「主。しばらく決着がつきそうにありませぬし、一献いかがかな」
「余裕だね、星・・・なんで、メンマまでちゃんと用意できてるんだよ」
うん、同一人物が戦ってる以上、そう簡単にケリがつくわけもなく。
華琳も一年間、現代知識の取得に全力を費やしていたから、武の実力が跳ね上がる事も無いんだよ。
ただ、弱くもなってないってことは、最低限、鍛錬はやっていたということだ。
「ふふ、乙女の秘密を探るのは野暮と言うものですぞ」
「・・・いや、それって秘密なのか? お、相変わらず、いい酒持ってるんだな~」
「お兄さん、膝をお借りしますよ~」
「寝る気まんまんだね、風・・・」
「お気に入りの膝枕が再び帰ってきたのです、使わない手はありませんね~」
心地よさそうな風の表情を見てると、反論する気も失せます。
「と、ところで一刀殿」
「どうしたのさ、稟」
「か・・・じゃ、ありませんね、蘭樹殿の、その胸周り、明らかに大きくなってません、か?」
「きょどりまくりだね、稟。うん、一回り大きくなったって言ってたな」
「それはそうだろう。主に毎日、揉み解されていれば、大きくもなろうというものだ」
「ま、毎日・・・一刀殿と・・・ぷはぁあああああああ」
「さっきあれだけ出血したのに、まだ出るの!?」
「稟ちゃんの妄想力は三国一ですから~」
「あ、でも、すぐに止まったな、さすがに」
「いいのか、痙攣しているようだが」
「大丈夫だよ、妙才さん。自然に復活するから」
「ふがふが・・・」
「ほらね」
お互いの紹介を終えた秋蘭(もちろん真名は交わしてない)が、心配そうに声をかけてくる。
「なるほど。英雄たる者、自分の女についてはしっかり把握しているということか」
「しかり。主は武はからっきしですが、女性相手となれば、まさしく英雄ゆえ」
「『天の種馬』の異名は伊達ではないのですよ~」
「おーい。なんか勝手に範囲が大きくなってるぞ? 天の種馬ってなんだよ」
「主のことだろう」
「お兄さんの事ですね」
「一刀殿のことでしょう・・・」
復活した稟まで裏切った!? なにこの一糸乱れぬ連携攻撃!
「ふむ、北郷は愛されているのだな」
「弄るのを楽しんでいるだけの気すらしてくるよ・・・」
「それも愛情の一つだよ・・・と、姉者?」
「秋蘭! なにをそ奴らと話し込んでいるのだ! 華琳さまは未だ戦っておられるのだぞ!」
「だって、元譲さん、あれ、準備運動みたいなもんでしょ」
「なに・・・?」
「二人とも身体をほぐす為に、軽く打ち合ってる感じに見える」
「よく見えているな。姉者、華琳さまは汗一つかいていないだろう?」
春蘭は良くも悪くも華琳に対して盲目的なところが強いから、普段、見えるところもさらっと見落としていたりするもんだ。
んで、秋蘭はそんな様子を見て、あの名台詞を言うんだ。
「そ、そうだな! うん、わかっていたぞ! ただ、余所見はいかんと言いたかったのだ!」
「姉者はかわいいなぁ・・・」
さて、二人の鎌を振る速度が徐々に上がり始める。どこまで目で追えるかな、俺。
二人とも壮絶な笑みを浮かべて戦ってるのは正直どうかと思うんだけどね。
「北郷は、肝が据わっているのだな。華琳さまの覇気を真正面から受け止め、言葉を返せる者は中々いない」
「武はからっきしだけどね」
お互いに目線は、まるで舞うように戦っている二人から外さず。
「そうは言うものの、そこらへんの兵士では相手になるまい」
「だから、その程度さ。この大陸の武将たちには、敵いっこない」
「胆力は、一流の武将の上をいくさ」
「まさか、買いかぶりだよ」
「・・・北郷、戦いの結果がどうあれ、共に来てもらうことは出来ないか?
