No.237455 GoodBye My Sweet Lover (仮)Six315さん 2011-07-28 02:40:58 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:614 閲覧ユーザー数:602 |
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火星にはおよそ120億の人間が暮らしていて、そいつらがあれをしたいこれをしたいといらん欲望を抱くから魔獣がボコボンボンボンと発生しやがって、魔法少女であるところのあたしは24時間39分35秒(火星の自転周期)不眠不休で切ったり張ったり蹴り飛ばしたり。ガンガンベシベシはい1匹。ガンガンドンドンもう1匹。40年前にトチ狂って医者になろうとしたことがあったけど、やっぱりあたしはぶっ潰す方が向いている。槍をぶんまわしてたたきつけてバンバンバン、はい全滅。次だ次。おいキュゥべえどこに行きゃいいのさ。エリダニア市の5番地域? ココの裏ッ側じゃん。高速ポーターでも3時間じゃん、現場のヤツらでなんとかなんないワケ? あーもういい、グリーフシ―ドも余ってるし"跳ぶ"よ。じゃあな。
槍を振り下ろすとタルシス市の白い街並みが消えて、エリダニア市の真っ赤なビル群が目の前に広がる。ワープ完了。魔獣は郊外の森ン中で暴れていて、新人魔法少女どもはおっかなびっくり牽制程度の攻撃を加えるだけ。ダメだダメだダメだ、そんな腰のヒけたやりかたじゃあ、10年経っても倒せやしないよ。ったくまどろっこしい。ドンチャカドンチャカボンボンボン。このくらい弱らせときゃお前らでも余裕だろ。「ありがとうございます、佐倉先輩」うるせえボンクラ新人。口動かすヒマあったら一撃でも殴りつけてこい。……あれ、西の方にも魔獣の気配あるじゃん。ティトスス湖かな。誰か行ってるのかい? 「いえ、ひとまずここを片付けてからと」じゃああたしが行ってくるよ。「そんな、先輩の手を煩わせるような……」うるせえあたしは手を煩わせるのが好きなんだよ忙しいのが好きなんだよ、あっちこっちを飛び回って魔獣をドンドコぶっころしてる時が一番楽しいんだよ気持ちいいんだよ。「でも――」ああもういい、文句があるならお前も手伝え。この距離なら2人を"跳"ばすのも軽いモンさ。
はいワープ。おー、川沿いにびっしり集まっちゃって。こりゃ152匹くらいかな。さっさとやりますか。ボコボコバコバコ、あい終わり。「すごい……」あんた結局1匹も倒してないね。「ご、ごめんなさい」まあいいよく見りゃあんた可愛い顔してるじゃん。黒髪なんて久しぶりに見たよ。紫色の眼もいい感じだよ。どうだい、お近づきの印にメシでも食うかい。いい店知ってるんだ。
次に魔獣が出るまではこの黒髪紫眼のオンナノコで遊んでいようと思っていたら、遮るようにテレパシーが届いてあたしは舌打ちする。『佐倉さん! 聞こえますか!?』聞こえませんあたしはいまからリラックスタイムです。『聞いてください! マミさんが、マミさんが……』月で女王様ゴッコやってるあいつがどーしたんだよ。ついに取り巻きを想像妊娠させちまったのか?『違います! マミさんが危険な状態なんです! すぐに地球に戻ってあげてください!』ちょっと待ていつの間にあいつ地球に帰還してたんだよ。『先月から調子を崩して地球で療養してるんです!』そうだったのか……ってそういやお前誰だ?『以前月でお世話になったシャルです、覚えてないんですか? 一緒にお食事したじゃないですか』悪いがあたしはこれまで食ったうんまい棒の数を覚えてないんだよ。
巴マミというともう20年前に会ったっきりで、そのまえは80年前だったか。地球のドトールで5分くらい喋った記憶がある。さらに遡ると140年前の見滝原。狭ッくるしいマンションの一室。同棲してたこともあった。
ああちくしょうあたしは何をやってるんだ。目の前の可愛らしいオンナノコを置いてあっちこっちにテレパシーを飛ばしちまってる。火星を出る準備を始めてる。まずはゲルト。「地球の薔薇、欲しいって言ってたよな。買ってきてやるよ。じゃあな」次、ズライカ。行かないで行かないでと鬱陶しいので幻術を使っておいた。向こう1年はあたしの幻影と戯れてるだろう。それからアルベルティーネとギーセラとエルザマリアとウーアマンとイザベルとパトリシアとロベルタに連絡を入れる。うだうだ言うヤツは全員幻術で黙らせた。聞きわけのよかったヤツにはお土産を約束した。
