう……通りで、数が合わぬと思ったわ……星の仕業だったのだな」

 

「いや。これは、だな……主よ!」

 

星は非難するようにご主人様を見ていた。

 

「星大丈夫だ。怒られるのはもう一人居るぞ」

 

「ええ?!ご主人様誰なの?」

 

「……鈴々ですか?ご主人様」

 

「お、流石は姉妹。よくわかってるじゃないか愛紗」

 

「り、鈴々はしらないのだ!蔵にあったいっぱいのお肉なんて食べてないのだ」

 

「鈴々ちゃん……それじゃ、自分が犯人だと言ってるようなものだよ」

 

「あわわ……」

 

朱里と雛里は哀れむように鈴々を見つめていた。

 

「では、鈴々に星よ。別室でゆっくりと話をしようではないか」

 

「いや、私にはこれから重大な「いいな!」……主よ、覚えておいてくだされよ」

 

「うえぇぇん!愛紗の説教は嫌なのだ~~~~!」

 

「では、ご主人様、桃香様、私と鈴々、それに星はこれにて戻らせていただきます」

 

星と鈴々の首根っこを掴まみ玉座の間を後にした。

 

………………

 

…………

 

……

 

「星ちゃんたち大丈夫かな?」

 

「愛紗も明日のことがあるんだ、少しは手加減するさ……多分、ね」

 

「あ、あはは、そうだといいね」

 

桃香は苦笑いを浮かべて愛紗たちが出て行った扉を見つめていた。

 

夕餉時、疲れ果てた星と鈴々を見かけた時、物凄い勢いで俺を睨みつけてきたのは言うまでも無い。

 

《曹操視点》

 

「ふふふ……等々、私が世に名を轟かせる時が来たわ」

 

玉座に座り笑みを浮かべる。

 

そう、この連合軍を切っ掛けに私は大陸を統一して覇王になるのよ。

 

「んっ……ぺろ、ちゅぷ。で、ですが、あの袁紹からというのが……」

 

私の足を舐めながら桂花は憎らしそうに言ってきた。

 

「切っ掛けはこの際、どうでもいいのよ桂花」

 

「は、はい……ん、じゅる……ちゃぷ」

 

「それにこの先、私の前に立ちはだかる者を見定めるのにも丁度良いわ」

 

「華琳様に敵う者など居るはずがありません」

 

「ふふふ、可愛い桂花……でもね。慢心は己を堕落させものよ。だからいつも上を目指していないといけないのよ。桂花なら分かるわよね?」

 

「は、はい!この荀文若。華琳様の為でしたら更なる高みえと登って見せます!」

 

「ふふっ。期待しているわよ」

 

「はい!」

 

「素直でとても可愛いわね桂花。今夜はたっぷりと可愛がってあげるわ」

 

「あぁ、華琳さまぁ~~~!」

 

「でも、その恰好で誰にも見つからずに私の閨まで来れたらだけどね」

 

今の桂花の恰好は丸裸。下着一枚身に着けていない状態。

 

「そ、そんな華琳様~!」

 

桂花の悲鳴にも似た声を聞いて私は背筋を震わせた。

 

ふふっ。やっぱり桂花を苛めるのは気分がいいわ。もっともっと私にその表情を見せなさい桂花。

 

「ほら。早くしないと可愛がってあげる時間が無くなってしまうわよ?」

 

「うぅ~。華琳様どうか、上着だけでも……」

 

「ダメよ。それじゃ私は先に行って待っているわ。ふふっ」

 

「そ、そんな!お待ちください華琳様~っ!!」

 

私を呼び止める声を無視して玉座の間から去る。

 

そして、道すがら巡回中の兵士達に玉座の間から私の部屋までの巡回をしなくていい事を告げた。

 

「さあ。私がしてあげられるのはここまでよ桂花。いつ私のものに来てくれるのか楽しみだわ」

 

私は微笑みながら自室へと戻る。そして、一旦桂花の事を片隅に追いやり覇王としての顔に戻る。

 

あいつは必ず来るはず……北郷一刀……私の欲する力を持つあの男。

 

劉備の事だあの胡散臭い檄文にまんまと乗って『洛陽の民を助ける為』とか何とか言って参加してくるだろう。

 

だけど北郷は違う。あの男はあんな檄文で動く事はしないでしょう。でも文の最後に書かれていた報復により強制的に参加せざるをえない状態であることは間違いないわ。

 

