― 黄蓋Side ―
「・・・・・・失敗じゃな」
風向きも変わった。
右岸には五胡の兵。
儂の天命もここまでか・・・・・・。
いや、まだ諦めるわけにはいかん!
ここで諦めてしまえば一刀にあわせる顔がないではないか!
それに部下達もまだ諦めてはおらん。
襲い来る敵軍と勇敢に戦う自分の部下達。
手に持つ弓を握り直し矢を
矢筒に残っている矢はまだ十分にある。
いざとなれば腰に下げた剣がある。
儂はまだまだ戦える。
この策の為に
だが、そんな事は無視して弓を引き絞る。
一人、また一人確実に狙い打つ。
それを繰り返していると・・・・・・。
「・・・来たか」
やっとお出ましじゃの。
たかが一般兵如きで儂を、儂等を落とせると思ったのが大間違いじゃよ。
強烈な殺気を纏った敵将が儂に向かって進んでくる。
「お前達は下がれ!!」
部下達にそう声をかけ下がらせる。
大物が釣れたようじゃからのぉ。
部下達を無駄死にさせる訳にはいかん。
「・・・・・・来るのが遅かったようじゃな」
目の前に現れた敵将に向かってそう言葉を放つ。
儂等の周囲には大量の敵兵が倒れている。
儂の部下達は数えるほど。
「これが儂ら孫呉とお主等の実力の差と言う事じゃ」
何のことかわかるだろう?そう言う意味込め手を広げて示す。
目の前の将は怒りに顔を歪めているが、目の前に広がる光景が事実を
儂は、この敵将に勝てないかも知れぬ。
じゃが、軍としてみれば儂らは負けておらぬ。
そして、負けられないのじゃ。
民を守る為にも・・・・・・一刀の
儂はここで死ぬ。
じゃが、唯では死なぬ!
必ずや一矢報いてやろうぞ!!
― 一刀Side ―
・・・・・・。
そろそろか・・・・・・。
「影、ちょっと人探しを頼みたいんだけど」
「一刀様の命令とあらば」
「たぶんここに居るともうんだ。無理して話しはしなくていい、居る場所だけわかればいいから」
「心得た」
返事をした影があっと言う間に俺の前から姿を消す。
次はっと・・・・・・。
街に出る。
行き先はもう決まっている。
出来るなら行きたくないその場所。
とある家屋の開けっ放しの扉をくぐる。
「・・・・・・たのも~」
「・・・・・・む?・・・おぉ!!何時ぞやのいい
出たよ・・・・・・。
召還獣の片割れが・・・。
「ひ、久しぶり・・・・・・」
「あらぁん?ご主人様じゃなぁい?」
「久しぶりだな貂蝉。・・・前に言ってた人って今ここに居るのか?」
「いるわよぉん・・・・・本当にやるの?ご主人様」
貂蝉は少し心配そうに俺を見る。
卑弥呼は明らかに嫌そうな顔をしていた。
「あぁ」
「わかったわ・・・呼んで来るわねん」
そう言って貂蝉は奥に下がった。
貂蝉が心配するのも無理はない。
でも、念には念を入れておかないといけない。
考え込んでいると奥から人の気配が近づいてくる。
「・・・・・・初めましてだな。貂蝉と卑弥呼から話は聞いている・・・俺が華佗だ」
真っ赤に燃えるような赤い髪にこの時代には少しそぐわない服装、歳は俺より少し上くらいかな。
神医と呼ばれる凄腕の医者。
「初めまして。貂蝉達から聞いてると思うけど・・・北郷一刀だ」
「早速だが・・・・・・、俺に診て欲しい人いるらしいな。それとは別に・・・・・・」
「あぁ、診て欲しい人は城にいるから後で来て欲しい。もう一つは・・・・・・」
もう一つ・・・・・・それを口にすると華佗は明らかに不快感を示す。
「・・・・・・医者にこういう事を頼むのは確かに間違いだってのはわかってる」
