No.246844

地獄の夕日 交通大戦

地獄をさいしょに見た人がまずいうのは、印象的なあの真っ赤な夕日の事だ。 この世の終わりのように赤く、ぶくぶくと泡をたてている 丸いものが地のてっぺんにあって真っ赤な夕日にみえるのだ。

2011-07-30 06:01:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:523   閲覧ユーザー数:518

地獄

さいしょに見た人がまずいうのは、

印象的なあの真っ赤な夕日の事だ。

 

この世の終わりのように

赤く、

ぶくぶくと

泡をたてている

 

丸いものが地のてっぺんにあって

真っ赤な

夕日にみえるのだ。

 

鉄をとかし、

高温を発している暑さとともに、

その夕暮れのことを

地獄に落ちた人間たちは

決して忘れない。

 

もっとも

より下層にいる亡者は、

のうてんをうすでひかれているため、

夕日よりも

自分の顔のほうが火照って真っ赤になるが、

そんな亡者も

印象的なものは何かと尋ねられれば

色がめだつので

あの夕日のことを思い出す。

 

いちどは死に、

もう何の不安もないはずのものさえ、

きれいに染まり、

黄色くふちどりどられところどころ真っ黒な穴の開いている夕日は、

見る者を不安にさせてしまう。

 

人間は、

つねに

不安に支配されており、

この地獄でも

それは同じことだ。

 

数少ない地獄でのルールのひとつは、

この不安の共有である。

 

金棒で

鬼に思いきり殴られて

あたまをかちわられたひとは、

ひたいから

流れる血のため

まばたきをしようとしても、

めだまが出てしまってうまく目をつぶれない。

蚊の飛んだような視界しか与えないこの目でも、

後生大事とっておけば

なにかのやくにたつはず

 

いやそれいじょうに

これは見えがわるくたって

私の大事なめだまなんだ。

 

はたから見れば

もうこの亡者には失うものなど何もない、

ようには見えるだろう、しかし

人は常に

自分の中に何か大切なものを見つけ

だし

それを見失わないように

し、

その大切ななにかを

失うのが怖くて

不安にかられている。

 

うすで体をぜんぶひかれ

すべての骨が紙のように丸められ

山芋のような皮膚を持ち

もはや満足に動くのは

首から上だけになった者はそれなりに、

「もう、自分は誰にもあいてにされないのでないか?」

という不安を持つ。

 

そうして、

いかに自分の生きてきた生命というのが、

まぶしく

うつくしいものだったのか、

かけがえのなく

あざやかなものだったか

にどとない

かがやかしいものだったのか

知り、

またその思い出さえ失うのがこわくて

死んだ後でさえ

不安になり

 

いつしかこころには

大きな傷

それがぱっくりと口をひらく

そして

きずぐちから、

たまむし色の、

欲動の第二の血液

がほとばしりでる

 

どくどく

 

この液体

は、

地獄にいる亡者たちをうごかす源動力でもあるが

悪名高い

地獄の住人たち

悪魔の糧となるのだ。

 

もっと生きたかった、

もっとあれをしたかった、

もっとこれをしたかった、

もっとあれと、これをしたかった

もっとこれに、あれとしたかった

もっと、

もっと、もっと

と、

思うたびこころは傷口をひらき、

たまむしいろの汁が出る

 

これをえさにするのは、

魔界の

下級の虫のようなそんざいから、

より上級の悪魔と呼ばれるものまで、

すべての地獄に住むものたちだ。

 

この事も、数少ない、地獄の法則のいちぶだ。

 

「目の前のな、

いろいろのものことを知るにつけ、

かつての自分にあってないもの、

かつての自分からすでにないもの、

いろいろのものことが足りないのに驚いて、

もっともっとを、

心の傷口から吹き出さすのよ。

 

そうして、

その自分の体の大きさだけ、

その欲動の血を我らはひとしく食らうのよ。

 

しかし何たることか、

このともだちのこころからは、

たまむしいろどころか、

土のしずくもありはしない。

赤も茶もない、

枯れきって

海綿のくずも知らぬようじゃ。

いったいこのともだちはどうしたものか、

おい。

おい」

 

そうつぶやきながら

横になったともだちを

ゆりおこす一つの影がある


 
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