No.225499

異聞~真・恋姫†無双:二

ですてにさん

現代編。再び外史に舞い降りる前のお話。
しばらく物語の背景が語られる場面が続きます。

書いてる俺も、ささっと進めたいんですけど、
省き過ぎるとわからなくなるしねー。

2011-06-30 10:49:31 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11421   閲覧ユーザー数:8100

俺の部屋での大騒ぎに家族が駆けつけようとするのを、

爺ちゃんはあっさりと制して、俺達の目の前で婆ちゃんの淹れた茶を啜っていた。

婆ちゃんの淹れる茶というのは中々のもので、口をつけた華琳も思わず唸っている。

 

「ふむ。お前さんは女性だらけの三国志の時代に舞い降り、『天の御使い』として魏での統一を手助けしたが、

覇王の願いは叶ってしまったのに加え、本来の歴史の流れを捻じ曲げた代償に、

こっちの世界に強制的に戻されてしまった。

さらに、お互いに再会する方法を模索する中で、胡蝶の夢とも言えるものを同時に見て・・・

この状態に至ったと。そして、そちらのお嬢さんが、曹孟徳殿か」

「・・・すごく綺麗にまとめてるけど、疑問に思わないの? この孫とち狂ったのか、とかさ」

「お前が嘘を言う必要があるのか」

「そりゃ無いけど! だけど、こんな突拍子も無い話、信じられないと思うし」

「・・・ワシを侮るでない。

曲りなりにこの半年、稽古を通して、お前の姿を見てきた。信じるさ」

「爺ちゃん・・・」

 

爺ちゃんは穏やかに微笑み、そして、華琳に向かって、姿勢を正し、静かに礼を取った。

 

「・・・申し遅れた。ワシは北郷忠能(ただよし)と申す。一刀の祖父にあたる」

 

華琳のいる世界の礼式とは違う。

だけど、聡い華琳は爺ちゃんの姿勢から、何かを察したようだった。

 

「顔をお上げ下さい、忠能様。私は、曹孟徳。お初にお目にかかります」

 

それは敬意を込めた話し方。教養のある華琳なら、こんな話し方を出来て当然だけど、

見知っている彼女の姿との落差があり過ぎて、俺は文字通り目が点になっていた。

 

「・・・一刀。私だって、時と場所は弁えるし、まして、貴方のお爺様でしょ?

礼を尽くすのは当たり前のことだわ」

「うん、わかる、わかるんだ。

ただ、なんだろう、俺は覇王の華琳の姿を見慣れすぎてるから、

正直、驚いてしまったというかさ・・・」

「今私がいる場所は、一刀の世界でしょ。覇王の衣を纏っていても、何の役にも立たないわよ」

 

うわー、順応性高っ! なんつーか、さすが華琳というか・・・。

 

「では、わしも多少崩させてもらうが、構わんかね」

「ええ、私もそうさせてもらうわ。

どうもこの話し方に慣れすぎて、先程の話し方だと、正直疲れてしまうから」

「では、話を戻そう。さて、貂蝉。待たせた。

お前がこの場に現れた意味も含め、共に説明してくれぃ」

「任せておいてん♪ それにしても、年を重ねてますますダンディになったのね、ご主人様は♪」

 

だから、しなを作るのは勘弁して・・・って、え?

 

「爺ちゃんがご主人様ってなんだ、それ?」

「あらん、もちろん、ご主人様もご主人様よん♪」

 

ばちん!と俺に向かってウィンクする貂蝉。

その圧力に意識が飛びそうになるのを、俺は何とか堪えてみせた。

 

「どういうこと? 一刀も、忠能殿も、貴方のご主人様とでも言うわけ?」

「孟徳殿、ワシは『先代』のご主人様みたいなもんだ。

とりあえず、貂蝉。ややこしいから、分けて呼べ」

 

華琳が当然の疑問を挟むが、爺ちゃんの答えに、俺たちは思わず顔を見合わせ、首をかしげる。

なんか、ややこしい事態だってのは、わかるけど。

 

「・・・じゃ、仮に『忠能』様って呼ぶわねん♪

あぁ、なんて特別なひ・び・・・あぁ、拳はいやん♪」

「話が進まんわい。貂蝉、お前は一刀とあの世界で出会っておるのじゃろう?」

「へ? でも、こんな強烈な印象の奴を忘れるわけが・・・」

 

そう、こんな強烈な変態、忘れようにも忘れるもんか。

 

「無理もないわん♪ ご主人様も曹操ちゃんも、記憶が上書きされてしまってるからねぇ」

「・・・待たんかい。まさか、一刀もループしとるとか、言うのでは無かろうな」

「忠能様の家系の宿命かもしれないわねぇ♪

とりあえず、思い出してもらった方が早そうかしらん」

 

言うが早いか、俺と華琳は貂蝉のごつい手に頭を鷲づかみにされて、

おまけに瞳が妖しく光って・・・!!!

怖い、怖いよっ!・・・華琳、意識飛びかけてる!?

 

「ふぅううううううううんんん!!!」

 

 

走馬灯ってこういうのを言うんだろうか、なんて思う。

学園から古い鏡を盗もうとした泥棒を見つけて、

あの世界に飛ばされて、関羽さんに助けられて、君主として立ちあが・・・え?

