我々はHGS研究を利用した違法生体生成物を回収するNGOである。

 HGSとは高機能性遺伝子障害という、先天性の遺伝子障害の症状の進行によって本来人間には不可能である超常現象を引き起こす能力を持つようになった病気であり、当組織はデリケートなそのHGSを扱うため秘匿組織とされている。

 そして今回、この海鳴に壊滅した違法団体の残党が“シード”という生物に寄生してHGS特有の超常現象を無差別に引き起こす兵器をばら撒く事件が起き、政府の要請により当組織が介入したのである。

 シードの回収にはヒューマンデバイスと呼ばれる、擬似HGS能力を後天的に人に与え且つHGS生成物の力を抑制させる振動波を発生させる装置が必要である。だが、ヒューマンデバイスには適性が必要であり、当組織の所属HGS実験動物ユーノを保護した高町なのは嬢が適性を持っていることが判明。先遣部隊の負傷と高町なのは嬢本人の意向により当組織に協力するに至った。

 我々はシードの回収任務を受けて到着した後続の本隊であり、シードを回収するだけの準備が整った以上、高町なのは嬢の協力は任意でしかない。継続して協力を志望したため限定的に情報を開示し保護者への説明をすることとなった。

 

 ……以上、大真面目についた嘘でした。

 

 高町家とは少々特殊な一家であるらしい。HGS患者との交流もあり、その特異性への理解も大きいとのこと。

 なので、魔法をHGSに置き換えて話したのだ。

 危険性も含めて話しているのは、ハラオウン提督の意向である。

 親の庇護下に居る以上、親の許可なしに危険なことなどをさせられないとかなんとか。さすが一児の母である。

 

 HGSの人類外適応実験の結果生まれた喋るイタチのユーノくん。

 テレパス実験によって知性を埋め込まれたヒューマンデバイスのレイジングハート。

 それらを見せてHGSの信憑性を高める。

 

 そして、今までジュエルシードによって引き起こされた事態をHGSに結び付けていく。

 いくつかの事件は封時結界が間に合わなかったり、戦闘の余波で街中が破壊されたりして怪事件として話題に上がっていたらしい。

 いやあ、超能力さまさまだ。魔法の盛んなミッドチルダでも良く解らないことはレアスキルだって言っておけばなんとかなるようなものだ。

 

 高町家のリビングに並ぶのは、なのはさんと同年代の子供も所属する組織なんだということで連れてこられた私、一般の人員としてヤマトさん、艦でも年齢の高い中年の男性武装局員さん、そして説明と言う名の嘘をつくハラオウン提督だ。

 

 私はHGSを呪術の力とする部族から志願してやってきた子。

 ヤマトさんはHGSで見た目が変化してしまった日本人。

 武装局員さんはその年齢と落ち着いた見た目から、全員の上司という名目だ。一言も話していないが。

 

「なのはは剣なんて教えなくても、誰かを守るということをしっかり覚えていたんだなぁ」

 

 高町(父)が感慨深げに言っている。嘘はつきましたが、なのはさんのその思いは確かに本物でしょう。

 自分が手伝うと言いかねない高町(兄)には「空を飛べないと、どうしようもないんですよねぇ」と先制が打たれてある。

 高町(姉)は、ユーノって喋れたんだねー、などと少しずれたことを言っている。

 高町(母)こと高町桃子さんのほうは……。

 

「お母さんはお母さんだから、なのはのことがすごく心配……」

 

 ぎゅっとなのはさんのことを抱きしめている。

 お母さん、か。

 

「でも、最後までやりとおすって、決めちゃったんでしょう? じゃあ、後悔しないように頑張っていらっしゃい」

 

「ありがとう、お母さん……」

 

 泣き出しそうな顔で、なのはさんも答える。

 お姉さんに抱えられたユーノくんがその様子をじっと眺めていた。

 部族に育てられた私たち二人は本当の親の愛というものを知らないが……ユーノくんはこの情景をどう思っているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING

テスト内容:多数キャラ描写のテスト

原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ

原作設定:日本製シューティングゲーム各種

ジャンル:原作キャラに独自の知識で説教するゲテモノオリジナル主人公

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、ジュエルシード探索の始まりだ!

