その日は朝から振り続く雨。
夏はまだだと言うのにムシムシとした暑さが横たわっているような感じだ。
そして、ありがたい事に珍しく講義がすべて休校だった。
平日、やる事がない雨の振る午前。朝食を食べ、ただ何をするでもなくボーっと部屋でパソコンを開いている。
ちゃーちゃちゃららー♪ 部屋の中にメール着信音が流れる。
(こんな時間に珍しいな・・・・)
大抵送って来るのは集中力の切れる午後からなのに。そう思いつつ携帯を開くとそこには
『けーごぉ・・・・暇ぁや~』
とだけ書かれている。跡部はバカか。と思いつつも
『名前で呼ぶなっつってんだろ。俺が知ったことかよ。つーか授業中だろうが』
そして、律儀に返してしまうお馬鹿が1人・・・・
『今日授業あらへん日なんよー』
『だったらバイトいれてんだろ?』
『バイト今日お休みなんー・・・・』
『それこそ俺が知ったことじゃねぇ。』
『今日はメールいっぱい返してくれるんやねv 嬉しいわぁvv』
・・・・・そこで1度メールを打つ手が止まる。
たしかにいつもならば授業中なので返しても1時間に一回。その間に向こうから3~4通来てるのもざらではない。
『今日、授業全部休校なんだよ。』
『あれー・・・つー事は景吾暇してるん?』
『俺が暇してたら悪いか?』
『そないな事ないけど・・・・ もし、おうち呼んだらきてくれる?』
再び手が止まる。が、
『あーべつにかまわねぇけど?』
『すごいなぁ・・・そういう返事来ると思わんかったわ・・・』
『別にそんな遠いっつーわけでもないしな。どうすんだ?』
『会いたい・・・・』
『じゃあ、支度すんな?あ、駅まで迎えに来いよ?』
そう送ると、起きたままの状態だったため支度をするためにパソコンの電源を
『駅につく30分前くらいに連絡しぃよ?』
『ああ、わかった。多分1時半から2時半にはいけると思うぜ?』
『わかった。部屋片付けとくわ。』
『今からかよっ。多分、駅に45分につくぜ。』
そんなメールのやり取りをしながら支度を済まし駅へと向かって行った。
「やっほー♪ ホンマにきてくれるとはおもわへんかったわーv」
柱に寄りかかって座っていた忍足は跡部に気がつくと立ち上がって駆け寄ってくる。
「・・・・・だったら帰るかな。」
「え゛・・・・んな事言わんといてー」
くるっと踵を返し、帰ろうとする跡部の腕を慌てて掴む。
「チッ・・・しょうがねぇな・・・」
「おおきにーv ほないこか?」
スルっと腕をつかんでいた手を下ろし、跡部の手に絡ませる。
「ばっ・・・何してんだよっ!!」
掴まれた手をバシッと叩くように拒否をするも、再び掴まれそのままひっぱられていく。
「ま、誰も見てへんって。やからエエやん?」
「・・・・・・。」
無言を否定ととったのか、忍足はそのまま手を繋いだまま、嬉しそうな笑みを浮かべ傘を一本開くと己の家へと向かって歩き出した。
「ほな、ドーゾ。」
鍵を開け、忍足は跡部を招き入れる。
「ん。」
勝手知ったるなんとやら・・・跡部は促されるままに部屋に入ると自分専用(勝手に決めた)のソファーに座る。
「ホイ、お茶。」
「・・・・・・・・ん?ああ、サンキュー」
跡部の微妙な間に疑問を抱きながらもコップを渡し、自分はその横へ座る。
「暑いだろうが・・・」
横へ座った忍足にむっとした表情で講義するも忍足は聞かないふりをしてすり寄って行く。
「おしたっ・・・・・」
さらに講義しようとすると、『ピッ』っとクーラーが付けられてしまう。
「これで暑くないやろ?」
勝ったとでも言うような笑みを浮かべ忍足は跡部にペターっとくっついている。
それからどのぐらいたったのか、何をするでもなく互いに部屋にある雑誌を読みつつ時間を過ごしている。とは言っても跡部の方はいつもとは違った対応のされ方に戸惑い、雑誌の内容など頭に入っていない。
「・・・・・どうしたん?」
少しの間を開けて、忍足は問いかける。とはいえ、素直にいつもと違うなどと言っていつもの如く抱きつかれたり、からかわれるのは癪に触るのか「なんでもねぇ」と視線を少しだけ向け答えると再び雑誌へ視線を向ける。
「そんなことあらへんやろぉ~?さっきっからページ変わってへんで?」
「・・・・・・・・・うっせぇ。気のせいだろ。」
言葉の前の間が肯定しているようなものではあるが、あえて否定するのは癖だろうか。
「気のせいちゃうし。ホンマはこうして欲しいんちゃうの?」
「・・あ゛?・・・・ってなにすんだよ!!」
ポイッと自分が持っていたのと、跡部が持っていた雑誌を放り投げ押し倒すように抱きつく。
「なにって、いつもの事やんかー。」
上に圧し掛かった状態で顔を近づけニッと笑みを浮かべると額へキスを落す。
