No.225401

真・恋姫†無双~二人の王佐~番外編:お兄様(一刀)に愛を込めて♡ その一~後編~

syoukiさん

前回の話

桂花が手に入れた女の子の専門誌『阿蘇阿蘇特別号』、その中で料理の重要性を知った桂花は母と寮母さんの協力の末とても美味しい料理を作れるまでに成長した。しかしその事に危機感を覚えた華琳と麗羽は……


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2011-06-29 17:33:38 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:8304   閲覧ユーザー数:6111

話は桂花と一刀が食堂で二人で仲良く食事をする少し前、華琳と麗羽が桂花の料理を試食している時まで遡る

~華琳 麗羽SIDE~

「(それでこれからどうするつもりですの?)」

「(どうって何がよ麗羽)」

「(何がってこのあとのことですわよ。わたくし、桂花さんがそこそこの料理を作ると思っていたのでわたくしが今まで食べてきた経験を生かして助言を言ってさしあげようと思っていたのですが…ああも美味しく作られては何も言えませんわ!)」

「(まぁ、私も似たようなものよ。でもこのまま素直に美味しいって言うのも何だか負けた気になるのよね)」

「(珍しく意見が合いましたわね。それじゃあ華琳さんは何か良い案があるんですの?)」

「(一応あることはあるわ。でもそのためには並々ならぬ努力をしないといけないのだけど麗羽、貴女も一緒にやる?)」

「(ど、努力って!一体何をするつもりですの?)」

「(もちろん決まっているじゃない。それは……私達も料理を作れるようになることよ!)」

「(なっ、なんですって!?華琳さん貴女正気ですの?)」

「(もちろん正気よ。それにあの娘にできてこの私にできないはずがないじゃない。絶対にあの娘より美味しい料理を作るわ)」

そう言って華琳は拳を握り締めた。

「(そ、そうですの…)」

「(で、麗羽、貴女はどうするのかしら?私は別に貴女がいてもいなくてもどちらでも構わないわよ?私はあの娘に負けたままなのが嫌だから料理をしようと思っただけだから強制はしないわ)」

「(それならわたくしだってそうですわ。いつも桂花さんばかりが一刀さんに褒められてこのわたくしが褒められないのは不公平ですしズルイですもの!ですからわたくしも料理を作って褒めてもらいますわ!)」

「(えっ!?そ、そう、ならお互い頑張りましょう……)」

「(えっ!?か、華琳さんは手伝ってくれないんですの?)」

「(何を言っているのよ麗羽、二人で一つの料理を作っても意味が無いでしょう?別々に修練するに決まってるじゃない)」

「(ですが!!)」

「(袁家の姫ともあろうあなたがまさか初めからできないからと投げ出すはずはないわよねぇ?)」

「(も、もちろんですわ!!袁家の次期当主してそんな真似するはずがないですわ!おほほほほほほほ~!)」

「(それでどうするのかしら?)」

「(………………………………わかりましたわよ!不本意ですが、本っっっ当に不本意ですがその案乗りましたわ!)」

「(それならまずはこの部屋を出るわよ!やることは沢山あるんだからこんなところで時間を潰してる暇は無いわ)」

「(そうですわね)」

実は短時間でこんな会話をしていた。そして時間を戻し食堂を出た華琳と麗羽の二人は廊下を歩きながらこれからどうすれば良いか考えていた。

「さてと、まずは何からやろうかしら」

「ところで華琳さん、料理って具体的にどうすればよろしいのです?」

「さっき言ったでしょう、別々に修練するって。だからそれぐらい自分で考えなさい!」

「そうは言いますがわたくし料理なんてしたことありませんから何をすれば良いのかわかりませんわ!」

「威張って言うことじゃないわね。それに私だっていつもお母様や料理人の人に作ってもらっていたし、こっちに来てからは寮母さんやお店で食事していたから何もわからないわよ?」

