No.250279

【おとぎ話風物語】王女の言葉と、ドラゴンの真実

白森 秋さん

急におとぎ話っぽい物が書きたくなったので、走り書きしました。 頭の中に流れる言葉を文字に書き起こしただけの作品です。 考案3分/制作60分/修正0分 ご飯を炊く合間に作ってみました。(笑) というか、このレベルの物を作品と呼んでいいのか、それすらも微妙ですね。 最初は子供向けに作ろうと思って、丁寧な言葉遣いをしていました。 けど、最後は結局シリアスで難しい話になりました。(爆) やっぱりほのぼの系は書けないですorz

2011-07-31 12:46:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1099   閲覧ユーザー数:1083

このお話は、遠い遠い国のお話です。

広い広い海をこえ、高い高い山をのぼり、深い深い谷をいくつも渡ったところ。

 

そんな、誰も知らないような小さな小さな国の中のお話です。

 

その小さな国は、とても平和で、とても静かな国でした。

誰も知らない、誰も見たことが無いおかげで、争いごとが無かったのです。

 

国の中にも、ほとんど悪者は居ませんでした。

悪いことをする人は、お城の兵隊がこらしめてくれたからです。

そう、その国には国を守り、国を支える大きなお城がありました。

 

大きなお城に住む王様は、とってもいい王様です。

いつもニコニコしながら、国に住んでいる人たちのために毎日働いていました。

兵士たちからの信頼も厚く、その王様さえいれば怖いものなど無いと言われるほどです。

 

ですがそんな平和な国にもひとつだけ、恐ろしいものがありました。

それが、遠くの山に住んでいると言い伝えられてきた大きなドラゴンなのです。

 

とても大きなドラゴンは、数百年に一度目を覚まし、国を襲うと言われてきました。

大きな翼で空を飛び、その爪は家やお城を簡単に壊してしまいます。

太い牙の生えた口から飛び出す炎は、全てを燃やしてしまうとも…。

 

そうなのです。

ドラゴンが目覚める数百年に一度の年とは、今だったのです。

 

そこで、王様は考えました。

 

「ドラゴンが起きるのを待つことは無い。眠っているうちに、やっつけよう。」

 

ですが、その考えに王妃様は反対しました。

 

「ドラゴンの山まではとても遠いのです。たどり着く前に、力尽きてしまいます。やってきたときに、迎え撃ちましょう。」

 

王様もそう言われては、黙っていることができません。

 

「国の中で戦いになれば、関係の無い民も巻き込むことになってしまうぞ!」

 

王妃様も負けじと言い返します。

 

「本当かどうかもわからない古い言い伝えのために、兵士を犠牲にしろと仰るのですか!」

 

王様と王妃様の言い争いは、三日三晩続きました。

しかし、その決着はいつになってもつきません。

それもそのはずです。なぜなら、ふたりとも国の民のことを一番に考えていたからです。

 

そんなとき、ふたりの争いを止めようとする人が現れました。

それはこの国で一番美しいと言われる、王女様でした。

 

「お父様、お母様。もうやめてください。お二人が争っても、答えは出ないままです。」

 

大きな涙をぽろぽろ流しながら、王女様はふたりに言いました。

 

「おお、王女よ。だが、このままでは国はドラゴンに襲われてしまう。」

「そうなのよ。私達がどうするか決めなければ、国は無くなってしまうのよ。」

 

王様と王妃様は、王女に言い聞かせました。

ですが、王女は首を横に振り、話を続けさせようとはしませんでした。

 

「お父様、お母様。私にひとつ考えがあります。そのために、兵士を貸しては頂けませんか?」

 

王女様の目は真剣そのものでした。

綺麗な瞳にふたりを捉え、ただじっと見つめ続けています。

 

しばらくすると、王様は言いました。

 

「わかった、王女よ。お前の話を聞こうじゃないか。」

 

 

それから、王女様はふたりに話しました。

お城に揃っている本を読んで、ドラゴンが起きるのは本当だということ。

しかし、眠っているドラゴンにはどんな剣も槍も弓も効かないということ。

そして、起きてしまったドラゴンは、満足するまで国を壊し続けるだろうと。

 

そこまで知っていた王女様は、ある考えを思いついたのです。

 

「私がドラゴンとお話をしてきます。国を襲う前なら、話を聞いてくれるかもしれません。

 それに、王女の私が行けば、ドラゴンも真剣な話だと思ってくれるでしょう。」

 

それはまさに、生贄とも言えるような考えでした。

恐ろしいドラゴンと話をしようなんて、殺してくれと言っているようなものです。

 

王様と王妃様は、猛反対しました。

可愛い可愛いまな娘を、行かせるわけにはいかないと。

 

ですが、王女様も諦めません。

 