「そうだけどよ・・・・突然過ぎんだよバカっ」
「それもいつもの事や。諦めぇや。」
ムッとした表情でぺしぺしと顔を近づける忍足の頭を叩くが、そんなことにお構いなしに今度は泣きボクロ、頬、唇の端へとキスを落す。
「・・・・諦めれるかよ、バーカ。誰がてめぇなんかの思い通りになるか。」
「是非思いどりになって欲しいんやけどなぁ~?・・・・・・ぅぐっ・・」
笑みを浮かべて唇へキスを落そうとするとクリティカルヒットで忍足の溝内に跡部の蹴りが入る。
「甘いんだよ。それより腹へった、なんか作れ。」
フフンっと口元に笑みを浮かべ、腹部を押さえている忍足を上からどかし、ソファーへ座り直す。
「つぅ~・・・・ちょっとは手加減しぃや・・。腹へったん?つっても今日は冷蔵庫空っぽやしなぁ・・・」
「ア~ン?俺が来る時は用意しとけよな。」
あえて前半は無視し、立ち上がるとキッチンへと入り勝手に冷蔵庫を空ける。
「・・・・・本気で何もねぇし。」
「やからゆーたやろ?買いもん行かへんとあかん思ぅとったからなぁ。」
追って立ち上がると後ろから冷蔵庫の中を覗き込む。
「腹減った・・・・・。」
扉を閉めるとペタンとその場に座りこみ、振り向き相手の顔を見上げる。
「そう言われてもなぁ・・。買い物行く?」
「嫌だ。誰が雨の中行くか。」
見上げた状態でフルフルと首を左右に降れば跡部の外側へと跳ねた髪が誘っているかのように踊る。抱きしめそうになる衝動を抑え、それでも差し出してしまった行場の無い手を相手の頭上へと添え軽く撫ぜる。
「そないな事ゆーても・・・・雨止んでるで?」
その言葉に窓の外を見て見れば、いつの間に晴れたのか青空が覗いている。
「どないする?まぁ、俺だけが行ってもかまわへんけど。」
「腹減ったし、インスタントなんて食いたくねぇし・・・。」
のろのろと立ち上がりソファーにかけてあった己のジャンパーを手に取ると動こうとしない相手を振りかえり、いらついたような表情を見せる。
「なにしてんだよ、買い出し行くんだろうが。さっさとしろよな、俺は腹がへって機嫌わりぃんだ。」
「・・・・はいはい・・。お姫さんの仰せのままに。」
どうやら一人待つと言うのは選択の内に入っていないらしい。
つい先日、うたた寝をしてしまった跡部を置いて買い忘れた物を近くのコンビニに買いに行っただけだったのにもかかわらず、何も言わずに言ったのが不満だったのか、起きているハズの人物がいなくて不安を覚えたのか、帰るなり凄い勢いで怒られたのを思い出し苦笑を浮かべる。
「誰が姫だっ!!」
「俺の目の前におる奴やけど?」
クスクスと笑みを浮かべ忍足は食費の入った財布をポケットへと入れると、僅かに顔を紅くして睨み付けている相手の頭をポンポンと数度叩き、扉の外へ出るように促す。
「ほら行くで?さっさと買いモン済ませてご飯食べよや。」
「・・・ああ。」
不満はあるものの、空腹には勝てないのか大人しく外へ出ると忍足が鍵を締め、自分の方へと歩き出すの確認して自分もゆっくりと歩き出す。
「あー・・・景吾ぉ、見てみぃや。」
「ア~ン?外で名前呼ぶんじゃねぇって何度言ったら分かるんだ。バーカ。」
それでも横を歩く人物の指差す先を見れば先ほどまで当たりに雨を降らせていた雲間から光が差し込みその下へ綺麗に孤をかいた虹がかかっている。
「なぁ、小っこい頃聞いたんやけど、虹の橋の麓には宝もんがあるねんて。虹はそれを取りに行く為の橋なんやって。」
「・・・・嘘くせぇ子供騙しだな。」
いつか渡って見たいなぁ。と呟く忍足に溜息混じりにそう返すとすたすたと先へ歩きだす。
「景ちゃん夢なさ過ぎやっ・・・。まぁ、俺の宝もんは虹の橋を渡らんでも横にあるけどな。」
数歩遅れた相手の横に並ぶと、夢幻を追わんでもここにおるしな。と頬に軽くキスを落す。
「・・っ・・・・・!?何してんだバカっ!!!」
ガツっと音を立てて後頭部をグーで殴ると跡部は顔を真っ赤にして早足で歩いて行く。
「った~・・・・なにって、わかっとる癖に。大丈夫やって回りに人おらへんかったし。」
そういう問題じゃねぇ。と足早に歩く跡部の後を、からかい過ぎたかと苦笑を浮かべながら謝りながらその後を忍足は追い駆けて行く。
そして、謝罪の言葉に立ち止まり振り返る跡部。
彼の下には先ほどの雨で出来た水溜りが広がっている。
その水溜りの水を蹴って忍足は跡部へと近づく。
そんな二人の間にかかるのは・・・・・・・・
水溜りに映った虹の橋。
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ちょっと甘め。
忍足と跡部が大学生になったぐらいの話です。