確かに麗羽の兵の数は非常に脅威ではある。でもそれは兵の練度があればこその脅威だ。麗羽にはそれがない。

 

「でも、北郷の力さえあれば麗羽も敵ではないはず。あの時、見た力はそれを確信出来るだけの説得力があった」

 

「ふふっ。さてどうなる事やら。北郷一刀、あなたはどうやってまた私を楽しませてくれるのかしら?」

 

私は微笑みつつも目は鋭くして窓の外に浮かぶ月を見詰めていた。

 

《孫策視点》

 

「いよいよね」

 

夜空の下、私は期待に満ちた声で話しかけた。

 

「ああ、私たちが独立する為の足がかりだ」

 

「そうだね~。やっとあのちんちくりんから開放されるんだね」

 

そして、傍らには断金の仲の冥琳と親友である優未がいた。

 

「まだ開放されたわけじゃないのよ?その為の足がかり、名声を手に入れるのよ」

 

「わかってるってそんな事。その為に折角合流したあの二人をまた各所に向わせたんでしょ?」

 

「ええ。本当は蓮華にももっと戦場を見てもらいたんだけどね。それ以上にあの子にはやってもらわないといけない事があるから」

 

そう。あの子には私には無いものを持っている。今の蓮華はそれに気がついていないけど。きっと後にそれが重要になる。

 

「反董卓連合軍か~。それにしてもあの檄文がでっち上げだった事には驚いたよね~」

 

「そうでもない。なんせあの袁術の義姉なのだ。別段驚く事でもない」

 

「うわ。冥琳ったら酷い言いようね。まあ、私もそう思うけどね」

 

「二人とも酷いな~」

 

「それじゃ優未はどう思ってるの?」

 

「え?決まってるよ。流石は袁術の義姉!」

 

「あなただって思ってることは同じじゃない」

 

「まあね~♪」

 

優未は笑いながら杯を手にクイッと一気に酒を飲み干した。

 

「それにさ。早くあの手紙をくれた天の御遣い君にも会って見たいしね」

 

「優未はそれが目的でしょ?」

 

「えへへ。まあね~♪」

 

「北郷一刀、か……」

 

「冥琳はどう思う?北郷一刀の事」

 

「正直わからんな。あのような文をよこし、私たちを陥れる可能性も考えられる」

 

「え~。そっかな~。私はそう思わないんだけど」

 

「気楽でいいわね優未は。一度、私と変わってみない?」

 

「それは遠慮しま~す。私は雪蓮を守れればそれでいいんだし。それに私じゃ荷が重過ぎるよ」

 

「ふっ、だろうな。優未が我らの王だと。とっくに呉は滅んでいる事だろう」

 

「あっ!それはちょっと言いすぎじゃない?私、傷つくな~」

 

「お前が傷つく玉か?普段から政務を放り出している癖に」

 

「あぅ。それを言われちゃうと。言い返せないよぉ」

 

「ふふっ。冥琳もそこまでにしてあげて。優未は大事な友なんだから」

 

「はいはい……んっ。それにしても」

 

冥琳は呆れた様子で笑うと杯の酒を一口呑んでまじめな顔になった。

 

「雪蓮。天の御遣いの噂を知っているか?」

 

「ん?噂?えっと確か~……そうそう。一人で二万人倒したってやつ?」

 

「ああ。そうだ」

 

「凄いわよね。確か呂布って董卓の所にいる武将も一人で三万人倒したんだっけ?この大陸は化け物だらけよね」

 

「雪蓮がそういうこと言う?」

 

「なによ。私が化け物だって言いたいの?こんなに可愛いのに」

 

「はいはい」

 

優未ったら適当に流しちゃって。後で覚えてなさいよ。

 

「ふっ。だがその噂、実際には違うのだよ」

 

「違うって何が?」

 

冥琳の言葉に興味が沸いて私は酒を呑む手を休めた。

 

「実際に天の御遣いが倒した黄巾党の数は約一万人なのだそうだ」

 

「うわ。凄い数が違うじゃない」

 

「ああ。だがな、その約一万人が問題なのだよ」

 

「問題?」

 

「どういうこと?」

 

私と優未二人して首をかしげた。

 

「それはだな。一瞬で一万人近くの黄巾党を倒したという事だ」

 

「い、一瞬で!?そんなのありえないでしょ!雪蓮だったそれは無理だよ!」

 

