No.240424

ノスタルジア

SUMIさん

ファンタジー系。セラを中心としたお話。
イメージ的には中世ヨーロッパのような世界が舞台。
人の他に様々な種族が存在し、時には共存、時には敵対している。

【セラ】教皇。在位3桁。外見はボーイッシュな少年に見える。一応女。

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2011-07-28 17:10:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:351   閲覧ユーザー数:349

 白亜の宮殿には気候調整の魔法が張り巡らされている為、年中春のような気候である。

 この魔法は巨大な魔法陣によって発動しており、陣の定点は城でも重要な場所となる為警備は厚い。無論同様に防御用の魔法陣も重ねて常に発動している。

 宮殿は幾つかの魔法陣の上に計算されて作られており、それゆえに古くからこの地は難攻不落と言われ続け他国および魔からの侵略を阻んできた。

 

 

 大陸の中央に存在する宗教国家リシテア。

 戦乱の荒れ果てた場所に初代教皇が建国し、太陽神を主神とした多宗教国家である。

 民にとって教皇は絶対的な存在であり唯一の神の代弁者たる存在。

 そしてこの国の主権者。

 

 

 現教皇セラは眠そうな顔で机に向かっていた。

 いかなる季節でも春のような気候の保たれた宮殿内。食後ついつい眠くなるのはしょうがない。

 隣りでは忙しなく書類に目を通す側近のアリスティアの姿が。若いながらも有能で周囲からも一目置かれており、学生時代にスカウトを受けて現在は教皇セラのお目付け役兼相談相手という立場である。

 見た目的にはセラの方がアリスティアよりも若い。しかし実際はセラは彼女よりも長く生きており、在位も歴代の教皇の中で一番長い。だが長く生きても性格のせいか、中身もアリスティアよりも幼く、よく姉妹のようだと周囲に微笑まれている。無論アリスティアが姉、というイメージであるが。

 

「ふぁぁぁ」

「猊下」

「ああ、すまない……」

「……食後ですから眠いのはわかりますが、臣下の前ではそういうの姿はしないでくださいね」

「わかってる。アリスだけだからつい出るんだ」

「それは嬉しいですわね。……しかし、変わり映えのない気候も良くないですわね……。四季の楽しみがありません」

「書物では読んだ事があるが、外はそれほど気候が違うのか?」

「はい。冬には北部では白い雪が降りますから。夏は南部では猛暑と呼ばれるほど暑くなります。温度的にはお風呂と変わらないぐらいですよ」

「ふむ……」

「まぁ、さっさとお仕事を終わらせてお茶に致しましょう、猊下」

「そうだな」

 クスクスっとお互い密かに笑いあい、再び仕事を再開する。僅かながらの気分転換で眠気が若干吹き飛んだ気がする。

 先ほどよりもペンを走らせるスピードを速くし、セラは仕事後に食べるお菓子に想いを馳せた。

 

 ふわっと風が室内を巡る。

 ハッとして二人が顔をあげると、室内に一人の男性が現われた。

「シヴァ」

 セラが名を呼ぶと、銀髪金眼の長身の男が微笑する。人の姿をしているが彼の正体は、世界でも希少種である『竜族』。

 彼とセラは付き合いが長く、その為に多少の無礼を周囲は目をつぶっている。礼儀にうるさい方のアリスティアもその一人で、急な訪問であっても目くじらをたてない。

「猊下、ご機嫌麗しゅう。すみませんね、アリス嬢を探してる方がいらしたので」

「私に? 誰かしら」

「侍女長ですね。詳しい事は聞いてませんので、当人にご確認してください」

「……わかりました。少々席を外しますが……よろしいですか、猊下」

「ああ、行って来い」

 では、とアリスティアが一礼して部屋から出て行く。

 

「そういえばあの子にこの前会いましたよ」

 足音が完全に消えた頃、シヴァが話す。セラは続きをしようとしていた手を止め、シヴァの方へ耳を傾けた。

「大きくなりました。貴方の事も覚えているようです」

「ふむ……」

「15年以上もなりますか」

「もう成年か。早いものだ」

「そうですね……」

 

 

 結界の綻びから迷い込んだ小さな妖族。

 シヴァとは違う輝きを持つ銀髪とアイスブルーの瞳の綺麗な少年。

 そういえば彼が迷い込んだと報告してきたのもシヴァだったか……。

 彼に連れられて訪れた庭の一角で、少年は幼さにいっぱいの不安と恐怖を浮かべて震えていた。

 しょうがない、彼らにとってここは一番危険な場所。見つかれば即殺される。ましてやこの小さな妖族は生まれてまだ数年だ。大人とは違い抗うにしても力が足りない。

「どうします、教皇猊下」

 シヴァがセラに問う。

「……人が悪いな、シヴァ。お前なら誰にも気づかれずこの子を元の場所へ帰す事ができたろうに」

「そうですね。でも一応報告した方がよろしいかと思いまして」

「……」

 ニコリと微笑されるが、セラはうさんくさそうな眼で返す。

「さて、教団の優秀な騎士たちに差し出すか、見なかった事にするか……どうしますか?」

「お前、わざと言っているだろう」

「さぁね」

 ふぅ、とセラはため息を吐いて肩の力を抜く。シヴァとは長い付き合いだが、時折何を考えているのかわからない事がある。何故教皇である自分に報告したのか、その意図は読めない。

