その後、化け物の討伐を終え陣に戻ってきた鈴々も朱里から事情を聞き、自分も桃香を追うと言ったのだが朱里に諌められ陣に留まり、2人の帰りを待つこととなっていた。
しかし、ただ連れ戻すにしては結構な時間が過ぎており、焦りと不安から先ほどのような言い争いになってしまったのだ。
朱里「確かにお優しいのは結構ですが、もう少し桃香様には当主としての自覚を持って欲しいものです・・・」
そんな風に、桃香に使える臣として、主の軽率な行動に心痛めていると
兵士「伝令!こちらに向かう二頭の馬を発見!どうやら劉備様と関羽様のようです!」
朱里「!鈴々ちゃん!」
鈴々「行くのだ、朱里っ!」
2人の帰還の報告を受け、幕を飛び出していく2人。
すると陣の入り口辺りには2人の帰還を喜ぶ皆の姿があり、その光景に2人も無事に帰ってきてくれたことを実感し、入り口に向かって走っていく。
そして入り口付近まで来ると聞こえてくる声。
関羽「お~~い、鈴々、朱里ー!今帰ったぞ~~!」
鈴々「あっ!愛紗なのだ!お~~い、愛紗~~!」
そう言って陣から手を振って、到着を待つ鈴々達。
関羽「ふぅ、鈴々、朱里、みんな無事か?」
朱里「はい、負傷者はいますが死者は出ていません・・・桃香様もご無事で何よりです。」
劉備「朱里ちゃん、鈴々ちゃん、ただいま。心配かけてごめんね。」
鈴々「全くなのだ!鈴々たちがどれだけ心配したか・・・、もうこんなことは止めて欲しいのだ!」
劉備「うん、ホントにごめんね・・・でもみんなを守らなくちゃって思ったら勝手に動いちゃってたの。」
朱里「――はぁ。桃香様、そのお考えや行動は確かに尊敬に値すべきものです。
あそこで化け物を引き付けてもらわなければ恐らく死者も出ていたと思われます・・・しかし、桃香様にもしものことがあったら悲しむ人たちがたくさんいるんですよ?
そうなったらどうするおつもりですか?・・・もう少しご自分の立場を考えて下さい。」
劉備「あぅぅ・・・ごめんなさい・・・」
劉備の無事を喜びながらも、その行動についてお説教をする朱里。
明らかに劉備の方がお姉さんなのに、まるで劉備の方が妹のようだ。
朱里「分かってくれたならもういいです、それより本当に無事で良かったです。おかえりなさい、桃香様。
・・・あの、それで一緒に来た後ろの方はどちら様ですか?」
そう言って主の無事の帰りを笑顔で迎える朱里、それから先ほどから気になっていた主達と一緒にやってきた人物について訊ねた。
劉備「あ、そうだ!みんなにも紹介するね!この人は『ユーリ・ローウェル』さんって言って、私が危ないところを助けてくれたんだよ!」
ユーリの存在に気付き、彼について尋ねた朱里に答える形でそこに居た人たちにユーリを紹介する劉備。その紹介に続き関羽も
関羽「先ほどの化け物もこちらのユーリ殿が一人で倒されたそうだ。」
朱里「は、はわわ!あの化け物を一人で!あ、あの・・・わたしゅは諸葛亮孔明っていいまひゅ!この度は桃香様をたしゅけてくだしゃってありがとうごじゃっ!・・・」
緊張のせいか噛みまくりの少女――諸葛亮――が自己紹介をしてくれる。
噛んだ後も一生懸命頑張ってくれているみたいだが、時折聞こえる「はわわ」しか上手く聞き取ることが出来ない。
まぁ取りあえず名前は分かったので彼女についてはまたの機会に。
そんな孔明を横目に
鈴々「鈴々は鈴々なのだ!桃香おねーちゃんを助けてくれてありがとうなのだ!それにしても一人であの化け物を倒すなんて、お兄ちゃんすごく強いのだっ!」
もう一人の鈴々と名乗った少女も自己紹介をしてくれた。
(しっかし、カロル先生と言いこの2人と言い・・・エステルも似たようなもんだが・・・今年のオレはお子様と相性が良いみたいだな・・)
関羽「り、鈴々!いきなり真名を名乗るとはどういうつもりだ!?」
鈴々「何を言っているのだ?おねーちゃんを助けてもらったんだからそんなの当然なのだ!」
劉備「そういえばそうですね♪申し遅れましたが私の真名は『桃香』って言います。ユーリさんにこの真名を預けますので、これからは真名で呼んで下さいね。」
