No.227316

異聞~真・恋姫†無双:九

ですてにさん

現在に舞い降りた華琳は、かつての王から、新しい得物と共に、想いを預かる───。
そして、彼女は戦場に向かう。片腕が不自由なハンデを抱えたままで・・・。

動画のうp期限が迫ってきたので、次回は少なくとも三日後・・・。

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2011-07-10 14:26:52 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:11191   閲覧ユーザー数:7881

「我が名は『贏政(えいせい)』。真名は『統華』。かつての秦王。大陸の統一者。後世の人は、我を『始皇帝』と呼ぶ」

 

・・・覇気をまとう、絶対的な王の姿。弱弱しげに儚く微笑む婆ちゃんの姿は、かけらもなかった。

 

「・・・この『陽』は特殊な鍛え方をされていてな。見ているが良い。はぁぁ・・・っ!」

 

婆ちゃんが気合を込めると同時に、大鎌自体が黄金色に発光し始める。

まるで、華琳の髪の色がそのまま光り輝いているようで。

 

「気を纏える武器・・・それも、王の覇気すら宿すことが出来る、か」

「そう。そして殺傷力も、持ち主の気の大きさ次第で、何倍にもなる。老いた我ですら、ほら」

 

婆ちゃんは大岩の頂点に、光り輝く鎌の刃を当てる。すると、豆腐を切るように、するすると大岩が二つに割れていく。

 

「・・・自重だけで、岩が紙のように斬れるなんて。(春蘭でも無理ね)」

「(春蘭でも無理だな。つーか、砕いてしまうな)」

「とまぁ、これくらいは出来る。さて、もう一つ・・・」

「統華、ここまでだ。あとはわしがやる」

 

そう言いながら、婆ちゃんの立ち姿がふらつく。それをいち早く支える爺ちゃん。

元々俊敏な人だけど、これだけ早く動けるのは、婆ちゃんの体調の変化に、一番敏感だから。

 

「貴方は、気の扱いには長けていないではありませぬか・・・」

「ごちゃごちゃ抜かすでない。それでも、お前の気に一番慣れているのはわしじゃ。

やりたいことぐらいわかるし、見本ぐらいなら見せられる。とっとと座っておれ」

 

婆ちゃんを無理やり座らせ、『陽』を奪い取る爺ちゃん。

婆ちゃんのまとう空気も、しゃべり方も、もういつもの様子に戻っている。

俺と華琳は、爺ちゃんから引き継ぐように、婆ちゃんを支える位置に素早く移動し、

息は少し乱れているが、意識を失うほどのものでないことに安堵した。

 

あの覇気を目の前にして動けたのは、御遣いとしての経験か、婆ちゃんへの愛情なのか。

・・・どっちも、なのかな。

 

「さて、政子・・・ではないな、今は。統華の覇気がこれに宿っているうちに。さっさと見せるとしよう」

 

構えた爺ちゃんが、気合を込める。すると今度は、大鎌の発色が変わる。黄金色から、眩しい光そのものへと。

 

「むぉ! なんじゃこりゃ!」

「『陽』の手入れをしてくれていたのは、貴方ですから。

その子が貴方の気を纏いやすくなっていても、不思議ではありませぬ」

「たぶん、お爺様とお婆様の気が混じっているのよ。気が混ざり合うこと自体、とんでもないことだと思うのだけど」

「爺ちゃんなら仕方ないな」

「ええ、仕方ないわね」

「お主ら、わしを何だと・・・」

 

「「「先代の天の御遣い」」」

 

「統華まで調子に乗りおって・・・まぁ、ええわい。

しかし、こ奴はほんに持ち主の意を汲んでくれる、ええ得物になったの。

さて、うまく出来るかはわからんが、やるぞ・・・ふんっ!」

 

爺ちゃんは大岩から少し離れた位置で、わざとゆっくり鎌を振るう。

すると、輝く気の刃が、鎌の刃先から放たれ、大岩を両だ・・・。

 

「おろ? 粉々にくだけてもうたわい。両断するつもりだったのにの」

 

