No.256469

異聞~真・恋姫†無双:十七(前編)

ですてにさん

前回のあらすじ:左慈と一刀は夕日をバックに拳をぶつけ合った。鈴々は聡い子。桃香さんはメダパニにかかっている。

朱里と雛里の拠点です。
はわわあわわが賢いあざとい・・・。

続きを表示

2011-08-03 01:17:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9773   閲覧ユーザー数:6591

~羽ばたく鳳凰は眠れる龍の目覚めとなりて~

 

闘い終わって日が暮れて。愛紗の記憶を本格的に戻す前に、俺は宿の部屋を使って、皆と個別に話す時間を持っていた。

 

于吉曰く、筋断絶するのは翌朝になるだろうから、落ち着いて話すなら今のうち・・・と。

本気でそんな重症になるなら、医者でも探しておいてくれ、と言ったら、なんかほくそ笑んでいたけど・・・。

術であっさり治せるのに、それを伏せてるってところなのか。

 

というか、ちゃんと鍛えてきたんだから、そんな簡単に壊れないよね、俺の身体。そうだよな!?

 

「朱里。すぐに思い出してくれて、すごく嬉しかったんだけど、どの辺りで戻ったの?」

 

「実は、桃香さまに保護してもらったのが、昨日で。

軍師としてお仕えすることを決めて、今日から、雛里ちゃんを捜すために、

桃香さまたちにお願いして、この街に滞在していたんです。

・・・ただ、愛紗さんや鈴々ちゃんが、あの人を『ご主人様』って呼ぶことに、すごく違和感があって。

もちろん、その時は理由が判らなかったんですけど、見極める時間を下さいってお願いして、

まずは雛里ちゃんを見つけて、一緒に判断してもらおうって考えてました」

 

「そっか、じゃあ、左慈をそう呼んだわけではなかったんだ」

 

「女の勘とか、直感に従うのは私らしくないって思ったんですけど。生理的にどうしても受けつけなくて。

・・・でも、それは正しかったんです。こうして、ちゃんとご主人様をご主人様と呼べたわけですから」

 

えへへ、と嬉しそうに微笑む朱里。

 

「既視感を持ったのは、皆さんがご主人様に礼を一斉に取った時です。

雛里ちゃんがいたことにも驚きましたが、礼を取る程の男性がいたことにもっと驚きました。

ただ、どこかで納得している自分がいて。あの人なら、それは当たり前だって」

 

変ですよね? と朱里は笑う。

 

「そこから、断片的にご主人様と過ごした記憶がどんどん浮かんできて、

困惑しているところに、ご主人様が声をかけてくださったんです。

 

『諸葛、孔明さんだね。雛里から話は聞いている』・・・そう言って、向けてくれた笑顔に、身が震えました。

 

身体中の血が喜びに駆け廻り、頭が真っ白になって、心臓が締め付けられるような、不思議な感覚で。

それが収まった時、私は『ご主人様』をしっかりと認識できていました」

 

貂蝉に他の外史の記憶を見せられた時の感じに似てる、と思う。

受け取る感覚は個人差としか言いようがないだろうし、朱里が俺をしっかりと思い出してくれた、

その事実が今は嬉しくてしょうがなかった。

 

「本当に、ありがとう。朱里」

 

「・・・でも、一緒には、行けないんですよね?」

 

陰りを見せる朱里の顔。この子は、諸葛孔明。一を語れば、十どころか、百すら読みとる天才。

だから、俺に出来るのは、目を背けずに、正面からちゃんと向き合うこと。

 

「・・・うん。今回、俺が国の代表になるわけにはいかない。

 

俺はね、その度に記憶を消されていたけど、三度外史を戦い抜いている。

朱里たちと戦った、王としての記憶以外に、呉と魏に、御遣いとして、一度ずつ降り立った。

その全てを思い出した今だからこそ、出来ることがある。

さらに、俺は大陸の戦乱が収まったら、強制的にこの世界から弾き出される決まり事になってる。

 