「お父様も、お母様も、ドラゴンをやっつけることばかり。それでは、この国を襲うドラゴンと何が違うのですか?」

 

王女様の言葉は、王様と王妃様の心に深く突き刺さりました。

言われてみれば、ふたりともドラゴンを倒そうとすることしか考えていたかったのです。

 

ですが、それも仕方がありません。

王様と王妃様は、国の民のことを一番に考えていたのですから…。

 

それからしばらくすると、国の中は王女様がドラゴンと話し合いに行くという噂で溢れかえりました。

国の民の中には、「生贄になるだけだ」とか、「ドラゴンと話せるはずが無い」と言う人もいました。

 

しかし、ほとんどの人は王女様のことを思って涙を流しました。

危険な場所へ立ち向かう勇敢さと、国の民とドラゴンの命を思う優しさに心をうたれたのです。

 

そして王女様は、勇敢な兵士たちを連れて、ドラゴンの山へ旅立ったのです。

 

 

 

王女様と兵士たちの旅は、とても辛いものでした。

高い山では吹雪に襲われ、手足が凍ってしまうほどでした。

深い谷では大きな川を渡り、何度も何度も流されそうになりました。

広い森ではたくさんの動物に襲われ、着るものもボロボロです。

 

そんな旅を続けていたある日のこと。

王女様たちはとうとう、ドラゴンの住んでいるという山にたどり着いたのです。

 

ですが、喜んでいる時間はありません。

ドラゴンが目を覚ます前に、ドラゴンを見つけなければいけないのです。

王女様がたどり着く前に目を覚ましてしまったら、国は襲われてしまいます。

 

王女様たちは必死に探しました。

何日も何日も、深い森と山の中をぐるぐると。

寝る時間さえも惜しんで、ひたすらに探し続けました。

 

ドラゴンの山に入ってから、太陽が7回ほど登った朝のことです。

 

ついに、王女様はドラゴンの住処を見つけました。

湖のほとりに作られた洞窟は、朝日に照らされないとわからないようになっていたのです。

 

王女様は兵士たちに隠れるよう言いつけると、ひとりで洞窟の中へと入っていきました。

洞窟の中は暗くて、ジメジメして、もわっとしています。

 

しかし、立ち止っている暇はありません。

王女様は、どんどん奥へ進んで行きました。

 

ごつごつした道のせいで、足はもうがくがくでした。

体中が痛み、あちこちにできたすり傷はひりひりしています。

もう歩き疲れてしまって、座ってしまいそうになりました。

 

その時でした。

 

「…だれだ。私の住処を荒らすのは。」

 

洞窟の奥から、静かな声が響いてきました。

まるで雷が鳴るような、ごろごろという声でした。

 

王女様はすぐにわかりました。

その声は、ドラゴンの声なのだと。

 

王女様は逃げ出したくなる気持ちを抑えて、大きな声で叫びました。

 

「おお、偉大なるドラゴンよ。あなたの眠りを妨げてしまって申し訳ない。けれど、今日は話があって参りました。」

 

すると、洞窟の奥からボッという音が聞こえてきました。

それは、ドラゴンが炎を吐く音でした。

明るく照らされた洞窟の壁に、そのドラゴンの影が映し出されます。

とてもとても大きな影は、王女様を丸のみにできそうな口の影でした。

 

「お前は国の王女だな。何をしに来たというのだ。私のこの大きな口で、食べられようとでも言うのか。」

 

洞窟に映った影が、がちんがちんと牙を鳴らしました。

ですが王女様は一歩も下がりません。

その場に立ったまま、再び叫びました。

 

「ドラゴンよ、聞いてください。国の民は怖がっています。あなたに襲われてしまうのではないかと。」

 

王女の言葉を聞いて、ドラゴンはぐわっはっはっはと笑いました。

 

「何を言う、王女よ。私は襲っているのではない、食事をしているのだ。お前たちが牛や豚を食べるように、私は人を食べる。生きるために食べる。それだけだ。」

 

ドラゴンの言ったことに、王女様は驚きました。

王女様は、ドラゴンが楽しいから襲っているのだと思っていたのです。

しかし、ドラゴンがやっていることは、国の民と同じこと。食事をしているだけだったのです。

 

「王女よ。お前は国を襲うなと言いたいのだろう?なら私は死ぬしかない。お前は私に死ねと言うのか?」

 

ドラゴンは王女様のことを笑うように言いました。

王女様は哀しそうな顔で、小さくつぶやきました。

 

「いいえ、違います。私は…、ただ…。」

 

「何が違うのだ、王女よ。私は全て知っているぞ。お前が私の命を案じて、ここに来たことを。だが、お前はふたつ選ぶことはできないのだ。国の民と、私の命、ふたつを選ぶことは、できないのだ。」