次の瞬間には、刃は岩を高速ですり抜け・・・はせず、大岩に吸い込まれて、小爆発を起こした。

爆風に婆ちゃんを庇いながら、目を覆ったのもつかの間。もう、大岩は影もなかった。

 

「扱いが苦手なのは、変わりなかったようですね」

「どっちにしても、とんでもない威力よ・・・。凪の気弾を暴発させたかのようだわ」

「本当は、横凪にまっ二つのはずだったんじゃが。ま、こういう使い方ができるということじゃ。

あと、これは慣れておらんとかなり疲れる・・・」

「爺ちゃんが息を乱すか・・・。こりゃ、婆ちゃんにさせられないわけだ」

「全盛期の婆さんは、これをぽんぽん放っておったからな。まさに無双状態よ」

「・・・なんつーか、俺の家系って」

「大丈夫、一刀の両親は庶人ですから」

「いや、婆ちゃん。それ多分フォローになってない・・・」

 

笑いが俺たちを包んだ後、爺ちゃんと婆ちゃんは一緒に『陽』を手に持ち、華琳に静かに差し出した。

 

「どうか、この鎌を引き継いでほしいの。華琳さん、貴女に」

「・・・お婆様」

「もう一度、戦乱に身を投じる貴女に。一刀の未来の妻として、無事私たちの元に帰ってこれるように、願いをこめて。

始皇帝は、女の幸せをも手に入れました。だから、貴女にもぜひ掴み取って欲しい。そんな、これは私の我侭」

「・・・はい」

「『始皇帝・統華』が命じます。『陽』を引き継ぎ、大陸に安寧をもたらし、我が真名を呼びに、必ず無事に帰ってきなさい」

「誓いましょう。曹孟徳、我が真名・華琳の名を賭けて。・・・統華さまの半身、お預かり致します」

 

 

「・・・そう。一刀のお婆様から、譲り受けたと」

 

黒華琳はぼかす所はぼかして伝えていたけれど、金華琳は事実から読み取るべきことを読み取れたようだ。

深刻そうな顔が、それを物語っている。

 

「すごいな! お前のお爺様もお婆様も! 世が世なら一角の武将ではないか!」

「・・・姉者。いや、今は何も言わないでおいた方が良いか」

 

全然わかってない人も一人。うん、春蘭は本当にぶれない。

 

「ますます、貴方達をこのまま野に放つわけにはいかなくなったわ。一刀と蘭樹、貴方達二人の存在は危険すぎる」

「だよなぁ。やっぱり、孟徳さんの立場なら、そう思うよね」

「もちろん、眉唾物と切り捨ててしまえば、それで済む場合もあるでしょう。

だけど、蘭樹の『陽』は、見るべき者が見れば危険すぎる代物。

その風貌と合わせて、神輿に担ぐには、あまりに最適すぎると言うべきか」

「そうでしょうね。だけど、それでも、私はこの得物を振るい、この戦乱を駆ける」

「・・・言うと思ったわ」

「俺自身にもそれを証明するものなんて何も無いしね。俺は、北郷一刀。それ以上にもそれ以下にもならないし、なれない」

「おやおや、主も蘭樹殿も強情なものだ。さて、孟徳どのは、我らをいかがするおつもりか?」

「そりゃ欲しいわよ、喉から手が出るほどに欲しい。

武、智、血筋、当人の魅力・・・貴方達がいれば、天下取りを10年は縮めることが出来るでしょう。

その分、治世を早く始めることが可能となる。手放すのは愚か者、だけど・・・ね」

 

見てみたいのよ、と金華琳は言う。

 

「貴方達はこの戦乱の先を見据えている。その為に動くという。それは、大陸全ての者にあまねく恩恵をもたらすわ」

「しかし、華琳さま。どれだけ武と智に優れ、人を引き付ける魅力に溢れようとも、拠るべき地を持たない者では、

自ずとやれることに限界がありましょう」

「その通りよ、秋蘭。ただね・・・それも織り込み済みでしょう。ねぇ、蘭樹」

「そうね、孟徳。手立てはいくつか考えてあるわね」

 

