姉さんは目を覚ましてから何かと俺に用事を言いつけるようになった。
「一刀~、お腹すいたー」
「はいはい」
いや、違うな。
「一刀~、肩凝ったー。揉んで」
「はいはい」
姉さんは目を覚ましてから何かと俺をこき使うようになった。
「一刀~、お酒飲みたいー」
「はいは…いや、酒は駄目だ。華佗にも止められているだろ」
「ぶーぶー。けちぃ」
周りの皆は姉さんのそんな態度に少し煩わしいと感じながらも、怪我のこともあるので同情的な態度をとっている。
「あーあ。疲れた……」
「お疲れ様です」
王としての政務の合間をぬっての姉さん世話はさすがに堪える。
政務室に戻り椅子の背にもたれうなだれていると、調練の報告をしに思春がやって来た。
「しかし、何も一刀様が雪蓮様の世話をしなくても……世話役の侍女もいますし」
「そうだけどね。姉さんが俺を呼んでいるから出来るだけ答えてあげたいんだ」
「………雪蓮様の怪我は一刀様のせいではありません」
思春の言葉に驚き顔を見ると、思春は目を逸らし悲しそうな顔をしていた。
「だから一刀様が気に病むことはありません。
悪いのは雪蓮様を暗殺しようとした者達……曹操たちです」
思春には適わないな。
「そんなことは無い。あの時、俺は姉さんと一緒にいたんだ。
俺がもっと注意を払っていたこんな事にはならなかっったのに……」
俺がそう言うと思春はスッとこちらにやってくると、俺の頭を包み込むように自分の胸に抱えた。
「それでもです。起こったことを悔やんでも仕方ありません。
だから一人で抱え込まないでください。私を頼ってください」
そう言い思春は抱きしめる力を少し強めた。
「ああ、分かったよ」
俺も思春の背に手をまわし抱きしめる。
しかし……俺はそう思い顔を上げ、
「だけど、私『たち』じゃなくて私なんだね」
「なっ!?そ、それはその、えっと……」
「ははは、分かってるよ。これからも期待してるよ、思春」
「はい」
そしてまたお互い抱きしめる形となった。
その日は朝から執務室で案件の処理を行っていた。
王となってから仕事はとても増え、目の前に積まれる竹簡も山のようになっている。
それを処理しながらふと思った。
「そういえば今日は姉さんからの呼び出しが無いな……」
冥琳あたりとでも話をしているのだろうか。
そう考えながら筆を走らせていると、ガチャンと大きな物音が聞こえた。
執務から顔を出すと再び物が壊れる音が聞こえた。
「姉さんの部屋の方からだ」
音がした方へ急ぎ向かうと、物音に引き寄せられたのか何人かが姉さんの部屋の前に立っていた。
開いている扉を覗き込むと、部屋の中はめちゃくちゃで、息を荒くする姉さんと思春が居た。
「姉さん……?」
「っ!?一刀……」
俺の声に姉さんは体をビクッとさせ、気まずそうな顔をした。
「一体どうしたんだ?」
「何でも無いわよ……」
「何でもないって、そんなわけないだろ。
大きな物音がしてたし、部屋だってこんなにも散らかっているし」
姉さんはうつむき布団を握り締めながら何も答えない。
「思春」
思春の方に視線を向けると、
「何でもありません。私はこれで……」
「あ、おい、ちょっと」
そう言い、思春は部屋から出ていこうとした。
部屋を出ようとする思春に姉さんは、
「ちょっと!逃げるつもり!」
「……失礼します…」
思春は扉の近くに集まった人たちを睨みつけるとそのままどこかに行ってしまった。
「姉さん、いったい何が「でてって……」え?」
「出てって言ってるの!!」
姉さんは叫ぶと自分の枕を俺にぶつけ、そのまま寝台にもぐりこんでしまった。
「……あとで掃除に侍女を寄こすよ」
今の姉さんは何も答えてくれないだろうと思い、言われたとおり部屋を出ることにした。
部屋を出ると野次馬の中に穏を見つけたので、彼女に話を聞いてみることにした。
「一体何があったんだ」
「一刀様……そ、そのー…」
穏は少しためらいながらも事情を話してくれた。
「それが…最近雪蓮様が一刀様によく用事を申しつけていますよね。
それを思春ちゃん、一刀様の迷惑になるからって注意したんですよ。
そしたら雪蓮様怒っちゃって……」
「暴れたと」
穏はばつの悪そうに「はい」と返事をし、一礼して去った。
夜、再び姉さんの部屋に行くことにした。
片付けに向かわした侍女の話によると、姉さんは落ち着きを取り戻していたらしい。
「姉さん、入るよ」
部屋に入ると姉さんはこちらに背を向けて寝転んでいた。
「なによ」
「分かってるだろ。昼間のことだよ。なんであんなこと……」
「あんたも私のこと面倒って思ってるの?」
「誰もそんな事言ってないだろ。
それにこの城で姉さんのことそんな風に思ってる奴なんていないよ」
姉さんは上半身を起こし、
「そうよね……みんな私のこと哀れんでるんだわ…かわいそうって」
「姉さん……」
近づき、肩に触れようとすると、
「姉さんって呼ばないで!!」
「っ!?」
「私苦しいの!あなたに姉さんって呼ばれるたびに、ああ私は姉なんだって思って!」
姉さんは何かから自分を守るように、自分の体を抱きしめる。
「でも、もう嫌なのよ。我慢出来ない!
