No.238920

鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第6話~8話

NDさん

クロスオーバー作品は、ぶっちゃけこれが最初じゃあない。

2011-07-28 11:04:13 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6191   閲覧ユーザー数:6023

~???~

 

謎の巨大な樹木の場所で、列車と共にエルリック兄弟が消えたと報告を受け、

 

実際に、その樹木の場所に辿り着いたのだが、

 

調べる最中、光に包まれ、

 

気づいたら、線路から砂漠に変わっていた

 

『むぅ…。私とした事が……。調査中に別の場所に飛ばされてしまうなど……!不覚!』

 

残した調査班に罪悪感を感じながらも、

 

アームストロング少佐は、今この状況ではどうする事にもできなかった。

 

『せめて、消えたエルリック兄弟だけは!我が輩が助けてやりますぞ!』

 

その罪悪感から、まず、樹木に触れた所で、この場所に飛ばされたのであればこの場所にエルリック兄弟が居る可能性がある事を、アームストロング少佐は察した

 

そして誓った。絶対に見つけて見せる。と

 

『ぎゃぁああああああ!!』

 

『ムン!?』

 

遠くで、男性二人であろうか、その者が悲鳴を上げているのが聞こえた

 

『くそっ!!魔物に囲まれた!』

 

『畜生……!!俺まだ死にたくねえよぉ……!!』

 

男二人は、砂漠の魔物に囲まれていて、

 

今まさに、死を覚悟していた

 

『くそぉ……!!やっと……やっと生命の実を見つけたのに……娘を助けられると思ったのに……』

 

男は、ボロボロと涙をこぼした

 

『ごめんなぁ……サリア……。お父さん……先に逝ってるからな……』

 

そう言って、大人しく魔物の餌になろうとした時、

 

遠くから、何かが近づいて来るのが分かった

 

『なんだ!?また魔物か!?』

 

だが、そいつは魔物を剛腕な腕で殴り飛ばし、蹴散らしていって、

 

男二人の元へ駆け寄って来ていた

 

『うわぁぁああ!!なっ…なんですか貴方!!』

 

その筋肉質な身体に、さらに巨大な身体、そして威厳のあるヒゲ、

 

そして、その筋肉男は涙を流していた

 

『ああ…!病気である娘の為に自ら危険を冒して、この危険な砂漠に行く勇気!!そして娘への愛情!!』

 

筋肉男は、娘の事を言葉に出した男に思いっきり抱きついた

 

『我が輩!感動!!感動したぞぉぉぉおぉおお!!!』

 

『ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

男は、先程魔物に出会った時よりも悲鳴を上げた。

 

そして筋肉男から解放された後、筋肉男は魔物を方を見た。

 

その筋肉男に睨まれた魔物たちは、ガタガタ震えながら怯えていた

 

この大きな巨体の筋肉質の男に、あきらかに恐怖し、分かりやすいほどに震えていたのだ

 

『大切な者を待っているこの者に、指一本触れさせん!!』

 

すると、瞬時に筋肉男は上半身裸になった

 

『見よ!!このアームストロング家に代々伝わる年々鍛え上げられた!!究極の肉体美をぉおお!!』

 

魔物は、アームストロングの方を決して目と身体の向きをそらさず、ガリガリと後ろ歩きで地平線の彼方へと逃げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~バンエルティア号~

 

重症の姿ので帰ってきたリカルドを見て、最初に悲鳴を上げたのはアンジュだった

 

『リカルドさん!!』

 

肩から出血しているリカルドの方へと駆け寄り、

 

『誰か医療班!!医療班を!!』

 

医療室から、アニーとエステルと、一緒に居たリタが出てきた

 

『!エドワードさん!!これは一体何があったんですか!?』

 

状況がつかめない、この現実に、エステルは動揺した

 

『酷い……肩甲骨の上半分が、鋭利な物で裂かれています……!』

 

『あんた!一緒に居た時に何があったのよ!!』

 

リカルドは、その結果に舌打ちをした

 

『直せんのか……?』

 

『分かりません……万が一治っても、これから先、腕が使えるかどうか……』

 

廊下から現れるように、カノンノが広場に来た

 

『!』

 

仲間であるリカルドが、血まみれの姿で帰って来ていたのを見て、カノンノは混乱した

 

『エド!一体これは何があったの!?』

 

『!!』

 

リカルドが、カノンノ声に反応し、カノンノの顔を見た瞬間、目を見開いた

 

そして、リカルドは懐から銃を取り出し、銃口をカノンノに向けた

 

『!リカルドさん!』

 

パン!と乾いた音が広場に響いた

 

『わぁああ!』

 

カノンノが背持たれているの壁で、弾が自分の頬近くで弾けたのを聞いて、驚いて尻もちをついた

 

カノンノは、いきなり撃ってきたリカルドに怯えていた

 

『……違うな』

 

リカルドは、その反応から、遺跡に居た奴とは違うと判断した

 

そして、また廊下から二人、リカルドの顔馴染みが現れた

 

『おい!おっさん!!』

 

スパーダが、リカルドの元に駆け寄る

 

『ルカ!!お前!リカルドに何があったんだ!!』

 

『えっと……遺跡でカ……』

 

カノンノ、と言いかけた所で喉元がつっかえた。

 

今、カノンノに似た人と言ってしまえば、カノンノの立場が……

 

『カノンノに似た化け物に出くわした』

 

エドが、何の躊躇も無く答えた

 

『エドワードさん!?』

 

『エド…!?どういう事…!?』

 

『何を分からない事を言ってるのよ!』

 

最初に疑問の声を出したのはカノンノだった

 

それを、リタが反論した

 

『何を言っているのよエドワード君!カノンノはさっきまでずっと窓で絵を描いていたのよ?』

 

『ああ、だから似ていた別人だ。それに』

 

エドは、思い出したくない程のあの笑顔が頭に浮かんだ

 

それで、エドは少し苦い顔になった

 

『……そいつとは、列車の中でも出会った』

 

アンジュとカノンノは、それを聞いて驚いた顔をしたが、

 

他の者は、何のことかは分からず、気にはしていなかった

 

それよりも、まずリカルドの傷からだ

 

『その裂けた骨は、なおらないんですか?』

 

『残念だけど、治療魔術だけでは、それほどを治す事は……』

 

エドは、治療している二人の場所まで行き

 

『骨をくっつかせれば良いんだな!?』

 

『え?』

 

そう言って、エドは手を合わせ、リカルドの肩に手をやった。

 

『いっ……!』

 

リカルドの肩が光り、リカルドは一瞬辛い顔をした

 

『ちょっとあんた!おっさんに何したのよ!!』

 

『待って!』

 

アニーが、リカルドの肩を確認した

 

『………骨が、治ってる』

 

『えっ!』

 

周りの者と、リカルドがその反応をした

 

『骨の材質と性質はかじってたから、肉体よりは簡単に治せた。だが、傷付いた肉体までは治せねえし、骨も完全に治っていねぇ。応急処置って所だ』

 

エドが手を払った後、アンジュが質問をした

 

『その錬金術で身体を治させて貰って……大丈夫なの?貴方に影響は?』

 

『そんなもんねぇよ。ただくっつかせたり直したりすんのに何の労力も要らねえ。』

 

アニーも、エドに質問をした

 

『これほどの能力とかでは、大量の魔力とか使ったりするはずなのだけど…』

 

『錬金術は化学だ。魔力なんてもんは存在しないし使わない。だから安心しな』

 

そう言い捨てた後、アニーとスパーダは手を貸し、

 

『おらおっさん、立てっか?』

 

『骨が治っても、しばらくは安静にしてくださいね。』

 

リカルドを医務室へと連れていった。

 

そして、その三人が消えてから、その場は沈黙が流れた

 

『よし、これで一件落着って事だな』

 

エドがそう言った後、ルカが心配した声で言った

 

『リカルドさん、大丈夫かな……それに、さっきのカノンノに似た女の子も、またこれから会う事になるのかな…』

 

エドは、ふんと鼻を鳴らし、腕組をした

 

『なに、また動けなくしてボコボコにしてやりゃいいだけだろ。』

 

『エドワードさんも、イリアと同じ暴力系なんだね……』

 

『なんか言ったかしら?』

 

『いや…別に…』

 

エドが息を吐いた後、

 

『さて、俺はもう部屋に戻らせてもらうぜっと。』

 

そう言って、アンジュに自分の部屋を聞こうとした瞬間、

 

そこには、エステルが居た

 

『うおっ!!なっ…なんだよ……』

 

エステルが、先程クエストへ行く前に見たハロルドのあの輝く目に似ていた

 

その目を見たエドワードは、嫌な予感がした

 

『すごい……』

 

『へ?』

 

『すごいです!!エドワードさん!!錬金術にまさか医療まで含まれていたなんて!』

 

エステルは、エドの身長に合わせるように屈んで、エドの手を両手で握った

 

『エッ…エステル!?』

 

リタが、エステルを心配したような様子で呼んだ

 

エドは、エステルのその目が鬱陶しくてしょうがなかった

 

『そりゃそうだ。錬金術にもいろんな種類があらぁ。これは生体錬成って言って、錬金術師の使える医者が使う錬金術で』

 

『それで、魔力も何も必要としないんですよね?』

 

『さっきからそう言っていただろ!これは魔法じゃ無くて錬金術なんだよ!!』

 

そう言ってエステルの手を払った後、

 

エステルの両手はまた磁石のようにエドの手に戻ってきた

 

エドは、露骨に嫌そうな顔をした

 

『だぁ―――!!なんだ!!一体何がしたいんだお前!!』

 

『教えて下さい!!』

 

エステルが、今度は真剣の眼になってエドを見つめた

 

『……は?』

 

『私に、錬金術を教えて下さい!その力があれば、きっともっと多くの人が救えるはずなんです!』

 

『ちょっ…ちょっとエステル!?』

 