「華琳さんったら使えませんわね」

「はあ~~~~、しょうがないわね。麗羽、貴女の所はお抱えの料理人くらいいるでしょ?」

「もちろんいますが、それが何か?」

「なら貴女はその人達に料理を教えてもらいなさい。袁家お抱えの料理人なら腕は確かだろうから多分上達するはずよ」

「(!?)その手がありましたわね!このわたくしの才能をもってすれば料理なんてちょちょいのちょいですわよね!でしたらこうしてはいられませんわ!すぐにでも取り掛からなくてわ!!おーっほっほっほ!それでは華琳さんここで失礼しますわ!」

「麗羽、一つだけいいかしら?」

「なんですの華琳さん?」

「麗羽、貴女一刀のことどう想っているの?」

華琳は先ほどの麗羽の問題発言について聞いてみた。麗羽は一応この私塾で初めてできた友と呼べるようなものなので真意を聞きたくなったのだった。

「一刀さんですか?そ~ですわね……初め華琳さんから話を聞いたときはただの興味本位でしたわね。ですがここ数日話をしてみてわかったのですが男なんてみんな野蛮で不細工で無能な人ばかりだと思っていましたのに一刀さんは他の男達と違ってとても文武共に優秀な方で笑顔が素敵な方ですわね。なのでわたくし、一刀さんが欲しくなりましたわ!」

「欲しくなったって貴女……」

「それに一刀さんでしたらわたくしの隣に立つに相応しい殿方ですしね」

「(!?)」

「さて、もうよろしいかしら?早くウチの料理人達を集めて料理を習わないといけないので」

「え、えぇ。もう行ってもいいわよ」

「そうですか、それでは失礼しますわ……そうそう、一つ言っておきますが初日のアレは興味本位でやったことなので甘んじて受けましたがこれから先は、わたくしも本気でいきますのでそのつもりで…」

そう言って麗羽は行ってしまった。あとに残った華琳はさっきの麗羽の発言について考えていた。

「(まさかあの麗羽があそこまで一刀を買っているとは思わなかったわね。それも『それに一刀さんでしたらわたくしの隣に立つに相応しい殿方ですしね』なんて…桂花だけじゃなく麗羽までも相手にしなければならないなんて、これからは一刀を手に入れるのは今まで以上に骨がおれそうね)」

「でも、とりあえずそのことは置いておくとして今考えることは料理のことよね。でも私、麗羽みたいに専属の料理人なんて雇っていないし桂花みたいに母親から本を託さ…れ……て…………そうよ!すっかり忘れていたわ!?」

華琳は思い出した。華琳も桂花と同じように母から渡されたものがあることを。

急いで自分の部屋に戻った華琳は部屋の中を探し始めた。

「今思い出したけどそういえばお母様ったらあの時私の荷物に何か入れていたはずよ!え~っと、確かまだ開けていない箱は………これね!!」

まだ着ない服や使わない荷物を入れてある場所の奥の奥に見慣れない箱を見つけた華琳はすぐさま取り出し机の上に置いた。

「私の勘だとおそらくこの箱の中には…………やっぱり」

箱を開けると中から二通の手紙と本が何冊も出てきたのであった。

「え~っと、なになに…」

『愛する娘華琳ちゃんへ、この手紙を読んでいるということは自分一人の力ではどうしようもない事態になっているんでしょう?…』

「よ、予言でもできるのかしら?」

『…そこでそんな華琳ちゃんへお母さんから贈り物をあげちゃいます♪。それはなんとこの手紙と一緒に入っている本達です!実はこの本には色々と為になることが書かれているの♪きっと華琳ちゃんの助けになると思うわ!特に華琳ちゃんに必要な本はきっと料理の本だと思うので沢山入れておきましたので活用してね!それじゃあ次に会う時に貴女が一回りも二回りも成長しているのを楽しみにしているわね♪   あっ!?そうそう、料理をするなら洛陽にある【七星飯店】っていう所に行くと良いわよ!それでそこの女将に私の名前を出してこの箱に入ってるもう一通の手紙を渡せば協力してくれるはずよ♪それじゃあばいば~い♪   母琳奈より』