「いや・・・・・・医者に頼むのは懸命だ。下手な素人に頼めば取り返しのつかない事になるからな」
「やってもらえるか?」
「気乗りはしないがな・・・・・・」
「ありがとう」
内心ホッとする。
断られたらどうしようかと思った。
「それじゃ、俺は準備に取り掛かるとしよう。期限は明日からの一月、時間は・・・・・・夜の方がいいだろう?」
「だな。日が高いうちは仕事があるから」
「決まりだ。さっき言っていた診て欲しい人物の所へは後で向かう」
「よろしく頼む」
そう言ってもう一度握手をして俺は城への帰途に着いた。
一月か・・・・・・間に合うか間に合わないかはわからない。
もう、俺の知っている三国志はほとんど役に立たないはずだから。
『天の御使い』と言うアドバンテージはないに等しいのかもしれないな。
そんな事を考えながら俺は賑やかな町を歩いていた。
― 冥琳Side ―
「あ~♪久々に燃える戦いだったわ!」
「むぅぅぅぅぅ!!本当に右腕が使えないのか!?」
「あら?負け惜しみかしら?」
中庭で行われていた美蓮様と華雄の手合せ。
美蓮様は嬉々として受け入れた。
まぁ、予想はしていたが・・・・・・。
「くそ!!私の武はまだまだだと言う事か!!」
「一つ忠告してあげましょう。華雄、燃やすのはいい・・・だけど激しく燃やしすぎ。
燃やすならもっと静かに燃やしなさい」
「もっと静かに燃やす・・・・・・やってみよう」
庭でのやり取りを見ているとそこに一刀がやって来た。
「っよっと!・・・・・・冥琳、今の美蓮さんの言った事理解できた?」
「私にはわからん。・・・・・・あれは武将特有の物言いだろうからな」
「だよな・・・・・・」
そのまま、私と一刀はまた始まった二人の戦いを見つめている。
会話は無い。
だが、一刀が私に何か言いたい事があると言うのは何となくわかる。
どれ程時が経ったのか、衛兵が一刀に駆け寄ってきた。
「ありがとう。俺の部屋に通してくれるかな?」
「来客か?」
「あぁ。・・・・・・さて、冥琳も一緒に来て」
「私も?・・・・・・わかった、行くとしよう」
一刀は初めから私を部屋に呼ぶつもりだったのだろう。
誰に合わせるつもりなのかは流石にわからないが。
私は庭で武器を交えている二人に、程々にするようにと声をかけ一刀の部屋に向かう。
「待たせて悪い」
「気にするな。・・・・・・その人か?」
「あぁ」
部屋に入ると見慣れない人物が目に入る。
既にこの男には私の事が伝わっているのかジッと全身を見られている。
「かず・・・「北郷は医術の心得があるのか?」・・・?」
「いや、まったく」
「どうしてわかったんだ?まだ大して兆候も出ていないはずだぞ?」
「わかったんじゃないんだ・・・・・・知っていたというのが正しい」
何の話だ?
医術?
兆候?
知っていた?
「流石は『天の御使い』と言うわけか・・・だが、そのお陰で悪化する前に治療が出来る」
「・・・・・・すまん。どう言うことか説明してくれないか?」
二人だけで進む会話に戸惑いを覚える。
私は馬鹿じゃない。
さっき行っていた言葉を繋げれば、自ずと答えが見えてくる。
「あぁ、ごめん冥琳。この人は華佗、凄腕の医者なんだ」
「俺は華佗。ゴットヴェイドーと言う医術を継承している」
「そう、ゴットヴェイドー・・・・・・「ちょっと待てくれ、北郷!!」・・・・・・ん?」
「もう一度言って見てくれ!!」
「ゴットヴェイドー?」
「その通り!!北郷、素晴らしい発音だ!!」
「え?は?」
・・・・・・。
凄腕の医者?