一番動揺していたのはリタだった

 

王女であるエステルのこの頼みと、期待高まっているその顔は、どうしても断れそうにないオーラが出ていた。

 

だが、エドはそんなものは効かないらしく

 

『やなこった!大体お前治癒術使えるんだろ!?わざわざリスクの高い錬金術学ぶより治癒術の方を極めたらどうなんだ!』

 

思いっきり反発をした。

 

それは、当然相手が王女というのが分かっていての答えで

 

『そうよエステル!わざわざそんな胡散臭い術をこんなチビに学ぶよりも、治癒術を学んだほうが良いって!』

 

『んだとコラァ!!』

 

チビに反応し、リタに向かって大きな声の弾幕を送った。

 

エステルは、断られたにも関わらず、諦めていない顔をして

 

『嫌です!治癒術は、極めても所詮は魔術。力が尽きてしまえば、いざと言う時に役に立ちません』

 

さらに、エドの腕を握る力が強くなり

 

『だから、エドワードさんの錬金術も習えば、いざと言う時にも処置は出来て、治癒術とも組み合わせれば、もっと効率が高い治療が可能になるんです。それに、もう二度とリカルドさんのような事は絶対に起こしたくありません』

 

エステルは真剣だった。あの興味本位で錬金術を教えてと言ってきたケバ女とは違って、本気の目的を持ってエドに頼みかけていた

 

『ですから!お願いします!!エドワードさん!私に錬金術を教えて下さい!』

 

ここまで理由を述べて、本気で頼み込んだのである。

 

『あーあ。これじゃぁもうやれるまでエステルは動かないわね。』

 

エドも堪忍して教えてもらえるだろう。と思っていたが、

 

『……錬金術の基本は特価交換』

 

エドは、エステルに背を向けた

 

『何もお前に錬金術を教える義理なんか無え。俺は部屋に戻る』

 

そう言って、アンジュの元に歩み寄った。

 

アンジュは、小声で『教えてあげたら?』と呟いたが、エドは無視した

 

エステルは、少しだけ間を空けて

 

『……それって、タダでは教えてあげないって事ですよね?』

 

『まぁ、簡単に言うとそんなもんだ』

 

その理屈を聞いてエステルは、再び眼を輝かせたが、

 

リタは、不満を言った

 

『何よそれ!エステルは王女様なのよ!?特価交換とか物寄こせとか、図々しいと思わないの!?』

 

『お前の方が図々しいと思うけどな』

 

エドは不敵の笑みをしながら、リタを見下すような態度をとり、

 

リタは、その姿を見て腹わたが煮えたぎるしかできなかった。

 

『それに、王女様ならなおさら出すもん出せってんだ』

 

そう言い捨てた後、イリアはにやけた

 

『あらぁ?なんだかあんたと私と、気が合いそうねえ?』

 

仲間を見つけたようなその微笑みに、ルカは悪寒を感じた

 

『それじゃぁ、ギルドで働いたお金は全部、エドワードさんに差上げます!』

 

『ちょっエステル!!それで良いの!?』

 

『構いません!もっと多くの人が救えるかもしれないんです!だったら、お金なんて…!!』

 

エドがその要求を聞き、ただあくびをした

 

『なんでそう、王族の奴らとか、貴族とかお偉いさんは、なんでも金で解決しようとするのかねぇ。』

 

その言葉を聞いてエステルは、また悲しそうな顔をしたが

 

『アンジュさん、列車にあったあの本、まだとっといてある?』

 

それを聞かれたアンジュは、少し慌てて

 

『ええ、えっと…ちょっと私が読んでいて、机の中にあるけど…』

 

そう言って、アンジュが出した本を、エドは取り、

 

エステルの目の前に、放り投げた

 

『あ……』

 

『医療錬金ってのはかなり高度の錬金術だ。使いこなすにはまず基本の錬金術から。その基本の錬金術をまともに使えるようになるには、まず錬金術を理解する事。』

 

エステルは、すぐに目の前の錬金術の本を手に取った

 

『まずそれを呼んで理解し終えた時、実践のアドバイスくらいはしてやる』

 

素直じゃ無いその答えに、アンジュは微笑ましくて少し笑ってしまったが、

 

エステルは、嬉しくてわなわな震えていた

 

リタは、もっと素直じゃないのか、ふん とエドにそっぽ向いた

 

『ありがとうございます!!師匠!!』

 

『師匠言うな!!』

 

エドは、くすぐったい感覚を払いのけるように、その発言を否定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

~バンエルティア号 メインエンジン~

 

アンジュに聞いた所、どうやらエドの部屋はまだ決まっていないらしい

 

それを聞いたエドは、不穏の顔をしたが

 

アンジュが、話を逸らすように

 

『そっ…そうだ!ついさっきまた、まだ紹介していない人達が帰ってきたの。だから、自己紹介だけでもしてきてくれる?』

 

そう言われ、渋々地図を見てまだ見ていない仲間の元へと移動するが、

 

途中で

 

『おやぁ、そこに居るのはエドワードさんじゃないですか』

 

『…ああ?』

 

あの、アイフリードの船とかを自慢していた坊主が、偉そうな態度で堂々としていた

 

『もう二度と、船を変形させる事は許しませんからね!!』

 

『へいへい。分かった分かった。』

 

払いのけるように、面倒事を放り投げたが、

 

『なんですかその態度は。これでも一応、僕はこの船の船長なんですからね!』

 

そう言って、出ていこうとするエドの赤いコートを掴んだ

 

『うわっと!!』

 

エドはバランスを崩し、赤いコートは引っ張られるように、エドの身体から離れていった

 

『痛ってぇ~~!』

 

また、鋼の右腕が露出してしまっていたが、

 

まず、頭が床に打った事が、エドは一大事だった

 

『……』

 

チャットは、そのエドの機械鎧をじっと見ている

 

『痛ってぇな坊主!!いきなりコートを掴むんじゃねぇやい!!』

 

そう言ってチャットからそのコートを取り返そうとしたが

 

『機械です……』

 

チャットの眼は、キラキラに輝いていた

 

『は?』

 

『素晴らしい!エドワードさん!なんですかその腕は!!まるで機械そのものじゃないですか!!』

 

エドは、反応に困り頭を掻いて

 

『あー……これは機械鎧っていう義手でー…』

 

『もうちょっとよく見せて下さい!!』

 

そう言って、エドの右腕を掴み、マジマジと観察した

 

『おお…!この多くの配線の数々!そして重く、強く、堅い頑丈な鉄!そして何より!人間の意志のままに操れる高度な技術!!』

 

チャットは、その右腕を見て感動してる

 

『おい……俺そろそろ行きたいんだけど、もう良いかな?』

 

『ちょっと待って下さい!!まだ見ている所なんです!!』

 

そう言って、またチャットは機械鎧を観察した

 

エドはイライラして、ついにチャットから振りほどいた

 

『あっ!何するんですか!』

 

『何するんですか!じゃ無えだろ!!これは俺の右腕だ!!俺の身体の一部をそんな長い時間観察すんじゃねえ!俺の時間が減るだろうが!』

 

チャットが、怒りながらも分かったようにうなだれた。

 

そして、エンジンの端でいじけだした

 

『そんな…怒らなくたっていいじゃないですか…』

 

その光景を見て、エドは何も悪くないはずなのに、罪悪感が湧いてきた

 

ため息を吐いた後、エドはチャットに提案を出した

 

『……機械鎧見る時は、俺の仕事が終わって、俺が寝ている時にしろ』

 

そう言ってから、チャットはしばらく反応しなかったが、

 

そのしばらくが経った後、チャットはゆっくりと振り向いて

 

『約束ですよ?』

 

と言った。

 

この機械好きは、是非ウィンリイに合わせたいもんだ。

 

きっと、機械の話しで20時間ぶっ続けで話してるだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~バンエルティア号~

 

アンジュは、このうちにエドの部屋の配当場所を考えていたが

 

その配当場所で、大分悩んでいた

 

『どうしよう……』

 

部屋はあまり残っていない上に、あまり良い場所は期待できない事でアンジュは頭を悩ませていた

 

『エドの部屋の事ですか?』

 

『うん…そうなんだけど、部屋によって、この場所とか、食堂が遠いとか、そういうコンプレックスがある事が多いから。ちょっと悩んじゃって。』

 

そう言っていると、錬金術の本を読んでいたエステルが、顔を上げて、

 

何の躊躇も無く提案を出した

 

『それじゃぁ、私達の部屋何かどうです?それなら錬金術も頻繁に学ぶ事もできますし、きっと賑やかな部屋になりそうです。』

 

『はぁ!?私は嫌よ!!あんな奴と一緒の部屋で寝るの!!!』

 

エステルは一緒の部屋で混同に過ごす事を望んでいたが、

 

リタは、その提案に全力で拒否をした

 

『うーん、エステル。それはありがたいんだけど……さすがにエドワード君も嫌がると思うな…。』

 

間違いなく嫌がる事は確実だった。

 

仲の悪いリタが居る上に、錬金術を学びたがっているエステルが居る部屋は、エドにとって地獄この上ないだろう

 

しかし、となればどうすれば良いだろうか。

 

相部屋

 

アンジュは、都合の良い相部屋を探した。そして

 

『あっ』

 

良い条件を見つけた

 

『カノンノ、ちょっとお願いがあるんだけど』

 

『?何ですか?』

 

アンジュは、手を合わせて少しだけ申し訳なさそうに、カノンノに頼んだ

 

『カノンノは、部屋で一人だったよね?だから、これからはエドワード君と一緒に生活してくれるかな?』

 

エドワードと相部屋、という言葉を聞いた瞬間、

 

カノンノは、顔が赤くなり、少しだけテンパッた

 

『え?あのっ?その……えっと?え?』

 

その動揺が隠しきれないのか、顔を手で抑えて落ち着きを少しでも取り戻そうと必死になった

 