「私のお母様って何者かしら?」

華琳がそう思うのも無理なかった。母である琳奈と別れたのはもう一ヶ月以上も前のことで琳奈はその時からこうなることを予測し、琳奈は予め荷物の中これらを忍ばせていたことになる。

「と、とりあえずこの中から料理に関係ありそうな本だけ持ってお母様が教えてくれた【七星飯店】ってお店に行ってみましょう」

こうして母琳奈に導かれ訪れたのは町の大通りから一本外れた所にあるお店だった。

「あまり繁盛しているとは思えないお店ね?」

華琳がそう呟くのはもっともで、概観は何の飾りっけもない質素な造りで外に大きな看板が一つあるだけだった。

「お母様を疑うつもりではないけれど勘違いということもありえるからまずは味を見てから判断するほうがいいわね」

そう言って華琳はお店の中に入っていった。

「(!?)い、いらっしゃいませ!」

「一人だけど空いているかしら?」

「は、はい、こちらにどうぞ」

店員は何かに気付いた様子だったが、すぐに平静を取り戻し華琳を席に案内した。

「ご注文は何にしましょう?」

「そうね……何かお勧めはあるかしら?」

「当店のお勧めは焼売と回鍋肉になります」

「そう、それではその二品をもらおうかしら」

「かしこまりました。それではすぐにお持ちいたします」

店員は一礼をして厨房に入っていくと中から調理をする音が聞こえはじめた。

「(もしかして一人で営業しているのかしら?)」

そうしてしばらく待っていると先ほどの店員が料理を運んできた。

「お待たせしました。焼売と回鍋肉になります」

「ありがとう。それでは頂こうかしら」

そして運ばれてきた料理を食べてみると…

「美味しいわ!!」

あまりの美味しさに華琳は素直に言葉を発した。

「ありがとうございます」

「(ここなら良い料理の修練になるわね)……すまないけどこのお店の責任者は誰かしら?」

「あっ、はい、私ですが何か?」

そう声をあげたのは先ほどから華琳の給仕をしていた店員だった。

「試すような真似をして申し訳ありません。実は私、母である曹嵩に紹介されてきた娘の曹操と言います」

「やはり貴女様は曹嵩様のご息女でありましたか」

「えっ!?母をご存知で?」

「はい曹操様。私の名は梢怜(しょうれい)と申し、元曹嵩様の部下だった者でございます」

店員もとい梢怜は臣下の礼をとり華琳の質問に答えた。

「そう、貴女はお母様の元部下だったの。ところで貴女先ほど私が名乗った時やはりと言っていたけどもしかして私の正体に気付いていたのかしら?」

「いえ、はっきりとした確証はなかったのですが曹操様の御姿と纏っている雰囲気が曹嵩様そっくりでしたので、もしかしたら程度しかわかりませんでしたが…」

「私は将来お母様みたいな女性になりたいと思っているからお母様の近くにいた貴女にそう言ってもらえると嬉しいわね」

「ところで今日はどのようなご用件で?」

「そういえばそうだったわね。ところで一つ聞きたいのだけどこの料理を作ったのも貴女かしら?」

「はい…そうですが何か問題がありましたでしょうか?」

「そう、貴女が作ったの。それなら一つ私のお願いを聞いてもらえるかしら?」

「私にできることならなんなりと」

「なら私に料理を教えてはもらえないかしら?」

「えっ!?りょ、料理をですか?」

「ええ、実は今日来たのは貴女の下で料理を学ぶ為なのよ」

「ちょ、ちょっと待ってください!!なぜいきなりそのようなお話に?しかもなぜ私なのですか?」

「私も詳しくはわからないわ。…………そういえばお母様から貴女宛の手紙があったわね」

「曹嵩様からですか!」

「ええ、これよ」

そう言って鞄から手紙を取り出し梢怜に渡した。

「ふむふむ………………………わかりました曹操様!この梢怜、誠心誠意曹操様に料理を教えさせていただきます!」

「そう、ならよろしくお願いするわ梢怜!」

「はっ!」

「ところでこのお店には他に従業員はいないのかしら?」

「はい、このお店は私一人で運営しております」

「一人で全てをやるのは大変ではなくて?」

「いえ、そうでもないですよ。この程度のこと曹嵩様直々の訓練に比べれば大したことないですから!」

「そうなの!!」

「はい、それにお客も私が一人で営業しているのを知っている人ばかりなのであまり無茶なことを言ってはこないですし、ガラの悪いお客が来た時は私が曹嵩様直伝の武術でいつも追い払っていますから問題ないですから」