 ……というはずなのだが、あのあと未暴走状態一個の回収を終えたところで何故か私は高町家の家族旅行にご一緒していた。

 

 なのはさんのお友達も連れ立っての旅行らしいが、それを聞いたハラオウン提督に「せっかくだから同い年の子達と遊んでいらっしゃーい」と送り出されてしまった。

 

 うーん、地上本部からの派兵なので接待でも受けているのか私は。

 いや、同年代の友人はユーノくんしか居ないと雑談で話したのを聞きとがめられていた線が強いか?

 

 真意は解らないが、私はすでに旅館へ向かう車の中。タイヤで走る四輪車だ。

 ミッドチルダでも似たような乗り物に何度か乗ったことがある。振動が嫌なので私は低飛空車が好きなのだが。

 

 運転手は高町家の父、士郎さん。その隣の助手席には桃子さんが座っている。

 一番後ろの席には、なのはさんとその友人さん達月村すずかさんとアリサ・バニングスさんが居る。

 真ん中の席には姉の美由希さん、そしてその隣に私が座っている。ついでに膝の上のかごの中には首長ネズミのユーノくんだ。本来ならアースラの治療室で魔力治療のはずなのだが、なのはさんに連れてこられたらしい。

 

 兄の恭也さんは、一人ハブられて後続の月村家の車の中へ。月村家一同は、すずかさんの姉とその使用人たち。

 使用人だ。貴族制度や奴隷制度があるという知識はないが、使用人が居る以上裕福層に属する何かなのだろう、月村家は。

 

 

 ちなみに、すずかさんとアリサさんとは出発前に顔を合わせたのだが、なのはさんのことを名前で呼ぶなら自分達もファミリーネームではなく名前で呼べなどと言われた。なかなか積極的な人たちだ。

 ここは、この年代の子は魔法学校時代の一年目を思い出せばいいのだろうか。大人の人と違って距離感が解らない。

 

 まあでも、隣の席ではないので車の中に居る間は距離を取っておこう。

 先日海鳴の街で現地の服をいくつか調達したときについでに買ったハードカバーの本を読む。

 本のタイトルは『連射王』。上下巻なのでそれなりに読み応えがあるだろう。

 

 本を読む私に遠慮したのか、なのはさんたちが私ではなくユーノくんを膝の上からさらっていった。

 例の嘘はなのはさんを心配していたと言う親友二人にも話してあるので、ユーノくんは喋る小動物として大人気だ。

 

 フェレットなどという動物名の生き物と思われているが、正しくはユーノくんが育った世界のイタチの仲間らしい。私にはげっ歯類にしか見えないが。

 彼は実験動物などというハードな舞台設定持ちなので、嘘も大変そうだ。頑張れ。

 

 

 隣の席の美由希さんは、私と同じように持参した文庫本を眺めている。あ、こっち向いた。

 

「ねえねえ、その本面白いかな? タイトルも初めて見たんだよね」

 

 こちらの本の内容に興味津々のようだ。なのはさんの話によると彼女は読書家らしい。

 黒髪眼鏡っ娘は文学少女、などとこの前の通信で主任ちゃんがのたまっていたのを思い出した。

 

「読み始めたばかりなので面白いかどうかはまだ断言できませんが……ゲームセンターでシューティングというゲームに魅せられた少年のお話というのが導入でした」

 

「ゲームセンターかぁ。何だか変わった本だね」

 

「上下巻なので上巻読み終わったらお貸ししますね。もし楽しかったら下巻もということで」

 

「うん、ありがとう」

 

 話はそこで終わり、お互いに本に視線を戻す。

 シューティング、か。なかなか興味深い遊戯だ。そのあり方は、戦闘機乗りに通ずるところがある。

 

 車の振動に身を任せ、のんびりと本を読む。

 BGMは後ろの席の女の子達の会話だ。他愛のない、世間話。

 私がユーノくんやヤマトさんとするどうでもいい話とは大差がない。

 

 だがどこか、なのはさんは言葉の切れが悪いと言うか、一人考え込むように会話から離れている。

 ふむ、ジュエルシードの回収で頭が一杯で、思考を切り替えられていないとかだろうか。

 魔力が高いといっても、私のようにお仕事で魔導師をしているわけじゃないから、そうだとしたらまあ仕方がないことだろう。

 

 フォローを入れておこうか。念話チップに魔力を流して擬似魔法を起動する。

 

『なのはさん、なのはさん』

 

『ん、カガリちゃん? 何かな?』

 

『何やら思い悩んでいる様子と見られますが、よければ相談に乗りますよ。旅行中に気持ちを沈ませるのもなんでしょう』

 