私は一刀、あなたが好き。弟としてじゃ無い!一人の男として!」
「姉さん……」
「お願い、名前を……雪蓮って呼んで…」
姉さんはすうっと掌をあげて俺の頬を触れる。
その顔はいつもの凛々しい表情ではなくとても弱々しかった。
「ねえ……雪蓮…」
「うん……」
「俺も…雪蓮のこと好きだよ。
でも、この好きという気持ちは、姉としてか一人の女の子としてか分からない」
「それでも良いわ。
お願い一刀、私を抱いて。あなたの力を私に分けて。
そしたらまた頑張れるから……」
姉さんを、雪蓮を抱えるように抱きしめ、そっと顔を近づける。
そしてそのまま2人一緒に寝台にゆっくりと横たわった。
【孫策 side】
翌日、私は久しぶりに布団から起きだし、朝議に顔を出すことにした。
皆の前に出てすることはただひとつ。
「皆、心配をかけたわね。ごめんなさい。でも、もう大丈夫よ」
頭を下げ皆に謝ると、
「雪蓮。元気になって良かったな」
と冥琳は言ってくれた。
冥琳の言葉を合図にするように他の皆も私の復帰を喜んでくれた。
すると一刀が近づいてきて、
「姉さん、もう起きても大丈夫なのか?」
と言ってきた。
昨日は名前を呼んでくれたのに一刀は……
「姉さん?一刀ー、昨日は雪蓮って呼んでくれたのにもう忘れたの?」
「「「雪蓮ー!?」」」
ふふ、皆驚いてる。
「ね、姉さん?」
「だ・か・ら、しぇーれーんー」
「ちょっと!お兄ちゃん!どういうことよ!?」「そうですそうです!」
私の言葉に、一刀大好きなシャオと烈火が一刀に詰め寄った。
「いや、それは、そのー…そうだ!用事があったんだ!じゃっ」
「って、あ~逃げた!」「逃がしませんよ!」
逃げる一刀を2人は追いかけ、それにつられて皆も一斉に一刀を追いかける。
やっぱり一刀は面白いわね。
そして、私の目の前には一刀を追いかけずに残った思春が立っていた。
私は思春を見て一言、
「……負けないわよ」
「私もです」
同じ男を愛する者同士、一言で通じ合う。
「それにしても今日はいい天気ね」
空を見上げると雲ひとつ無い晴天だった。
私は伸びをし、寝ていてこっていた体をほぐす。
これからは愛しい人のために働かなくっちゃね。
【孫策 end】
TINAMIリニューアルおめでとうございます!レイアウトがだいぶ変わっててびっくりしました。
前のほうに慣れてたのでまだ使いづらいですが、そのうち慣れるでしょう。
リニューアル前からページに繋がりにくい状況が続いて、リニューアルの準備かなって思ってたら原因は違うところに……
それにしても登録者の数が半端ないですね。作品投稿の数も半端ないし(特にイラスト)、新作チェックが大変です。
今回の話は雪蓮の話。前に夢の中で母親孫堅に一刀に対する気持ちを言われ、それで雪蓮は改めて一刀との関係に悩んでいました。だから感情が不安定になり、少々ヒステリーな感じとなってました。
でも、もう大丈夫です、復活しました。
次回は新章になります。では次回ノシ
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リニューアル後初投稿!
今回は雪蓮の拠点です。
ついに2人は…
では、どうぞ!