火星から地球までは宇宙艇で1ヵ月もかかっちまう。その間にマミのやつがくたばっちまたら目覚めが悪い。あたしは"跳"ぶことにする。150年も生きてりゃ惑星間ワープも無理じゃなくなる。けれど体を全部送ると魔力消費が半端ないのでソウルジェムだけ"跳"ばすことにする。体? 地球には擬体があるはずだし、しばらくはそれを使おう。この体は後から宇宙艇で届くように手配しておけばいいさ。あたしはエリーにテレパシーで呼びかけた。『わかった。3分以内に体を回収するわ。冷凍保存をかけて地球に送るから』ありがとよ、愛してる(リップサービス)
そしてあたしは槍を振り下ろした。グッバイ、火星。ハロー、90年ぶりの地球。
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地球の自転速度(赤道直下で約470km/秒)を考えるのを忘れていたからあたしは見滝原から何百キロも離れた海の上にワープアウトしちまって、そのまま波にのまれてドンブラブラドンブラブラ。ゆらゆらゆれるソウルジェム。体は火星に置きっぱなしだから、身動きがとれないってヤツだねこりゃ文字通り。
連絡は行ってるだろうしそのうち誰かが回収にくるだろうさ。さていったいいつになるやら。思わぬところで空白の時間ができちまって、けれどもあたしはその使い方を知っている。火星にいる時も何度かこんなことがあった。魔獣もオンナノコもいない貴重なヒトコマ。あたしはそこにとんでもなくアクティブで内向的なレクリエーションをぶちこんでやる。今日まで出会ったヤツらを思い返してあたしの中に取り込んでいく。いや違う。吸収したことを確認していくんだ。
(もっと気軽にワープ使っちゃいましょうよ)
こいつはロベルタの言葉だ。小鳥のような声で歌うバー・モスクワの踊り子。こいつと出会ってからあたしは高速ポーターに乗らなくなった。
(先輩は好き勝手にやってください! わたしたちは勝手に育ちますから!)
マミのやつを真似てコーシンのイクセーとかいうのに手を出して悩んでたあたしをスッキリさせてくれたのはパトリシアだった。名前からは予想できないけれど、眼鏡でおさげで黒髪の日系人。マジメそうな見た目のくせに、一皮むいてみたらとんでもないお転婆だった。
(あなたが魔法をつかってわたくしの家族を教会に連れて行ってくれなかったなら、家族はバラバラになっていたでしょう)
そして、ああ、仁美。70年前に死んじまったあたしの友達。どんな力だって人を幸せにできる。それを教えてくれたんだ。いまのあたしが幻術をつかえるのはあんたのおかげだよ。
そうやってあたしは思考と行為に他人を見つけていく。そのたびにあたしは1人じゃないと思い知る。たくさんの人間があたしの中に存在している。そこには死者も生者もない。宇宙の果てに消えちまった織莉子も、円環の理に還って行ったさやかも、みんなみんなここにいる。そしてまだまだ空きがある。
あたしは袋だ。大きな袋だ。満杯にはほど遠い。もっと、もっとだ。もっとよこせ。オトコもオンナもウチュウジンも、みんなまとめて食ってやる。
オーケー、アタマとココロが整理されてきた。意識もクリアになってくる。デフラグされた気分だ。この技術を身につけただけでも医者を目指してた甲斐があるってもんさ。あたしが今やったのは、宇宙精神病に対する治療法のアレンジだ。"自分を見失う"としか言いようのない錯乱状態に陥ったヤツらへの処方箋。自分の中に眼を向けて、自分と、自分に影響を与えたヤツを切り離していく。そうやって自己を明確化していく。自分の中の他人をみつめなおす。
さてこんなひとり語りをしているうちにだんだんと気配が接近してくる。魔法少女。擬体も持ってきてくれてるらしい。こいつは嬉しいね。お礼に近くの島でひと夏のアバンチュールをプレゼントしてやりたいところさ。相手の合意? そんなものは押し倒してからいくらでも得ればいい。嫌われるのを怖がって距離を測ってたらその間に死んじまうかもしれないじゃないか。迷う暇があるなら、そいつの希望も絶望も、全部あたしで染め上げちまえばいい。その結果どうなるかは自業自得。やらずに後悔するよりやって後悔しちまえ。ユーハディットカミング。
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pixivで書いてた「最後の3ヶ月」(http://p.tl/t/322414 )のアフター的な話……の冒頭部分。勢いでここまで書いたけれど続くかどうかはあやしい(ごめん)■ただし読んでなくても大丈夫。■まどマギ本編の150年後の話。人類は地球を飛び出し、月や火星にまでその生存圏を広げていた――という感じのSF(すこしふしぎ)大作 ……の予定 ■濃厚な杏マミがこのあと……! ■舞城王太郎『煙か土か食い物』のパロディ的な面もあります。■7/30 2を追加