関羽「あ、姉上までっ!」
そんな2人に呆れる関羽、なんか気の毒な気もするが自己紹介されて放っておくわけにもいかず
ユーリ「孔明に鈴々か、こちらこそよろしく頼む。鈴々ってのは真名みたいだが良いのか?それに劉備も」
鈴々「鈴々が良いって言ってるんだからいいのだ!」
桃香「私も鈴々ちゃんと同じです。それに命の恩人に真名を預けないなんてそれこそ失礼に当たります、それとも真名を預けられるのは嫌ですか・・・?」
ユーリ「いや、そんなことはないが・・・いくら助けてもらったからって初対面の人間をそう信用するもんじゃないぞ?」
桃香「ん~~、でもユーリさんは信用してもいいんですよねっ?」
そういって上目使いでユーリを見ながら確認してくる劉備。
ユーリ「う、それは・・・(ホントーにエステルそっくりだな、コイツは!ってことはこのまま強引に押し切られるんだろうな、はぁ、仕方ない)わかった、
『桃香』の真名、預からせてもらう。鈴々もな。」
桃香・鈴々「やったーー(なのだ)!これからよろしくお願いしますね(するのだ)、ユーリさん(お兄ちゃん)!」
孔明「あ、あはは・・・」
その様子を遠目に見ていた孔明は苦笑いをしていたが、そこに
関羽「朱里はいいのか・・・?」
呆れ疲れた顔の関羽がやってきて、朱里に訊ねる。
孔明「そ、そうですね、私はまだユーリさんのことを良く知りませんので真名までは・・・」
関羽「そう、そうだよな。うぅ・・朱里が居てくれて本当に良かった・・・」
孔明「あ、愛紗さん、そこまで言わなくても・・・」
関羽「いや、本当に助かってる。――ところで話は変わるのだが」
孔明「何でしょう?」
関羽「ユーリ殿はご主人様と同じ天の国の人間らしい。」
孔明「えっ!?」
関羽「見た感じ私たちと違うっていうのは分かるだろう?それにご主人様の名前も知っていた・・・なんでも共通の知人から聞いたらしいんだが。」
孔明「それは本当の話なんですか?」
関羽「う~ん、確かに私も怪しいとは思ったのだが嘘を言っているようにも見えなかったし、姉上が『ご主人様と初めてお会いした時と同じ感じがする』と言うものでな、
どうやらご主人様を探しているようだが私たちだけではどうするべきか迷ったので取りあえず着いてきてもらったのだ。」
孔明「そうだったんですか、でもなんでご主人様を探しているんでしょう?」
関羽「うむ、本人は『ご主人様を手助けする為』と言っていた。またそれも共通の知人に頼まれたから、らしい。」
孔明「手助けに共通の知人、ですか・・・」
関羽からユーリのことを聞き、考えふける孔明。
関羽「どうだ、朱里?ユーリ殿のことどう思う?」
孔明「・・・そうですね、まず愛紗さんが危惧したようなご主人様に危害を与えることが目的ではないと思います。
そして手助け、という点については今の段階では情報が少なすぎて分かりません。
同様に共通の知人というのも怪しいですが、それはご主人様に確認を取ればすぐにわかることです。」
関羽「ふむ・・・なぜ危害を与えないと?」
孔明「簡単に言うとまだこの大陸にご主人様を害して利を得られる者はいないからです。もちろん単純な賊などになれば話は別ですが。」
関羽「つまりそのような嘘を付く必要がないと?」
孔明「そうです、仮に私たち義勇軍の壊滅が狙いだったとしても、わざわざ化け物が襲ってくれてる桃香様を助ける必要性は考えられませんし、
もしかしたら人質にする為に助けた、という考えも無くは無いですが、それならこちらの陣まで来るのはおかしいです。その場で連れ帰るなりするはずです。」
関羽「確かに・・・では少なくとも朱里も敵だとは思っていないわけだな?」
孔明「はい、それにもし手助けするという言葉を信じるなら、あの化け物を一人で退治出来るような戦力は正直ありがたいです。
それに何より顔を知られていませんので、ユーリさんの協力があればご主人様を助ける作戦の成功率がかなり上がります。」
関羽「っ!ご主人様・・・」
孔明「愛紗さん・・・」
ユーリの話題からご主人様である『北郷一刀』に話題が移ると意気消沈する関羽。
