「うー…。あーつーいーっ!」
「そりゃ、夏だしな」
頭上から容赦なく照りつける日差しの下で悲鳴とも呻き声ともつかない声を上げるリンに、隣を歩いていたレンは淡々と呟いた。
連日の猛暑でコンクリートの地面がまるで鉄板のように熱を持って、靴を履いているのに足裏にまでその温度がジリジリと伝わって来る。
「だからってこの暑さはおかしいでしょ……。最高気温三十七度って……」
喋っている途中で頭に熱が上がっていった様子で、リンはくてんと頭を垂れた。
「っていうかレンは何でそんなに涼しそうな顔してるのよ……」
Tシャツの上からさらに半袖の上着を羽織っているというのにそこまで暑さを感じているようには見えない自分の相方に、リンは半ば八つ当たりのように絡んだ。
「そんなことないと思うけど……。リンは暑い暑いって言ってるから余計に暑くなるんじゃないか?」
「だって暑いんだもん。あー、もーっ……」
そう言って少しでも体の温度を下げようと、汗で肌に張りついているキャミソールの胸部分を持ち上げて、パタパタと音を立てて生温い風を送り込む。
「ちょっ……!」
ただでさえキャミソールにハーフパンツという必要以上に肌を露出した格好でよからぬ視線を集めているというのに、服を持ち上げるたびにキャミソールと肌の間からチラチラと見える、かすかな胸の膨らみやブラジャーの肩紐に(リンいわく見せてもいいやつだもん、らしいが。他の野郎に見せてもいい下着なんて存在しませんと小一時間ほど叱ってやりたい)、レンはいくら何でも無防備すぎる、と慌てて自分の上着をリンに差し出した。
「上にこれ着て」
「えー、何でよ。もっと暑くなるじゃない」
「いいから」
そして訝しげな顔をしているリンの肩に、有無を言わせずに上着を羽織らせる──…が。
「あっつ!! 無理、絶対にこんなの着ないからっ!」
腕を通す前に暑さに耐えきれなくなって、リンは脱ぎ捨てた上着をレンの顔に投げつけるようにして突き返した。
そんなやり取りをしているうちに、腕を上げたときに見える腋やシャツとハーフパンツの間からチラチラと見えている肌の色に、ちょうど傍を通りすぎたサラリーマンが思わず歩く速度を遅めてよからぬ視線を向けていることに気付くと、これ以上の視線に曝すことには耐え切れなかった。
「もー、レンって変なところで保護者みたい──…、っ!!」
懲りもせずにまた先ほどの上着をまた羽織らされたかと思うと、今度はその上から何か重いものが覆いかぶさってくるような感覚があった。
それが上着ごと後ろから抱き締められているのだと気付くと、リンはただでさえ火照っていた顔をさらに真っ赤にして絶句する。
「な、ななっ……!」
「誰が保護者だって?」
「な……何で怒ってるのよ……」
「……別に」
腕の中で、体温が急激に上昇していくのが分かる。このクソ暑いのに何をやっているんだか。
きっとこの暑さでどうかしてしまったんだと自分自身に言い聞かせて、レンはそれまでリンに視線を向けていた相手を軽く睨みつける。思っていたよりも多く集まっていた視線が、一瞬にして別の方向に逸らされる。
少しだけ苛立っていた気持ちを落ち着けると、それまでは文句ばかり言っていたはずのリンが急に大人しくなって、自分の身体に絡みつく腕を払いのけようともしないことに気付き、妙な気恥かしさを覚えた。
こんな公衆の面前で抱き締めていることよりも、ずっと。
「……とりあえず一人で外に出かけるの禁止」
「ええっ? 何でよ!」
「何でも」
ぎゅう、と腕に力を込めると面白いくらいにまた大人しくなって、そのまま反論することすら忘れたように黙り込んでしまった。
触れている部分を通して伝わってくる熱も、鼓動の速さも、きっと夏のせい。
たとえ違っていたとしても、今だけはそういうことにしておこう。
End.
この暑いのに暑っ苦しい話ですみません……。レンリンは夏が似合いそうなので書きたいネタがたくさん浮かんできてしまいます。
自分から抱きつくのは平気なのに抱きつかれると真っ赤になって何も言えなくなるリンちゃんとかイイ! と思います。そして過保護なレン君も可愛いと思います。
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夏なので暑苦しくいちゃつかせてみた。書いたのは去年ですが。