『嫌なら良いのよ。もっと他の条件を探してみるわ。』

 

カノンノは、首を横に振った

 

『……ううん。私は別に良いよ。後は…エドの返事次第で、その、それで……』

 

言い終える前に、船の入口から客が入ってきた

 

『おわぁ!!』

 

ただでさえテンパっていたカノンノは、扉が開くのを見てパニクってしまった

 

だが、それは見た事の無い人で、客で知った瞬間、大分落ち着きを取り戻した

 

『あ、こんにちは。どのような用件でしょうか?』

 

アンジュが、客に対しての対応をし、老人の用件を聞いた

 

老人は、少し悲しそうな顔をしていた

 

『ワシはモラード村の村長のトマスという者でのぉ。』

 

そう自己紹介をした後、ちらりと自分の手の甲の傷を見た

 

『傷が…大丈夫ですか?』

 

エステルが近づいたが、老人は大丈夫と言って、話に戻った

 

『一つ、受けてもらいたい依頼があるんだが』

 

『はい、モラード村と言えば、以前ジョアンさんという方が当ギルドを利用しましたが、ジョアンさんはその後、どのような様子ですか?』

 

老人は、一瞬バツ悪そうな顔をして

 

『ああ、今はすっかり元気になってな、行商に出ていったよ……』

 

以前の依頼、エドがまだアドリビドムに来る前に、ジョアンという男から依頼が来て、

 

ブラウニー坑道まで護衛してほしいという依頼で、クエストが終了した時、

 

病気が治ったと言う報告を受けた、だが

 

クエストに行ったマルタとファラは、何かしら不安な表情をして帰ってきた為、少し気になっていたのだ

 

『それでは、依頼とはなんでしょう?』

 

『ワシの村に魔物が入ってのぅ、それを捕まえたんで遠くの地に捨ててきてほしいんだァ』

 

『魔物を捨てるぅ?なんでまたそんな事を?仕留めれば良い事じゃないの?』

 

『さすがに、殺すまでの事はできなくてなぁ……受けてくれるかぁ?』

 

アンジュは、少し悩んだ末に

 

『ええ……依頼となれば』

 

『それじゃ、頼んだよゥ。場所は”カダイフ砂漠”が良いかのゥ。あそこにあるオアシスにまで捨ててきてくれェ。仕事を受けてくれる者が決まったら、魔物を引き離すんでなぁ…』

 

そう言って、老人は入った入口から出ていって、去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

『魔物の討伐なら分かるけど、捨てに行くって依頼は初めてだよね。』

 

カノンノが、少し不安な声でそう言った

 

『そうね。極めて珍しい依頼ね。』

 

それに、わざわざ砂漠まで捨てに行ってくれるという人は、おそらく今、この船の中では少ないのではないだろうか

 

『基本的に、ほとんど働いてない人にやらせれば良いんじゃない?』

 

アンジュは、しばらく考えた後、

 

『そうね、じゃぁイリアと、クレスと、それと……』

 

体力的には、まだ元気のありそうだったが、また文句を言われそうだったが

 

だが、今のところではまだ、実質2つしかクエストを受けていないのだ。

 

やはり、平等に選ぶにしても、実力にしても彼を選ぶしたかなかった

 

『……エドワード君ね』

 

この三人が、2時間後砂漠まで魔物を捨てに行く

~バンエルティア号~

 

依頼が決まって5分、

 

アンジュが予想した通り

 

エドの不満の叫びが船内に響いた

 

『ふ・ざ・けんなぁああああああああああ!!』

 

さっきまで、森の調査とリカルドを迎えに行き、

 

それら全ての依頼で、予想外の戦闘があり、エドは十分疲れきっている時

 

またもう一つの依頼、さらにそこが砂漠と来た。

 

機械鎧が右腕と左脚に装着しているエドにとって、砂漠の暑さは地獄であり、

 

さらに、そのオアシスの場所まで魔物を捨てに行くと言う、何の得があるか分からぬ微妙な依頼

 

不満を言えずには、いられなかった

 

『そうよ!なんでわざわざ私達があんなくそ暑い砂漠まで行って魔物を捨てにかなきゃなんないのよ!!』

 

同時に、イリアも不満を述べた

 

だが、アンジュはほとんど動揺しながらも、冷静に対処した

 

『一番適任の選抜の結果です。』

 

エドは、その冷静に答えた事が気に入らなかったらしく

 

頭からまた、湯気が立ち上った

 

『大体なんでまた砂漠なんだ!!魔物なら森の中とかに放しちまえばいいだろうが!!』

 

砂漠に行くパーティの中で、クレスだけが冷静だった

 

『エドワード君。君の不満も良く分かる。だけど、これは依頼であり、仕事なんだ。無視をするわけにはいかないだろう?』

 

『なんであんたは冷静なのよ!!砂漠よ!?砂漠に行くのよ!?ざけんじゃないわよ!!!』

 

一番駄々をこねていたのはイリアだった。

 

『そうだ!!それに俺は鋼の手足をぶら下げてんだぞ!!熱死するわぁぁあ!!』

 

2番目に駄々をこねていたのはエドワードだ。

 

この場に居るのは、全員エドの機械鎧の事を知っている者達だったので、誰一人疑問を持たなかったが

 

『何を言ってるんだ。その鋼の手足と錬金術という術を君は持っているからこそ、僕たちは君を頼りにしているんだ』

 

逆に頼りにされていて、エドはその頼りが不満で仕方がなかった

 

『まぁ、そう言う事だ。皆お前を頼りにしてんだ。がんばって行って来い』

 

ユーリの脇には、新しく買った枕が挟まれていた

 

『そうだぞ少年。頼りにされるってのは羨ましい事なのよぉ。おっさんも分まで、頼りにされてみなさいよぉ』

 

レイヴンの手には、UNOが握られていた

 

『てめぇら…ただ面倒事を俺に押し付けてるだけじゃねえのかぁぁぁあああ!!!!』

 

『うん。まぁ新人だしね』

 

レイブンはそう言葉を残した後、部屋に戻って行った。

 

『そう言う事だ。僕も君達二人の力は評価している。僕も出来る事限りはするから、頑張ろうじゃないか』

 

クレスが純真な眼でそう言った。

 

その目を、イリアとエドは、露骨に嫌そうな顔をして、同じ表情でクレスを睨みつけた

 

『そんな顔しても駄目だぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~カダイフ砂漠~

 

一番近い海辺から歩いて5分

 

その場所は、ヤシの木があった場所から歩いたとは思えぬほど、

 

辺りは砂、砂、そして枯れ木が点々と置かれているように生えていた

 

『あぁぁあああ………暑いぃぃ………』

 

イリアが、早くも弱音を吐いた

 

『ったく………砂漠は嫌いだ……!』

 

エドは、文句を言った

 

ある廃墟近くで、老人が一人、荷車と一緒に佇んでいる

 

『おお……待っていました。ありがとうございます。』

 

老人が、エド達の所へ歩み寄って来る

 

『あんたらぁ……この仕事を引き受けてくれる者だね…』

 

『じいさん、なんでこんな所に魔物を捨てようと思ったんだ?』

 

エドが、挨拶をする前に老人に質問をした

 

『エドワード君!まずは挨拶を…』

 

『いやぁ……良いんだ良いんだ。…この依頼さえ受けてくれれば……』

 

老人が、寂しそうにそう答えた。

 

『そうだなぁ……この土地ならば、人に会う事もないだろうし…オアシスもあるからなぁ……それに、殺す事ができなくてなぁ…』

 

ふぅん、とエドは相槌を打つ

 

『どれどれ?どんな奴がはいってんの?』

 

イリアは、荷車の中身を見ようとして

 

『開けてはならァん!!』

 

老人が、必死の形相で叫んだ

 

『薬で眠らせてあるんだ!開ければ…光で目を覚ましてしまうぞィ!!』

 

イリアが、引いたような表情になって

 

『ゲェ!!さ、先に言えっての!!』

 

『すみません。確かゲージの中身を見ない…そういう契約でしたね』

 

『ん?』

 

エドは、そのような契約を聞いていなかった。

 

それは勿論、イリアも

 

『それじゃぁ頼んだよぉ。付いたら扉の鍵をはずして、そのまま立ち去ってくれ。そうすれば勝手に出てくるだろうよゥ…くれぐれも中身は見ない様になァ…』

 

クレスは、承知したように頭を下げた。

 

イリアは、少しだけ荷車に怯えているが、逆に面倒くさいという感情が大きい

 

エドは、

 

『ふーん……?』

 

老人の発言一つ一つに、疑問を持ち始めていた

 

 

 

 

 

 

~カダイフ砂漠 遺跡跡~

 

『なぁ、さっきの爺さん、何か怪しくなかったか?』

 

エドは、クレスにそう質問をした?

