No.227195

真・恋姫無双 EP.78 冒険編(2)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
毎日、暑いですね。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-07-09 20:50:50 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3463   閲覧ユーザー数:3211

「そこまでや!」

 

 物陰に隠れていた霞が、そう叫びながら飛び出した。大喬、小喬、ミケ、トラ、シャムも後に続く。

 

「わっ! な、何だこいつら!」

 

 男は咄嗟に身を翻し、霞たちとは反対方向に走り出す。そして足にまとわりつく猫たちを振り払いながら、建物の隙間の細い通路に逃げ込んだ。だが少し進むと、行く手には荷物が積まれて進むことが出来ない。

 

「くそっ……」

 

 戻ろうか迷った男は、通路が狭いのを利用し、両側の建物に両手足を広げて壁をのぼり逃げることにした。

 

「へへへっ、ここまでは追ってこれないだろ」

 

 半分ほどの高さにのぼると、下の通路に小蓮たちがやってくるのが見えた。男は余裕で笑いながら、さらに上を目指してのぼる。だが、ようやく抜け出せたと頭を伸ばした瞬間、頭頂部を何かが素早く走り抜けた。風が横切り、男が視線を向けると、そこには先回りをした霞の姿があったのだ。

 

「残念やったな?」

 

 そう言いながら霞が槍を振り回し、男は先程の風はこの槍のものだった事に気付き、慌てて頭頂部を触ってみる。少しだけ、髪が切れていた。あとわずかでも早く頭を出していたら……男はそれを想像し、恐ろしさに身を震わせる。だが次の瞬間――。

 

 ズルッ。

 

「わっ!」

 

 両手を離してしまったことで、両足だけで体を支えなければならなかったのだが、恐怖で力が抜けて男の体がずり落ちていったのである。慌てて両手を壁につこうとするが、摩擦で手が痛く、思うようにつくことができない。

 

「うわっ、わっ、ああっ――!」

 

 騒ぎながらようやく止まった時、下にいた小蓮が手を伸ばせば届くほど落ちていたのである。

 

「ちょっと! 汚いもの見せないでよね!」

 

 男を下から見上げる小蓮が、腰に手を当ててそう抗議した。

 

 

 小蓮は意地悪く笑い、拾った木の棒で男のお尻を下から突く。

 

「ちょっ! や、やめろ!」

「やめてください、でしょ? まあ、やめないけどね」

「何だと……」

「んーと、確か姉様が男の人の弱点を教えてくれたんだ」

「弱点? ま、まさか……」

「んふふふー」

 

 ニヤリと笑った小蓮は、棒の先をお尻から前の方に移動させる。ふんどしを履いた男の、股間あたりに狙いを定め――。

 

「や、やめて――!」

「どーーん!!」

 

 力いっぱい、小蓮の棒が男の股間に激突した。体を支える両手足の力が抜け、男はドスンと尻餅をつきその場に落っこちたのである。そしてそのまま、股間を押さえてうずくまり、しばらく動くことが出来なかった。上から降りてきた霞が男の足を掴んで引きずり、細い通路から抜け出したのである。

 

「大丈夫?」

 

 心配そうに覗き込む小蓮を、恨みがましい目で見た男は、力なく首を振った。

 

「まあ、とりあえず作戦完了ね。霞!」

「何や?」

「手をこうして」

 

 小蓮に言われるまま、霞は手を胸の高さで開いた。それに向かって、小蓮がパチンと自分の手を叩く。そしてにっこり笑って言った。

 

「大・成・功!」

 

 

 男に対する、尋問が始まった。すっかり戦意消失した男は、地面の上に正座をしてうなだれていた。

 

「単刀直入に聞くわ。あなたたちのアジトはどこなの?」

「西門から出てすぐ北側にある、森のずっと奥だ。ちょうど窪地になってて、外からじゃ見えない。高い岩の壁に囲まれているからな。入り口は洞窟からしかない。見張りが常に居るから、見つからずに忍び込むのは無理だ」

「そこに誘拐した子供たちを連れて行くのね?」

 

 小蓮の言葉に、男は首を振った。

 

「まだ……一人も誘拐していないんだ」

「まだ? それはあなたがって事?」

「いや、俺の居る盗賊団はもともと、そんなヤマには関わってなかったんだ。だが稼ぎが減って、どうしようか困っていたところに、ガキが高く売れるって話が舞い込んで来て……」

「なるほどねー」

 

 頷く小蓮たちに、男は真剣な眼差しで訴えた。

 

「俺たちは半分以上の人数が反対だったんだ。確かに盗賊なんてあくどい事やって稼いでいるが、俺たちなりの仁義というか、越えちゃいけねえ一線ってもんがあってさ。ガキのいる奴も多いし、そこまで落ちぶれるのは嫌だった。でもよ、親分が強行して、ガキをさらって来るまで戻るなって言われたんだ」

「そんなに嫌な命令なら、従わなければいいじゃない」

「……今更、何ができる? 行き場もなく、どうしようもない俺を唯一助けてくれたのが、親分なんだ。黄巾党にすら入れなかったハンパ者さ」

 

 男はそう言って、自嘲気味に笑った。

 

「言い訳ね。自分の生き方は、自分で決められるもの。遅い事なんてないわ」

 

 小蓮はそう厳しく言うと、少しだけ表情を崩した。

 

「ちゃんと罪を償って、真面目な生活を送りたいと本気で思うなら、私のところに来なさい。その頃には、今よりもエラくなってる予定だから、雇ってあげるわ」

「ふふふ、そうだな」

 

 小さい子供の冗談と思ったのだろう。男は小蓮の言葉を信じたわけではなかったが、誘ってくれたことを嬉しく思ったのである。

 

 

 パンダに取り押さえられた男を横目に、小蓮が霞に言う。

 

「今日はもう暗くなるから、続きは明日ね」

「わかったで。その男は、どうするんや?」

「知り合いの兵士に引き渡すつもりよ。仲間に知らせに行かれても困るしね」

「反省はしてそうやけどな」

 

 大人しく従う男の様子は、確かに自分の罪を反省しているようだった。

 

「明日はがんばってもらう予定だから、今日はゆっくり休んでよね」

「作戦はあるんか? 忍び込むのは大変そうやけど?」

「それは……これから考えるわ。でも大丈夫。私たちなら、今日みたいにうまく出来るはずよ!」

 

 力強く拳を握って、小蓮は鼓舞するように大きく頷いた。

 

「待ち合わせは、西門の前にしましょう。いい? 誰にも話しちゃだめよ? 絶対、子供扱いして止められるんだから!」

「わかった。誰にも言わへん」

「約束!」

「約束や! お前らもええな?」

 

 霞が三匹の猫に言うと、三匹はするする木登りのように霞の体を上って、両肩と頭の上にチョコンと乗った。そして元気に一声。

 

「にゃあ!」

「にゃん!」

「ふにゃ~!」

 

 それを見て、小蓮は楽しそうに笑った。霞も笑い、みんなはペコペコのお腹を抱えて家路についたのである。


 
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