『ありがとう。えっと……あのね、あの女の子のことなんだけど……』

 

 あの女の子、フェイト・テスタロッサについて思い悩んでいるようであった。

 

 自分と同じくらいの女の子。何を目的に自分達の前に現れたのか。

 あの子の顔を見て以来、何か心に触れるものがあり、ずっと気になっていたらしい。

 

『できれば、また会ってお話を聞きたいんだけど……』

 

『会うのはジュエルシードを追っていけば可能かもしれませんが、話を聞くとなると捕縛の必要がありますね』

 

『捕縛、か。戦って、勝たなきゃ、だよね』

 

『なのはさんが127万、フェイト・テスタロッサが143万、でしたっけ』

 

 魔法は魔力値の大きさだけじゃないとハラオウン執務官は言ったが、それならば新米魔導師のなのはさんには場数と知識が足りない。

 レイジングハートにプログラムされている魔法は祈願型。高魔力向けのいわゆる魔力とデバイスに任せた半オートパイロットなのだが、デバイスへの意志の伝達と魔力の制御にはやはり熟練が必要だ。

 

『確かになのはさん一人では分が悪いでしょうけど、私たちも頼って欲しいところですね』

 

『にゃはは、ごめんね。だけど、私がお話を聞きたいと思うから、やっぱり私の力でやってみたいんだ』

 

 なるほど、ね。彼女は納得したいのだろうと私は思う。

 

 自分の力でフェイト・テスタロッサにぶつかり、その思いを伝え答えを返してもらいたい。

 

 彼女は現地魔導師だ。私たちのように犯罪者の検挙にばかり思考を向けなくとも良い。

 彼女なりの魔導師としてのあり方を模索している段階であるかもしれない。

 

『それならば、私が魔法学校のサムソン教頭から聞いた魔力を劇的に高める方法をお教えしましょう』

 

『え、本当』

 

『ただし……この場合、魔砲は頭から出ます』

 

『え、えええー。それはだめー!』

 

 うむ、和んでもらえた。気分転換してもらえて何よりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは湯のまち、海鳴温泉なの。温泉です、温泉。

 私はこれでも温泉マスター。自然あふれる第6管理世界では、温泉がいたるところに沸いていたのだ。

 自然に手を入れないと言い張る自治区でも、私たち一族は自然に沸いてくるものだからと湯を引っ張ってきたり露天風呂を確保していたりしたのだ。

 

 着慣れないキャミソなど、即脱衣。下着も瞬く間にかごの中だ。

 魔力炉が回りうねりをあげる。いや、あげなくていい。テンション上がりすぎた私。

 半端に魔力を流された全身の魔動機コネクタが淡く点滅する。

 

 何事だ、と何人かに見られるが、まあ何か言われたらHGSのスーパー発電パワーなんですとでも説明しておこう。

 

 テンションが上がっているのは私だけではないのか、皆、服の脱がしあいっこなどをしている。

 そして一人挙動不審に目をそむける首長ネズミのユーノくん。

 

 その性差に気付かないなのはさんに念話でボケを飛ばされて焦っているのが見える。念話はクローズモードを使いましょう。

 

 念話に割り込んで助け舟を出そう。

 

『ユーノくん、私たちの歳の子供は、この国では異性でも一緒にお風呂に入ることは珍しいことではないのですよ』

 

 助け舟出しました。

 有無を言わさずユーノくんの首根っこをつかんで浴場へ連行する。

 

 お風呂場は、なかなかに広い四角の空間。石と木で作られた空間はなんとも趣深い。奥に見える湯の色は緑だ。

 

 ファンタスティック! などと叫んでいるアリサさんへユーノくんを投げ渡し、まず身体を洗う。

 風呂につかる前はまずかけ湯を体にかけるのが最低限だが、洗って清潔になってからというのが望ましい。

 

 頭よし体よし足の裏までよし。

 さて、至福の……。

 

「湯船に、バスタオルを、入れるなーっ!」

 

 思わず叫んでしまった。

 え、なんで。なんでバスタオルを身体に巻いたまま湯に浸かっているんですか。

 そもそもなんで寒くもない室内浴場でバスタオルなんて巻いているんですか。

 

「え、でもテレビでは普通に……」

 

 月村家の姉、忍さんがバスタオルを巻いたまま湯につかり反論する。

 

「局部を隠すための映像配信演出に毒されすぎですよ。本当に貴方達は日本人ですか」

 