「なんでそこで私を出すのよ。まあいいわ。でも、それって本当なの?それこそ尾びれが付いてるんじゃないの?」

 

「いや。これは本当だ。ちゃんと裏も取れている」

 

「うひゃ~。そんなに強いんだ」

 

「ふふっ。戦ってみたいわね」

 

「はぁ、雪蓮……」

 

冥琳は溜め息をひとつ吐くと私を睨むように見詰めてきた。

 

「ちぇ。わかったわよ。戦うなって言うんでしょ?」

 

「当たり前だ。お前にはまだまだ頑張ってもらわねば困るからな」

 

「まだ、ね。それじゃいつお役ごめんになるのかしら?」

 

「そうだな。天下統一を果たした時、かな」

 

「まだまだ先じゃない。ホント冥琳は私の事、こき使うわね~」

 

「私もそれだけ苦労が絶えないのよ。誰かさんが街にフラリと出て行かれるとね」

 

少し嫌味を言ったら。それを上回る嫌味で返された。

 

「ホント、二人って仲がいいよね~」

 

「羨ましい?」

 

「私はごめんだがな」

 

「もう。冥琳のいけずぅ~」

 

「ま!私は雪蓮の親友だからねそれで我慢しとくよ」

 

「ふふっ。優未だって私には大切な仲間。いいえ、家族よ。だから優未も無茶だけはしないで。お願いよ」

 

「そう言われるとちょっとくすぐったいけど。うん、大丈夫だよ。雪蓮に悲しい思いはさせないから」

 

優未は頬を掻いた後、満面の笑みで私に言ってくれた。

 

「ふっ。私とてそう簡単には死なんさ。我らの夢を現実にするまでわな」

 

「ええ。それじゃ、孫呉独立の為に」

 

「「孫後独立の為に」」

 

私と冥琳、そして優未の三人で杯を掲げて誓いをたてた。

 

この先、どんな苦労が待っていようとも必ず夢をかなえるわ。

 

見ていてね母様……

 

《??視点》

 

「……」

 

一人城壁の上で町を見下ろす少女が居た。

 

街はまだ明るく人々で賑わっていた。

 

それもあと数刻もすれば静けさに包まれることだろう。

 

そんな城下町を慈しみながらも暗い影のようなものがその少女の瞳には見え隠れしていた。

 

「月……体に毒だよ」

 

「詠ちゃん……」

 

月と呼ばれた少女は振り向くとそこには眼鏡を掛けた少女が立っていた。

 

「大丈夫よ。月は必ずボクが守ってあげるから」

 

「……」

 

「月……」

 

月は何も言わずに詠に微笑んだ。しかし、詠は長年一緒に居たので月が我慢している事をわかっていた。

 

「……必ず守って見せるから」

 

詠は力いっぱい手を握り締め月を見詰めた。

 

「……無理だけはしないでね詠ちゃん」

 

月は何かを感じ取ったのか詠の手を取り言葉を投げかけた。

 

「何言ってるの!月を守るためならボクは何だってするわよ!それに恋も霞だってそう思っているわ!」

 

「うん。それでも私は皆に傷ついて欲しくないの」

 

「月……」

 

「やっぱり私はここに来るべきじゃなかったのかな」

 

「そんなことない!そんなことあるはずが無い!月は洛陽を、腐敗した奴らを追い出したの!だから洛陽はここまで持ち直したのよ!」

 

詠は月の前に立ち手を広げて眼下に広がる町並みを指差した。

 

「この賑わいは月が頑張って手に入れたもの!それを横取りするような連合軍なんてボクが倒してあげるから!だから月は何も心配しなくいいのよ!」

 

「詠ちゃん……うん。ありがとう詠ちゃん」

 

月はこんなにも自分の事を思ってくれる詠に感謝の言葉を伝えた。

 

「ほ、ほら。大分風が冷たくなってきたわ。風邪ひく前に月は部屋に戻りなさい」

 

「うん。詠ちゃんも早く部屋に戻ってね」

 

「ええ」

 

「ありがとう詠ちゃん」

 

月はもう一度、詠にお礼を言うと階段を降り城壁から居なくなった。

 

「……はぁ」

 

「えらい。熱弁やったな詠」

 

「霞……」

 

暗闇の中から袴姿の少女が出てきて詠に話しかけてきた。

 

