カッ! 閃光と共に響く轟音で小さな研究室(ラボ)が揺れる。
突如の襲撃に慌ててモニターで外を確認したダイダロスの目にの前に現れたのは高熱体圧縮発射砲・プロメテウスを構えた二体のハーピーと彼女らを従えたシナプスのマスター本人だった。
「クックック、久しぶりだなぁダイダロス……」
シナプスのマスターは唇の端を歪めた邪悪な笑みでダイダロスの研究室を見下ろしていた。
「いろいろ画策してくれたようだなダイダロス」
イカロスの封印をとき地上へおろしたこと、智樹の夢とシナプスをつなげたこと、すべてがダイダロスの仕業だとこの男は認めていた。
いや、そもそもシナプスにおいてこの男の目をかいくぐりそのような真似ができる者など稀代の科学者であるダイダロスを置いてほかにはいないのだ。
「……だから何? いっておくけどここのバリアはイカロスに装備したイージスの改良版、ハーピーのプロメテウス程度では破れはしないわ」
ダイダロスの言は間違いなく事実である。その証拠に建物の周りの地形こそ焼き払われているものの研究室そのものはまるで無傷なのだ。
しかしダイダロスにも彼らを追い返すだけの武力は存在しない、つまり彼らがバリアを破る方法を持っているのならばその時点で彼女に打つ手はないのである。
「ふ、わかっているさダイダロス、今日は伝えにきたんだ。我々はついに第二世代のエンジェロイドを完成させた、とな」
「なん……ですって……?」
その衝撃の発言にダイダロスは思わず言葉を失った。
「そうだ、貴様が作った第一世代をはるかに凌駕する性能を持つ第二世代だ」
「何を……するつもり……?」
聞き返したもののダイダロスにはすでにその答えは想像がついていた。そう、彼女にとって最悪の想像。
第一世代を上回ると豪語する第二世代の開発、それが意味するとことは一つしかなかった。
「知れたことよ、αとβを破壊する」
「くっ……」
それはダイダロスの予想通り、最悪の返答だった。シナプスから開放され 智樹の元で暮らす娘たちを傷つけられることは、彼女にとって身を切り裂かれるよりつらいことなのだ
「クックック、貴様はそこで指をくわえてみているがいい! 貴様のエンジェロイドが無残に破壊される様をなぁ!」
シナプスの美しい青空にシナプスのマスターの醜悪な笑い声がこだまする。悲しいことに空の美しさは誰にでも平等なのである。
「なぜ……なぜなの……?」
娘たちに襲い来るであろう絶望の強大さに愕然とするダイダロスは声を振絞るようにたずねた。
「なぜだと? お前らしくもなく愚かなことを聞くなダイダロス。私に、シナプスに逆らってタダですむと思っていたのか?」
「すごいわハピ子、マスターがワルっぽいわ!」
「ええ、まるでカリスマ悪の親玉みたいねハピ美!」
「マテこら、まるでってなんじゃいまるでって」
シナプスのマスターがハーピー二人に拳骨でお仕置きしているとさらにダイダロスが続けた。
「やっぱり……小学生のころ給食のプリンを食べちゃったことをうらんでいるの!? たしかにあれは残っていたんじゃなくてあなたのだって知って食べたんだけど!」
「てめえ! やっぱりわざとかい!」
「「ええっ!?」」
今まで第二世代云々といっていた会話から急転、一気に話の程度が低くなったことに驚きハーピーたちは思わずずっこけた。
「それとも体育の授業の野球でフルスイングした拍子に金属バットをキャッチャーをしていたあなたの後頭部にぶつけたこと!? 確かにわざとだったけど!」
「んだとゴルァ! あれまだ傷跡残ってるんだぞ!」
「ねえハピ子、マスターの頭がちょっとアレなのってひょっとして……」
「だめよハピ美! そこは思っても口に出しちゃダメ!」
「ま、まさかそれとも中学校の修学旅行のときに女子風呂を覗きに来たあなたをとっつかまえて全裸で一般客も来るホテルのロビーに放り出したこと!? あれはあなたが悪いんじゃない!」
「言うなぁああああ!」
「いや、それともそのことを卒業式の答辞で全校生徒はおろか全校保護者の面前で話したこと!? 事実じゃないの!」
「うわあぁあああ!」
「そ、それは別の意味で思い出の卒業式でしたね……」
「きっとその中学校の伝説になってますよ……」
「それとも高校受験のときあなたがはしにも棒にもかからない地元の三流校にギリギリで受かったのに私が全国トップクラスの進学校にトップ合格したこと!? あれはただの私の実力じゃない!」
「うっせーテメーコンチクショウ!」
「うわ、ありそう」
「なんか簡単に想像できる図式ですね……」
「それともあなたが受験料さえ払えば合格通知が来るような三流私大を大学六年まで留年してようやく卒業したのに私がシナプス東大を現役合格、主席卒業したこと!?」
「うるちゃい! うるちゃーい!」
「シナプス東大って……なんでもシナプスつけりゃあいいてもんじゃないと思う……」
「それより私大を大学六年って……私はむしろマスターの親御さんの寛大さにびっくりですよ」
「それとも『俺は血に飢えた狼、漆黒の闇に生きる闇の魔狼(ダークネスウルフ)……』から始まるあなたの中学の時の文集をあなたの顔写真つきでブログに載せたこと!? ありがと、おかげでアクセスカウンターがうなぎのぼりよ♪」
「らめぇええええ! 載せちゃらめぇぇえええぇ! 後ろで部下がノートパソコン開いて見てるから! 見てるからぁああああ!」
「うっわぁ……これは痛いですねえ……」
「私だったら首吊りものですよこれ……」
「それとも……」
「もう何も言うなぁあああ! おぼえてやがれこんちきしょう!」
「あ、待ってください闇の魔狼(ダークネスウルフ)さま! ……ぷっ!」
「闇の魔狼(ダークネスウルフ)さま! ……ぷっ!」
「その名で呼ぶなぁあああああ!」
シナプスのマスターがマジ泣きして逃げ出した後をハーピーたちも追ってこの場を去った。
「ふぅ……争いってむなしいわね……」
シナプスのマスターが逃げ去った後の青空を見上げながらダイダロスはつぶやいた。シナプスの青空は依然として青く、美しかった。
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シナプスのマスターとダイダロスさんとの因縁が気になって書いてみたギャグSSです。
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