「カガリちゃんは本当に外国人なのかな……」

 

 温泉に浸かる一歩手前で足を止めていたなのはさんからのツッコミが入る。

 皆に習ってバスタオルを巻いていたが、解いてくれたようだ。

 

「日本文化には造詣が深い自信があります。少女漫画とか」

 

「……こういう外国人ってよくいるわよね」

 

 どうみても金髪外国人のアリサさんからも遠慮のないツッコミが入る。

 これこそ裸の付き合いというものだろうか。

 

 

 閑話休題、湯に浸かり身体をめいいっぱい伸ばす。

 健康に入るための時間なども存在しているらしいが、心肺機能が人類より進化している私には関係のない話だ。

 

 素肌に浮かぶコネクタをこするようにして湯の成分を染みこませる。

 ああ、幸せ……。

 

 と、アリサさんがこちらの肌をまじまじと見ている。

 

「その模様、なんだか凄いわねぇ。例のHGSとかに関係あるのかしら」

 

「私の部族はこういった刺青のようなものをいれる文化がありまして……」

 

 実際には魔動機械接続用の生体機械コネクタだが。普段は凹凸がないので刺青で誤魔化せるだろう。

 

「でも温泉とかって刺青の人入れないところ多いよねー」

 

 いそいそとバスタオルを外しながら美由希さんが言う。

 

「そうなんですか。海外文化に理解のない国ですね。まあダメだったときは児童虐待で無理やり墨入れられたって泣き落としますよ」

 

 私を温泉から締め出そうとするような狭量な温泉文化は無視させていただきます。

 

 生まれついて存在しているコネクタだというのに、それだけで温泉に入れないなど話にならない。

 いくら監視指定生物といえど、許容できない差別もあるのだ。

 

「刺青がなければ温泉にこだわるところとか、この黒髪とか、本当に日本人みたいね」

 

 アリサさんがぺたぺたと髪の毛に触れてくる。

 さりげに隣に来ていたすずかさんも、綺麗ーなどと言いつつ簡単にアップにした私の髪に触れている。

 

 私の髪の色は、混じりけのない黒である。

 今は湯船に髪の毛が触れないよう洗った後にまとめたが、普段は頭の右横で片結びにしている。

 

 昔から続けている英雄カガリと同じ髪型だ。彼女も髪の色は漆黒であったらしい。

 

 この場で私と同じ髪の色の人は、美由希ただ一人。他には茶、金、紫となんともカラフルなラインナップだ。

 こういうところは、あらゆる世界から人が集まるミッドチルダと変わらないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 温泉を出て館内を歩き回った私たち幼年組み四人と一匹は、自然を見に旅館の外へ出ようということになった。

 おのおの浴衣から着替えて旅館の前に集合だ。

 

 私は一人準備が遅れて一人でロビーまでやってきた。

 

 そこでは、浴衣姿の恭也さんが月村家の使用人さんとお土産コーナーで品物を見繕っていた。

 

「あら、カガリさん。その格好はお出かけですか?」

 

「はい、釣りです!」

 

 使用人のノエルさんに元気に答える。しまった、またテンションが上がっている。

 そう、準備が遅れていたのは釣りの準備をしていたためだ。この近くの川は水が澄んでいて魚が良く釣れるらしい。

 

 釣り、と言う単語に恭也さんが反応した。

 

「ご一緒していいかい? 俺も釣りが趣味でね」

 

「はい、フロントで一式レンタルできますので」

 

 ちなみに幼年組の三人は、釣りはせずに辺りを見て歩きたいだそうだ。

 まあ、二泊の旅行だし、やることはいくらでもある。

 私としては一人釣りになりそうでちょっと残念であったのだが、ここにきて心強い友を得ることが出来た。

 

「じゃあ、着替えるので待っていてくれ」

 

 早足で部屋まで戻る恭也さん。ノエルさんはお土産コーナーに残るようだ。

 まあ釣りなんて見ていても暇なだけだけだからわざわざついてくることもない。

 

 しばらく待つと恭也さんが服を着替えて戻って来た。

 フロントまで一緒して釣り道具一式を借りる。ルアーフィッシングというやつだ。

 

 旅館を出て、手を振るなのはさんたちと合流する。

 釣り道具を持って現れた恭也さんを見て、何か呆れたような顔をするなのはさんが居た。

 

「立派な釣り道具だけど、それもしかして自前かい?」

 

