「んで!はぁ、はぁ…ここが地下一階大電算室!」
「…なぁ、何で俺達走ってたんだっけか?」
「おぉ!先輩だ!ばててるけど」
ブース分けされた広大なフロアだ。
所々に大型のディスプレイが設置されている。
「俺に、ふぅ、聞くな」
全力疾走の結果、五人全員息が上がっていた。
実習中だった何人かの二年生が寄ってくる。
「はいはーい。実習中だろ、ちょぉっと後でなぁ」
あっという間に息を整えたショージが手を叩いて二年生を払う。
「ま、ここがシメの第四電算室なわけじゃ。ひひひ」
しわがれた声が後ろから雨岸の肩を叩く。
「始めまして雨…」
「あ、扇谷じいさん!」
日の丸の描かれた扇子をはたつかせている老人だ。
「またおぬしら授業をサボってきたな?」
「ちがうって。今日は雨岸さんの案内」
「でも結局サボるんじゃろ?」
雨岸を除く四人が息を合わせて肩をすくめる。
「あ、ゆうじせんぱーい!」
「あら、今日は二組もいたのね」
おさげ髪の女生徒が教室の奥から走ってきて、雄二の右腕に抱きつく。
「お、と」
抱きつかれた衝撃で雄二が少しよろける。
真横で見ていた雨岸が軽く目眩を覚えて頭を振る。
「少女マンガみたいな光景が…」
「あはは。この子積極的だからね。いつもこうよ」
雨岸は雄二の表情を盗み見る。
無表情。恋人同士にも見えないが、いやでもなさそうだ。
「ゆうじ先輩…」
おさげ髪の女生徒は雄二の右腕に抱きついたまま、雨岸に視線を止める。
「ん?…うちの転入生。雨岸さん」
「雨岸純子です。宜しくね」
「あっ、二年二組五班、機甲科の秋吉早苗です。よろしくおねがいします」
雨岸の手にあわてて秋吉が手を差し出し、握手する。
「機甲科?」
「あ、しらないかな。パイロット科と機械技師科の弊習科よ。私達の下の年度からやってるの」
「プログラムを使わずに?」
秋吉は照れくさそうに頬を掻く。
「選ばれてますから」
「優秀生を選抜式でやってるからね。何とかなってるみたい」
「さて、模擬戦といくか。雨岸さん、見といてな。雄二…お?」
雄二が右肩に手を置き、顔をしかめているのを見つける。それはいつものように刹那で消えた。
「じいさん。メインディスプレイ」
「ほい。『あー、諸君。ちょっと手を止めてメインディスプレイかチャンネル1を開けるように。四年生のトップチームが模擬戦をするぞ』」
扇谷がリモコンで天井から巨大なディスプレイをおろし、マイクで電算室の全生徒に伝える。
「信濃」
「巴」
ショージが信濃を連れて、雄二が巴をつれてコクピットシミュレータに入る。
最大で64機の立型戦車とその戦闘をシミュレートする大規模な演算装置だ。
「『カメラは二組の三班がお送りしまーす』」
両方のコクピットスタンバイランプ、次いで六個のカメラスタンバイランプが点灯する。
「なんだか楽しそうですね」
「あやつらはよく自分の授業を抜けて下級生の授業を手伝っとるからな。人気者じゃよ。きゃらも立っとるしの。『それでは始めるぞ』ぽちっとな」
扇谷がリモコンからシミュレータ内に開始の合図を送る。
仮想された廃墟の中、四機の立型戦車を六台のカメラが捕らえ、巨大なディスプレイに写った。
巨大な左腕と盾になっている右腕が異彩を放つ身長の低い戦車。
カメラのテロップに「田北先輩搭乗ユニークタンク『レフトハンド』」と表示される。
学生がやっているらしい、遊び心のあるテロップだ。
シンプルな車体の各所に多彩な武装を搭載した戦車。
テロップは「ショージ先輩搭乗カスタムタンク『オーダイン+』」。
背の高い、スレンダーな車体に拳銃のような形の小さな銃器を二本持った戦車。
テロップは「信濃先輩搭乗ユニークタンク『ワイヤード』」。
小柄な車体に大きなライフルを構えた戦車。
テロップは「アサキ先輩搭乗ユニークタンク『スナイパーT』」。
大規模なシミュレータがあって初めて、このような多彩な戦車が出てくるのだ。
ショージの乗るオーダインは以前に様々な国で主力として活躍した戦車をカスタマイズしたものだろう。
雨岸には手にとるように四機の戦車の構造がわかる。そしてその技術力の水準も理解できた。
戦闘開始の合図のように、レフトハンドの左腕、六連装のチェーンガンが地面をなぎ払う。
オーダインとワイヤードは左右に散って障害物の陰に入る。
スナイパーTはその場をレフトハンドに任せ、わき目も振らずに後退していく。
シミュレータの設定上、一定距離から開始するのだろう。ショージと信濃のペアはここでスナイパーTを叩きたいはずだ。
雨岸はぶつぶつと呟きながら、メインディスプレイに表示される6つの画面に釘付けにされていた。
レフトハンドの右腕がぎこちなく動き、先ほどオーダインが飛び込んだ物陰に戦車用手榴弾を投げる。
中空で見えない何かに手榴弾が切断され爆発すると、レフトハンドはチェーンガンを横に流し、ワイヤードが飛び込んだビルに弾丸の雨を叩きつける。
一瞬止まったかと思うと、左腕にくくりつけてあったバズーカが火を噴き、ビルの残骸を瓦礫の山に変える。
レフトハンドは飛び出てきたワイヤードをチェーンガンで追いかけながら物陰に隠れる。
ぱぱぱと小さな爆発音を発し、レフトハンドの死角から迫っていたオーダインがマイクロミサイルを放つ。
右の真横。レフトハンドは右側の反応が悪いと知ってのことだろう。6発のうち5発までを盾で受け、最後の一発が頭部に着弾する。
頭部はセンサー類が集中しているが、感覚器官が完全に奪われたわけではない。
マシンガンの追撃を後ろに跳んでかわし、オーダインとの間の地面に閃光手榴弾を叩きつける。
光と砂塵がオーダインとレフトハンドの視界を塞ぐ。
レフトハンドが盾を構えなおて前に跳び、砂塵を突き抜けると、肩に積んだ大型の砲を撃つべく片膝をついていたオーダインが目に入る。
ショージは雄二が距離をとると読んで、センサーの復旧を待たずに決めにいったのだろう、裏目に出た。
胸部に零距離でチェーンガンを乱射され、オーダインは機能を停止する。
不意にレフトハンドの左腕の肘から先が切断され、上からワイヤードが跳びこんでくる。
レフトハンドの右肩関節に拳銃が乱射されてちぎれ飛ぶ、衝撃でバランスを崩し、後ろに倒れる。
拳銃で狙いを定めたワイヤードの胸部に大きな穴が穿たれる、カメラが遠方のスナイパーTを捉えた。
メインディスプレイに大きく「決着」という文字が浮かぶ。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
小説というよりは随筆とか、駄文とか、原案とか言うのが正しいもの。 2000年ごろに書いたものを直しつつ投稿中。