No.240151

もう少しだけ貴女の隣を

雪村和哉さん

何もないとさびしいのでピクシブに載せた物を一個持ってきました。

幻想郷ではなく、パラレルワールドを舞台とした学園物の一幕です。 いわゆる学園あやれいむ。 合同に先駆けて書いてみる。 設定とかは気にせず、高校生の二人という事だけ頭に入れて読んでいただければと。 カッとなって三時間で書いたんで、粗探しはやめてね!

冬コミでこんな感じの作品を集めた学園あやれいむ合同本を出す予定です。

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2011-07-28 16:07:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:888   閲覧ユーザー数:880

 
 

※この作品は幻想郷を舞台とした作品ではなく、パラレルワールドを舞台とした学園物です。所謂学園あやれいむ

 

 

「あーあ、本降りになってきた……」

学校の帰り道、私は馴染みの書店の軒先で立ち尽くしていた。

本屋に入って、出てきたら雨だった。

おのれ気象予報士、今朝は曇りだって言ってたではないか。。

いや、そもそも梅雨の時期に折り畳み傘を持ち歩いていない私が悪いのだが。

「はぁ、憂鬱だわ」

私はそう言って、恨めしげに空を見上げた。

分厚い雲は私の見える範囲では空一面に広がっており、天候の早期回復は絶望的に思えた。

私は六月が好きではない。

結婚するならジューンブライドがいいだなんだと、クラスメイトが騒いでいたが、あれだって梅雨がない国だからこそだ。

そうだ、私が六月が嫌いな訳ではない。雨が嫌いなのだ。

いや、それも違うか。

雨に限らず、体を濡らす事が好きではない。

雨はもちろんのこと、プールの授業だって苦痛だし、お風呂だって女の子にしては手早く済ませる。その事を修学旅行で同級生につっこまれたりもした。

それにしても、どうしたものか。

「文じゃない。何やってんの?」

私がアンニュイな思考を巡らせていると、不意に私を呼ぶ声があった。

空を見上げていた顔を下すと、見慣れた顔が怪訝そうに私の顔を覗き込んでいた。

「あ、霊夢さん……」

そこにいたのは先輩である私に敬語も使わない、常識知らずな下級生、博麗霊夢その人だった。

いつもの制服姿で、明るい赤色をした傘を差している。

私は上下関係と言うのを気にする方なのだが、彼女に「文」と名前を呼ばれるのはなぜか心地よい。

自分でもよく分からないので「きっと前世ではそう言う親しい間柄だったのだろう」と言う事にして自分を納得させている。

「何やってんのよ、あんたらしくもない憂鬱な表情浮かべて」

らしくない、は余計だ。

「あの、雨が……」

「そりゃ降ってるでしょ、梅雨なんだから」

そう言ってから、私の手元を見て納得したような表情を浮かべる。

「傘、忘れたの?」

「お恥ずかしいですが、その通りです……」

私は小さく頷く。

「でも、あんたの家って歩いてすぐでしょ。この程度なら走れば大して濡れないわよ」

それは分かっているのだが……やっぱり雨に濡れるのはどうしても嫌なのだ。

理由は自分でも分からないが、背中がむずむずする。

「そういえば、あんた水に入るの嫌いだもんね。前世は烏なんじゃない?」

烏の行水って言うしね、と付け加える。

「っていうか、なんで貴女がそんな事知ってるんですか……」

「だって、雨の日はいつもギリギリまで学校にいるじゃない。止むの待ってるんでしょ?夏休みの話題だって、海やプールの話をすると不機嫌そうな顔するし」

驚いた、てっきり相手の心情などお構いなしだと思っていたのに。

「……私の事、ちゃんと見てくれてるんですね」

「んなっ……!」

霊夢の顔が瞬時に朱に染まる。まるで漫画のようだ。

「あんたの弱みでも見つけておかないと、こっちの身が持たないだけよ……」

視線を逸らしてボソボソと言い訳をする姿はいつもながら可愛らしい。

「はいはい、そう言う事にしておきますよ」

「はぁ、あんたと話すとやっぱ疲れるわ……」

クスクスと控えめに笑う私を不機嫌そうな睨みながら、彼女は一深いつため息をついた。

「ほら、行くわよ」

そう言って私の方に少し傘を突きだす。

「えっ」

「雨が止むまでそこにいるつもりでしょ。店の迷惑じゃない」

「入れてくれるんですか?」

「どうせ、すぐそこだし」

私は少し考えて、彼女の好意に甘える事にした。

たしかに家はすぐ近くだし、帰る方向も大体一緒だ。

が、しかし……

「霊夢さん、もう少しそっち寄ってくれませんか?」

「嫌よ、濡れるじゃない」

霊夢さんの持っていた折り畳み傘は思いのほか小さく、少し歩くペースを乱すと彼女の制服の半袖から伸びる細い腕が、私の肩や腕に度々触れる。

同性とはいえ、霊夢さんは黙ってさえいれば凛々しさと可愛らしさを併せ持つ稀有な美少女なのだ。

本人はまったく自覚がないようなので、私も何も言わないが、時々不用意に近付かれるとドキドキしてしまう。

「って、何を考えてるんだ私は……」

「なに?」

不思議そうにずいっと、顔を近づけてくる霊夢さん。

ああ、もう、そういう行動が私を困らせるって言うのに……。

「いえ、なんでも」

「そう」

なんとか自然に返した。危ない危ない。

「ところでさ」

「はい」

「着いたんだけど」

「あっ……」

元々大した事がない距離、話しながら来ればあっという間だ。

「……」

「文?」

この空間がむず痒い半面、まだしばらくこうしていたいと言う気持ちが湧いてくる。

「あ、あの、せっかくですから、このままこの先のスイーツ食べ放題に行きましょう!」

気が付いたらそんな事を言っていた。思わず声が上ずる。それを隠そうとつい、声を大きくしてしまった。

「へぇ、そんな店あったんだ」

霊夢さんは興味を示し、数瞬考えるようなそぶりを見せ

「ごめん、お金ない」

しかし、バッサリ斬った。

「そ、そうですか……はは」

さすがに私も「奢ります」と気安く言える経済力はない。

今日は大人しく帰って、試験勉強でもしよう……。

「なら、来る?」

「……はい?」

「だから、うちにでも来る?どうせ暇潰したいんでしょ?」

「いいんですか?」

「その代わり、試験勉強見てよ」

「ああ、それが目的ですか……」

霊夢さんは理数教科が壊滅的に苦手らしい。

「いいじゃない、利害一致でしょ」

文句あるか、という顔で私を見る。私としても異存はない。

「わかりました、お邪魔しましょう」

「それじゃあ、早く傘取ってきなさいよ」

「嫌ですー!このままラブラブ相合傘で霊夢さんの家まで行きますー!」

「ちょ、バカ!何言って……」

「らぶらぶー!」

「ああ、もう。わかったからでかい声で恥ずかしい事叫ぶな!」

霊夢さんの蹴りが入る。

「わーい」

「それにしても、さっきより全然元気になったわね……」

「私には憂鬱な表情が似合わないらしいですからね。平常運転で行かせてもらいますよー」

私が満面の笑みで言うのを見て、霊夢さんは深くため息をついた。

 

 
 

 
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