 フロントには置いていなかった私の釣り道具を見て言う。

 これは、ミッドチルダから持ち込んだ手荷物の中に収納魔法を使って入れておいた趣味の品の一つだ。

 

「はい、トリガーハートという故郷の釣り竿です。川釣りから大型魚の一本釣りまでこなす万能携帯竿です」

 

「はは、こっちはただのレンタルだからとてもかないそうにないな」

 

「はい、目指すはオニキンメです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れになって、私たちは旅館に向けて引き返していた。釣り果は上々。

 釣った魚の名前が解らないというのが唯一つの問題か。

 フウセンウナギとかマンボウとかクジラなら解るのだけれど。

 

 川の流れを眺めながら、二人川沿いを歩く。

 なのはさんたちは既に旅館に帰っているだろう。

 

 久しぶりに良い息抜きになった。

 二泊の休みが終わればまた出撃を待つ待機任務の始まりだ。

 

 と、そこで微弱な魔力を感知した。

 これは、もしや……。

 

「恭也さん、寄りたいところがあるので、先に旅館に帰ってください。荷物、重たいですけどフロントにお願いします」

 

 レンタル分の釣具とジャケットを恭也さんに渡す。

 

「寄りたいところ?」

 

 急な提案に怪訝そうな顔を浮かべる。

 まあ、こんな日も暮れそうな時間に女の子一人でどこかへ行こうとするのだ。心配もするだろう。

 

「HGS関係、です。上司に連絡しますので」

 

「……解った。もし手伝えることがあったら言ってくれ」

 

「はい。あと、もしかしたらなのはさんにも出動がかかるかもしれません」

 

 そこで話を切って、念話をアースラに向ける。

 感知した魔力は前回出動した暴走前のジュエルシードと同じもの。微弱なので近くに来てようやく気付けたのだろう。

 

『アースラ、応答願います』

 

 アースラの念話受信機に念話を届ける。これなら、交代制の通信士の誰かがいつでも念話を受け取ってもらえる。

 

『はい、こちらアースラです。ダライアスさん、いかがしましたか』

 

 通信士の一人が応答に答えた。

 何かの拍子で暴走する前に急ごう。

 

『暴走前のジュエルシードを感知しました。私の今いるエリアのサーチをお願いします。それと、アースラまでの転送を』

 

『了解しました。転送室まで転送します』

 

 

 アースラに戻ってから急ぎでパイロットスーツに着替え、斑鳩・銀鶏を装着する。

 着替えてばかりの一日だ。でも、私はわざわざ着替えないとジュエルシードの封印も、暴走体との戦闘も出来ない。

 魔導師と比べて使い勝手が悪い存在だ。いや、魔導師の使い勝手が良すぎるのか。

 

 転送で再び地上へ。バリアジャケットに着替えたなのはさんが既にジュエルシードに向けて封印魔法を執行しようとしていた。

 ユーノくんは結界魔法で万が一の暴走に備えている。

 ジュエルシードは暴走していないので、この三人のみの出動だ。

 魔導師の疲労は少ないほうが良い。他は船内で待機状態だ。

 

「リリカル! マジカル!」

 

 封印魔法を放とうとするその瞬間、異常な魔力反応が結界内に割り込んできた。

 

『結界内に転送反応五つ! この魔力反応は……傀儡兵です!』

 

 私たちを囲むように、魔法の自動人型兵器の傀儡兵が四体姿を現した。

 予想通りジュエルシードの前に現れたか、魔導師組織。

 

 シップを駆動させ魔力吸収フィールドを展開する。

 

 バイザーから検知される傀儡兵の魔力値はAクラス。四体は多いが、勝てない相手ではない。

 機銃を傀儡兵の一体に向ける。

 

「ずっとこのときを待っていた……」

 

 急に背後から地から鳴り響くような声が聞こえた。

 とたん、シップからアラームが鳴り響く。

 

 しまった、傀儡兵は四体、転送反応は五つだ。

 

「必ず死なす!」

 

 叫び声に振り向くと同時、魔法の鎖が魔力障壁に食い込んだ。

 鎖を放ったのは、黒い魔導師、フェイト・テスタロッサ。どこか焦点のあっていない目で鎖をさらに放ってくる。

 

 魔力の鎖が障壁にからまるように巻きついていく。

 

 機動力ではかなわないと知って、捕縛魔法を撃ってきたか。

 移動に支障はないが、鎖を破らないと黒い魔導師から一定以上離れることができない。

 

