-AM08:50 土野動物園入り口前-
日曜日というだけあって、動物園の前には開園前だと言うのに大勢の人たちが列を作って待っていた。
そんな大勢の中に真司と恵理佳の姿がある。
「・・・何でこんなに混んでいるんだ・・・」
「仕方ないじゃない、日曜日だし、天気もいいし」
入る前からげんなりしている真司とは対照的に恵理佳は周りで並んで待機している子供たち同様、開園を待ちきれない様子だった。
真司からしてみれば休日にこんな早くから行動するだけでも億劫になるというのに、場所が場所だ。
周りを見回せば家族連ればかり。
そのうち男女のペアなども来るのかも知れないが・・・朝一番で来ているのは流石に自分たちだけではないのかと思わざる得ない。
非常に、浮いている気がする。
そんなことを考えながら待っていると開園時間となった。
一気に活気付いた他のお客は流れ込むようにして園内へと入っていった。
「ほら、兄さん。私たちも行こう?」
「・・・おう・・・」
ここまで来てしまった以上は今更引き返せない。
真司は覚悟を決めて園内へと足を踏み入れる。
十年ぶり位に来た動物園は昔見た記憶と大差はない。
何処を見回せど動物だらけ。
普段モニター越しでしか見れないような動物たちが沢山居る。
動物が好きというわけではない真司でも多少は心惹かれる光景だった。
「兄さん、パンダ!動いてるパンダだよ・・・!」
「・・・おう、パンダだな」
新しい動物を見つけては小走りで移動して、檻の前で釘付けになり子供のようにはしゃいでいる恵理佳。
むしろ、子供そのものである。
真司はそんな様子を傍らから眺めていた。
「キリンに餌あげて来るね」
「おう」
更に餌をあげられる動物には片っ端から餌を買い、与えていった。
餌を貰って食べる動物たちも嬉しいだろうが、餌をあげている恵理佳はその数倍嬉しそうだった。
(これ、1日で回りきれるのか・・・?)
広い園内を見渡しながらふと疑問に思った。
ひとつの檻の前へ行くと十分近くは動かない。
餌をあげられる動物が居れば更に動かない。
真司が心配するのも仕方が無いことだった。
・・・・・・・・・
(あと、少しか・・・)
真司はペンギンたちが居る柵の前で恍惚としている恵理佳を見ながら携帯に目をやる。
開園から今まで約3時間。
一切休憩は無しでひたすら見続けている。
自分が居なくても別にいいんじゃないかと思った真司だったが、今回は来た理由が理由だけになるべく恵理佳には気兼ねなく楽しんでもらいたいと考え、言い出せずに居た。
だが、もう少しで自然な流れで休憩を申請出来そうだった。
「恵理佳、そろそろ昼時だし・・・飯にしないか?」
待ってましたと言わんばかりの勢いで言いたい言葉をなるべく思いついたかのように振る舞い、恵理佳に話掛ける。
「あ、もうそんな時間なんだ・・・。それじゃあお弁当にしようか」
「・・・弁当・・・?」
頭の中で園内にあるレストランでの風景を描いていた真司は思わず聞き返してしまう。
「うん、早起きして作って来たの」
「・・・マジか」
「私が作れるときは作ってあげないとね。外食なんて何時でも出来るし」
只でさえ早いと思っていた集合時間。
更に早起きとは・・・と、驚いていた真司だが、普段から通学の際も自分で弁当を作っていると聞いたことがあるので、別段驚くことでもないのかもしれない。
「別に恵理佳がコッチに来れば毎日外食じゃ無くなるけどな」
「と、とりあえず・・・食べられる場所探さないとね」
「・・・?そうだな?」
言うが早いか恵理佳はさっさっと弁当を食べられる場所を探しに早歩きで移動を始めた。
真司は首をかしげながらもその後を追っていく。
・・・・・・・・・
「・・・触れ合い広場・・・?」
「うん、色んな種類の可愛い子犬が沢山居るんだって」
(飯食ってるときにパンフガン見ていると思ったら・・・コレか・・・)
適当なベンチに座り、美味しく昼食を終えた二人。
その昼食中に恵理佳は黙々と動物園のパンフレットと睨み合いをしていた。
どうやら午後のスケジュールを自分なりに考えていたらしい。
「まぁ・・・行くだけ、行って・・・」
「兄さん、早くッ!」
未だに座りながらまったりしている真司の視線の先にはこちらを振り返り手を振っている恵理佳の姿があった。
「・・・やれやれ・・・」
触れ合い広場。
名前の通り、ココは様々な動物と直に触れ合うことが出来る。
今の時間は柵の中に子犬たちが数え切れないほど入れられている。
同様に柵の中には子供たちも数え切れないほど入っていた。
柵で囲われている広場自体はとても広いので窮屈さは感じないが・・・
見回せど中に居るのは子供だけ。
例外は真司と柵を挟んで視線の先に居る恵理佳くらいのものだった。
(流石に、ココは入れないだろ・・・)
着いた当初は真司も当然のごとく入るように言われたのだが、丁重にお断りした。
缶コーヒー片手に子犬たちと楽しくじゃれ合っている恵理佳をぼーっと眺めている。
「・・・」
自ずと真司の目線は見えそうで見えなさそうで時折見えるスカートの下へ注がれていた。
「兄さんー、本当に入らなくていいの?」
「・・・あー、俺はコッチ側の方が楽しいからいいわ」
柵の向こうで恵理佳が話しかけてくるが、その声は半ば聞こえていなかった。
「見て見て、すっごいふさふさしてる」
「・・・マジで・・・ッ!?」
「・・・?見れば分かるじゃない」
「いや、流石に・・・」
恵理佳は胸に抱いていたポメラニアンの子犬を真司に良く見えるように向きを変える。
「雑種なのかな、でも綺麗な色してるよね。毛並みもいいし」
「いや、純白じゃないか。毛は知らないが」
「・・・?」
先ほどから微妙に会話がズレていることを感じ始めていた恵理佳は真司の視線が犬に行っていないことに気がつく。
「「・・・・・・」」
瞬間、広場に乾いた音が高らかと鳴り響いた。
帰りの道中、次のお詫びはどうするべきかと頭を悩ませる真司だった。
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