 

『ん?何がだ?』

 

この男は人を疑う事を知らないのか、素直に全部受けとめていた

 

『なんというか、魔物を捨てるって事とか、この砂漠を選んだ事。後、荷車の中を開けてはいけないって事が』

 

クレスは頭を悩ませ

 

『それら全てにちゃんと理由があったじゃないか』

 

『いや、その理由がさ、なんだかあいまいというか、何か隠しているようにしか見えねぇんだ』

 

エドがそう言った後、イリアは銃を引き抜き

 

『じゃぁ、ここでもう仕留めればいいじゃん。それで仕事は終了って事で』

 

『だっ駄目だよイリア!依頼を受けた以上、指示には従わないと……』

 

イリアは、またバツ悪そうな顔をして舌うちをした

 

エドは、そのクレスの性格を見て

 

『お前、その真面目な性格、いつか命取りになるぜ』

 

と忠告した

 

『?何が悪いんだ?』

 

『ただ、その性格は損するってこった。』

 

そう言うと、イリアは悪い笑顔になり

 

『じゃあじゃあ、エドもそう言ってる事だし、やっぱり何発か撃ちこんでそれで終わりにしない?』

 

『………お前もいつか後悔するだろうな。』

 

エドは、イリアにそう言い捨てた後

 

しばらく経って

 

『だぁあああ!!あっちぃなぁああ!!!なんでこんな所にまで捨てに行かなきゃなんねぇんだ!!この野郎ぉぉ!!』

 

エドは、イラつきの余り大声を出してしまった

 

『エッ…エドワード君!そんな大声出したら……!!』

 

『そうよ!!エドの言うとおり!!マジ良い事言った!!もうこの荷車の中に2,3発砲してアンジュに文句言って終わりにしましょう!!そうしましょう!!』

 

短気で荒い性格の二人が、我慢できなくて壊れ始めていた

 

『エドワード!イリア!!いい加減に……』

 

アアア………

 

『今、何か聞こえなかった!?うめき声みたいなの!』

 

確かに聞こえた。

 

それは、エドもはっきりと聞こえた。

 

荷車の中から

 

ウゥ……ゥ……

 

『ほら!この荷車ん中から!』

 

『なんか…魔物らしくねえ呻き声だな……』

 

『魔物の眠り薬が切れ始めているんだ!急ごう!!』

 

そう言って、エド達は荷車を全力で引き走り始めた

 

『うぉおおおおおおおおお!体力が!!体力が吸い取られるぅぅううう!!』

 

砂場である為、走れば走るほど、足から体力を奪われるようだった。

 

これは、荷車の中に居る魔物より先に、エド達が亡くなりそうだった

 

瞬間、

 

グルルルル

 

目の前で、猪の魔物が立ちふさがった

 

『しまった!』

 

クレスが剣を引き抜こうとした瞬間、

 

『『邪魔すんな猪野郎がぁあああああああああああ!!!』』

 

エドは手をパンと叩き、巨大な突起物を魔物の前に錬成し、

 

吹っ飛ばされた魔物を、イリアが的確に発砲して命中させた。

 

それらの攻撃で、全匹の魔物が力尽きていった。

 

『オラァァアアア!!とっとと終わらせて水飲むぞぉぉおおお!!!』

 

エドは、鋼の手足のせいでイリアとクレスよりも熱を帯びているはずであり、

 

誰よりも早くこの仕事を終わらせたいと思っていた。

 

『あっ!!あそこだ!』

 

そこには、ヤシの木と思われる者と、植物がなっている場所が見えた。

 

きっとそこに、水もあるはずだ

 

『っしゃらぁああ!!行くぞコラァァアアア!!水飲むぞぉぉおおお!!』

 

『待ちなさいよ!!最初に飲むのは私よぉおお!!』

 

『てめぇは荷車持ってねえだろうがぁあああああ!!』

 

『エドワード君!荷車をそんな乱暴に引きずらないでくれ!』

 

クレスの忠告などまるで聞いていないかのように、エドは全力で荷車を押し、オアシスに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

~カダイフ砂漠 オアシス~

 

荷車をオアシス付近に乱暴に放置した後、

 

エドは眼を光らせて、全力でオアシスの湖の中に飛び込んだ

 

乾いた身体と砂を、その水で洗い流すように浴びた

 

イリアも、まるでクエストを忘れているかのように、水に飛び込んだ

 

『あ~生き返った~~!』

 

『もうあんなくっそ暑い砂漠から解放された気分よ!』

 

クレスがその様子を見て、呆れのため息が出た

 

『エドワード君、イリア。目的は忘れてないだろうね?』

 

『ん?』

 

『僕たちは、この荷車をオアシスまで押した後、扉の鍵を閉めてここから去る。ここで遊んでいる暇は無いんだよ』

 

そのクレスの言葉を聞き、イリアは苦い顔をした

 

『うわっなんつーど真面目人間…結婚できないタイプ…』

 

そう言うと、イリアはクレスから離れ、沖からどんどん遠くに行こうとしていた

 

『イリア!依頼はちゃんと最後まで真剣に……』

 

クレスが言葉を全て言い終える前に、

 

ガタン!という音がした

 

『!』

 

荷車の上に、魔物が乗ってきたのだ。

 

『しまった!魔物に!!』

 

エドは、さすがに危機感を感じ、湖から身を乗り出して地に上がった。

 

イリアも、湖から身を乗り出そうとして近づいて来ている

 

『チッ!エサだとかぎつけてきやがったか!!』

 

そう言って、エドは機械鎧に刃を錬成し、武器を作った

 

その瞬間、

 

『ひぃぃ!何だ!?なんだよ!!何が起こってるんだぁああああ!!!』

 

荷車の中から人の叫び声が聞こえた!!

 

『!!』

 

『魔物じゃ……ない!!』

 

クレスがそう叫んだ後、エドは地から槍を錬成し

 

『あんの……クソジジイ!!』

 

まず魔物を槍で荷車から叩き落とした。

 

魔物を悲鳴を上げた後、敵意をエドに向きだした

 

『あのジジイ!とんでも無い事してくれんじゃないの!』

 

イリアがようやく湖から身を乗りだし、けん銃を魔物に向けた

 

まず2,3発魔物に撃ったが、その魔物の瞬発力は凄まじく、簡単に避けてしまう

 

『くそっ!!素早しっこいわね!!』

 

エドが、右方向に指を指して

 

『おい!!あそこに撃て!』

 

『はぁ!?あそこって…ただの壁じゃないのよ!』

 

『いいから撃て!!』

 

エドがそう指示をした時、イリアは舌うちはしたものの

 

『信じてるわよ…!豆ツブ!!』

 

『なっ……!!』

 

一瞬、豆という言葉に噴怒したが、

 

その怒りは、イリアに向けられなかった。

 

壁に発砲した所、予想通り壁が一部崩れ

 

土砂崩れのように土が魔物に振り被る

 

『いけっ!!』

 

だが、魔物はそれを察知し、

 

簡単に飛び跳ねて避けてしまった

 

『ああ!!もう!!避けられちゃったじゃない!!』

 

だが、エドはイリアの文句に耳を貸さず、

 

『くらえ!!』

 

地中を錬成し、まだ地に足を付けていない魔物に向かって、突起物は発射された

 

魔物は悲鳴を上げ、湖近くまで吹っ飛ばされ、その場で蹲った

 

『っし!一丁上がり!』

 

エドはそう言ってガッツポーズをした。

 

『やった!やるじゃないあんた!!』

 

イリアがそう言って一緒にガッツポーズをしようとした瞬間、デコピンをくらった

 

『いたっ!』

 

『誰が豆だコラ!!』

 

鉄の右腕の方でデコピンを食らったので、普通のデコピンよりもそれは痛かった。

 

『さて、もうこれで良いだろ。とっとと鍵開けて救出して帰ろうぜ。』

 

『いや……そういうわけにも行かないみたいだよ……』

 

辺り見渡すと、先程の魔物の仲間がうじゃうじゃと、

 

10、20は超える数に増えていた。

 

『マジ……かよ……』

 

そう言った矢先、エドはまず荷車の中の人間を第一に考え、

 

荷車の周りに、球体の壁のような物を作った。

 

瞬間、一斉に魔物は襲いかかってきた

 

『くるぞ!!』

 

クレスは、近くに来た魔物を剣で一閃して

 

エドは、砂を使って突起物やトゲを地面から付きだし、ある程度ぶっ飛ばし

 

イリアは、けん銃を魔物に向かって的確に撃っていった

 

だが、確実に数がさらに増えてきて、

 

さらに、魔物は荷車の中の人間をピンポイントに狙うかのように、

 

エドが錬成した球体の壁に、攻撃を繰り返している。

 

『させるかよ!!』

 

エドは、そのたびに床からさらに壁を錬成し、魔物に直撃させて遠ざける

 

だが、それもそう上手くはいかないだろう。

 

魔物が、今度はエドに集中的に攻撃してきたのだ。

 

『くそっ!!次から次へと!!』

 

どうやら、魔物的本能でエドが一番危険だと感じたようだ。

 

全員で、エドに襲いかかろうとし、他の魔物は球体の壁に向かって攻撃している

 

『ひぃぃいいいい!!』

 

球体の中で、また人間の声がする

 

『くそぉおおおお!!』

 

球体の壁が、ついに完全に壊れようとしていた。

 

ヒビが、完全に全ての面積に行きわたってしまっていたのだ。

 

『くそっ!!』

 

クレスは、荷車の周りに固まっている魔物を処分しているが、

 

とても、一人では間にあいそうにない

 

イリアも、けん銃では一匹しか狙えない。まさに絶体絶命の状況だった

 

『くっ……誰か…!誰か助けてくれぇええ!!』

 

クレスが、必死の声で叫んだ。

 

瞬間、オアシスの周りに存在した壁に、急にヒビが入った

 

『ん?』

 

そのヒビの部分が、急に爆発し、大きな音が鳴った

 

『うぉおおおおお!?なんだ!?』

 

大きな砂埃の中に、大きな人影が見えた

 

『!助けに来……』

 

徐々に砂埃が薄れ、その人物が見える時になった時

 

見えたのは、エドが砂漠で一番会いたくなかった人物だった。

 

その人物が姿を現した事で、魔物が全匹、固まるように行動を止めた

 

『助けを呼ぶ者よ!今!!我が輩が来たからには安心してくださり!!』

 

ヒゲと筋肉、たったそれだけで説明が終わる。

 

そしてとにかく、その人物に漂う熱気がものすごく、その者の周りにだけ蜃気楼と湯気が見えていた

 

『しょ……しょ……少佐?』

 

『え?あんたアレの知りあいなの?』

 

エドがアームストロング少佐の名前をとっさに呼ぶと、少佐はエドワードの方に気付き

 

『エドワード・エルリック!?こんな所に!探しましたんですぞぉ!』

 