・・・・・・。
北郷の知り合いは・・・失礼だとは思うが、変な者が多い・・・・・・。
「すまん・・・・・・話を戻してもらって構わないだろうか?」
「あ・・・・・・ごめんごめん。・・・・・・で、冥琳を診て貰う為に此処にきてもらったんだよ」
「なるほどな・・・・・・」
「診た所、胸の内を巡る気に小さな澱みが見えた」
「やっぱり肺か・・・・・・」
「北郷の言う肺が何なのかはわからないが、生きていく上で必要な部分が病に冒されているのは確実だ」
私の胸の内に病が・・・・・・。
確かに、ほんの少しだけ違和感があったが疲れているのだろうと思っていた。
まさか病の兆候だったとは・・・・・・。
私と華佗は一通り挨拶をした後、詳しい病状を聞く。
「心配しなくていい。このまま放っておいて酷くなれば治す事は出来ないが、北郷のお陰でその心配はない。
治療も直ぐに終わるから今後も支障はないはずだ」
放って置けば治す事が出来ない程の病・・・・・・。
想像しただけで体が震えた。
私にはまだ遣り残した事が数多くある。
それなのに病の所為で死ぬなど・・・・・・。
「では、早速治療を始める。周瑜殿、上だけでいい。服を脱いでくれ」
「おっと・・・んじゃ、頼んだぞ華佗」
「任せろ」
一刀はそう言って部屋から出て行った。
私は華佗の指示通り衣服をはだけ一刀の寝台へとうつ伏せになる。
「少し痛みがあるかもしれないが我慢してくれ」
そう言った華佗は訳のわからない呪文を大声で唱え私の背中に針を刺す。
小さな痛みが走る。
針を刺されたであろう部分から、じわじわと熱が広がっていく気がする。
「恩に着る」
「俺に礼を言われても困る。君の病に気付いたのは北郷だからな・・・・・・礼なら北郷に言うべきだ」
「・・・・・・そうか」
一刀は知っていたと言っていた・・・・・・。
・・・・・・そうか。
知っているのだ。
だからああやって私達の為に・・・・・・。
私は華佗の治療を受けたお陰でわかったかもしれない。
一刀がこの国の為に尽くしてくれる理由に・・・・・・。
― 荀彧Side ―
忙しすぎる!!
何でこんなに適当にやってるのよ!!
良くこんなのでまともに都を運営してたわね・・・・・・。
私は腕一杯に抱えた竹簡を文官達の執務室に運んでいる。
「あ~もう!!何で私がこんなに重いものをっ!」
忙しすぎて人手が足りない。
手透きの人間がいなくて自分で運ばなきゃ仕事が進まない。
「まったく!・・・・・・もし十常侍が生きてるならこの手でぎったんぎったんにしてやる所だわ!!」
「おや、文若様。穏やかではございませんね・・・・・・」
「っきゃぁ!?」
急に声を掛けられて手に抱えていた竹簡を落としてしまった。
「急に声掛けないでよ!!落としちゃっちゃじゃない!!」
そう言いながら私は後ずさる。
理由はもちろん男だから。
声を掛けてきた男は苦笑いしながら落ちた竹簡を拾い上げていた。
「・・・あれ?あなた、確か・・・・・・」
「覚えておられましたか・・・。ご無沙汰しております」
「そう言えば華琳様が言ってたわね。・・・・・・あなた、どうして唯の文官なんかしているの?」
「私は文官が性にあっているので」
確かにそうかもしれないわね。
前にあった時もあいつと違って前に出るような事を好んでいなかったようだし。
「これはどちらにお運びすれば宜しいのですか?」
「・・・・・・え?あぁ、あなた達の執務室に持っていくのよ」
「でわ、私がお持ちします」
そう言って男は竹簡を抱えたまま歩き出す。
指示しなきゃいけない事があるから男と距離をとりながら私も着いていく。
「・・・・・・どうしてもっと才を生かさないわけ?」
「私には才はございません。文若様もご存知でしょう?あの男に比べれば・・・・・・」
「確かにそうかもしれないわね。・・・・・・けど、あなたの才はあれとは違う分野で発揮されるものでしょ?」
「それはどうでしょうか・・・・・・あの男は全てに置いて・・・・・・おっと、着きましたね」
「え?あぁ・・・そうね」
話を途中で打ち切られて拍子抜けする。
