No.248812

【T&B】A burnt child fears the fire.(火傷した子は火を怖がる)【炎・薔薇・竜】

NJさん

ヒーロー女子?組小咄。◆ファイアーエンブレムとカリーナの出会い妄想+9話下敷きでホァンちゃんをプラス。主軸の定まらない感じになってしまいましたが、書きたいものを詰め込んだ感じです。◆何故かネイサンばかり書いていますが、別にネイサン推しなわけでは…好きですけど…。

2011-07-30 22:57:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1047   閲覧ユーザー数:1027

 

「初めまして。アタシはファイヤーエンブレム。炎を操るネクストよ」

 ジムで初めて会った時、カリーナはまだ年端もいかない少女のように見えた。

 氷を操るネクストだとは聞いていたが、ネイサンの目には傷つきやすいガラス玉のように映った。

「ヨロシク」

 恭しく右手を差し出すと、見知らぬ場所で不安を覚えているのだろう少女の視線が、ネイサンを仰いだ。

 きつく噤まれた唇。ふっくらとしてつややかな頬。こわばった眉間。呼吸すら震えているのじゃないかと思うカリーナの返事を待つのは、思いがけず短く済んだ。

「カリーナ・ライルよ。ヒーロー名はまだないわ」

 華奢な腕が伸びてきたかと思うと、差し出した右手をぎゅっと握り返された。

 ネイサンは思わず目を瞬かせて、つながれた手のひらを覗き込んだ。

「アラ、意外」

「……何がよ」

 不機嫌そうに唇を尖らせたカリーナの表情は、こうしてみると照れ隠しに見える。

 ネイサンは短く笑って、握った手を上下に揺らした。

「お嬢さんみたいな子は、アタシみたいなのを毛嫌いすると思ってたわ」

 経験則でそう思っただけだが、口にするとまるで被害妄想のようだ。

 ネイサンは自虐を込めて首をすくめると、カリーナはその仕草をまっすぐ見つめてきた。まるで何もかもを見透かそうとするかのような、澄んだ眸だ。

 その強い眼差しは彼女が少女だからなのか、あるいはヒーローたる資質を持っているからなのか――は、まだわからない。

「別に、人とちょっと変わってるくらいで毛嫌いしたりしないわ」

 カリーナはそう言って、ネイサンから離した手を握りながらそっぽを向いた。

 長い髪から、細い首があらわになる。

「――私だって、同じようなものだもの」

 ささやくような独白。

 ネイサンは一瞬躊躇ったあと、氷のようにはなりきれない少女の両肩をそっと掴んだ。

「それは、ネクストとして?」

 ネイサンに背を向けたカリーナが小さく肯く。

 女性の思春期に能力を発動させたカリーナが、心のなかにどんな葛藤を抱えているのかネイサンにはわからない。しかし。

 掴んだ肩をポンと押すと、カリーナが顔を上げた。

 その先には、ワイルドタイガーやロックバイソンが競争をしながら腹筋をしている。その向こうには、スカイハイが。

「ヒーローの世界にようこそ。アタシたちはみんなライバルだけど、仲間よ。――ネクストって意味ではね」

 カリーナが、背後のネイサンを振り仰いだ。

 ネイサンは華麗にウインクを決めてみせると、カリーナの手を引いてトレーニング中の仲間たちのもとへ導いた。

 

 

          ◆          ◆          ◆

 

 

 

 「可愛いーっ!」

 カリーナの高い声が休憩室に響いた。

「えっと、親がくれたから……」

 飛び跳ねんばかりの勢いのカリーナが、気恥ずかしそうにもじついているホァンの腕を引いて、ネイサン傍らまで引いていく。

「ファイヤーエンブレム、これ見た? ドラゴンキッドのヘアピン! 可愛くない?」

 ほらほら見てみて、とまるで自分のアクセサリを見せびらかすようにホァンの頭の角度を変えさせるカリーナの姿は、まるでただの女子高生のようだ。

 ネイサンは形よく整えた自分の爪から視線を上げて、ホァンの髪についた紫苑の花飾りを見上げた。

「アラ、ホント」

 ネイサンが言うと、ホァンは本日何回目かの「両親がせっかくくれたものだから」という言い訳じみた説明を繰り返した。

 彼女なりの照れ隠しなのだろう。

「可愛いわね」

 あからさまにはにかむホァンの姿は、心から可愛いと思えた。

 日頃から自身のジェンダーに逆らうような言動の目立っていたホァンが花の髪飾りをつけるのは、喜ばしい変化だ。

 ホァンが変わることで、カリーナ自身もヒーローの中で同世代の女友達ができることになる。

 それにしても、あの頑なだったホァンが急に心境を変えるには何かきかっけがあったのだろう。

 市長の息子の子守をしたことで母性が目覚めたためか、それとももっと他の、なにか――

「恋かしら」

 ぽつりとネイサンがつぶやくと、カリーナが耳聡く聞きつけた。

「恋?!」

 女子高生らしい、過敏な反応だった。

 ネイサンに飛びついてきたカリーナとは対象的に、ホァンは驚いたように硬直している。

「誰が? 誰が恋してるの?」

 噛み付くように尋ねてくるカリーナのTシャツの下で小ぶりな胸が揺れている。視線を彷徨わせたホァンがきつく握りしめた拳の下では、カリーナよりは大きめの胸が。

「んー」

 ネイサンはとぼけるふりをして天井を見上げると、筋肉質な自分の胸を手のひらで抑えた。

「さあ、誰かしら。ちなみにアタシはいつだって、恋してるわよ♪」

「はぁ?」

 不満そうに顔をしかめたカリーナの腕を避けて、立ち上がる。

 トレーニングマシンでは今日も相変わらずワイルドタイガーとロックバイソンが背筋運動のスピードを競争している。

「ちょっとぉ、なんなのよ一体!」

 カリーナの文句を聞きながら、ネイサンは肩越しにひらりと手を振って、トレーニングマシンへと向かった。


 
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