その日、僕は今年から大学に進学するので横浜で一人暮らしを始めた。
僕の名は青木誠一郎。
特に特徴があるわけでもない。どこにでもいる普通の男子だ。
ピンポーン
まだ、荷物のほとんどは段ボールの中で、さて取り出すかというときだった。
インターホンが鳴った。
「誰だろう?」
家族は遠く北海道にいる。どうかなえてもくるはずがない。
友達なんかもまだこちらにはいないのだが。
もしかしたら、なにかの荷物か? でも、何も届く予定はない。
僕は、玄関を開けた。
そこにいたのは、なんか目がチカチカしそうな派手な服を着た女の子だった。なんか手には光るステッキみたいなものを持っている。そう、これはどこかでみたことがある。正確に言うとアニメに出てくるような衣装だ。
年の頃は僕くらいか?
栗色のウェーブがかかったロングの髪。白いぷるぷるした肌。整った顔。モデルといってもいいほどの美少女だ。
「はぁ~~い。ボンジュール。私のお願い聞いてくれない? はぁと」
はぁと、って言葉にしちゃったよ。
少し痛い子だ。
だが、見た目にだまされちゃダメだ。これは罠かもしれない。実家の向かいに住んでいたきれいなお姉さんとみんなの憧れだった由香さんは、東京の大学にいって帰ってきたら金髪のキャバ嬢になっていた。そう、都会は恐ろしいんだ。
下手をしたら、僕も……。
「間に合ってます」
僕はそういうと玄関を閉めた。いや、閉めようとした。だが、閉まりきる前にガッと女の子の足が入ってくる。
ドアの隙間からのぞき込んだ女の子の瞳に肉食獣の殺気が宿っていた。
「おんどりゃあ、人が下手に出てりゃあいい気になりやがって。いいか、おまえみたいな○○(自主規制)はおとなしくこのミーコ様の言うとおりにすりゃいいんだ。さもなきゃ、東京湾で○○(自主規制)させっぞ!」
「ひぃ」
あまりの迫力に、僕は手を離してしまった。
それを待っていたかのように女の子、たぶんミーコという子は玄関を思い切り開け放った。
そして、ぺたんと尻餅をついている僕に抱きつきながら耳元でささやく。
「ねぇ~、私だってぇ。あまり乱暴なことはしたくないのぉ。だから、話を聞いて♪」
僕はこくりとうなずくしかなかった。
部屋には入り込んだミーコにお茶を出して向かいに座る。
「それで、なんのようなの?」
「あのね。私はこことは違う魔法界からきたミーコ。魔法界の王女なの」
「はぁ」
僕は内心、もうどうでもよくなっていた。
「それでね。今魔法界の魔法が消えかかっているのよ。それを何とかするには、この世界であるものが必要なの」
「あるもの?」
僕が聞き返すと、ミーコの表情は緊張していた。
「……が必要なの」
「えっ?」
あまりにもか細い声でなんといったか聞き取れない。
「だから、……毛が必要なの」
「毛? 毛って髪の毛とか胸毛とかの毛?」
ミーコは首を縦に振る。
「私たちの使う魔法は、こちらで契約した人間の髪の毛を力に変えているの」
「……もしも、契約したらどうなるの?」
「私たちが魔法を使う度に毛がなくなるわ」
「……帰れ!」
僕は自分の額に血管が浮き上がっているのを自覚した。
どこの世界に毛を差し出すやつがいるか。だが、立ち上がった僕の足にしがみつきながら言った。
「もちろん、契約者にはそれ相応の見返りがあるわ。たとえば社会的な成功とかお金とか」
「んなもん、信じられるか!」
すると、ミーコは三枚の写真を胸の谷間から取り出した。
「今、契約している人たちよ」
僕は息をのんだ。
ブルース・ウィリスに、ニコラス・ケイジ、ジェイソン・ステイサム。
いずれも映画で活躍している俳優たちだ。
「まさか、嘘だろ……」
「嘘なんて言わない。ちょっと前にはショーン・コネリーもいたんだけど、あの人は年だから解約したわ。それに、日本人にも契約者はいるのよ」
「たしかに、皆年々髪が薄くなっているが……。日本人の場合は誰だい?」
僕はひそかに心動かされていることに気がついた。髪と引き替えに成功が待っている。もしもそれが本当ならば、この厳しい世の中だ。契約するのも
いいかもしれない。
「海原はるかと田山涼成と温水洋一よ」
それを聞いた瞬間、僕は問答無用で部屋からミーコを蹴り出した。
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ポッと頭に浮かんだコメディ小説です。
魔法少女は出てきますが、萌えはありません。
だから、怒ってものをディスプレイに投げないでください。