仕方なく手が塞がっている男の前に立ち執務室の戸を開けた。
「開いている場所に広げて頂戴。色々と指示する事があるから」
「かしこまりました」
そう言って私は広げられた竹簡に書かれた案件に対して指示を飛ばす。
さっきまで交わしていた会話の事はすっかり頭の隅に追いやられていた。
― 凌統Side ―
太史慈と合流して既に一月近くたった。
今、この大陸は三つの国に分かれている。
この三国だ。
俺達はその中でも呉と因縁の深い蜀の地、涼州に足を踏み入れていた。
「まずは何処に?」
「
「
俺は今後の動きを太史慈に確認しながら歩みを進めた。
それから暫くして朧西に到着する。
まずは情報収集。
「・・・・・・そうか、ここ最近は落ち着いているんだな」
「へい、ここ最近はめっきり里に降りてくる事はないですわ」
「稼げると思ったんだがな・・・・・・」
「残念でしたねぇ旦那」
「まったくだ・・・・・・」
傭兵の振りをしながら街を巡り、道行く人間に適当に声を掛ける。
ここ最近は動きがないらしい。
一応目的の人物はここにいるようだが・・・・・・。
日も沈み、街での情報収集を諦め宿に戻る途中にとあることに気付く。
日も沈みきったこんな時間に、一軒の店から大量の荷物を運び出していた。
不思議に思った俺は荷馬車を引いて街を出て行く者達の後を着けた。
たどり着いたのは朧西からそう遠くない山。
その山の中腹ほどか、ひっそりと立っているそれほど広いとは言えない屋敷に荷物を運び入れている。
その屋敷の入り口から出てきた毛色の違う二人の男を見て確信する。
やはり繋がっていた。
一刀様、予想は当たっていたぞ。
まずは一つ目だ・・・・・・。
残りは後五つ。
あとがきっぽいもの。
冥琳さん 死亡フラグが 立ち消えた 獅子丸です。
まぁ、ベタですよね。
ベタすぎだと思います。
でもそれでいいんです。
だって死んだらSS書いてる意味がないですしw
ってな訳で今回も時間軸がずれた構成。
未来→現在→現在→現在→未来
となっております。
さてと、未来は今回も要約無しでb
ってな訳で最初は一刀くん。
なんかまた企んでいるようです。
華佗との初対面。
何で華佗が呉にいるのかって?
呉の塩が安いし薬の仕入れの為に滞在しているそうです(ぇ
生理食塩水でも作ってるんじゃないんですかね?w
実の所、史実の呉は他国と貿易していたようですし珍しい薬草なんかも手に入ったのかもしれません。
まぁ、そんな裏話はどうでもいいとして・・・・・・。
一刀が華佗に頼みごとをしています。
いったい何を頼んだのやら・・・・・・。
ではお次。
冥琳さんの死亡フラグが回避された話。
冒頭で華雄さんの望みがかなったようです。
よかったね華雄さん!
後は華佗恒例の発音ネタとかそんなん。
冥琳さんもフラグ回避おめでとう!
そして、冥琳さん・・・今回の事で一刀の心理の中核に喰らいついたのかもしれません。
では最後。
10:0さん登場。
もちろん10ツン0デレ。
10:0さんがとあの男と遭遇した話。
二人の会話から何か見えてくると思います。
これ以上言っちゃうとぼろが出るのでこれまでb
では、終わる前に一つ。
前回のコメントで伏せて欲しかった・・・・と言うコメントを頂きました。
大丈夫です。
オチじゃないのでw
ですので、わざと名称を出しています。
今出ている名称はあくまで脇道であり、伏せている部分がこの話の本筋です。
作者としては、今出ている物から色々と推測していただければと思っています。
時間軸をずらして書いているのはそう言う意図があるためです。
結果を示しつつ、何故そこに至ったのかを徐々に明らかにして行こうと思っています。
さて、今回はこの辺で。
次回も
生温い目でお読みいただけると幸いです。
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第四十七話。
じみ~に話が進んでます(ぁ
今回も時間軸がずれてます。
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