「そう、やっぱり昔もお母様の訓練はとても厳しかったのね……」

「はい、それはもう……」

「「……」」

二人は内容に違いはあるにしろ母であり上官である曹嵩との厳しい訓練、または修練を思いだしてしまっていた。

「(ぶるっ)そ、それよりも私、寮住まいだからあまり遅くなる訳にもいかないのよ。だから早く始めましょう」

「そ、そうですね。それではまず厨房に行きましょう」

「それで曹操様、私は何から教えればよろしいでしょうか?」

「そうね……とりあえず私まだ一度も料理をしたことがないから初歩の初歩から教えてもらえるかしら」

「わかりました。それではまずは包丁の握り方と切るときの姿勢かから教えますね。まずは……」

トン、トン、トン

「そうですね。大分綺麗に切れるようになってきましたね」

「ありがとう。ところで一つ聞きたいのだけど、貴女のその料理の腕は誰から習ったものなのかしら?」

「そういえば話していませんでしたね。実は私の料理の技術は全て曹嵩様から教えていただいたものなんです」

「お母様から!?」

「はい。まだ私が曹嵩様の下にいた時にお願いして教えて頂いたんです」

「そうだったの。それならもしかしてこの本にも見覚えがあるかしら?」

華琳が持ってきた本を梢怜に見せた。しかし梢怜は表紙を見ただけで中を見ようとはせずそのまま華琳に返した。

「中は見ないの?」

「いえ、私はこのような本は知りません。ですがこれは私ごときが見ては良い代物ではないというのはわかります。これは曹嵩様が曹操様の為だけに書き記した本だと思いますよ」

「お母様が私のために?」

「はい、おそらくは」

「そう、お母様が……」

「ですのでその本の中の料理だけは曹操様お一人で御作りなってください」

「わかったわ。ならそれ以外の料理はお願いするわね」

「御意。ところで一つよろしいでしょうか?」

「なにかしら?」

「曹操様はなぜ突然料理をする気に?」

「ど、どうしたのよいきなり!?」

「いえ、少し気になったもので…」

「そ、そう……簡単な話よ。負けるわけにはいかない娘がいるのよ。その娘が料理を作れるようになった、だから私も料理を覚えようと思ったのよ」

「なるほど、恋敵というわけですね!」

「こ、恋敵って!そんなんじゃないわ!ただ私は臣下として一刀が欲しいだけよ。そしてその一刀を手に入れるにはあの娘に勝たなければならないだけで別に一刀のことなんて……」

「ふふっ、そうですか。ではそういうことにしておきましょう」

「梢怜!あなた何か勘違いを!!」

「ささ、それより早く続きをやってしまいましょう」

「わ、わかったわよ」

こうして華琳も母の弟子とも取れる人から料理を学べることになったのだった。一方その頃麗羽はというと……

「おーっほっほっほ!料理なんて天才であるわたくしに掛かればちょちょいのちょいですわ!!」

「さ、さすがです!袁紹様!」

「袁紹様万歳!!」

「おーっほっほっほ!そうでしょうそうでしょう!わたくし機嫌が良いので貴女たちにこのわたくしの料理の味見をさせてあげましょう光栄に思いなさい♪」

「あ、ありがとうございます」

「そ、それではいただきます…………(ガクッ)」

「「!?」」

「あらあら、あまりにも美味しすぎて気絶してしまいましたのね!ほらあなた達も早くわたくしの料理を味わってわたくしの素晴らしさを噛み締めるのです!!」

「は、はい…………(ガクッ)」

「では…………(ガクッ)」

「全員わたくしの料理が美味しすぎて気絶してしまうなんて!わたくしはなんて罪作りな女なのでしょう!あ~何でも出来てしまうこの才能が憎い!それよりもこの調子でいけば一刀さんがわたくしの料理を食べた時にあまりの美味しさにわたくしに惚れてしまうかもしれませんわ!おーっほっほっほ!華琳さんにも桂花さんにも勝ってしまうわ・た・く・し!おーっほっほっほ、おーっほっほっほ!!」

