No.227902

10センチの壁

短いほのぼのなお話を目指しました。
本当に短いです。

バカップルな感じが出てるといい。

2011-07-14 15:07:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:395   閲覧ユーザー数:378

 

その距離およそ10センチ。

私と君の距離だけど。

その10センチは、かなり大きい。

 

健二と付き合ってから半年。

付き合ってくれといったのは私。

健二の家で、分厚い本を読む健二に、私は邪な念を送ってみるけど。

それはいつだって軽く無視される。

無視と言うか、多分健二は気づいてないだけだろうけど。

別に、変なことは考えてない。

ただ、私を見て欲しいとか、手を繋いでほしいとか、キスしたいとか。

多分普通の事だと思う。

だけど、健二はいつだって分厚い本で壁を作る。

私が目の前に居るのに。

付き合ってくださいと言ったのは確かに私だけど、健二だって「え? 俺と? まあ、いいけど」と、何か軽くOKしたじゃないかと、そこを言いたいわけよ。

私が健二に「好き」とか言うと、健二はいつだって「ああ、俺も」とか、やっぱり軽く返事をするだけで。

健二から言ってくれたことはない。

私って、愛されていない気がするわけ。

だけど、別れようなんて、私は死んだって言ってあげない。

だって、私が健二の事大好きでしかたないんだもん。

だから、健二からも、好きだって言ってほしい…。

ああ、もちろん。

健二に好きになってもらえるように頑張ろうとは思うけど、時々 やっぱり落ち込んだりもするのよ。

健二って、やっぱり私が好きでOKしたわけじゃないんだろうか?

「ねえ、健二」

私が健二をじっと見つめて名前を呼べば、健二は本から顔を上げもせずに「んー?」と、気のない返事をする。

それも気に入らないんですけど?

何なの?

私より、本のほうが面白いわけ?

私は本以下な存在なわけ?

なんか、他人が書いた文字に、リアルな私が負けるって、悔しい以前に、虚しい。

でも、付き合いたいって言ったのは私だから、健二に強く言えない。

そういう私も根性がないな。

だけど、別れたくない。

だけど、不安でしょうがない。

だけど、でも、うーん。

「なに?」

健二の名前を呼んだまま、私は自分の頭の中に引きこもり、健二のことを忘れてた。

なんってこと!

それでも健二が珍しく、本から顔を上げて私を見ていた。

「ああ、うん。いや、とくに何も… 読書の邪魔してごめん…」

私がそう言って誤魔化すように笑って見せると、健二は「ふーん?」と、とくに興味もなさそうに本へと顔を戻してしまった。

ああ、もう駄目だ。

このままだと本格的に脳内に引きこもりそうだ。

「健二」

「… なんだよ」

「私、ちょっとコンビニ行って来るわ」

せめて、私も何か雑誌とか買ってこよう。

そうすれば、少しは気が紛れそうだ。

ついでに何かジュースとか、健二にも買ってきてあげよう。

すると、健二は珍しく2度目の呼びかけにも顔を上げて見せた。

私と健二の視線がぶつかる。

「何しに?」

そう言って、健二が首をかしげた。

いや、何しにって。

コンビニ行くって言ってるんだから、買い物に決まってるじゃん。

って、言ったら。

「何を買いに?」

と、また首をかしげる。

今日の健二の反応に、何だか珍しいことが続くなぁと思えば、そう言えば私も、健二の家に来てコンビニに行くといったのは初めてだったことに気がついた。

ああ、私の珍しい言葉に、健二が反応したのかと納得。

「いや、のど渇いたから、ジュースとか。あと、何か雑誌でも買ってこようと思って」

「ジュースなら、冷蔵庫に入ってるからそれ飲めば。わざわざ買いに行くほどのものでもないじゃん。金も勿体無いし。それに、本が読みたいならそこの本棚から好きなの見ればいいだろ」

健二はそう言うと、この部屋には大きすぎるほどの本棚を指差した。

ああ、そうね。

確かに健二の言う事もわかるけど。

「まあ、ジュースはいいよ。頂くよ。でもさぁ。健二の読んでる本って、どれも分厚くて、私じゃ5分もしないで寝ちゃいそう」

難しい本を読むと、私の頭は拒否反応を起こすと思う。

「じゃあ、諦めろ」

そう言うと、健二ははじめて不機嫌な顔を私に見せた。

諦めろとは、どういう意味だ?