その暑苦しい身体に、エドは苦い顔をしていた。一刻も早くここから脱出をしたいくらいだ

 

『ちょっと!!あいつが一歩近づいただけで確実に10℃は気温が上がったわよ!?』

 

確かに、一歩一歩少佐が近づくに連れて、その熱気がこちらにどんどん伝わって来ていた

 

『ちょっとあいつ近づいて来るわよ!?なんとかしなさいよ!!』

 

その熱は、ハンパではなかった。

 

『エドワード君の知り合いか!?丁度良い!!』

 

『何に丁度良いんだ!!嫌な予感しかしないぞ!!!おい!!』

 

クレスは、エドの知りあいというのを利用し、少佐に頼みを口説いた

 

『エドワード君の知り合いの方!お願いがあります!!あの球体の壁の中に荷車があって、その中に人が居るんです!どうか魔物を追い払うのを手伝っていただけませんか!!』

 

『荷車の中に人!?』

 

『変なジジイに依頼されて、魔物を捨てるとか言ってきて、騙されたんだよ!!』

 

その言葉を聞き、少佐は涙を流した

 

『なんと!騙されたにも関わらず、その依頼をこなし、それが偽りの依頼と知った悲劇!そして依頼の捨てるべきの人を守る…!!』

 

少佐は言葉を言い終えた後、目を鋭くさせた。

 

瞬間、魔物が全匹 ビクゥ!!っとなった

 

『承知!!我が輩!!全力を尽くしてそなた達の助けになりましょう!!』

 

少佐は、瞬時に上半身を裸にさせ、

 

『見よ!!我がアームストロング家に代々伝わりし芸術的肉体美をぉぉおおおおお!!』

 

『ぎゃぁああああああ!!くっ来るなぁああああああああ!!いやぁあああああああ!!!!』

 

イリアが涙目で悲願するように少佐から逃げていき、

 

魔物達は、少佐が襲いかかって来るのを見て、

 

キャンキャン!!と鳴きながらその場から全員去って行った。

 

クレスは、瞬時に上がる熱気に一瞬気絶しそうになる

 

その間、たった2秒の出来事だった。

 

 

 

 

『ふむ、これでひとまずは安心ですな。』

 

アームストロングが、全身を光らせ、魔物に向かって仁王立ちをしている

 

『暑い……あっつい………!!』

 

アームストロングがこの場に来てから、あきらかにさっきの温度の2倍は上昇している。

 

オアシスの湖から湯気が出ている。あきらかに蒸発を始めている

 

イリアが、この暑さにもうそろそろ限界に来ていた

 

『その……助けてくれて、ありがとうございました。エドワードさんのお知り合いの方ですよね?』

 

クレスが、汗が滝のように流れる身体で礼をした

 

『いえいえ、これしきの事は。困った時は、お互い様という言葉に従っただけです。』

 

悪い人では無いので、クレスは少佐とは仲良くなれそうになっていた。

 

だが、すさまじい熱気には、全員さすがに困っていた

 

『自己紹介が遅れました。僕の名前は、クレス・アルベインと申します。』

 

『我が輩の名はアレックス・ルイ・アームストロングと申します。エドワード・エルリックがお世話になっています』

 

ガキ扱いすんな!とエドは言いたかったが、

 

この熱気の中で、大声は出したく無かった

 

『ねぇ、もう魔物も居ないんだしぃ……良いんじゃないのぉ…?早くあけましょうよぉ…』

 

イリアが、今にも死にそうな声で助けを求めるように言った

 

『ん?そうだな。』

 

クレスはそう言って、まずボロボロになった壁を壊し、荷車の扉を見つけた

 

『大丈夫ですか?今助けますからね』

 

そう言って、扉の鍵を解錠し、扉を開けた

 

『!!』

 

その時、クレスの顔はこわばった

 

『どうした?』

 

エドが覗きに行った時、

 

それは、人の形をしていない、”ヒト”だった

 

『!なんだ……こりゃぁ………!!』

 

『これは……!!まさか合成獣…!?』

 

少佐が再び戦闘態勢に入ると、そのヒトは怯えるように声を出した

 

『ひぃ……!』

 

そのヒトがうめき声をあげた時、クレスは剣をしまった

 

『あなたは、以前依頼された……ジョアンさんですか?』

 

『はぁ?誰だそいつ?』

 

『ああ、エドワード君は知らないかもしれないけれどね、エドワード君が来る前に、この人から依頼があったんだよ。』

 

イリアが、少し強張った表情になった

 

『病気を治す……赤い煙の依頼ね』

 

『赤い煙?』

 

エドが、その赤い煙については何も知らなかった。

 

当然、アームストロング少佐もその赤い煙については知らない

 

『なぜ、そんな姿に…?』

 

そのヒトは、苦しそうな声を出して

 

『それが…分からないんです…あの赤い煙を吸ってから、病は治って村で過ごしてたんですが……急に村の中に居る事がひどく居心地が悪く感じまして……』

 

パン

 

どこかで、そのような変な音が聞こえた

 

『それで……私の……存在意味が分からなくなって……今も……今も……いまままっまままあっままっまままままあまままままあまままままままままっまままっままままままままっままままままままま』

 

『!?』

 

急に、ヒトの顔は異形の形になり、所々から黒い液体が流れている

 

眼は溶け、口からは青か黒かの色の物体が流れ出ている

 

『うわっ!!……なっ…何よぉ…!!』

 

ヒトは、声でさえも人間の物でなくなり、それは泣いているような、そして重なっているような声だった

 

『ああ……死にたくなぁい……死にた……くなぁ…い……死に……死に…・・・ ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば』

 

身体の所々が弾け、弾けた所からは、肉片と黒い液体が飛び散り、そこから触手が漂い、

 

それは獲物を探しているかのように、うごめいていた

 

『ジョアン…さん!?』

 

それはもう、人間の形では無くなった

 

『おい……どうすんだよこれ!!』

 

『しっ知らないわよ!!私に振らないで!!』

 

元が人間である為、大変攻撃しずらい魔物が生まれる

 

こんな事が、あっても良いのだろうか

 

そして、ヒトは触手を操り、クレスの剣ひからみついた

 

『しまった!』

 

剣は瞬く間に溶け、液体になってしまった

 

それは、触手から直接液体が流れているようだった

 

『おい……これ、元が人間でなくても、勝てそうにないんじゃねえの…?』

 

エドはそう疑問を抱いたが、

 

瞬間

 

『ああ……あああばっばばばばばばあ………』

 

急に、体中から滝のように黒い液体を流し

 

身体が、どんどん干乾びていった

 

『死に……たく……ぁあ……』

 

そして、液体が全て流れ込んだのか、

 

身体は、ただの肉の塊と化し、息絶えていった

 

その光景は、少なくても気持ちの良いものではなかった。

 

むしろ、かなりの不愉快を感じさせた

 

『何よ……これ』

 

イリアが、理不尽であるような言い方をした

 

『………っくそ!』

 

クレスが、膝から崩れ、砂を掴んで悔しがっていた。

 

そして、震える声で、全員に告げた

 

『依頼は……失敗だ……!!』

 

 

 

 

 

 

 

~バンエルティア号~

 

三人が帰って来るのを見て、

 

その場に居たカノンノとアンジュは、あいさつをした

 

『あら、おかえり。みなさ……』

 

二人の言葉は、途中でつかえた。

 

全員、沈んだ表情をしている上に、

 

後ろには、謎の巨大な筋肉質男が堂々と立っているのだ。

 

まるで、砂漠の熱気を持って帰って来たかのような錯覚を起こす、その男の熱気は、

 

アンジュとカノンノを、できるだけ遠くに距離を置かれるようになった

 

『あの……えっと。任務は終わったのよね?お疲れ様。大変だったでしょう?』

 

『任務は失敗した』

 

『え?』

 

アンジュが、疑問の声を出した

 

『それって…どういう事?』

 

『荷車の中身が、人間だった。』

 

『!?』

 

アンジュが、息を吸い込むように驚きの声を出した

 

『いや、元人間って言うべきじゃねえの?』

 

『それって…どういう事なの?』

 

イリアは、出発前のテンションとは思えぬように、沈黙した表情だった

 

『中には、誰が入っていたの?』

 

『前に、赤い煙を吸い込んで、病を治した人って居ましたよね?』

 

カノンノは、目を見開いて口元を手で押さえ

 

『……ジョアンさん…!?』

 

クレスの表情が強張り、歯を食いしばる

 

その表情で、そのジョアンさんが死亡した事を、アンジュは察知できた

 

『………。赤い煙を吸いたいって言う依頼が、今多いのだけど、全部キャンセルする必要がありそうね……』

 

『キャンセルだけじゃない。近づけさせない様にする必要もある。手配をお願いしてくれ。』

 

クレスがそう言った後。アンジュはただ静かに『分かったわ』と答えた

 

『…マルタとファラには、黙っていた方がいいわよね。』

 

そうつぶやいた。

 

『…私、もう寝るから』

 

『イリア…?もうすぐ夕ご飯だけど…』

 

『食べられないわよ。あんなもん見た後じゃぁ』

 

そう言った後、そのまま部屋へと戻って行った。

 

『…………』

 

カノンノが、沈んだ表情でその場にたたずんでいた。

 

話題を変えるべく、アンジュは

 

『皆、そんな暗い表情しちゃ駄目よ。ジョアンさんが亡くなったのは確かに辛い事だけど、もうこれ以上犠牲者をださないように、やる気と元気を出して、今行うべきがあるんじゃないの?』

 

そう言った後、エドは

 

『……何を言ってんだよ……』

 

眼を鋭くさせ、アンジュに睨みつける

 

『んなもん、当たり前だろうが!』

 

そう言った瞬間、しばらく沈黙が続いたが、

 

沈黙を最初に、アンジュが微笑んで終了し、

 