私や姉者は華琳さま・・・曹孟徳の覇業を支える事は出来ても、
共に同じ目線で歩み、道を誤りかけた時には厳として止められる存在にはなり得ない。
出会ったばかりのお前にこんな事を言うのもおかしいとは思うのだが、不思議と、お前ならば信じられると思うのだよ」
「一緒に行けるかどうかは、蘭樹にも聞いて決めることだ。ただね、一つ約束できる事がある」
「それは、なんだ?」
「曹孟徳が自身の覇道に縛られ、道筋を失いかける時、俺は全力で彼女を止める。
どんな手を使ってでも、止めてみせる。彼女が彼女らしく、覇道を歩んでいけるように」
「北郷、お前は・・・」
なんでそこまで、と思うんだろう。だけど、これは俺の身勝手だから。
すぐ傍で共に歩む華琳も、これから覇王として歩んでいく華琳も、愛する人に変わりないんだから。
「・・・なぁ、お前、私たちを知ってるんじゃないか? いつもの私なら、そんな不遜なことを云う輩は斬って捨てる。
だけど、お前の一言は、不思議と響いたんだ。本当に、華琳さまを思っての言葉だと、感じた」
多分、華琳に心酔するこの二人は。たぶん、記憶の混入が少ないんじゃないか、ってぼんやり思っていた。
正直、稟もそれに近かったと思うけど、風や星に誘発されたところがあると感じている。
ただ、それでも。春蘭の言葉は、きっとどこかで俺を覚えてくれていると思えて。
秋蘭が寄せてくれる親しみは、かつて感じたものに似ていて。
「今日のお兄さんは、良く泣いている気がするのです。だけど、仕方がありませんよね」
頬を伝う涙を、そっと風が拭ってくれる。
あぁ、俺なんかをこんなにも思ってくれていたのか。
「あ、あれ? わたし、なんか変な事言ったか!?」
「違うさ、姉者。私もうまくは説明できないが、北郷は嬉しくて、泣いているのさ」
「なんだ、男の癖に、嬉しいからって泣く奴があるか!」
呼べばきっと、思い出してくれるだろう。確信めいたものがある。
だけど、共に行けなかった場合、それは二人を苦しめるものにしか、ならない。
だから、今はまだ呼べなかった。そうだよね、春蘭、秋蘭。
「一刀・・・そう、泣いているの」
「・・・戦いの途中で、余所見をするとは舐められたものね」
「その程度でやられはしないわよ。第一、貴女だって、同じところを見ているじゃない」
「あの二人が、初対面の男にあそこまで気を許すなんて、正直、信じられないわね」
「私が全力で愛し、今までの矜持を捨ててまで、同じ道を歩むと決めた男よ。これくらいは当たり前だわ」
「その余裕が癪に障るわ。覚悟なさい。絶対にあの男を、私は手に入れる」
「では、覇王の道を捨てる覚悟をすることね」
「私は、望むもの全てを手に入れる。貴様ごときに、私の進む道を決められる謂れは無い!」
「実際に捨てるかどうかは別。ただ、それほどの覚悟が無いのなら、止めておくのね。
一生悔いて過ごすことに、なりかねないのだから・・・」
「わかったような口を・・・聞くなっ!」
覇王の『絶』が怒りと共に、一人の女性となった華琳の身体を両断しようと襲い掛かる。
本日最高の一撃であるその衝撃を、華琳はあえて受けきってみせた。
「・・・私はね、誓ったのよ。自らの身勝手で、想いで、せっかく手に入れた平和を手放した!
その業を共に背負うと言ってくれた一刀の想いに、私は自らの全てを賭けて応えてみせると!」
「なっ・・・!」
「覇王の道を歩こうとする者よ! 大陸に平穏をもたらさんと、絶対なる孤独に身を置こうとする者よ!
今から振るうは天の差配! 己の意志を貫き通そうとするのなら、見事、耐え切ってみせよ!」
未来の華琳から、これから困難な道を歩む華琳へ。その覚悟を問う、一撃が、振るわれた・・・!
あくまで拠点フェイズなので、本編の内容とは異なる点が出てくるかもしれません・・・。
ご注意の程を・・・。
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ようするに拠点ふぇいず。あれ? 俺、紙クリに向かっていたはずなのにおかしいな・・・。