No.261766

トラキアの杖使い

KHさん

レヴィン×シルヴィア前提の戦後のシャルローの話……ということで子供ユニットも代替も並存しています/サイトにおいてあるのと同じもの/「作品種別」が間違っていました。申し訳ありません。きちんと選んだつもりだったのですが……反省

2011-08-06 11:28:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:448   閲覧ユーザー数:447

 
 

 ご存知の通りぼくには兄がいます。兄といっても同い年なのです。たぶん。たぶんというのは兄もぼくも自分がいつ生まれたのかを知らないからです。とにかく、兄のほうが父の家に来たのが先だったので兄、ぼくは自動的に弟です。ぼくも兄も孤児であったものを父にひきとられたのでした。

 父は武人です。武人中の武人なのです。が、兄もぼくも僧侶です。もちろん、勇猛な将としてばかりでなく徳高い人物としてトラキアにかくれなき父です。ぽくも兄も父を尊敬し、父に憧れ、父のような武人になることを夢見ていました。

 が、父は兄を杖使いの道にすすませたかったらしく、ぼくも一緒に杖使いの修行を始めることになってしまいました。父はぼくたちに武人としての道を歩んでほしくなかったようです。

 おかしな話で、働かざるもの食うべからずなのは当然のことですが、このトラキアは耕す土をもたない地で、働くといえば鉱夫として山に入るか、あるいは傭兵となるかが、男子として思いつくところです。なのに父はぼくたちを杖使いにしました。

 ぼくも兄も本当は騎士になりたかったんです。更に言ってしまえば竜騎士になりたかったのです。だってそうでしょう、トラキアに生まれた男ならトラバント王のもと空を駆けることに憧れないものはいない。歩兵の重鎮としての父を尊敬しつつも憧れるのは竜騎士でした。しかし、ぼくたちは杖使いになりました。

 兄もぼくも竜騎士になりたかったんです。本当に。だから父にその旨、言ったこともあります。その返事は、「誰だってそうだろう、みんな竜騎士になりたいのだ。だからお前たちは僧になれ」というものでした。

 僧職を志すものはトラキアで多くないです。トラキア男子の身の振り方は先程述べた通りです。僧職など思いつきません……というか、思いつけません。少しでも稼いで家族を養うのが男の仕事ですから、僧職のような職はみなあまり考えないのです。

 だからこそ、ぼくや兄さんが目指さねばならないのでしょう。ぼくたちはハンニバル将軍の息子なのです。

 養うべき家族はいません。ぼくたちは父の庇護のもと暮らせる、このトラキアでもっとも恵まれた子供です。幼いながら鉱山で働いては命を落とす子供が悲しいながら多いトラキアで、少し小太りと言えるような恵まれた食事をとることが許されているぼくたちです。親を助けるために稼ぐ必要のないぼくたちならば僧職を目指すことが許されるわけで、だからお前たちは僧になれと父は言うのでした。杖使いは必要です。でもそれを目指せる人は少ない。お前たちが目指しなさい。父はそう言うのでした。

 将軍の息子ですもの、王家の騎士になるのが夢です。トラバント王や、アリオーン王子、そしてなによりアルテナ様のお役に立ちたい。でもなにも武器を取ることだけが王家のお役に立つことではないからな、と父はぼくたちを説き伏せました。なんだか丸め込まれた感もあります。

 実際、それはやはり口実だったのだと思います。先にも言いましたが父は兄を僧職に就かせたかったのです。

 周知の通り、ぼくの兄コープルはいまはシレジアの王です。父がどこまで気づいていたかは分かりませんが、神魔法フォルセティを身にそえて父のもとにあった兄です。そんな兄を父はまずは僧職に就かせようとしたのでしょう。ぼくはそのとばっちりを受けたわけです。

 とはいえ、口実の中に真実がないとはいえません。幾ばくかの真実を含まない口実は口実の役を果たせませんからね。確かに杖をもってしても王家に忠節を捧げることは出来たでしょう。もっとも、杖使いとしてようやく使い物になるかならぬかのところで父を縛る人質となってしまったのだから王家への忠節として杖を使ったことなど結局ありませんでしたが。

 そして丸め込まれて杖を学びはじめたからといっても、それはきっかけでしかありません。いまのぼくは杖使いとしての自分に誇りを持っています。父の言った通りで杖使いには杖使いにしか出来ない忠節の捧げ方があり、杖使いには杖使いの戦いがあります。解放軍にいた杖使いのみんなは本当に……本当にみんな強い人だった。そしてぼくは彼ら彼女らと同じく自分が杖使いであることに誇りを持っています。

 いまぼくは王家に仕える杖使いです。仕える王家は変わってしまいましたが、実際は変わらないのだと思います。だってそこにはアルテナ様がいるのだし……憧れて仰ぎ見たトラバント王は既に亡くアリオーン王子も遠いどこかに隠棲しておられますが、アルテナ様がいるのです。ダインの血筋ではありません。ノヴァの姫君だったのですけれども、変わっていくトラキアと変わらないトラキアがそこにはあって、ぼくはそんなトラキアのためにこれからも杖を捧げていこうと思っています。幼い頃夢みていたのとは随分とちがう形に思われますけれども、その実、何も違わないのかもしれないなぁ、と最近ではよく思うのです。

 
 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択