だから、朱里の王には、なれない」

 

「・・・曹操さんと、一緒に帰るんですか? 髪の色が変わってはいましたけど、あれはどう見ても曹操さんです」

 

「ああ、朱里の言う通りだ。

蘭樹って名乗ってはいるけど、彼女は覇王として役目を果たした曹孟徳。

彼女を一人の女の子に戻すことを強く望んだ結果、紆余曲折はあったけど、共に歩んでいる。

 

魏の記憶しか覚えてなかったとか、理由づけはいくらでも出来るけど、結局、全部言い訳だ。

俺は、華琳を選んだ。

記憶を取り戻せた今ですら、俺は、きっと華琳を選ぶ」

 

一気に言い終わると、俺は息をついた。

そして、訪れる沈黙を、俺は黙って受け止める。

 

そんな重たい空気が暫し流れ、朱里が口を開こうとした瞬間。

 

ばたん!

 

・・・なぜか勢い良く、入口の扉が開いた。

 

「はっ、話は聞かせてもらいまひた! まずはその悲しみの幻想をぶち壊しましゅ!」

 

「ぶっ!」

 

「はわっ! ひ、雛里ちゃん!?」

 

俺が思わず噴出したのも、どこぞかから拝借した決め台詞を組み合わせて、突然登場した雛里の仕業である。

シリアスブレイカーに仕立て上げた犯人は容易に想像がつく・・・。

 

「華琳と星が組むと酷い事になるよね・・・うん、いろいろと・・・」

 

「あわわ、ば、ばれちゃいました」

 

「・・・雛里、全部聞いたって理解でいいのかな?」

 

脱力してしまったものの、聞くべきことは聞く。

このタイミングで部屋に来たってことは、華琳たちから説明を受けたということだろう。

これは念押しの確認みたいなものだ。

 

「・・・はい、その上で来ています。華琳さんたちと真名も交換させてもらいました」

 

微かに微笑みながら、はっきりと答える雛里。

朱里がまだ『はわはわ』慌てているのを、そっと頭を撫でる事で落ち着かせながら、

俺は自分の中で出た結論を、雛里に続けて確認していく。

 

「・・・疑わないの?」

 

「え~と・・・結局、話に聞いたご主人様も、私が信じようと思うご主人様そのものでしたから」

 

額に手を当てながら、どう答えるべきか吟味しながら、彼女はゆっくりと答えを口にする。

その仕草がなんとも言えず愛らしいものなのだが、今はその時では無いと自重する。

・・・手が届かないし。

 

「劉備さんを前に見せた、あの王たる者の気迫も、経験の上といえば、いろいろ合点がいきます。

ただ、ちょっと節操が無さ過ぎ、だとは・・・思います」

 

「ちょっと待てぇ! どこまで話したんだ、あいつらはぁ! 俺の個人情報駄々漏れ過ぎるでしょう!?」

 

「・・・雛里ちゃん、それは諦めないと。だって、ご主人様なんだもん」

 

「あわわ、もげればいいのに・・・」

 

俺の叫びは完全無視だし・・・。

雛里みたいな容姿の娘に、もげろって言われるなんて・・・あ、やべ、なんか涙出そう。

 

「はわわ、ご主人様!? な、泣かないでくだはい! ひ、雛里ちゃん、ほ、本題に入ろうよ!」

 

「う、うん・・・あのね、朱里ちゃん。ご主人様は大陸に巻き起こる戦乱を収めたら、天の世界に帰るんだよね?

だったら、その時についていけばいいの。あの道士さんもそれしかないって言ってたよ!