「あの? けんじさ~ん? 意味がわからないんですけど?」

私はそう言って首を傾げて見せた。

大体、いつも健二は私が来ても本を読んでるくせに、何で私に諦めろなわけ?

なんて、少々の不満も混ざりながら健二をじっと見据えると。

健二は、少しだけ息を吐き出して。

「お前の好きな雑誌とか教えろよ。買っといてやるから」

「え? なんで?」

別に、健二に頼んでまで見たい雑誌とかは、逆に言えばないんだけど。

私の反応に、健二はまたも息を吐き出して、珍しく本にしおりを挟んで閉じる。

そして、私の目の前に移動してくると、腰を下ろして私に顔を近づけた。

その距離およそ。10センチ。

でもこの10センチはいつもの10センチとは違う。

本と言う壁の存在しない、お互いの息が顔にかかる距離。

そんな健二の行動に、少し驚くけど。

それと同時に健二の顔に見惚れてしまう私がいる。

健二って、本当に綺麗な目してるんだよ。

唇も形がよくて、健二の声で名前を呼ばれると、もう凄くしびれる。

鼻も高くてスッとしてるんだ。

ああ、それに。

健二のさらさらの髪が、動くたびに揺れるのがなんかいい。

最初は一目惚れ。

次に話しかけて、友達になって。

想像の健二と現実の健二のギャップに驚き。

更に惚れた。

そして告白。

今は、恋人。

じっと見つめあう私たちは、お互いに違うこと考えてるんだろうな。

だって、私は頭の中が健二だらけだ。

だけど、健二はきっと色々な事を考えてて、その中に私のいる割合は、多分私が考えるより小さいと思う。

ああ、なんかちょっと悲しくなった。

だけど、いつまでもお互いに見つめ合ってるからって、時間が止まるわけじゃない。

だから、私から話を始めようと口を開きかけた時。

本当に珍しく、私の最初言葉「け」を押さえつけて、健二が口を開いた。

ちなみに、最初の「け」の後に続くのは、当然「んじ」なんだけどね。

「麻子は俺が好き?」

なんて、私の言葉を切ってまで聞きたいのはそれか!

もう何ていうか、目の前の健二の顔はいたって真面目だ。

そんなに聞きたいのか?!

まあ、そう言えば。

最近健二に好きって、言ってないなぁ。

気持ちが離れるなんてありえないんだけど、あんまり毎日好きって繰り返してると、健二に信じてもらえないような気がして、だから、言う回数が減ったのはあるなぁ。

「好きだよ。どっちかと言うと、大好き? てか、すっごい好き」

ちょっとだけ照れ臭いけど、私はそう言って笑ってみた。

健二と一緒にいることが何よりも嬉しい。

だけど、なんで? そんなことを急に聞くんだろう?

って、思うから。

私は「どうして?」と健二に聞いてみた。

そしたら。

「俺さ。きっと麻子につまらない男って思われてるかもしれないなって、ほら。俺って態度素っ気無いし、本ばっか読んでるだろ? それに、俺って自分から麻子に何もいってないし何もしてないと思うんだよね」