・・・手立てのうちの一つは確実に、婆ちゃんのこの地に残した財産、の話だろうなぁ。

五千ぐらいの義勇軍なら、すぐに作れるって言ってたっけ・・・。

ただ、そんな隠し財産、漢王朝にも伝わっていて、とっくに暴かれてる可能性だってある。

 

それに、やっぱり華琳と敵対するってのは極力避けたい。えらく、こっちの華琳も認めてくれているみたいだし。

 

 

「んー。手立ては確かにあるけど。どうだろ、孟徳さん。俺たちのパトロ・・・いや、スポンサーになるっていうのは」

「すぽんさー?」

「あー、後援者、みたいなもんかな。孟徳さんは、俺たちの活動について活動資金を出してもらう。

俺たちは行く先々で、孟徳さんの存在をがんがん売り込んでいく。商隊のフリするのが一番早いかな?

実際に交易した方が得な時は、むしろ積極的に仕掛けるし。

かつ、各地の状況とか、名産とか、直接見ないと判らない情報をどんどん届ける。あ、もちろん、うまいもんも。

各地の名産料理も披露できるよ? 料理にかけては、蘭樹は大陸でもかなりのもんだと思う」

「堂々と諜報活動を行って、かつ、私が優れた施政者という営業活動を行う。交易もする。

時折、地域の名物料理を振る舞いに帰ってくる・・・代償は資金提供・・・ふむ」

「戦乱が本格的に始まるまでの期間限定だけど。実質、孟徳さんの意を受けて動くことになる。どうだろ?」

「・・・ちなみに蘭樹さまの料理は絶品ですよ~。宮廷料理人なんか目じゃありません~」

「なっ! 風、あなたね!」

「確かに、蘭樹さまの料理は宮廷に出しても、全く恥ずかしくないものです。一刀殿の食の知識と合わされば・・・ふふっ」

「稟!? あなたまで・・・」

 

風と稟の援護射撃に、思わず、金華琳の喉はごくりと上下に動いた。黒華琳の抗議はこの際スルーだ、スルー。

第一、嘘は一つも言ってない。華琳の料理が絶品なのは間違いなく、かつ、天の知識を得ている彼女の料理に、

胃を鷲づかみにされない者が、決してどれだけ存在するか。

 

「よし、決めたわ! 陳留まで同行なさい! 蘭樹の提供する料理次第で、後援者になるか決定する!」

 

うん、欲望に忠実になると、金華琳は決めたようだ。

 

「じゃあ、その提供までの間に、詳細は妙才さんと俺や風たちで詰めておくとするか」

「ふむ、心得た。蘭樹どのは食材の確保に全力を出してもらうとしよう。ですね、華琳さま」

「もちろんよ。私が全力で支援するわ。最高の一品を出してみなさい」

「はぁ・・・補佐に一刀をつけてもらうわよ」

「腕にひびが入っているのだから当然ね」

「そりゃ、喜んでやるよ。蘭樹の大陸料理、見るのも久しぶりだ。なんかわくわくする」

「華琳さまっ! 私たちも同席できるのですよね!?」

「もちろんよ、春蘭。それは皆で判定しないと。子龍や奉孝、仲徳も同席する?」

「願っても無いですな!・・・ところでメンマ料理はあるので?」

 

どうしてこうなった顔の一名をさておき。最高の一品の為に、俺たちは陳留に向かうことを決定したのであった!

 

「どうみても一品じゃ済まないじゃない・・・はぁ」

 

 

~黒華琳の呟き~

 

「乾焼蝦仁、麻婆豆腐、酸辣湯、担担麺・・・ふふふ、どこまで再現できるかしらね・・・。

私が天の世界で得た最大の成果は、辛味の克服っ・・・!

寿司を味わう為の山葵の克服に始まり、

遂には豆板醤も少しなら耐えられるようになったわ・・・。

 

覚悟なさい、過去の私。真の美食家を語るなら、当然食してもらわないとねぇ・・・」

 

悪い笑いをする、蘭樹こと黒華琳さんであった。

ちなみに一刀がわりと辛いのが平気な為に必死で努力したのは、彼女の中の秘密である。


 
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