………一応料理をしていた。

麗羽がお抱えの料理人から、華琳が蒋怜から料理を習い始めおよそ半月が経った。華琳達が自分と同じ事をしているとは露と知らない桂花は二人がいないのを良いことに大好きな兄を独り占めしていた。そして今日は茶店でお茶を楽しんでいた。

「……でお兄様、次はどんなお料理が食べてみたいですか?」

「う~ん、なら次はラーメンが食べてみたいかな」

「ラーメンですね!わかりました!少し時間が掛かるかもしれませんが必ずお兄様に美味しいって言ってもらえるラーメンを作りますね!!」

「楽しみにしているよ(なでなで)」

「えへへ~~、はい!」

「そういえばさ、最近華琳達と遊んでないけど、どうしたんだろうな?」

「そ、そうですね…」

兄に撫でられて良い気持ちだった桂花だったが華琳達の話題になってしまったので少し残念な気持ちになりながら答えた。

「華琳も麗羽も授業が終わるとすぐ帰っちゃうし……まぁ朝とか休み時間とかは話したりするから避けられている訳ではないみたいなんだけど…」

「お、お兄様?もしかしてか、華琳と麗羽のことが気になるので?(も、もしかしてお兄様は二人のどちらかに好意をお持ちに!嫌です!!お兄様とずっと一緒にいるのはこれからも桂花なんです!!あいつらなんかにお兄様を渡したくないです!!)」

「うん、せっかく仲良くなったんだからさ、もっと一緒に遊んだり街にくり出したりしたいなと思って。だってみんなで遊んだ方が楽しいだろ?」

「えっ!?ではお兄様は二人と一緒に遊べないので気落ちしているのですか?(ほっ、よかった!お兄様に気になる人ができたわけじゃなくて)」

「うん?それ以外に何かあるかい?」

「そ、そうですよね!一緒に遊べないのはつまらないですよね!(………ごめんなさいお兄様。桂花嘘をつきました。本当はこのままお兄様と二人だけでも構わないです。いえ、むしろお兄様と二人きりの方がいいです♡)」

「うん…それにしても麗羽は多分稽古事だろうけど華琳は突然どうしたんだろう?」

一刀が華琳のことを考えていたちょうどその頃、華琳は梢怜に出来た料理を試食してもらっていた。

「むぐむぐ………」

「ど、どうかしら?」

「………………………………」

「………………………………(ゴクッ)」

「…………………………合格です。文句のつけようがないです。」

「(ホッ)」

「たった半月でここまでとはさすがです曹操様。もう私が教えることは何もありません」

「いいえ、あなたが丁寧に教えてくれたから短時間で習得することができたのよ。だからお礼を言わせて。ありがとう」

「曹操様のお役に立てたのなら何よりです」

「そう、ところで相談なんだけど、もし貴女さえよかったらもう一度私達の下で働く気はないかしら?」

「私がですか?」

「ええ、貴女ほどの腕を持つ者をこのまま手放すのは惜しいわ。どうかしら?」

「…………………大変申し訳ありません曹操様。以前、曹嵩様にも申し上げたのですが私には両親と過ごした記憶がありません。どうやら物心がつく前に両親は亡くなったそうです。そういう訳ですので私は両親の顔も知らずに育ちました。曹操様も何度か会っているとおもいますが私には娘が一人おります。旦那は流行り病で亡くなりましたが、娘には成人するまでは寂しくないようなるべく側にいて愛情を注いであげたいのです。ですので申し訳ありませんがそのお話はお受けすることはできません」