 

ドラゴンの言っていることは、正しい事でした。

ひとは生きるために、他の生き物を食べてきました。

それと同じように、ドラゴンも生き物を食べるしかないのです。

人と言う生き物を、食べるしかないのです。

 

王女様は困ってしまいました。

一体、どうすればいいのか、何が正解なのかわからなくなってしまったのです。

 

そんなとき、ドラゴンが言いました。

まるで子供に言い聞かせるような、優しい声で言いました。

 

「王女よ。お前に選ばせてやろう。国の民と、私の命。どちらか、選ばせてやろう。」

 

ドラゴンの提案を聞いて、王女はさらに困りました。

そんなことを言われるとは、夢にも思っていなかったです。

先ほどまで、食べられてしまうと恐れていたはずのドラゴンが。

今は王女様の言葉ひとつで、死んでもいいと言っているのです。

 

王女様は考えました。

長い長い時間をかけて、何が一番の正解なのかを考えました。

でも、その答えは見つかりませんでした。

王女様に、どちらかを選ぶことができなかったのです。

 

そしてとうとう、大きな声で泣き始めてしまいました。

 

「王女よ。どうして泣くのだ。ただ一言、私に言えばいい。ドラゴンよ、死んでくださいと。そうすれば民は救われる。お前は英雄になれる。なのに、どうして泣くのだ。王女よ。」

 

「私は英雄になりたいのではありません。命を守りたい、それだけなのです。民の命も、あなたの命も。天秤にかけることなど、できません。」

 

王女様は、涙を流しながら答えました。

それが、王女様のせいいっぱいの答えだったのです。

選べないということが、答えだったのです。

 

ドラゴンは大きな声で笑いました。

洞窟が震えるほどの大きな声で。

王女様はおどろいて、尻もちをついてしまいました。

 

「王女よ。お前は面白い奴だ。選ばないということを選んだのは、お前が初めてだ。」

 

「それでは…、昔にあなたを尋ねた人が?」

 

王女様が尋ねると、ドラゴンは大きく頷きました。

喉から聞こえるゴロゴロと言う声で、王女に話し始めました。

 

「ああ。遥か昔にも、襲うのをやめろと言ってきた奴らがいた。そいつらは迷わず言ったよ。私に死ねと。問い詰めたら、英雄になりたいだけと言った。そんな人間だった。」

 

そのとき、ドラゴンの影が大きく揺れました。

形を変えるドラゴンの影は、なぜかとても悲しそうに見えます。

 

「王女よ。国へ帰るがいい。そして伝えるのだ。もうドラゴンは国を襲わないと。」

 

ドラゴンはそう言うと、フッと炎を消してしまいました。

洞窟の中は急に真っ暗になり、何も見えなくなってしまいます。

 

王女様は、ドラゴンの言っていることがわかりませんでした。

国を襲わなければ、死んでしまうと言っていたはずなのに。

 

それなのに、国を襲わないとはどういうことなのでしょうか。

 

「さらばだ。王女よ。お前のような人が居てくれるなら、私の…。」

 

ドラゴンの言葉は少しずつ小さくなっていきました。

その言葉を聞いた時、その意味をやっと知ることができました。

そして、王女様は慌ててドラゴンに向かって叫びました。

 

「待って!待ってください!ドラゴンよ!」

 

何度も何度も、叫びました。

この声と、この涙が枯れるまで。

 

何度も何度も、呼びました。

ドラゴンがまだそこにいて、返事をしてくれると信じて。

 

けれども、ドラゴンの声が聞こえてくることはありませんでした。

王女様の声が、王女様の心が。

ドラゴンに届くことは、二度となかったのです。

 

 

 

国へ帰った王女様は、王様と王妃様に話しました。

「もうドラゴンがこの国を襲うことはありません。」と。

 

それを聞いたふたりは、それはもう喜びました。

すぐに国中におふれを出し、ドラゴンのことを知らせて回ったのです。

 

その話はあっという間に国中に広がりました。

あちらこちらで大きなお祭りやパレードが始まり、人々はお城に向かって叫びました。

 

「王女様バンザイ!国の英雄バンザイ!」

 

国の民は、みんな笑顔に包まれていました。

恐れられてきたドラゴンが居なくなり、安心して暮らせるようになったからです。

それは王様も、王妃様も同じでした。

毎日毎日、お城でパーティを開いては、王女様を英雄と褒め称えたのです。

 

ですが、王女様は素直に笑うことができませんでした。

 

どうして王女様は笑えなかったのでしょう。

 

それは、誰も尋ねてくれなかったからです。

 

「じゃあドラゴンは、どこへ行ったの?」 と。

 