・・・それでもって、第二夫人の座を狙うんだよ」

 

「はわっ、ひ、雛里ちゃん。さ、策士だね!?」

 

二人ともー。本人の目の前でその会話をするのはどうかと思いますがー。

聞いてないけどねー。

 

「それに、星さんに風さん・・・えっと、程昱さんって言うんだけど、

その人もついていく気満々だから、頑張らないとだめなの」

 

「あの頭に人形乗せてる、綺麗な金髪の人も!?」

 

「そうだよ、だから今から色々策を練らないと。実はご主人様は、他の外史で・・・」

 

雛里は華琳に聞いた過去の歴史をかいつまんで、朱里に説明していく。

その説明のわかり易さに、止める事も忘れて、俺も復習がてら聞き惚れていた。

 

・・・女性関係もさらっとだけど、全部ばらしてくれたのね、華琳・・・。

 

「はわわ、これはまずいよ、雛里ちゃん。敵が多すぎるね、すぐにでも手を打たないと。

・・・まずは、桃香さまにお暇を頂かないと・・・気の迷いでしたって押し通すしかないかな・・・」

 

「今はご主人様の言葉に、ものすごく心が弱くなってるから、いくらでも押し切れると思う。

劉備さんには悪いけど、これもご主人様と私達の幸せのためだよ」

 

黒い! 黒いよ! このちびっこ軍師さんたち!

というか、朱里まで抜けたら、劉備さんが三国の一角になれるかも怪しくなる!

 

「待って、朱里! 君まで劉備さんの元を離れたら、歴史の歪みが加速して、なんかいろいろとまずい!」

 

「・・・大丈夫です。孔明に策あり、です♪」

 

「え?」

 

「ご主人様がいずれ天の世界に帰るなら、後継ぎを最初から決めて、喧伝しておけばいいんです」

 

「え、でも、俺、この世界に子供なんかいないんだけど・・・」

 

かつての外史じゃともかく。あ、口にしたら薮蛇だ。黙ってよう・・・。

 

「華琳さんの話にあった、孫策さん。その人の考えを真似しちゃうんです」

 

雛里は朱里の考えを見通したのか、さりげなく補足説明をしてくれる。

息がぴったりなのは、さすが親友同志だよな。

・・・ん? 同志? 同士じゃなく?

 

「国を作るまではご主人様が中心で動きます。

成立させた後は、ご主人様と私達が天の世界に帰るまでに、劉備さんに王として徹底的に学んで頂きます」

 

「劉備さんへの政権移譲前提で動くってことか・・・! 

ただ、そうするとしても、華琳たちにも了解を得ないと・・・」

 

「あ、私の判断である程度、考えは話しておきました」

 

「雛里、意外と抜け目ないね!?」

 

「さすが雛里ちゃん! で、曹操さんはなんて?」

 

「ご主人様の考え次第、と。星さんたちもその考えに従う、と」

 

風と稟、何も言ってなかったけど、既に検討済み、だったんだろうなぁ。

というか、稟が俺に黙ってついてきてくれた時点で、なんか考えがあるんだろうと思っていたし。

自らの才を存分に生かすことに喜びを覚える彼女だ。

この世界の華琳の元に残っても、なんら不思議じゃなかったはずなんだ。

 

・・・でも、さすがに考える時間は欲しい。

 

「即答は、勘弁してもらってもいいかな」

 

「もちろんです。ご主人様が出した結論に、私たちは従います。ついてくるな、という命以外は」

 

笑顔で言い切る朱里。こくこくと頷く雛里。選択肢・・・無い気がする。

あ、そうだ。もう一つ、聞いておきたいことがあったんだ。

 

「ところで雛里、なんで俺に真名を許してくれた時、『ご主人様』って呼んだんだ?」

 

「・・・朱里ちゃんと決めていたんです。

私達が仕えようと思える人が、もし男の人だったら、身も心も全て預けようねって」

 

「・・・この大陸で、英雄たる資格を持つのは、圧倒的に女性が多いのに?」

 

「あ、憧れていたんです、高祖劉邦さまの夫となった人に。始皇帝の想い人であったとも伝えられていましゅ。

あぅ、噛んじゃいました・・・」

 

「・・・まさかと思うが、その男の人ってさ・・・」

 

「はい、伝承ではご主人様と同じような、天の御遣いと呼ばれたとも♪」

 

・・・爺ちゃん、知らない事が幸せって、世の中にあるよね。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
70
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択