その様子を見て、痛々しく思う孔明は彼女を気遣うように名前を呼ぶ。
そこへ
鈴々「お~~い、愛紗ー、朱里ー、どこに行ったのだー?」
と、鈴々が2人を呼んでいる声が聞こえた。
孔明「・・・愛紗さん。とりあえずみんなのところに戻りましょう。まずは負傷者の手当てです。
その後に食事を取りながらユーリさん、桃香様、鈴々ちゃんと私たちの5人で話をしましょう。」
関羽「・・・そうだな、ここで落ち込んでいても仕方ない。」
孔明「はい!じゃあ早速鈴々ちゃんのところに行きましょう。」
――そう言って迎えに来てくれた鈴々の元へと行く2人。
そしてそのまま朱里の指示で、負傷者の手当て・装備品の点検など、戦いの後処理を進めていった。
ユーリも何か手伝おうとしたのだが、桃香の『ユーリさんはお客様なんですから休んでいて下さい。』と言われ、幕を用意してもらった。
しかし、このような状況で一人休んでいるのも性に合わなかったので、勝手に周囲の見回りをしていた。
こっちに来て桃香を助けてから一気に色んなことがあったが、しばらく一人になる時間を得たので現状の整理をしてみる。
まずは最初に出会った桃香達のこと。貂蝉の話からすれば恐らくここは『蜀』の前身だろうか、劉備のことは男だと思っていたが実際は女だった。
というか、ここの幹部的立場にあると思われる他の3名、関羽・鈴々・孔明も全員女だった。
別に女を舐めたりしている、ということではないが普通に考えればそういう立場は男であることが多い、それともこの劉備の陣営だけが特別なのだろうか?
まぁ、そのあたりはこの世界でしばらく過ごせばわかるだろう。
次に『北郷一刀』について。どうやらこの義勇軍に属しているみたいだが、この陣営にはいない。
ここの連中からは『ご主人様』と呼ばれ慕われているらしいが、それは天の国から来た人間だと思われているせいらしい。
詳しいことは本人から聞くのが一番だろうから、『北郷一刀』について考えるのは後々でいいだろう。
さっきの戦いの後処理が終わったら今の居場所なんかも聞けると思うしな。
最後に『モンスター』のことだ。
・・・結論からいうとあんなヤツらはオレの世界でも見たことがない。
しかし、かなり類似点は多いと思える。
(もしかしてエアルの暴走?いや、そもそもこの世界にエアルってあるのか?・・・そういや魔導器も使えてるけど・・・)
と、考えてみるがやはりモンスターに関して、そしてその中で気付いたエアルの存在についてはただ疑問として残っただけであった。
ユーリ「ま、考えても分かんねぇモンは分かんねぇよな・・・そろそろ戻るか。」
そう思い陣へと引き返そうとした時、
関羽「ユーリ殿、こちらにおいででしたか。」
自分を探しに来たのだろうか、関羽が一人でやってきた。
考え事に夢中になっていたせいか、声をかけられるまで気付かなかったようだ。
ユーリ「――関羽か、勝手に外に出ちまって悪かったな。」
関羽「全くです、桃香様が心配なさってましたよ。」
ユーリ「そうか、わりぃな。丁度戻ろうと思ってたとこなんだが・・」
関羽「まぁいいです・・・ところで何をしていたのですか?」
ユーリ「ん?あぁちょっと見回りをな。」
関羽「そうですか、それはありがたいのですがユーリ殿は客人なのです、ゆっくりしてもらって結構でしたのに。」
ユーリ「あーそれ桃香にも言われたわ。でもあんな状況で一人休んでいるのも性に合わなくてな。」
関羽「それならせめて一言言ってからにして欲しかったです・・・まぁこれからはあまり勝手な真似はしないで下さい。」
ユーリ「分かったよ、んで探しに来たってことは一段落着いたのか?」
関羽「はい、そろそろ食事なので、一緒にご主人様についてなどの話し合いをしようと思いまして・・」
ユーリ「そうか、んじゃ戻りますか。」
そう言って帰路に着くユーリ、しかし関羽が何か言いたそうにしてついてこない。
ユーリ「どうしたんだ、関羽?戻らないのか?」
関羽「い、いえ。そういうわけではないのですが・・・あのユーリ殿、先ほどの手合せの件、今ここでしてもらうわけにはいきませんか?」