「恋は?」

 

「月に付けさせたわ。城内ちゅうても危険はいっぱいやからな」

 

「そう。世話をかけるわね」

 

「なにに言うてんの。これはうちらが好きでやってる事や。だから詠は気にせんでええ」

 

霞はニカっとわからい詠に伝えた。

 

「そうだったわね……それで、連合軍の動きはどうなの?」

 

「ちゃくちゃくと集まってきとるで有名どころばっかりや。陳留の曹操。江東の麒麟児、孫策。西涼の馬騰。それにうちらを貶めた袁紹と袁術。よくもまあこんなぎょうさん集まったもんやわ」

 

「こんな檄文を諸侯に送っているんだからホント用意周到よ」

 

詠はクシャリと文を握りつぶした。

 

「……馬騰様も連合軍に参加するのね」

 

詠の顔は苦虫を噛んだような顔になった。

 

もともと月の住んでいた場所は西涼に近かった為、馬騰とも面識があったからだ。

 

「でも確か馬騰様は病で床に就かれていたはず……」

 

月たちが洛陽に来る前に馬騰に挨拶行った時、病で会う事は出来ないと言われていた。

 

「とにかく、厳しい戦いになりそうね」

 

「任しとき、月と賈駆っちはウチが守ってやるで」

 

「……恋も、月と詠、守る」

 

「うぉ!恋!いつの間に来たんや!」

 

「……?」

 

「まあええか。月は部屋まで守ってくれたんやろ?」

 

「……(コクン)」

 

「それじゃ月の部屋の前には華雄が居るんやな」

 

「……(コクン)」

 

「すまないわね恋も」

 

「……いい。月、家族。だから守る」

 

「そうだったわね……」

 

恋の言葉に詠は微かに微笑んだが直ぐに表情を戻した。

 

「必ず月を守るわよ」

 

「ああ。任しとき」

 

「……任せる」

 

力強く頷く二人に詠は空を見上げた。

 

「これが月の天命だなんてボクは信じないわよ。絶対に……絶対に月を守って見せるんだから」

 

空に浮かぶ月を睨みつける詠。だが助けようとするものがいる事に彼女達はまだ知らないでいた。

 

《一刀視点》

 

「……いよいよ、か」

 

俺は部屋で自分の刀の手入れをしながらつぶやいた。

 

(コンコン)

 

「?どうぞ」

 

「……」

 

ノックをして入って来たのは桃香だった。

 

「どうしたんだ桃香。もしかして眠れないのか?」

 

「うん、なんだか緊張しちゃって……」

 

「そうか……でも、それだけじゃないんだろ?」

 

「……やっぱり、ご主人様にはお見通しなんだね」

 

桃香は笑うがいつものような笑顔ではなかった。

 

「……董卓さんが心配?」

 

「うん……ねえ、ご主人様。みんなに話して連合軍を辞めさせることは出来ないのかな。そうすれば」

 

「それは出来ないよ。事実がどうであれ、それそれの思惑でみんな参加してるんだ」

 

桃香の言葉を遮り俺は桃香に言った。

 

「連合軍から言わせれば、『そう言う事態を作った董卓が悪い』ってことになっちゃうんだよ」

 

「そんな……」

 

桃香は手を強く握り締め、肌触りのよい手が白くなっていった。

 

「だから、俺たちが助けに行くんだろ?」

 

そんな桃香の手を取り俺は微笑み優しく話しかけた。

 

「……っ!」

 

そこで桃香は「はっ」と見上げてきた。そんな桃香に俺は微笑んだ。

 

「……うん、そうだよね。絶対に董卓さんを助けようね」

 

「ああ。さ、夜も遅い、桃香も早く寝た方がいい」

 

「うん、おやすみなさい。ご主人様」

 

桃香は微笑むと扉に向って歩き出し扉の前で止まった。

 

「?どうしたんだとうか?」

 

「……ご主人様は何処にも行ったりしないんだよね?」

 

「?ああ。それにここを出て行ったとしても行く当てが無いからね」

 

「そういうことじゃなくて!」

 

「と、桃香?」

 

「っ!ご、ごめんなさい。なんでもないの気にしないで!」

 

桃香はそう言うと部屋から出て行ってしまった。

 

「……?そういうことって、どういうこと?」

 

俺は誰も居なくなった部屋で一人首を傾げていた。

 

《桃香視点》

 