「……………………………………………………そう、わかったわ。なら“今は”あきらめるわ!」

「そ、曹操様!?」

「貴女の娘が成人を迎え一人前になった時、その時に改めて貴女を迎えに来ることにするわ!それなら文句ないでしょう?」

と、華琳は意地の悪い笑みで答えた。

「ふ、ふふふっ。これは一本取られましたね。………わかりました。その時は曹操様の臣下になることをここに誓わせていただきます」

「そう、ならいいわ!…………………さてと、話も済んだことだし私はもう行くわ。これからは頻繁にはこないけれどたまには顔を出させてもらうわね」

「わかりました。それでは曹操様お元気で」

「ええ、貴女もね梢怜」

こうして華琳は見事料理を習得したのであった。

「さてと、私のほうは準備は整ったけど麗羽のほうはどうかしら?」

「おーっほっほっほ!これで完成ですわ!!」

「で、では味見を…………………………………………………………す、すばらしい、料理、で、ござい、ます袁紹様(ガクッ)」

「……………………………も、最早、我々の、教える、ことは、ありません(バタン)」

「おーっほっほっほ!そうでしょう、そうでしょう!!このわたくしの料理は一流の料理人すら美味しすぎて気絶してしまうほどだなんて自分の才能が恐ろしいですわ!!おーっほっほっほ!」

………………………………………………進歩の無いまま料理修行は終わってしまっていた

「(ブルッ) な、なぜかしら、麗羽のことを考えると悪寒が走るわね……………………ま、まあ、麗羽のことは放っておきましょう。なんだかその方がいい気がしてきたわ。そんなことよりこれからのことを考えないといけないわね。まずは……」

そう呟きながら華琳は寮へと戻っていった。

~翌日~

「一刀、少しいいかしら」

「げっ!?」

「んっ、いいよ」

放課後、帰り支度をしていた一刀に華琳が話しかけてきた。

「放課後に華琳のほうから話かけてくれるなんて随分と久しぶりだね」

「そうね、最近はいろいろと忙しかったのよ」

「でも話しかけてくれたってことは用事はもう終わったの?」

「いえ、まだ仕上げが残っているから終わってはいないわね」

「そうなんだ」

「一生用事をしていればよかったのに……」

「一生じゃなくて残念だったわね桂花」

「ふんっ」

「ところで僕に話ってなんだい華琳?」

「そうだったわね。コホン、一刀今日って何か用事はあるかしら?」

「用事?えっと、今日は桂花とラーメンの材料を買いに街へ行くけど……」

「そう、それは丁度よかったわ」

「華琳も来るか?」

「ええ、もちろん行かせてもらうわ。丁度私も街で食材を買おうと思っていたのよ」

「「えっ!?」」

「ア、アンタ食材なんか買ってどうするつもりよ!!」

「そんなの決まっているじゃない料理をするのよ。もちろん私がね♪」

「華琳って料理できたっけ?」

「つい最近覚えたのよ」

「(!?)まさかアンタも!!」

「さあ、なんのことかしら?」

「うぐぐぐぐぐ………」

「そんなことより早く行きましょう」

「ちょっと華琳さん!わたくしもいることを忘れてもらっては困りますわ!!」

「あら麗羽、貴女いたの?」

「きいいいいぃぃぃぃぃーーー『いたの?』なんて失礼ですわね!わたくしは始めからいましたわよ!!」

「そう、ごめんなさいね。てっきり貴女帰ったと思っていたのよ。でもすぐに帰らないところを見るとどうやら貴女のほうも終わったようね」

「もちろんですわ!袁家の次期当主であるこのわたくしにかかればちょちょいのちょいですわ。おーっほっほっほ!」

「そう、それはよかったわね」

「そっか、麗羽も用事が終わったのなら一緒に来る?」

「当然ご一緒させてもらいますわ!」

「…………」

「桂花?」

「な、なんですかお兄様!」

「いや、さっきから黙ってるかどうしたのかなと思って」

「い、いえ別に何でもないです!ただこれから買う食材のことを考えていただけですから!」

「そう?それならいいんだけど……」

「(ごめんなさいお兄様。本当はあの二人の真意を考えていたんです。………二人共急に忙しくなったと思ったらすぐに戻ってきたのよね…そういえば華琳と麗羽の様子がおかしくなったのは私がお兄様に料理を作った時だったから…………まさか!?)」