 魔力の刃を鎖に沿わせて放ってきた。

 鎖を伝ってきている以上、回避不能だ。

 

「あなたを生かしているのはこの私、あなたを生かしているのはこの私、うふふ……」

 

 衝撃が魔力障壁を伝って叩きつけられた。

 狂った飛行を制御するうちに、魔導師が肉薄し刃で切り付けてくる。

 

 死なすと言われていたものの、その魔法は非殺傷設定(まりょくしょうげき)

 だがそれでも障壁から伝わる衝撃は強い。

 

 AAAランク相当の魔力による斬撃。そう長く持つものではない。

 離脱しようにも鎖でお互いが繋がれているため振り切れない。

 

 機銃を撃ち応戦するも、その動きを捉えられない。

 こちらの背後を取ろうと高速で移動するので、片手で持てるデバイスに対し小回りの聞かないシップの機銃が当たらないのだ。

 

 く、ここはブラックハートで力技で鎖を……。

 

「もう、それは、だめ」

 

 雷撃が背中で弾ける。零距離砲撃だ。魔法障壁がごっそりと削られた

 私は接近戦ができない。高い機動力は中距離を移動するためのものであり、シップもその大きさから振り回せるようなものではない。

 シップの装甲を叩きつけ刃を受けとめるのは、格闘戦とは言わない。

 自爆覚悟(カミカゼ)というのだ。

 

 だが、こうも近距離で高速で動かれてはその自爆覚悟もできない

 斑鳩の魔力吸収フィールドは陽。振り下ろされる刃の陽の魔法の力を吸収し、溜まった力を解放する。

 

 追尾するその魔力の矢も、障壁魔法の前に霧散した。

 

「やり直さなければならない……、やり直さなければならない……」

 

 ぞっとするような声がまた背後から。

 全身のカメラアイを総動員して全方位視界を得ても、動きを捉えきれない。

 加圧処理で加速した知覚の中でも私のあらゆる動きを凌駕してくる。

 

「そう、今度は私の勝ち」

 

 振り向いた瞬間、今までよりはるかに肥大化した黄金の魔力の刃が振りおろされようとしていた。

 

 防げない。来ると分かっていてもこの速度では防げない。

 あらゆる武装も防御も隠し玉も間に合わない。

 

「カガリちゃん!」

 

 なのはさんの叫びの中、最後の魔法障壁は紙のように切り裂かれ、紫電を撒き散らす死神の鎌が私の胸に突き刺さった。

 

 

 

――――――

あとがき:サマーソルトしてくる光の巨人に戦闘機搭載の剣一本で立ち向かう人はすごいと思います。

 

用語解説

■使用人が居る以上裕福層に属する何かなのだろう

日本では住み込みの使用人一人雇うのにすごいお金が必要です。ちなみに古代のローマでは、奴隷は貴重な財産としてかなり丁寧な扱いを受けていたとか。

いつの時代も人件費には頭を悩まされます。まあ、手塩にかけて育てた奴隷が優秀で便利すぎて、古代ローマでは天才が多いのに機械文明が発達しなかったのですが。

 

SHOOTING TIPS

■連射王

ある日ゲームセンターでSTGのスーパープレイを見てしまい、STGの道に引きずりこまれた少年が人間関係に翻弄されつつSTGの腕を上げていくという、他では類を見ない小説です。巻末にはSTG業界の歴史年表などもあり、STG好きの方は上下巻一冊ずついかがでしょう。

ちなみに十数年前に出たこの作者のラノベの武器デザインは、装甲と突起ぶりの傾向がなんともレイハさんに似ています。

 

■魔砲は頭から出ます

メンズビィィィィィム!!!!

ネタ扱いが強いSTG超兄貴ですが、音楽は何気に名曲揃いです。ネタ曲ですが。

 

■トリガーハート

ファンが自機を擬人化して萌え萌え言うくらいならゲームで初めから自機を擬人化しておけば萌えSTGになるだろうというトリガーハートエグゼリカは、アンカーを敵に飛ばして一本釣りし振り回して武器にするという、見た目に騙されていけない本格的で独創的なシステムをもったSTGです。

あ、ちなみに萌えはすでに死語ですよ。

 

■目指すはオニキンメです!

※オニキンメは深海、もしくはダライアスに生息する魚であり、川魚ではありません。

 


 
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