「はぁ、何やってるんだろ私……」

 

ご主人様に怒鳴って、部屋から逃げ出して……

 

「桃香様」

 

「愛紗ちゃん」

 

一人トボトボと部屋に戻っていると途中で愛紗ちゃんに出会った。

 

「あは、あはは。もしかして聞いてた?」

 

「申し訳ありません」

 

愛紗ちゃんは一言私に謝ってきた。

 

「ううん。別に気にしてないよ……ねえ、愛紗ちゃん」

 

「はい」

 

「もし、もしもだよ?この戦いで大陸が平和になったら……ううん。やっぱりなんでもない」

 

「桃香様……」

 

「あはは……私って臆病なのかな」

 

自傷気味に言うと愛紗ちゃんは頭を横に振った。

 

「そんなことはありません。私とてお聞きする事は出来ないでしょう」

 

「そっか……」

 

そうだよね。愛紗ちゃんもご主人様の事……

 

「ホント。お互い、大変な人を好きになっちゃったね」

 

「ええ。ですがそれも天命だったのかもしれません」

 

「天命、か。私は違うと思うな」

 

「違うと申されますよ?」

 

「だって、誰を好きになるかなんて神様に決めて欲しくないもん。ご主人様に出会えた事は天命かもしれないけど、だからって私の気持ちまで天命で決められてるなんてそんなこと思いたくない。ご主人様を好きになったのは私の気持ちなんだよ」

 

「そうですね。この気持ちは私だけのもの……決して天から授かったものではないのですよね」

 

愛紗ちゃんはそう言うと目を閉じ自分の胸に手を当てていた。

 

私も愛紗ちゃんに習って目を閉じて自分の胸に手を当ててみる。

 

(トクン……トクン)

 

胸の鼓動が聞こえる。とても穏やかな私の鼓動。

 

ご主人様の事を思うだけで私の心はとても安らぐ。

 

でも、偶に私の胸は張り裂けそうになるときがある。それはご主人様が戦場に出ている時、何日も会っていない時にそれは起こる。

 

そんな時は、駆け出してご主人様を探しに行きたくなる。探し出してその胸に飛びついて思いっきりご主人様に抱きしめてもらいたい。

 

そしてご主人様の笑顔を私に向けてもらいたい。それだけで私は安心できる。

 

もし、ご主人様が居なくなったらと考えただけで私は震えが止まらなくなる。

 

何処にも行って欲しくない。私の傍にいて欲しい。とても我儘なのかもしれない。けど、それは私の……桃香としての願い。

 

劉玄徳としてでなく、たった一人の女の子、桃香としての願い。

 

それでも、劉玄徳として私は民を導き大陸を平和にしなくちゃいけない。例えそれが苦難の道であったとしても……

 

だから愛紗ちゃんには良く私情を挟んではいけないと言われていた。

 

私情を挟めばそれは後に大きな禍になりかねないから。

 

でも愛紗ちゃんはこうも言ってくれた。

 

『ですが、それを実現させるのも私たちの役目です。ですから桃香様は自分のお心のままにお進みください。私たちが全力でその願いをかなえて見せます』

 

その言葉を聞いた時、私はとても嬉しかった。その言葉があったから私はここまでやって来れたんだと思う。

 

愛紗ちゃんたちが居なかったらきっとここまでやって来れなかったから。

 

「……愛紗ちゃん」

 

「はい。なんでしょうか」

 

「ありがとう。愛紗ちゃん」

 

だから私は今出来る最高の笑顔で愛紗ちゃんにお礼を言った。

 

「……いいえ。それにお礼を言われるにはまだ早いですよ。大陸にはまだ私たちの助けを待っている民たちが居るのですから」

 

愛紗ちゃんも優しい微笑で言葉を返してきた。

 

「そうだね。うん!絶対に董卓さんを助けようね愛紗ちゃん!」

 

「はい」

 

私は胸の前で拳を作り意気込んだ。

 

絶対に助けてあげるからね董卓さん……

 

葉月「ども~葉月です」

 

愛紗「愛紗だ……それにしても暑いな」

 

葉月「夏ですからね~」

 

愛紗「そうだな。所で話は一気に変わるが。ご主人様は何を作っておられたのだ?」

 

葉月「いいません!」

 

愛紗「……」

 

葉月「いやいや!そこで偃月刀を向けられても言えないものはいえないんです!」

 