健二が凄い真面目臭い顔で言うものだから、私はかなり驚いてしまったじゃないか。

もしかして、私が考えているよりも、健二の頭の中の私の割合って、少し多くなったかも。

あっ。今、ちょっと私の気持ちが上昇した。

健二が、私の思うよりも私のことを気にしてくれるのが嬉しくて、だらしなくにやけてしまう。

いや、これは健二のせいだから。

うん。

そんな怪しく笑う私に、健二はこいつ大丈夫か?見たいな顔を見せるけど。

「あははっ。ヤバイ。嬉しい」

私の言葉に、健二はわからないと言う顔で首をかしげる。

その仕草さえ素敵だ。

「なんなの?」

「うん。私、健二のことだ~い好き」

「ああ、うん」

「健二の頭の中に私がいるスペースって、私が思うよりもあるんだなって。それが嬉しいな」

私がそう言うと、健二は少し驚いた顔を見せて、そして。

私が惚れた、素敵な笑顔で私の頭に手を置いた。

「あのさぁ。俺の頭の中に、お前のいるスペースって、多分お前が考えてるよりかなり多いぞ」

なんて、言われてしまえば、もう泣きそうなほど嬉しくて。

健二の手が、私の頭から、滑るように私の首の後ろに回り、健二の手は私の頭を自分のほうに引き寄せて、そして、健二の唇が私の唇に軽く当たる。

これは、所謂キスだ。

何度か軽くチュッと音を鳴らして、健二が私の唇に何度も口付けてくれて。

終いには、なんか濃厚なものに変わって。

私は健二にいいようにされまくってたけど。

こんなに幸せなことが夢だと怖いから、私は自分の両目を瞑って、健二の暖かい感触とか、唇の柔らかさだとか、匂いだとか、凄い堪能していた。

あれ? これじゃあ私って変態じゃね?

そして、甘い時間は名残惜しくも終わってしまう。

まあ、息もいい加減続かないし、健二のキステクに「どこで覚えた!?」と突っ込みたいのもぐっと呑み込んで、とりあえずは余韻に浸りつつ、健二の胸に頭を預けて、これ幸いと健二に抱きついている私。

健二といえば、私の頭を撫でながら、時々 私の頭にキスを降らせる。

実は、健二ってキスが好き?

「俺、ワガママだからさぁ。麻子にかまってやらないくせに、麻子がいなくなるの嫌なんだよな。買い物行くとかさ」

健二の不意の告白に、そりゃワガママだ!

てか、自覚あったのかよっ?!

なんて、すっごい納得したけど。

「健二が時々私に好きって言ってくれるの希望。それから、なるべく私といる時は本を控えてくれること希望。で、毎日1回キスしてくれるのが第1希望」

私はそう言ってから、健二の反応が気になるから健二の顔を見上げる。

私の希望の一つでも叶えてくれたら、多分他の事は許せちゃうから。

だって、惚れた弱みっていうじゃない?

健二は私を見下ろして、そして困った顔を見せる。

「まあ、時々なら… 好き… とか言ってもいいよ。男って、そういうこと言うのすっごい照れ臭いから嫌なんだからな? 本は、そうだな。なるべく一緒のときは読まないようにする」

健二はそこで1回言葉を切ると、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

そんな顔も出来るんですねっ!?

「麻子の第1希望だけど、1回だけでいいのか?」

なんて、言ってくれやがった。

なんて恥ずかしいっ!

てか、もう… 無理。鼻血でそう。

「いや、その。出来れば… いっぱい?」

声が小さくなるのはもう恥ずかしいからだ。

だけど、これだけは伝えなくてはと思う。

私がそう言うと、健二はおかしそうに笑って、またキスをくれた。

「了解。だけど、注意事項が一つ」

健二はそう言うと、私の頬をなでる。

私が首をかしげると、健二はにっこりと言えるほどの笑みを浮かべる。

「キスするたびに、俺の【理性】って言うスイッチがOFFになりやすいから、覚悟しておくように」

そう言って、健二は満足そうに笑う。

理性の切れたあとなんて、やることは一つだ。

私は自分の顔から火が出そうだったけど。

もうなんか、やっぱり嬉しいし、幸せだし。

私って、自分が思うよりも、絶対に健二に好かれてるし。

それがわかったから、もう、ドンと来いっ!!

と言う意味もこめて、私は健二の首に両腕を絡め、キスをねだった。

 

おわり

 

 

 
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