あるところに、王子様がいらっしゃいました。
王様も女王様もお優しい方で、王国は反乱が起きることも、災厄が降りかかることもなく、隣国との関係も良好で、とても平和でした。
王子様には一人のお兄様がいらっしゃり、将来はお兄様が王の位に就かれることになっていました。お兄様は賢明な方だったので、国民も王子様も、お兄様が王様になることには大賛成でした。
かといって、王子様が無能な方だったわけではありません。王子様は馬術や狩りを大変たしなまれていて、特に狩りの腕は、王様にも勝るほどでした。お勉強だって、お兄様と同じくらい出来ておられました。
王子様の身の回りのものは最高級の品ばかりで、王子様が望むものは、何でも手に入りました。
卑しい身分のわたしたちからすれば、王子様はまさに幸せの塊のような方に見えたのでした。
そんなある日、わたしたちが高い高い城の外壁を掃除させられていた時のことです。死と隣り合わせのその作業を終えたわたしたちが地上に降り立つと、遠くから王子様の声が聞こえました。どうやら王子様は家臣とトランプで遊ばれていて、三回続けざまに負けられたご様子でした。
王子様は溜め息の後、こうおっしゃったのでした。
「私はなんて不幸な人間だろう」と。
ああ。王子様はこの世で一番不幸な方でございます。
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風刺的な。