「僕は鴟隈(しぐま)さんに会いに来たんですよ!! どーっっっして会わせてもらえないんですかっっっ!!!」
憤る若いスカラー(ここでは民間の研究者の事)に、0小隊の二人は引きつり笑いを隠せずにいた。
ぶっちゃけ、困っていた。
【迷惑なスカラー】
「いや、だからさ……とにかく落ち着けってば——」
「落ち着いてますっ」
鼻息荒く、優香を睨み付けるスカラーに、飛風も困り顔で「まぁまぁ」と制した。
「どんなに言われても、本人が会いたくないと言ってるんですから……」
「そぉれがおかしいじゃないですか! 軍が会わせないつもりなんでしょーが!」
あんなに凄い人なんだから、軍が幽閉しててもおかしくない! と息巻く青年を、優香も飛風もげんなりと眺める。
いくらなだめすかしてもコレなのだ。
もうどうしようもない。
事の発端は、広報課からの連絡だった。
とにかく鴟隈に会わせろとうるさい民間の研究者がやって来たから、とりあえず掛け合って欲しいと言われたのだ。
飛風が彼をなだめすかしている間に、優香が鴟隈の所を訪ねる。
結果——
「なんでそんな奴に会わなきゃいけないんだ?」
と、一刀両断……一目だけでも! と言い張る優香を淡々と無視して、研究に没頭する鴟隈を説得する事はできなかった。
それに、今はなんの研究をしているか定かではない。
何度も地下研究室の扉をぶっ飛ばし、得体の知れない研究をしている鴟隈を……民間人に会わせるのは危険ですらあった。
なので……——0小隊の結論。
鴟隈には会わせてやれない。
しかし、息巻いてる青年は「はい、そうですか」で引き下がる様な人間ではなかった。
スカラーとは、全く持って変わった輩が多すぎる。
「これは軍の策略ですね!」
「策略してどーすんだよっ、もういい加減帰れってぇ」
気の短い優香がキレるのも時間の問題だ。飛風は気が気じゃなかった。
「あ、あの……そもそもどうして鴟隈さんに会いたいと思ったんですか?」
「コ・レ、ですっ!」
バーンッと出されたのは、青年のMMの立体液晶画面──そこには、鴟隈が治療法が難しいとされている病気のワクチンを開発した電子サイエンス誌の記事が載っていた。
何処で撮ったのか顔写真付きである。
「あー……」
優香は言葉を失った。
いっつもくだらない研究をしているかと思えば、こんな風に……たまぁに社会に貢献するような事をする。しかもそれは全て鴟隈の「気紛れ」からきているからたちが悪い。
「あのな……──」
ひとまず鴟隈の人と成りを説明してやろうと、優香がため息混じりに青年に語りかけようとした瞬間──
「あ————っっっ!!!」
でっかぃ声にびっくりして振り返ると、後ろでふらふらと渡り通路を鴟隈が歩いているではないか。
「鴟隈さんっ?!」
「なっ!! あいつが研究室出るなんて……み、みぞれでも降るんじゃ──」
驚いている優香達をよそに、若いスカラーの青年はだかだかと鴟隈に走りよって行った。
「鴟隈さぁあんっ!!!」
歓喜の声。
それを聞きながら、二人は青年を眺めるしかできずにいた。
「どうする? 優香……」
「そ、そこは見守ってやるしかねぇんじゃねぇの?」
まんじり、となってしまってる優香達とは対照的に、青年の顔はキラキラとしていた。
「鴟隈さんっ、僕、ずっとずっと貴方に会いたかったんです!!」
抱きつかんばかりの青年に、鴟隈は顔色を変えずにひょぃと返す。
それから、遠くで投げやりにこちらを見つめる視線に気付いて声をかけた。
「おい、0小隊。なんだ? こいつ?」
「あのなぁ〜……っ!」
鴟隈に会いたいと言う民間人がいる、とわざわざ言いに行ってやったのに、偏屈研究者は微塵も覚えていなかった様だ。
つい、今し方の事だというに。
「そいつがっ、ど────っしても鴟隈に会いたいって聞かない、スカラー!!」
眉間にシワを寄せると、鴟隈はじろじろと青年を眺めた。
「なんで俺なんかに……」
「これですよ、これ!!」
青年は嬉しそうに、鴟隈の記事を見せる。
勝手に撮られた自分の顔写真に多少目を見張ったが、鴟隈はすぐにニヤリとほくそ笑んだ。
「青年」
「はいっ」
「そんなに俺に会いたかったか」
「はいっっっ!!!」
「そーかそーか、そいつぁ良かった」
鴟隈の怪しい笑みに、0小隊はピンとくる。
「ちょぉおおっっと、待ったぁああ!!!」
「なんだよ」
チッと舌打ちをした鴟隈に、優香がずかずかと歩み寄る。
「おんまえ、民間人を実験体に使うつもりだろっ?!」
見透かされた鴟隈はそらっとぼけるどころか、何を当然な、という顔で返す。
「軍の人間だったらいなくなったら大騒動だが、民間人の一人や二人大丈夫だろう」
「あほっっっ!!!」
鴟隈を殴ろうとして、グーの手を作ると、バッと青年が鴟隈をかばう様に前に出てきた。
「ちょっ、おい、あんた! このままじゃ何されるか分かんないぞ!」
「いいです! 鴟隈さんの実験体になれるんなら!!」
鴟隈はふぅ、と息をついた。
それから、優香には聞こえない様に……青年にごにょごにょと耳打ちする。
そうして、にんまりといやらしくほくそ笑むのだった。
「それでもいいのか?」
青年の顔は真っ青だった。
なんとな〜く察しをつけた優香のグーの手がだらん、と垂れる。
全く、この男は……──
「じゃあな。覚悟ついたら、また来るといい」
はっはっはっと陽気に笑いながら去って行った鴟隈とは対照的に、青年はへなへなと座り込んでしまっていた。
「同情するよ……」
優香が青年の肩に手を置いたと同時に、青年はガバッと起き上がった。
「おぉっ、なんだ?!」
「分かりました!」
「何がっ?!」
「俺、もっと強い男になります!」
「は?!」
「それからもう一度鴟隈さんに会いに来ますっ!」
ありがとうございました!!
青年は優香に一礼すると、だかだかと歩き去ってしまった。
残されたのは、なんとも間抜けな0小隊の二人。
「まるで、嵐の様な人だったね……」
青年が去って行った方向を眺めながら、飛風がぽつりと呟く。
「だから……」
「え?」
渡り通路でわなわな震えている優香。
彼女の言いたい事がよく分かっている飛風は、苦笑いのままだ。
「だから研究者ってゆー人種は嫌いなんだぁぁあああああ!!!!!」
優香の叫び声は、渡り通路に空しく響きわたっただけで終わった。
今日も。
こんな風に0小隊はいろんな人間に振り回されるのであった。
チャンチャン♪笑
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0小隊シリーズの小話。
マッドサイエンティストの鴟隈(しぐま)にどーっっっしても会いたいという民間の研究者に振り回される、0小隊のお話です(むしろコメディ)
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