愛紗「まあ、ではそれは良いとしよう……だがっ!」

 

葉月「はい?」

 

愛紗「なぜ雪華にだけご主人様から武器をいただけて私には無いのだ!あんなに二人で桃香様を宥めたというのに!」

 

葉月「だって。不得手な武器で戦うのは危険じゃないですか。本作品でも一刀が言っていましたよね?」

 

愛紗「うっ……だ、だが余りにも!」

 

葉月「はは~ん。愛紗、もしかして……」

 

愛紗「な、なんだ……」

 

葉月「雪華に嫉妬しちゃってるんですか?」

 

愛紗「なっ!」

 

葉月「ご主人様から直々に武器をもらえて」

 

愛紗「そ、そんなこと、あるわけがないであろう!」

 

葉月「あ~あ。もしかしたら、前回のお話のときに言っていれば作ってくれたかもしれないのに」

 

愛紗「前回?」

 

葉月「はい。だって聞いてきたでしょ?武器の調子を」

 

愛紗「……あ、あーーーーーーっ!!!」

 

葉月「やっと気がつきましたか。やれやれ、ホントお間抜けさんですね」

 

愛紗「わ、私としたことが……がくっ」

 

葉月「……(話をそらせたかな?)」

 

愛紗「……何か言ったか?」

 

葉月「いいえなにも。さて、気を取り直して作品のおさらいですよ。いよいよ諸侯が動き出して皆が何を考えているかを書いてみたのですがどうだったでしょうか?」

 

愛紗「はぁ……よし!だが、最後の??視点は読者なら誰でも分かってしまうのだから、そうしなくても良かったのではないか?」

 

葉月「まあ。わかってしまうでしょうが。そこはそれです!やっぱり展開的にそうしたほうが良いかなと!」

 

愛紗「なるほどな。所で一つ疑問があるのだが」

 

葉月「はい。なんでしょうか?」

 

愛紗「あの製造法はただしいのか?」

 

葉月「にわか知識なのであっているかわかりません!」

 

愛紗「堂々と言うな!」

 

葉月「だって実際にどういった工程で進めるかなんて素人にはわかりませんよ!調べてみましたが行く場所が悪かったのか大まかなことしか書いてないし!」

 

愛紗「それはお前の調べ方が下手なだけだろうが!」

 

葉月「ぐはっ!きつい一言……」

 

愛紗「まったく……で?次回はどうなるというのだ」

 

葉月「ああ。次回なんですけど。少々問題が」

 

愛紗「問題?問題とは一体なんだ」

 

葉月「実は……」

 

愛紗「実は?」

 

葉月「コミケに一般参加者として行くので更新が出来ない恐れっ(ドスッ!)ぐはっ!」

 

愛紗「そんなことが許されるとでも?」

 

葉月「うぅ……」

 

愛紗「……(ジャキッ!)」

 

葉月「っ!得物を持ち出して脅すなんて卑怯だと思わないんですか!」

 

愛紗「いいや。お前のような非道な奴にはこれで丁度良い」

 

葉月「ひどっ!酷すぎる!」

 

愛紗「知らんな……さぁ、どうする?」

 

葉月「うぅ……頑張ってみます」

 

愛紗「まあ、それで勘弁してやろう。それでじかいはどうなるのだ?」

 

葉月「次回はいよいよ反董卓連合に参加するお話になります」

 

愛紗「ふむ。楽しみにしているぞ」

 

葉月「……横暴だ……」

 

愛紗「何か言ったか?」

 

葉月「……愛紗なんて愛紗なんて……一刀に抱かれて腑抜けになればいいんだーーーーーーーっ!!!」

 

愛紗「な、なな何を言っている貴様は!って、走って逃げるなーーーーっ!!」

 

葉月「うえぇ~~~~んっ!!一刀にピーーされてピーーしてピーーしちゃえーーーっ!」

 

愛紗「わーっ!わーっ!わーーーーっ!公衆の面前で何を言い出すのだ貴様は!」

 

葉月「それにそれに、そのまま子猫のように一刀に……ぐへっ!」

 

愛紗「はぁ、はぁ、まったく……ん?な、何を見ているのだ貴様ら!この話はもう終わりだ!次回を楽しみにしているがいい!」

 

葉月「……白」

 

愛紗「~~~~~っ!はっ!」

 

葉月「ぐはっ!……………………」


 
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