何かに気付いた桂花が華琳を見ると視線を感じたようでちょうど目が合った。すると…

「(ふふっ)」

「(!?)」

華琳は一瞬だけ笑った。まるで桂花の考えていることが正解だと言わんばかりに……

「(どうやら私の予想通りのようね!!華琳の奴、私が料理できるようになったからそれに対抗して料理を覚えるなんて完全に油断したわ!しかも私より短期間で習得するなんて!そういえばさっき華琳の奴麗羽に『貴女も』って言っていたわよね!!もしかして麗羽も料理を覚えたの!でもなんで麗羽まで料理を?ワガママで自分勝手だし食事は全部高級店でとか言ってたのに…………まさか麗羽までお兄様を狙っている?そうよ!前にあいつ、お兄様のこと誘惑していたじゃないの!!あの時、釘を刺しておいたからすっかり忘れてたわね!……とにかく、敵が増えたから前以上に警戒する必要があるわね)」

「桂花~!早く来いよ!!」

「あっ、今行きます!(絶対にお兄様は渡してたまるもんですか!!)」

「桂花、食材はこれくらいかい?」

「はい。必要なものは全部買えました」

「そっか、華琳と麗羽はどうだい?」

「私ももう大丈夫ね」

「わたくしももう結構ですわ」

「それにしても麗羽も料理をするなんて驚いたよ。もしかして袁家のお稽古ごとには料理も含まれているの?」

「えっ!?も、もちろんですわ!お、おーっほっほっほ!」

「そっか~すごいね!」

「「(嘘ばっかり)」」

「さてと、それじゃあ生の食材とかもあることだし、このまま真っ直ぐから帰ろうか!」

「はい!」

「そうね」

「そうですわね」

こうして帰ることになったのだが……

「ねえ一刀?次の休みの日は空いているかしら?」

「え~と…」

「残念だったわね!その日はお兄様は私とお出掛けして、寮に帰ったら私の手料理を食べていただく予定なのよ!

「あら、そうなの?」

「うん、昨日から約束してたんだ」

「そういうことだからお兄様はアンタの用事には付き合えないの!わかったら出直してらっしゃい♪」

桂花は意気揚々と言ったが華琳から発せられた言葉は桂花の聞きたかった言葉とは違うものだった。

「そう、それは都合がよかったわ」

「つ、都合って何よ!!」

「私も貴女と同じように料理を一刀に食べてもらおうと思っていたのよ」

「なっ!?」

「そうね、ちょうどいいから私も参加しようかしら。かまわないかしら一刀?」

「え~っと、僕はいいんだけど………桂花はどうだい?」

「本当は嫌です……けどお兄様がそうおっしゃるのなら華琳がいてもいいです」

「ありがとう桂花(なでなで)」

「い、いえ///(はにゃ~♡やっぱりお兄様のなでなではとても気持ちいいです~♪)」

「そういうことだから次の休みの日は華琳の料理も「ちょっとお待ちなさい!!」麗羽?」

「それでしたらわたくしも参加しますわ!」

「麗羽も?わかった。なら二人の料理も楽しみにしてるね!」

「一刀が今まで食べたことのない美味しいものを食べさせてあげるわ!期待してなさい♪」

「それでしたら、わたくしは豪華で素晴らしい料理を一刀さんに食べさせてあげますわ!おーっほっほっほ!」

「お、お兄様!私もお兄様のために美味しい料理作りますね!!」

「うん、もちろん桂花の料理も楽しみにしてるからね!」

「はい!」

しかし、一刀と彼女達とではこの食事会にかける思いは異なっていた。

「(ここまでは作戦通りね。あとは当日、一刀にあの提案をすれば……ふふふっ!)」

「(華琳のヤツ、あの様子だと絶対何か企んでいるわよね。………お兄様はどうやらそれに気付いていないようですし……とりあえず華琳の狙いが何であれ、華琳とあとついでに麗羽なんかに負けるもんですか!!)」