『期待してるわね』

 

という言葉で、完全に沈黙は断たれた。

 

『ところで、貴方はどなたなのでしょうか?このギルドの新入希望者ですか?』

 

アンジュが、少し距離を置くようにアームストロング少佐に質問をした。

 

『ああ。我が輩の名前はアレックス・ルイ・アームストロングと申して、エドワード・エルリックの上司に当たる人物でございます。エドワード・エルリックがお世話になっております。』

 

『子供扱いすんな!!』

 

そう聞いた後、アンジュとカノンノは驚いた顔をした

 

『え?それじゃぁエドワード君の住む世界の人って事ですか?』

 

『むん?まぁそう言う事になりますかな』

 

多分、少佐は勘違いをしているだろうが、

 

まぁ、そっちの方が分が良いかもしれない、とエドは感じた

 

『それじゃぁ、貴方もこのギルドに身を置きますか?』

 

アームストロングは、遠慮するように手のひらをアンジュに見せるように立て

 

『いえいえ、私も軍の身。たやすく掛け持ちなど、簡単にできるものではありません。』

 

軍と呼ばれて、アンジュは良く分からない顔をした

 

『それでは、どういったご用件でしょうか?』

 

アームストロング少佐は、顔を光らせて答えた

 

『エドワード・エルリック殿を、私どもが引き取りにきたのです。』

~バンエルティア号~

 

『エドワード・エルリック殿を、私どもが引き取りにきたのです。』

 

少佐のその言葉を聞いたアンジュは、

 

『……………』

 

もはや言葉を失っていた

 

カノンノも、動揺を隠せないでいる

 

『エ……エドを引き取りに来たって……?』

 

『さよう。』

 

少佐は、自慢のヒゲを軽く手入れをした後、説明をした

 

『エドワード・エルリックは、私達国家錬金術師の一人でして、今、私達が捜索して、発見した事を軍に報告をせねばならんのです』

 

『国家錬金術師…?』

 

アンジュが、錬金術師は理解出来ても、『国家』という言葉は理解できなかった

 

錬金術に、国家が関係するなんて聞いた事がないからだと思ったが、

 

それが、エドの住む世界の事情だと理解するのは、時間がかからなかった。

 

『じゃぁ、本当にエドを連れていっちゃうの?』

 

カノンノが、少し寂しそうに言う

 

『申し訳ありませんが、国家錬金術師なる者、規則を守る上で行動していますうえ。』

 

エドが、不穏な顔で少佐を睨みつける

 

『さぁ、エドワード・エルリック。軍が心配していますぞ。戻りましょう』

 

そう言って、少佐はエドに手を伸ばしたが、

 

エドは、腕を出すどころか、ピクリとも動きはしなかった

 

『ここでは、国家錬金術師の規則もくそもない。って言ったらどうする?』

 

『?何を言っているのだ?エドワード・エルリック』

 

少佐が、疑問の声でエドに質問をした

 

『少佐は、この世界は俺達の住むアメストリスでないとしたら。どうする?』

 

少佐は、また良く分からぬと首をかしげる

 

エドは、今度はアンジュに問いた

 

『アンジュ。そういえばこの国の名前って教えてくれてないよな。教えてくれないか?』

 

エドがそう言うと、

 

アンジュは、何の疑いも無く、エドを信じ切ったように答えた

 

『ここは、”ルミナシア”っていう世界よ。』

 

その世界の名前を聞いた瞬間、アームストロング少佐は少し動揺した声で問いた

 

『なぬっ?!ここはアメストリスの構内ではないのですか!?』

 

『えっと……アメストリス………?』

 

アンジュが、初めて聞いたような口ぶりで答える

 

それは、嘘をついているとか、演技をしている目ではなく、

 

本気で初めて聞いた名前を聞いた時の反応だった。

 

『少佐』

 

エドが、少佐に言葉を振った

 

『あのでかい樹は、どこか別の世界に混線していたっていう可能性が高い。』

 

そう言うと、少佐は少し考えた

 

『それに、俺はあの樹に包まれてから、アルが行方不明なんだ』

 

『なんと!』

 

『どっちみち俺は、アルを見つけない限りこのギルドから離れるつもりは無いし、契約から解除されない。』

 

そう言って、エドは入口から遠くの場所に移動して

 

『だから、俺はこのギルドから離れるつもりは無いね』

 

そう、少佐に答えを出した

 

そう答えた後、少佐はしばらく黙りこんで、俯いた

 

それはそうだ。どこか不明な場所に飛ばされれば、誰だって混乱するし、不安になる。

 

それが、大の大人でも、しょうがない反応だ。

 

だが、少佐は顔をあげると、

 

ぶわっと涙を流し、エドの方を暖かい目で包み込むように見つめた

 

『感動したぞ!エドワード・エルリック!!』

 

『は?』

 

『謎の世界に飛ばされたあげく、弟までも離れ離れになってしまった事により、自信も不安だと言うのに!その強さ!そして弟を見つけるまで探し続けると言う決断!!勇気!!』

 

瞬間、少佐はエドに思いっきり抱きつき、エドの骨の関節が外れる音とエドの言葉にならない悲鳴が船内に響き渡る

 

『エドワード・エルリック!!我が輩は今!猛烈に感動している!!しているぞぉおお!』

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!』

 

その光景を見て、アンジュとカノンノは、苦笑いをしながら少佐と一定の距離を取っていた

 

そしてエドから手を放していた時は、エドの意識はもうどこかへ飛んでいた

 

『よかろう!我が輩もこのギルドに属する事を希望する!』

 

『え?』

 

『弟を探す為に命まで懸けている者がここに居ると言うのに、我が輩だけのうのうとしているわけにはいかぬ!我が輩も!出来る限りの事はさせていただきたい!』

 

その暑苦しい入隊希望に、アンジュは少し後ろに退がった

 

『そっ……そうですか……。あの…分かりました………。』

 

その暑苦しさに、アンジュは承諾をせざるを得なかった

 

断って、無駄に話を長くさせたく無かったからだ

 

 

 

 

 

 

 

~食堂~

 

夕食の時間割が表示されているのを見て、

 

エドはカノンノに食堂を案内してもらった

 

『こっちだよ』

 

そう言って、また何の変哲もない扉がそこにあった。

 

扉を開けると、普通の部屋より広い食堂らしい部屋があった。

 

『あら、貴方が新人のエド君ね。』

 

最初に挨拶をしてくれたのは、金髪の少女だった。

 

だが、エドは最初にその少女の方を見ずに、

 

『はじめまして。貴方方と出会うのは、これが初めてですね。』

 

『……なんだぁ?お前?』

 

羽の生やした、まるで妖精のような動物がフライパンを持っていた

 

その奇妙な光景に、エドは思わず目を疑う

 

『ああ、この女の人がクレアって言う人で、こっちの料理をしてくれている人がロックスって言うの』

 

『人?人なのかこれ?』

 

カノンノは、少し苦しい笑いをしながら、苦々しく答えた

 

『うぅ…ん………人では無いんだけど……私の親代わりみたいな人なの。』

 

親代わり?

 

その言葉にエドは疑問を覚えた

 

この人間の少女を、この小さな羽根の生やした、虫と思われてもおかしくない生物が、ここまで育てたのだろうか。

 

『あんた、カノンノをずっと育ててきたのか?』

 

エドは、思った事を自分に正直にして言った

 

『はい。私は身寄りの居ないお嬢様をずっと、苦にならないようにとお世話してきました…けれど』

 

ロックスが、少し寂しい笑顔をしてまた続きを語った

 

『やはり私はこの人間でない容姿ですから、お嬢様に辛い思いをされたのかもしれませんね』

 

その気持ちは、エドも少しばかりは分かった。

 

自身も、母親を亡くし父親はどこかに行ってしまっていて、いつも幼馴染の祖母に親代わりにと育てられてきた。

 

ただ、

 

『育ててくれて、心配される人が居るだけで、幸せだと思うけどな』

 

普通は祖母だと言う事と、血の繋がりが無い事で不満を感じるだろう事が、エドはそんな事は思わず

 

ずっと、育ててくれた幼馴染の祖母に感謝をしていた

 

『そうですか。そう言っていただけると。私も安心できます。』

 

『ちょっとロックス。あまりそんな話しないでよ…』

 

カノンノの顔が、少し赤くなっている

 

それを見たロックスは、申し訳ございませんと謝罪した

 

『それよりも、夕飯はまだなのか?』

 

『ああ、もうできますよ』

 

ロックスはそう言って、鍋で茹でていたルーのスープを皿に盛りつけた

 

『あんな小さい身体のどこに、そんな力があるんだろうな…』

 

エドは、眉がつり上がりながらそう言った

 

ロックスが、全員分の皿に夕食を盛りつけると、

 

『今日も、とても美味しそうですね。』

 

『ありがとうございます。』

 

その場で、エドだけが沈黙し、汗を流している

 

『ロックスくん。今日のこの料理はなんだ?良い臭いがするじゃないのぉ。』

 

『はい。今日の料理は”ミルク風味クリームのビーフストロガノフ”です。』

 

いただきます。という感謝の言葉を述べて、全員の箸は動く

 

『ん、美味いな。今日のは一段と』

 

『ありがとうございます。ユーリさん』

 

『そう言えば、イリアが居ないけど…。どうしたの?』

 

ルカがそう言った後、クレスは少し暗い表情で答えた

 

『ああ……クエスト中にショッキングな事が起こってね。それで食欲が失せてしまったみたいなんだ。』

 

『そうなんだ…。ねぇロックス。イリアの分は取って置いてあるよね?』

 

『ええ。欠席されているとしても、夕飯は大事な食事ですから。』

 

『明日の朝、きっと食べると思うから、ずっと取っておいてね。』

 

そう言うと、ロックスは少し笑い

 

『ルカさんは、本当にイリアさんの事を考えていますね。』

 

