No.255717

【黒子のバスケ】この瞬間のために【二次創作】

紅月赤哉さん

試合描写書いてみたかったのです。

2011-08-02 20:45:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4172   閲覧ユーザー数:4121

 

「黒子!」

 

 自分のはるか上から聞こえる叫び声に反応して、黒子テツヤは自分の目の前に来たバスケットボールを上空へとタップする。並みのプレイヤーならば触れることすら出来ない高さだが、そのボールが力強く掴まれて、そのままゴールへと叩き込まれる。

 衝撃にぐらついて、ゴールはミシミシと音を立てた。

 

「ナイスダンク! 火神!」

「敵誉めんなダアホ! もっとマークしっかりしろ!」

 

 二年の小金井慎二が誉め、主将の日向順平が小金井に怒声を浴びせる。

 チーム内の紅白戦はただの練習とは思えない殺気に満ちていた。いつも和気藹々ではなく真剣に取り組むという姿勢は変わり無いが、それでも今のこの場を支配している空気は尋常ではない。

 

「これで三十対三十の同点だ。まだまだいけるぞ。楽しんでこーぜ」

 

 そう言って黒子の頭を軽く叩くのは木吉鉄平だ。大きな掌は黒子の頭を完全に覆っている。それが彼のバスケでの強み。ただのバスケセンスにプラスされた、『無冠の五将』と呼ばれる所以だ。

 

「でも、負けたほうが筋トレ四倍っていう罰ゲームだと、楽しむには辛いと思います」

 

 黒子はそう言って色素の薄い瞳を監督である相田リコへと向けた。

 コートの外で腕を組んで仁王立ち。更に不適な笑みを浮かべている姿はとても一つ上の女性とは思えないほど堂に入っている。

 

「まー、リコなりの叱咤激励ってやつだ。キセキの世代に勝つためにはこっちもまともな練習じゃな」

「おら! のんきにはなしてんじゃねー!」

 

 パスを受け取った日向がドリブルしつつ二人に向かってくる。木吉は話を打ち切ると自軍ゴールへと向かった。

 フォーメーションはボックスワン。日向に対して火神がマークに付くようにしている。それを見越して日向はポイントガードの伊月俊へとボールを戻す。速攻が止められたことで、まずは一本とチームメイトに号令をかけた。

 今回のチーム分けは木吉以外の二年生と、木吉、火神、黒子であとの二人は一年という分け方だ。

 木吉が怪我により入院している間に鍛え上げられた五人は、個人の技量は木吉と火神に劣っていてもチーム力としては明らかに上。日向のスリーポイントを打たせるために他の四人が全力でサポートに回る。

 その日向が火神にマークされても、ゴール傍に来た際に小金井が火神と日向の間に入って遮り、ノーマークになったところで伊月のパスが通る。そのままスリーポイントシュートがゴールへと吸い込まれていった。

 

「しゃ! キセキやら無冠やらなんぼのもんじゃ! 死ね!」

 

 完全にクラッチタイムに入っているのか、かなり歪んだ本音が出ている。

 しかし火神は日向がシュートを打った瞬間に相手ゴールへと走っていた。ゴールを通って落ちたボールを黒子が掴み、そのまま体を一回転させて走っていく火神へと投げる。コートの端から端までのレーザービーム。そのパスがあると分かっていても、誰も触れられない。ボールを掴んだところで火神は跳躍し、ダンクを叩きつけた。

 

「あと一分!」

「よし、あと一本スリー打てれば勝てる! 全力で俺をフォローしろ!」

 

 日向の言葉に伊月、小金井、土田は「おう!」と呼応し、水戸部凛之介は無言で頷く。高速でパスを回しながら突き進んでくる日向達に対して火神は日向に。木吉はあくまでゴール下で待つ。

 

「ここで慌てるな! 一人ひとりあたれ!」

 

 木吉の号令に火神達は個々人に付く。これまでの陣形からマンツーマンへと切り替え。ハーフコートを侵略してくる二年生に対して一人ずつマークに付く。残り一分ということで一年二人は普段の三倍は動いてパスを防ごうとするが、ボールを持った伊月はそんな一年のマークをかいくぐり、直接ゴールへと向かう。

 

(ここで俺がシュートで二点取っても勝つ!)

 

 日向が自分に注意を集めた分、他のメンバーがシュートを打つことへは警戒が薄れる。それを考慮して、今まで攻撃回数が下がっても日向のスリーポイントのみを得点源にしてきた。

 それも、今この瞬間のため。

 

「いく――なにっ!?」

 

 伊月がスリーポイントラインの中に入り、ドリブルを止めてシュート体勢をとろうとした瞬間、ボールが手の中から消えていた。

 

「黒子!」

 

 伊月の手の中からボールを掠め取った黒子がドリブルで進む。木吉と火神が全速力でコートをかける。ドリブルをしている黒子を抜いて、ゴール下へと走る。

 

「二人ずつマークにつけ!!」

 

 伊月を除いた四人が二人ずつ木吉と火神を追う。黒子と二人を繋ぐ線上に入ってパスを通さないように。パスコースを潰された黒子は自分で進むしかない。

 

「返してもらう!」

 

 ボールを奪われた伊月が黒子の前に回りこんでマークに付いた。だが、黒子は止まることなく突き進む。

 

「通ります」

 

 黒子はそのまま伊月の横を走り抜ける。ボールは、その手の中には無い。

 

(回り込んだ一瞬で……バックパス!)

 

 黒子の斜め後ろを走っていた一年の降旗がボールを受け取り、伊月を抜いた黒子へ再びパスを出す。

 パスを受け取った黒子はジャンプしてレイアップシュートを放った。

 ボールはバックボードに軽く当たり、ゴールへと吸い込まれていた。その瞬間だけ、コートの中のプレイヤー達の動きが完全に止まったかのように、静まり返った。

 一瞬遅れて吹かれるリコのホイッスル。

 

「終了ー! 三十三対三十四で、鉄平チームの勝ち」

 

 一年二人は四倍筋トレから逃れた歓喜の叫びを上げる。木吉と火神は二人で黒子の元へと歩み寄り、同時に言った。

 

『黒子。シュートちゃんと入れれたんだな』

 

 唖然としつつ言う二人に対して黒子は少し不機嫌な表情でため息をつき、答えた。

 

「これでもシュートは練習してました。あと」

 

 一度言葉を切ってから、黒子は言った。少しだけ、上機嫌な表情で。

 

「この瞬間のために、二人にパスを絞ってきたんですから。ちゃんと成功して良かったです」

 

 火神と木吉にマークをつけさせるため。

 誰かが自分のマークに付いた時に、二人以外にパスを送るため。

 そして、パスしかないと思われている自分がシュートを冷静に決めるため。

 全ては、この瞬間のためにあったのだ。

 黒子の言葉に二人は笑い、手を上げる。黒子は順番にその手にハイタッチした。

 乾いた音と心地よい痛み。

 試合後の充実感に包まれて、黒子は笑った。

 

 

 
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