ユーリ「急にどうしたんだ?そんなに急ぐ話しでもないだろう?」
関羽「・・・後程お話ししようと思っていたのですが・・・実は、ご主人様は・・・とある賊に捕まっているのです・・・」
急に手合せの話を振ってきたのでその理由を尋ねてみたら、落ち込みながら話を始める関羽。
関羽「・・・ある時、賊に襲われている村を発見して救出に向かったのですが、奴らは村人を人質に取るという卑怯な手でご主人様をさらっていったのです。
この周辺は我々義勇軍が賊を退治を続けていたのですが、その旗印となっていた為に狙われたのだと思います。」
ユーリ「・・・なるほど、それで『北郷一刀』は今ここに居ないってわけか。でもそれと手合せと何の関係があるんだ?」
関羽「・・・私は・・自分を許せないのです・・・」
ユーリ「なに?」
関羽「私はっ・・・私は桃香様と一緒に大陸を平和にするどころか、自分が主と定めた人ひとりすら守れなかったのです!・・・あの日から『あの時私がもっと強かったら、ご主人様を危険な目に遭わせることはなかったんじゃないのか?』、そう思わない日はありません。
そして、そう思う度に私は自分が許せなくなり、より強くあろうと武を求めてきました。
ユーリ殿に会ってからここに来るまでは単純にユーリ殿の武に興味があっただけなのですが、先ほど朱里とご主人様の話をした時に
『早くご主人様を守れる程強くなりたい』という気持ちから焦りと不安を感じ、一刻も早くユーリ殿の武に触れ、己を磨きたいと思ったのです。」
(なるほど・・・ね、『北郷一刀』に対してそういう感情があるってことか・・・まぁ、それ自体はオレには関係ない、だが・・・)
ユーリ「・・・自分だけが強くなればそれでいいと思ってんのか?」
関羽「はい?それはどういう意味ですか?」
ユーリ「だから、自分だけ強くなればそれで全て上手くいくようになるって本気で思ってんのか?って聞いてんだよ」
関羽「当然です!もし私がもっと強ければご主人様を守ることが出来たし、兵士の皆も余計に負傷することはなかったはず!」
ユーリ「そうか・・・本気でそう思ってんならそれでいい――構えろ」
関羽「え?」
ユーリ「お望み通り手合せしてやる、手加減無しの本気で、その思い上がった考えごとぶちのめしてやるよ!」
そう言っていきなり関羽に切りかかるユーリ。
関羽「な!?ゆ、ユーリ殿!?」
咄嗟のことであったが、関羽は何とかこの不意打ちを避ける。
関羽「いきなり何をするのです!?」
ユーリ「いきなりも何もそっちが望んだことだろう、それともアンタは戦場でも敵に待ったをかけてから戦うのか?」
関羽「くっ・・・!」
訳の分からない関羽であったが、ユーリの言葉尻に多少の侮蔑すら感じ、怒りを覚え臨戦態勢を取る。
ユーリ「やっとやる気になったか・・よし、んじゃこれくらいサービスしてやる、動くなよ?」
そう言って超速で空を切り、風の刃を生み出すユーリ。そして
ユーリ「絶風刃!」
そうユーリが叫ぶと風の刃が関羽目掛けてものすごい速度で飛んでいく。
関羽「!!」
その速度に関羽は反応出来なかったが、その刃はかろうじて関羽の横スレスレを抜けていった。
ユーリ「言ったろ?これはサービスだって・・・次からは当てる、怪我したくなきゃ本気でかかってこい!」
こうして険悪なムードの中、関羽雲長とユーリ・ローウェル、2人の戦いが始まったのだった。
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スタイルとしては休みの日に一気に書いて小出しにする、という形を取っていくつもりなのですが、最近暑くて仕事が終わって帰ってくると気付いたら寝ている、という状況が多々ありまして・・・なるべく早く上げれるように頑張ります。
さて本文は鈴々と朱里がユーリと会いましたが、まだあまり会話はありません。
そして一刀さんは捕まっているとのこと。
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