『えっ?えっと……。友達…だからね。』

 

少し戸惑いながらも、そう答えた

 

横に居たスパーダに、その言葉で少しちょっかいをかけられているが

 

『痛い。やめて』

 

と、ルカは少し逃げるようにスパーダから身を離れしている

 

アームストロング少佐の周りの椅子には、誰も座っていない。

 

おい、あれ誰だよ?という声も聞こえているが、

 

その圧倒的の存在と、謎の熱気からか、誰も少佐の所には近づかなかった。

 

というか、近づけなかった。

 

『ああ、私の事は気にせずに、食事を楽しんでください。』

 

その圧倒的存在に、ロックスも声をかけづらいらしい

 

誰一人、その存在を口に出す事は無かった。

 

『?…おいエドワード』

 

ユーリが、エドのその異様な状態に、気づいたようだ

 

『どうした?さっきから一口も食べてねえじゃねえか。食欲が無いのか?』

 

ユーリが心配した様子でエドに問いつめる。

 

だが、帰ってきた答えは、とても深刻じゃないものだった

 

『………牛乳、嫌い……』

 

そのミルク風味の臭いを嫌悪しているのか、料理どころかフォークにさえ手を付けていない

 

ただ行儀よく座っていて、顔に大量の汗を流しているだけである

 

『ああ、だからあんたは豆なのね』

 

リタが、攻撃するような言葉でエドに指した

 

『んだぁ!?苦手なもんを苦手と言って、何が悪い!!』

 

『少年、好き嫌いをしていると、おじさんみたいに大きくなれないぞぉ?』

 

エドが、今度はレイヴンの方に向く

 

『うっせぇ!少なくともお前みたいにはなりたくねえ!!』

 

レイヴンのその軟派な性格は、どこか嫌な奴を思い出す。

 

だからか、あまりレイヴンは好きになれなかった。

 

その言葉が心に刺さったのか、レイヴンは暗い表情になった

 

『レイヴンさんの言うとおりだよ。折角ロックスが作ってくれたんだから感謝して食べないと』

 

『作るのは良い。でもなぁ!なんでこんな甘い臭いをさせた料理を作るかなぁ!?』

 

それは、ミルク風味というだけで、臭いだけで本当に牛乳のようだった

 

『エド、お前背を伸ばしたいんだろ?牛乳を飲まないで背を伸ばしたいって言うのは、ちょっと難しいぞ』

 

ユーリもエドを説得しようとしたが、

 

『うるさい!!だとしても牛から排出された白濁色の液体なんぞ俺は飲まん!ていうか飲めん!!』

 

『我がままがすぎるぞ!!エドワード・エルリック!!』

 

少佐が立ち上がり、大きな体がこの空間に現れた事で、大きな影が出来た

 

その少佐は、エドを叱るような準備をしていたが、それがより一層暑苦しさを増していた

 

『ちょっとあんた!あのヒゲ筋肉の知りあいなんでしょ!?あまり怒らせない様にしてよ!ものすごい暑苦しいのよ!あいつ!』

 

リタが小声で、エドに相談を持ちかけた

 

『うるせぇ!お前に俺の行動を指図する権利は無え!!』

 

エドも小声で、リタに反論の言葉を投げかけた

 

『あ、いえいえ。そんなに大掛かりにならなくても良いですよ。』

 

その仲裁に来たのは、一番小さなロックスだった

 

『そもそも私が、エドワードさんのお好物や食べられない物を知らなかった私の責任ですから。エドワードさんには、別の料理を差し上げますので。もうしばらく時間を頂けるでしょうか?』

 

ロックスは、申し訳なさそうにエドにそう謝罪を述べた

 

さすがに、この謝罪ではエドも罪悪感を感じ、さらに顔じゅうに汗が流れる

 

全員が、エドを敵のような目で見ている。

 

さっきまでの態度とは違うように、カノンノも鋭い目つきでエドを見ていた

 

ロックスが、厨房に戻ろうとしている時

 

エドは、震える手でフォークを持ち、

 

クリームのついた肉を口に運ぼうとした。

 

その震えた手は、とても決断をしていたとは言えず、

 

まだ迷いがあった勢いだった。

 

この場からロックスが居なくなろうとした瞬間、

 

エドは思いっきり口にそれを入れた。

 

『……………うん。美味いよこれ』

 

エドは、少し苦し紛れにそう言った。

 

ミルクの臭いがキツイが、味はほとんどシチューであり、それが助け舟になっていた

 

『え?…そうですか?』

 

ロックスが、嬉しそうな顔でそう言っていた

 

『あ……ああ。牛乳って奴に囚われ……ていたから……ちょっと…誤解していたよ……うん……』

 

とぎれとぎれに、ぎこちなく言葉を繋ぐように言った

 

正直にいえば、牛乳の臭いがする上に、牛乳の味も少なからずともするので、好みの味ではなかった。

 

脂汗を流しながらも、一気にその料理を吸い込むように食べ、そして噛んで繰り返し

 

『ごちそうさま!!』

 

と勢いよく完食した。

 

エドは、ものすごい汗だらけだった。

 

『ふむ。そうだ偉いぞエドワード・エルリック。そうして苦手な食べ物であろうと、心のこもった料理というのは食す事が大事であって』

 

『分かった!!分かったから!!』

 

牛乳の臭いがまだ鼻に残っており、不快な状態が続いている上

 

子供扱いされて、さらに暑苦しい説教が続いているとなれば、最悪の状況だ

 

『苦手な食べ物だったと言っていましたのに…食べて頂いて、ありがとうございます』

 

料理を作っているのはロックスであり、感謝すべきはエドの方であるとほとんどの人が思ったが

 

エドは、その事も『分かった』としか言わなかった

 

カノンノの表情は、また暖かい表情に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

食事が終わり、アームストロングがアンジュに配当部屋を聞かされた所、

 

どうやら、一番下の階に存在する、一番奥の部屋に置かれたらしい。

 

熱気の問題からか、それとも、その人と会わない様にしたかった為か。

 

しかし、アームストロングは文句の一つも言わず

 

『承知した』

 

と言って、その場所に戻って行った。

 

少佐が居なくなった瞬間、また語り声が聞こえる

 

『……また、ものすげえのが入ってきたなぁ』

 

スパーダが、本当にすごい物を見たような顔で、少佐の出ていった扉の方を見つめていた

 

『うん……。ちょっと怖い人だと思ったけど、でも優しい人だよね』

 

エミルは、少しだけ暖かい顔でアームストロングを見ていた。

 

その優しい性格に、少しだけ惹かれていたらしい。

 

『極寒の場所では、間違なくあいつが居れば凍死しないでしょうしね』

 

リタが、皮肉のようにそう言った

 

『でも、悪い奴じゃあなさそうだな。仲良くしてやっていこうぜ』

 

ユーリが、全員に言うようにそう言った。

 

ハロルドが、じっとその筋肉男の出ていった扉を見つめて

 

『そうねぇ、小さい少年が入ってきたと思ったら次に、あんな大きい筋肉質な男が入って来るって、なんかものすごいアンナチュラル フェノミンを感じるわ。』

 

『小さいだとぉ!?てめっ!』

 

ハロルドが、グルっとエドの方に勢いよく向き

 

『大きな男と見た後エドワード君を見たらあら不思議、とっても可愛く見えちゃうわねぇ。』

 

不気味な笑顔でハロルドは、勢いよくエドを思いっきり抱きしめた

 

エドは、本気で気持ちわるがり、鳥肌が立っていた

 

『うわぁああ!!離せ!!気持ち悪い!!』

 

可愛い可愛いと、まるでエドを人形のように抱きしめたまま頭を撫でまわし、

 

それが不愉快なのか、エドは嫌悪の悲鳴を上げた

 

『やめなさいよ。気持ち悪い』

 

リタが、ハロルドの襟を掴んでエドから引き離した。

 

『お、お、おっ…!お前はもう二度と俺に近づくな!!』

 

エドの顔は、恐怖と鳥肌で青く変色しているように見えた。

 

それで、よほど気色悪かったのか分かるが

 

『あら?それは出来ない相談ねぇ……』

 

ハロルドは、フッフッフ…と不気味な笑い声を出した後、目を光らせ、手をワシワシしている

 

その行動だけで、エドはさらにハロルドに対して恐怖を抱いた

 

『ほら、まだ終わってない実験があったんでしょ。さっさとそれを済ませるわよ』

 

リタは、それが一番重要に置いているように見え、ハロルドのを掴んで引きずるように研究室に戻ろうとしていた

 

『じゃあね、エドちゃん。またあ・し・た♪』

 

その不気味にご機嫌な表情に、エドはガタガタと震えていた

 

扉が閉まり、ハロルドが居なくなった時

 

『俺……やっぱ少佐と一緒に出ていった方が良かったかもしれない……』

 

と、エドは呟いた

 

それを聞いたアンジュは、ただ苦笑いするだけだった

 

『そうそう、前々から言っていたエドワード君の配当部屋なんだけど』

 

エドが、真剣な顔でアンジュを睨みつけた

 

『あのケバ女と、研究女の近くとか、相部屋とかではないんだよな?』

 

と言った。

 

『えっと……。あの二人とはちょっと遠いかな。』

 

アンジュは、少し戸惑った声でそう言って

 

『その……相部屋だけど』

 

と付け足した

 

だが、エドはそれを聞いた時、ただあの二人の近くでない事に安堵した

 

『誰との、相部屋だ?』

 

そうエドが問いた時、カノンノはドキリとした

 

自分との相部屋とは、さすがに自分の口では言わなかったが、

 

今、アンジュの口から発せられる。その言葉で、エドはどんな返事をするか分からない。

 

ある意味、これでエドとはもう関わりが持てない可能性だって大きい。

 

『その…カノンノちゃんとなんだけど』

 

『カノンノ?』

 