「逃してやれ。騎士に差し出す必要はない」

「良いので? 教団にとって妖族は敵でしょう」

「教団が妙に毛嫌いしてるだけであって、私は別に敵と思った事はない」

「下々の者が聞けば嘆きますね」

「知った事か」

 そっとしゃがみ込み、少年と同じ目線になるようにする。

 セラは少年を必要以上に怖がらせないよう心がけながら、話しかける。

「大丈夫だ。家へちゃんと帰す。私の言葉は信用できないだろうが、このバカは竜族。私の命令を聞くヤツではない」

「酷い言いようです、猊下」

「こいつ自身はお前たちに害を与える存在ではない。私よりは信用できる。現にここへ人を近づけさせないように、気付かれない結界を敷いているしな」

 だから不安がるな、とセラは微笑む。

「ということで帰してやれ、シヴァ」

 立ち上がり、自身より上の位置へあるシヴァの眼を見る。シヴァはその視線を受け、僅かに苦笑した。

 ふと、服を引っ張られてセラが下を見ると、幼い妖族の少年がギュウっとセラの服を掴んでいた。

「え……?」

 困り、どうしようとシヴァを見上げるが、彼は助けもせずに面白そうに二人を眺める。セラは諦めて、もう一度しゃがみ込んだ。

「どうした?」

 銀色の髪を恐る恐る撫でる。少年は不安な瞳をしながらも、セラに抱きついた。

「おやおや。私は邪魔のようですから、しばし席を外しましょう。あ、大丈夫ですよ猊下は君を害しませんから」

 結界はこのままにしておきますね、と言い残してシヴァが風と共に消える。残されたセラは唖然とするしかなかった。

「え……あの……」

「シセラとちょっと同じ匂いがする」

「えっと……?」

「いい、匂い」

 ギュウっと胸元に顔を埋める少年に、セラは途方に暮れた。正直子供の扱い方はわからない。信者には確かに子供が居たが、こうやって信者の子がセラに抱きつくと言う事はない。

「ねぇ、もしかして"おねえさん"?」

「あ? ああ、私は女だ。見えないと思うがな」

 さすがにしゃがんだままの姿勢は辛い為、少年に気遣いながら地面へ腰を下ろす。片手で身体を支えながら、小さい背に手をあて優しく撫でてみる。

「おれはループスっていうの。おねえさんは名前は何て言うの?」

「私はセラだよ、ループス」

「セラ。セラ!」

 先ほどあった少年の恐怖と不安は今は見受けられない。

 想定外に懐かれ、嬉しい半面照れくさい。こうやって接してみると、人間の子供と変わりなく思える。

 嬉しそうな声で笑いながら少年はセラに甘える。しばらくその様子を微笑ましく見ていたが、ふと少年の身体から力が抜けて驚いて身体を支えてやる。よく見るとはしゃぎ疲れたのか、ループスはすやすやと眠っていた。

「驚かせるな……。ふふ、可愛いものだ」

 額の汗ではりつく髪を払いながら、セラも幸福そうに笑う。しかし、何時までもこうしてはいられない。

 

「シヴァ。この子を無事に送り届けてやれ」

 

 後方の宙に向かい話しかけると、誰もいないはず場所が揺らめき、一瞬のうちにシヴァが姿を現す。

「眠っちゃったんですね」

「起こさないように」

「ええ、送り届けたら報告しに来ますよ」

「頼む」

 ループスの柔らかい髪の毛を撫で、セラはシヴァに少年を預ける。

「では……」

 少年を抱えたままシヴァは先ほどのように風のように消える。セラは衣服についた草を払い、立ち上がった。

 

 

 過去の事を思い出し、微笑む。

 あれからループスとは会っていない。立場上は会ってはいけないし会えないのだが、セラはまたあの時の少年に会いたかった。

「綺麗な子だったな。そして可愛かった」

「妖族は見た目は人間より良いのが多いですからね。美男美女揃いです」

「魔法で顔を変えてるとも聞くが?」

「それも含めて美男美女が人間より多いんですよ」

 人間には使ってもばれませんしね、と皮肉そうにシヴァは言う。

「ま、あの年齢で魔法で顔を変えているというのはありませんからご安心を」

「お前の場合も似たようなものだったな」

「竜族のサイズではここは狭すぎますしね。顔が良いと人間には良く思ってもらえますから」

「はいはい」

 呆れてため息しかでない。

 

「そういえば、ループスが貴方をここから出したいって言ってましたよ」

「何で」

 驚き目を見開く。シヴァは苦笑しながら、

「貴方と一緒に居たいんですって」

 意外な言葉にセラがぱちくりと瞬きをする。会ったのは1回だけで、まさかそこまで懐かれるとは思わなかった。

「迷惑かけちゃいけませんよ、と言ってはいますけどね……。まぁ猊下がよろしいなら隠して連れてきますよ」

「ここで会うのなら大丈夫だが……連れ出したい、ね」

「そのうち連れて来ますから、その時にまた話合えばいいでしょう」

「そうだな……」

 ふんわりと微笑し、幼いループスの姿を思い描く。話に聞くとすでに成人し、逞しい青年となっているらしいが、セラの記憶上のループスはまだ幼い少年だった。

「戻ってきたようです」

 廊下からやや慌ただしい靴の音が聞こえる。音の主を考え、セラは苦笑した。

 さして進んでない書類をトントンと鳴らして脇へ寄せる。

「せっかくだ、お茶にでもしよう」

 叱られそうだが、それは後回しにしてもらおう。

 だんだん高くなる足音を聞きながら、セラは微笑んだ。

 


 
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