 

「明らかにおかしいだろ。劉備さんいないじゃん! なんで俺が君主だよ!」

「確かにそうよ。私の陣営も、流琉に稟、風の軍師たちや、凪たちの三羽烏もいないじゃない」

 

華琳の声がどこからか聞こえる。どうにも同じ景色を上空から眺めている、そんな感覚。

 

「そうよん。これはご主人様があの地を訪れた、初めての世界。

関羽・・・愛紗ちゃんの願いで造られた世界ねん♪」

「思い出してきたわ・・・あの白装束に好き勝手にされて、おまけに一刀に倒されたのよね・・・」

「ま、まぐれ! まぐれだよ、うん!」

「まぁ、この時の天下統一への動機も不純だったしね・・・『天下の女の子を独り占めにする』ためって」

「え・・・そうだったの?」

「ある意味、負けてもしょうがない動機よ・・・。私自身とはいえ、本能に忠実すぎね」

「さて、早送りで見てもらってる感じだけど、見ての通り、この世界の最後は、

左慈ちゃんや于吉ちゃんのように、ご主人様の世界への介入を良しとせぬ道士たちとの決戦。

その上で、あの鏡が全てを吸い込み、世界は一度目の終端を迎えるわ。

わたしがご主人様と出会ったのも、この始まりのせ・か・い♪」

「確かに貂蝉とも出会ったと・・・あぁぁぁぁ、思い出したくなかった気が」

「人々の願望や祈りで作られる世界、それが私達の世界、『外史』ということか。

まぁ、世界の成り立ちがどうであれ、私は私の道を突き進むことに変わりないけれど・・・

ただ、それでも、腹は立つわね。まるで、私が仮初めの存在と呼ばれているようで、不快だわ」

「・・・それについては、曹操ちゃんは既に仮初めの存在でも無くなっているんだけど。

まぁ、これも後で落ち着いて説明するわね」

 

納得できるか、って部分が多い。

ただ、見せられた記憶は、確かに俺達のもので。

なんでこんな大事な記憶を忘れていたんだって思う。だって、この記憶があれば・・・!

 

「もっとより良く統一への道筋が作れた、でしょ?

でもね、ご主人様。そうしたら、曹操ちゃんとの別離の時も相当に早まったと思うわよん」

「辿るべき歴史の道筋を変えに変えることになるわけだから・・・ここまで一刀を知る前に、

別れることになったかもしれないわね」

「良し悪し、ってわけ。さて、次に行くわん」

 

次は、呉の外史。

孫権・・・蓮華の祈りで作られた世界。

王として歩む俺の姿を投影して、共に国を築き上げたいと願った、家族想いの彼女の祈り。

 

「魏の種馬は、三国の種馬、だったというわけね。

私はこの歴史で早期退場するから知り得ぬことだったけれど、まさか、主な呉の将たち全てに、

子供が出来るなんて・・・。怒りを通りこして、流石に、呆れるわね」

「そう、孫権ちゃんの想いは、外史を作り上げる程のものだった。

ただ、まさか、子供が産まれるとは、彼女も予想していなかったみたいねぇ」

「・・・この記憶持ってたら、呉とは闘えなかったよ。知っているのも、逆に動けなくなることにあるんだな」

「私は部下の統制も出来ない、情けない王のようだし・・・まさか、私のせいで雪蓮を失う事になるなんてね」

「ぐふっ! 華琳さん、言葉の棘が! 棘が痛いです・・・!」

 

そして、華琳と大陸統一の歴史を歩んだ、魏の外史。

 

「内容は言うまでも無いわね。この世界の突端は、呉の世界で敗れた、曹操ちゃんの願望。

天下統一への力を欲して、具現した世界」

「・・・・・・」

「この世界で、ご主人様も曹操ちゃんも、本当に統一への希望を本気で願い続けて。

自分たちの気持ちを二の次でやってきたでしょ?

だから、一度は別れる定めになってしまったわけだけど・・・」

 

『こうして、もう一度出会えた』

 

「そう、ほんとは二度と出会うはずの無い二人が、お互いを祈り、再会を強く強く願い、絆を引き寄せた」

「ただ、それだけ、じゃ終わらないのよね?」

「えぇ・・・曹操ちゃんの生は、そのまま年を重ねて、終わり、静かに終端を迎えるはずだったのよ。

それを結果的に捻じ曲げてしまったわけだから。

・・・さぁ、目を開いて頂戴。ここからは忠能様にも話に入ってもらった方が判りやすいと思うわ」

 

 

目を開くと、静かに瞑目した爺ちゃんの姿があった。

能面のような表情をしていて、何を思うのか、感情が見えない。

 

「北郷家の業、かの」

「爺ちゃん?」

「何周しておる、お前たちは」

 

有無を言わさぬ、そんな圧力。華琳すら息を飲む、歴戦の将が纏うような覇気を、爺ちゃんは発していた。

こんな覇気を、現代の者が纏えるものなのか? 俺が知る今までの爺ちゃんからは、判断もつかない。

 

「・・・三周よ」

 

華琳が、俺の代わりに答えを返す。爺ちゃんの気に充てられたのか、自然に覇気を表に出しながら。

相手の威圧にしっかりと相対するために。

 

「わしは、四周したよ。お前達とは時代がずれるがの」

 

息を静かに吐き、ゆっくりと目を開けた爺ちゃんは、厳しさと優しさを併せ持つ、良く知る爺ちゃんに戻っていた。

が、それよりも、爺ちゃんの発言に、俺と華琳は完全に毒気を抜かれていた。

 

『よん、しゅう・・・・?』

 

「さよう、四周じゃよ。わしが訪れたのは、始皇帝や項羽、劉邦の時代じゃな」


 
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