エドが、少し疑問の声を出した。

 

またカノンノは、ビクビクした。心臓に悪い

 

『あっ。嫌だったら良いのよ。さすがに女の事の相部屋は…』

 

『いや、別に構わないけどよ。嫌でもないし』

 

エドはしれっと答えた。

 

当り前のように答えたあたりからは、エドは別にどうでも良い事なのだろうが、

 

カノンノは、これで異性との相部屋確定となり、

 

急に何か恥ずかしいような、嬉しいような気持になった

 

『あら?そうなの。それじゃぁ、パートナーとなるカノンノちゃんにちゃんと、挨拶するのよ』

 

アンジュはそう言った後、エドはカノンノの方に向き、右手を差し

 

『よろしくな』

 

と言った。

 

カノンノは、

 

『あ…あ……よっ…よろしく………』

 

と、緊張が激しい様子で、震えた手でエドと握手をした。

 

何故だろうか。ただ相部屋になるだけというのに。

 

今までに出会った事の無い、謎の感情がカノンノの中に湧き出ていた

 

 

 

 

 

 

~カノンノ部屋~

 

『へぇ、結構いい部屋なんだな』

 

その部屋は、他の隊員との部屋は、何も変わらないしても、

 

窓から見える風景は、一段と素晴らしい物が見えた。

 

だが、これは船であり移動する為、度々変わるのであるが

 

『おい、寝具がないけど…どうやって寝てるんだ?』

 

エドは、カノンノにそう問いかけたが、返事が無い

 

『おい?』

 

『えっ…?あっはい!』

 

『寝具が無いんだけど、どうすんだって』

 

部屋に異性を入れた事が無いとしても、この感情はおかしいのでないだろうか?

 

だが、エドはそんなカノンノの気持など知らず、ただ寝具の事だけを聞いていた。

 

『えっとね…寝具はこうやるの。』

 

そう言って、カノンノはある一部の床を、片足で踏んで、

 

思いっきり力を入れると、その部分だけ沈んで、足を上げると、反動するように、床がひっくり返ってベットが現れて

 

『うお!こうなっていたのか』

 

エドは、思わず感心する

 

他にも、一部の壁を押すと、その壁が反動したようにひっくり返って、そこで浮いているベッドのような物が壁から出てきた

 

『他にも、一つの部屋に全部で5つあるから。好きな場所で寝ても良いよ。』

 

『そう?じゃぁ遠慮なく』

 

そう言ってエドは、窓の風景が良く見えるベッドの方を選んだ

 

『あっ』

 

そこは、カノンノが使っていたベッドだが、

 

『ん?どうした?』

 

『ううん…別に……』

 

カノンノは、また顔が赤くなった。

 

自分が寝ていたベッドに、エドが寝るとなると、

 

……いやいや、私は別のベッドで眠らなくてはならない。でも、それはあまり苦では無かった。

 

くしゅ

 

『ん?』

 

紙が潰れる音がして、エドはベッドの下に挟まれていた絵を、引き抜いた

 

その絵は、どこかの風景を描いた物だった

 

『カノンノ、これお前が描いたのか?』

 

その言葉を聞いた瞬間、カノンノは小さな悲鳴を上げた。

 

そうだ、ベッドの下に絵を挟んだままだったのだ。

 

スケッチブックから引き抜いて、続きを描こうとしていた物、つまり未完成品だ。

 

そんなもの見られたら、さすがに恥ずかしいと、耳まで真っ赤になり、手で顔を覆った。

 

ひぃぃ!とカノンノは顔を隠したまま蹲って、カタカタ震えていた

 

『おい……大丈夫か?』

 

エドは、さすがにこの状況は心配していた。

 

エドは、カノンノの絵をじっと見つめていて

 

『それにしても上手いな。この絵』

 

と言った

 

その言葉は、カノンノの震えを止めて、指の間を広げて、その隙間からエドを見る行動を取らせた。

 

『うん、俺はこれほどの絵は描けねえし。錬金術でも、平面造形はできないし、絵が上手い奴は、なんか憧れちまうんだよな。』

 

そう言った時、カノンノは立ち上がり、エドのそばに行って、

 

そしてエドと一緒に、その絵を見るような形になっていた

 

『この絵はね、私の頭の中で思い浮かんだ風景なんだよ』

 

『へぇ、ていう事は写生で描いたって事じゃないんだな』

 

カノンノは、少し悩んで

 

『それはちょっと違うかな……。頭の中の風景って言っても、だんだんそれがはっきりしてきて、細部まで分かるようになってきたの。だからほとんどは見て描いているって事に変わりは無いかもしれない。』

 

ふぅん…?とエドは、少し理解できないような顔で再び絵を見た

 

『なんだか、この描いた絵が、どこかで本当に存在しているって、そう感じるようになってきたの』

 

『存在している…?』

 

頭の中で思い浮かんだ風景が、実際に存在するとは考えにくい。

 

これは、芸術家の考える”思想”なのだろうか

 

『あっ。だからって本当に存在するなんて事は私も考えていないよ。あると感じる、って思っただけで。』

 

顔を赤くして、まるで正気に戻ったかのように慌てて絵をエドの手から離し、

 

引き出しの一番の場所へ片付けた

 

『もう寝よう。明日もきっと早いから。』

 

『早い?』

 

明日も早い、という言葉はエドが苦手な言葉の一つだ。

 

できればもっと寝ていたいはずなのに、寝かせてくれないのは、あまり良い気分では無い。

 

部屋の電気を消し、完全に暗くすると。

 

部屋からは、満天に輝く星の光が、部屋に差しこんできた。

 

その光が、より一層眠りへと繋げてくれるのだが。

 

『エド』

 

カノンノが、小さな声で言葉を出した

 

『………なんだ?』

 

エドは半分ウトウトし始めていたのか、力がほとんどない声だった。

 

『………ギルドに入ってくれて、本当にありがとう。』

 

『入ったって言うか、アルを見つける為の宿だと思ってるぞ』

 

カノンノは、その言葉に少し笑ってしまった。

 

『………弟さん。見つかるといいね』

 

『見つかるといい、じゃねえ。絶対に見つけてやる』

 

エドが強い口調で、そう言った

 

 

 

 

 

 

 

~バンエルティア号~

 

アンジュもそろそろ就寝しようと思っていた矢先、

 

誰か一人、閉館時間前ギリギリに入って来る

 

『どうかなさいましたでしょうか?ご用件は?』

 

アンジュは、その者を客として接待した。

 

その者は、黒い布をまとっていて、なんとも怪しげな雰囲気を出していた

 

『……………』

 

その者は、何一つ声を出さなかった

 

『あの、どうかなさいましたか?』

 

アンジュが、不安になりまた声をかけたが、

 

また、沈黙が流れる

 

『あの…』

 

ふふふ、と黒い布から女の笑い声が聞こえる

 

『!?』

 

黒い布が剥がれ、その人物の正体が明かされた

 

『じゃーん!』

 

ピンクの髪のハーフエルフの女の子が、腕を広げて脅かすように一歩前に出た

 

『ああ、アーチェさんでしたのですか…』

 

『ちょっと、もう少し驚いても良いんじゃない?』

 

少しふくれっ面をした後、アンジュは欠伸をした

 

『だって、もうこんな時間ですよ。一体何の用なんですか?』

 

アーチェは、笑いながらポケットの中からリングを出した

 

『これは?』

 

『ミントから言われていたソーサラーリング!持って来たわよ!』

 

アーチェが元気いっぱいに、そう言った

 

『でも、この状態のままじゃこれはただの指輪よ?それはどうするの?』

 

『それは決まってるじゃない。依頼よ依頼。誰か言ってくれる事を依頼するの!』

 

アンジュは、この指輪をじっと見つめ、不安な表情を出した

 

『でも……さすがにあの場所に行きたがる人は絶対居ないわよ。下手をすれば命にかかわる場所だし…』

 

『んー。大丈夫じゃない?そんなへんちな奴はこのギルドには居ないでしょ?後、背の小さい人も必要になるわね。』

 

その言葉を聞いた時、アンジュはまた頭を悩んだ

 

『背が小さくて強い人さえいれば、この依頼も簡単に終わっちゃうでしょ?』

 

『背が小さくて強い人………ちゃんと居るのは居るんだけど……。』

 

アーチェはそれを聞いて、大はしゃぎをして

 

『へぇ~。そんな凄い奴が入ってきたの!グットタイミングじゃない!』

 

『……………』

 

果たして、彼がこの依頼を受けてくれるかどうかが、それだけが心配だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝 朝食~

 

『今日の朝食は、バターロールのセルフサンドイッチです』

 

食卓に並んだ一つ一つの大量の斬り込みの入ったバターロールに

 

そのバターロールに挟む具が食卓に並んでいて

 

まさに、朝食らしい朝食。なのだが

 

明らかに不満を持っている人が、一人居た

 

『……………おい』

 

『?どうかなさいましたか?』

 

一人ひとりのコップには、皆平等に、

 

牛乳が注がれていた

 

『ふざけんな虫犬ぅ!!これ絶対お前わざとだろ!!わざとなんだろぉおお!!なぁ!?』

 

『いっ…いえ。サンドイッチや、パン類の食事には、やはり牛乳が最適だと思って……』

 

『俺は昨日、牛乳嫌いって公言したばっかだろぉおおがあああ!!!』

 

不満をつらつら重ねるエドワードに、

 

レイヴンはエドの肩に手を置き、言葉を送った

 

『少年。大丈夫。飲んでしまえば、その牛乳は目の前から無くなるからな。』

 

エドの鋼の右腕の拳は、

 

的確におっさんの顔の鼻の辺りにぶつかり

 

おっさんは、入口の扉を隔てて、10メートル吹っ飛んだ挙句、走って食堂に向かってきたアームストロングに蹴られ、薄命と化した

 


 
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