ドラゴンの未来など、誰も気にかけていなかったのです。

 

 

 

それから、あっという間に一ヶ月が経ちました。

相変わらず、国では毎日がお祭り騒ぎです。

 

そんなときに、お祭りの主役の王女様は別の場所にいました。

そうです。ドラゴンの住んでいる湖のほとりにやってきていたのです。

 

眩しい朝日の中、王女様はドラゴンの洞窟を見つけました。

前に来た時と同じです。暗くてジメジメしていて、湿っぽい洞窟。

 

王女様は高鳴る胸をおさえながら、洞窟を進んで行きました。

今度はゴツゴツした岩も、滑る水たまりもへっちゃらです。

この先に住んでいるドラゴンに会えるなら、どんなこともへっちゃらでした。

 

とうとう、王女様は洞窟の一番奥までたどり着きました。

ドラゴンの影が映っていた壁の見える、あの場所です。

 

王女様は大きく深呼吸しました。

前に来た時は、持っていなかったものを確かめるように。

胸に手を当てながら、大きな声で叫びました。

 

「おお、ドラゴンよ!私にあなたの顔を見せてください!私は勇気を持ってきました!この曲がり角を超えるための勇気を!」

 

王女様には、わかっていました。

ドラゴンから言葉が返ってこないことは。

 

それでも、王女様は話しかけました。

そこにドラゴンが居ると信じたかったからです。

 

「おお、ドラゴンよ!あなたの神聖な場所へ足を踏み入れることを、お許しください!」

 

王女様は勇気を振り絞って、その角を曲がりました。

 

 

 

しかし、そこには何もありませんでした。

最初から何も居なかったように。

ドラゴンなど、古い言い伝えのおとぎ話だった、と言うように。

 

何も無かったのです。

 

王女様は洞窟を戻り始めました。

さっきまでへっちゃらだったはずなのに、足はガクガク震えています。

体中から痛い痛いと、悲鳴が聞こえてくるようでした。

 

何より一番痛かったのは、心でした。

王女様は、あの日からずっと悩んでいたのです。

 

王女様があの日、ドラゴンの元を訪れなければ。

もっと別の方法で、ドラゴンと話し合うことができれば。

 

ドラゴンは、死を選ぶことは無かったのではないかと。

 

その想いは、消えることはありませんでした。

眠っている時も、起きている時も。

ずっと、心の中でゆらゆらと揺れています。

 

それが抑えきれなくなった時。

王女様の大きな瞳から、涙が零れおちるのです。

 

 

 

王女様は長い時間をかけて、洞窟から抜け出しました。

太陽は高いところでさんさんと輝き、湖を輝かせています。

王女様は真っ赤になった目を洗おうと、湖へ歩いて行きました。

 

そこで、あるものを見つけたのです。

湖につづく小道の真ん中で。

真っ白い石のようなものと、大きな鱗が落ちていたのです。

 

王女様は不思議そうな顔をしていました。

洞窟に入るときは、落ちていなかったのです。

では、誰がこれを置いていったのでしょう。

 

王女様は大きな鱗を持ち上げました。

顔と同じくらいの幅がある、とても大きな鱗です。

何気なくそれをひっくり返すと、裏にはたくさんの傷がついていました。

 

いや、それは傷ではありません。

白い石と鱗を置いていった、誰かからの手紙だったのです。

 

 

『 王女へ。

  お前はきっと、悩んでいることだろう。

  安心しろ。お前の選択は間違っていない。

  選べないことを選べるというのは、素晴らしいことだ。

  そんな人が来ることを、私は待っていた。

 

  人という生き物は、最後の最後に汚い部分を見せる。

  だが、お前は違った。お前はずっと、綺麗なままだった。

 

  お前のような人がいてくれるなら、私の役目はもう終わりだ。

  お前の国はいい国になる。もう、道を間違えることはないだろう。

 

  最後に、お前に託したいものがある。

  お前の新しい国を、お前の綺麗な世界を。

  その仔に、見せてやってくれないか。

 

  その仔が、人と共に生き、人と共に暮らしたのなら。

  人と言葉を、食物を、感情を、想いを、共有できるドラゴンとなるだろう。

 

  だから、王女よ。

 

  人とドラゴンの作り上げる、新しい役目を。

  その仔に与えてやってはくれないだろうか…。』

 

 

 

それから数十年後。

 

誰も知らない小さな国は、誰もが知る大きな国になりました。

ちいさな争いごとも起こらない、本当の平和に包まれた国。

 

その国は、とても美しい女王によって、作られたと言われています。

国の民は親しみをこめて、彼女をこう呼びました。

 

『純白の竜姫』 と。

 

彼女は何故そう呼ばれているのでしょうか。

それはまた、次の機会にお話ししましょう。


 
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