No.239172

そんな噂話

海原凪さん

テスト投稿。

2011-07-28 11:48:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:498   閲覧ユーザー数:497

 

 

 

 

――ねえ、知ってる?

 

 

 

春の陽気に乗って、そんな噂話が女の子の間に咲く。

 

 

このお話は、甘い甘いそんなお話。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「なんだ、これ?」

 

いつもと変わらぬ3時のお茶の時間。

シュガーポットから取り出した角砂糖の表面に、見慣れぬソレ。

 

「私には角砂糖に見えるわ」

「私にもそう見えるぜ」

「じゃあそれはきっと角砂糖ね」

「そうだな、角砂糖だ」

 

お互い納得して、そこで会話は終了。

そしてまた、穏やかなティータイムが再開される。

 

「……って、違う!私が聞きたいのはそこじゃあない!」

 

危うく誤魔化されそうになった事に気づき、思わず大声を出してしまう。

あまりにも普通に流すから、普通に納得してしまった。なにやってるんだ私は。

 

「私が聞きたいのはこれだ!これの事だ!」

 

そう言ってずいとアリスの目の前に差し出した角砂糖の表面には、丁寧に彫られた『M.K』の文字。

 

「文字ね」

「文字だな」

「じゃあそれは文字よ。で、あなたは4つでいいのよね?」

「そうそう。良く覚えてるな」

「そんなに入れるの、あなたくらいのものよ。ところでそれ、いつも思うんだけど甘すぎるんじゃない?」

「これぐらいが丁度いいんだよ。甘い紅茶を飲むと幸せな気分になれるんだぜ?」

「あら、私はひとつも入れなくても幸せな気分になれるけれど」

「じゃあもっと幸せな気分になれるように試してみればいい……ってそうじゃない!」

 

彼女のティーカップに角砂糖を入れようとしたところで、またしても誤魔化されかけた事に気づく。

同じ手にそう何度も引っかかってしまう程私だってバカじゃない。

今度こそ問い詰めてやろうと意気込むものの、目の前のアリスはクスクスと笑っていて。

 

「な、なに笑ってるんだよ?!」

「可愛いなあって思って」

「な……っ!さ、砂糖くらいで子供扱いするなよな!」

 

いつもいつも人の事子供扱いして、バカにしやがって!

そんな風にも思うけれど、私の入れる砂糖の数を覚えてくれていた事がすごく嬉しくって。

怒っているはずの自分の顔がにやけてしまいそうになる。ここはどうにか押さえなくては。

 

「と、とにかく!なんだよ、この一個一個にご丁寧に手彫りされた文字は」

 

仕切り直して、先程から言いたかった本題に入った。

そう、今問いただしたいのはこの角砂糖に彫られた文字の事だ。

それ意外の事は、いまは置いておこう。

 

「暇つぶしよ、ただの」

 

そんな風にあっさりと返してくるアリスは、何事もなかったかのように紅茶を一口啜る。

普通に考えて、気紛れでこんなことするはずがない。

特にあのアリスの事だ。意味のない事をするだなんて、思えない。

 

「この『M』ってどんな意味なんだ?」

「マーガトロイドの『M』」

「……なんだそりゃ」

 

あまりの回答に、さすがの私も呆気にとられた。

マーガトロイドの『M』って……それ、明らかに嘘だろ。

 

「そのままでしょ。マーガトロイドの『M』」

「……いや、意味がわからない」

「意味なんてないわよ。暇つぶしだもの」

 

それでも当たり前だろうと言わんばかりな彼女の態度を見ていると、なにかそんな気がしてくるから不思議なものだ。

だがだからと言って納得できるわけもなく。

 

「だったら『K』はなんだって言うんだ?」

「紅茶用の『K』」

「……いやいやいやいや」

 

流石にそれは苦しすぎるだろ、アリスさんや。

いくらなんでもソレはない。きっとない。普通ない。

 

「紅茶なら『T』だろ?『Tea』の『T』」

「日本語に合わせたのよ。だから『紅茶』の『K』」

「………そうかよ」

「そうよ。ほら、折角の紅茶が冷めちゃうわよ?それともいらないのかしら」

「いえ、いただきます」

「よろしい」

 

そう言ってにこりと、アリスは笑う。

 

なにかもう、これ以上何かを言うのがばかばかしくなって止めた。

どうせこれ以上何かを言ったところで、アリスはきっと本当の事など教えてくれやしないのだろう。

 

ずずっと啜った紅茶は、いつも通りに幸せな味。

でも、少し冷めてしまったソレになぜか切なさを覚えてしまう。

 

つい先日、角砂糖に纏わるジンクスが人里で流行っているらしいと風の噂ならぬ天狗の噂で聞いた。

 

だからもしかして……なんて少し期待した自分があんまりにもバカらしくって。

というかこんな紛らわしい暇つぶし、するほうが悪いんだ。こんなの、タイミングが悪すぎる。

 

 

でもよくよく考えて見れば、そんな代物を人に使わせるはずもないわけで。

 

 

……結局、私の思い上がりだったって事なんだろう。

 

 

なにか、一人で恥ずかしくなって来る。今すぐ帰りたくなってきた。

 

 

「なあ、アリ――」

「ところで魔理沙」

 

そろそろ帰るという私の言葉は、

 

「角砂糖のおまじないって、知ってる?」

 

そんなアリスの言葉で遮られた。

 

 

 

目の前のアリスは、ただにっこりと微笑んでいて。

 

 

 

それは、どういう意味なんだろうか?

私が思った通りの意味で、いいんだろうか?

 

 

 

それは、つまり――

 

 

「あ、アリス!私、お前の事が――」

 

 

暖かな日差し、そよそよと吹く風。

そんな春の陽気に乗って、女の子の間で囁かれるジンクスがひとつ。

 

 

 

――好きな人のイニシャルを角砂糖に彫って、それを紅茶で飲むと両想いになれるんだって!

 

 

 

今日もまた、そんなジンクスで想いを叶えたカップルが一組……。

 

 

 

Fin...

 

 
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