「(おーっほっほっほ!ついに特訓の成果を見せるときですわ!そしていつも生意気な華琳さんと桂花さんをぎゃふんと言わせてさしあげますわ!おーっほっほっほ!)」

「(みんなの料理か!すごく楽しみだなぁ~!!)」

こうしてそれぞれの思惑が交差する中、次の休日に桂花、華琳、麗羽の三人が一刀に料理を振舞う食事会が開かれることとなった。

~桂花SIDE~

「というわけでなんです霜佳さん」

「なるほどね~曹操ちゃんとあの袁紹ちゃんと料理勝負とはねぇ~」

「はい。それで今ラーメンの出汁を作っているんですけど難しくて……」

「どれどれ…コクン…………ん~確かにまだまだねぇ」

「やっぱりそうですか………」

「でも前のよりは良くなっているから頑張りなさい!」

「はい!」

「(それにしてもあの三人の娘達が料理勝負とはこれもとはこれはまたおもしろい事になっているわねぇ~♪)」

~華琳SIDE~

「というわけなのよ梢怜」

「なるほど、わかりました。それではまたこの厨房をお貸しすればよろしいのですね?」

「ええ、それと今回、厨房を借りている間は私も店を手伝わせてもらうわね」

「そんな!曹操様のお手を煩わせるなんて!!」

「気にしないで。前回はお母様のおかげで貴女から料理を教えてもらえたけど今回は私の勝手な都合で厨房を貸してもらうのだから、それくらいのことはさせてちょうだい」

「わかりました。それではよろしくおねがいします曹操様」

「私もよ梢怜。こちらこそよろしくたのむわね」

「(それにしても曹操様、荀彧様、そして袁紹殿、あのお三方の娘達が料理勝負をするとはこれも運命でしょうか?)」

~麗羽SIDE~

「そういうわけで一刀さんに華琳さんと桂花さんに負けないものを作くってさしあげたいのですけど何か良い料理は無いかしら?そうそう、どんな高級食材でも構いませんわよ!おーっほっほっほ!」

「そ、それでしたら乾鮑(カンパオ)を使った料理かフカヒレの姿煮などはいかがでしょう?」

「そうですわね~………でしたらわたくし仏跳牆(ホォティャオチャン?)が作りたいですわ!」

「えっ!?仏跳牆でございますか!!で、ですがあれは何日も前から乾物を戻して煮込んでいくとても難易度の高い料理ですので今の袁紹様には難しいかと……」

「なんですって?わたくしには無理とおっしゃいましたか?」

「い、いえ、めっそうもない!!」

「もういいですわ。貴方はもう来なくて結構です下がりなさい!!」

「え、ええええ袁紹様!!もももも申し訳ありません!!なにとぞもう一度…」

「下がれと言うのが聞こえなかったのかしら?」

「……御意」

「さて、他の者たちはわたくしに早く仏跳牆の作り方を教えるのですわ!!」

「「「ぎょ、御意!」」」

「待っていらして一刀さん!貴方にとびきりのお料理をお出ししますわ!おーっほっほっほ!おーっほっほっほ!!」

こうしてあっという間に決戦当日となった………

「それじゃあ僕は修練とかして時間を潰しているね」

「はい!いってらっしゃいませお兄様!!料理、楽しみにしててくださいね!」

「うん。期待してるから三人共がんばってね!」

「当然よ!」

「一刀さんをあっと言わせてさしあげますわ!」

「あはははっ、楽しみにしてるよ!」

そう言って一刀は厨房から出て行った。そして残った三人はこれからのことについて話し合うことにした。

「勝負の方法だけど単純にどれが一番美味しかったのか一刀に判断してもらうので構わないかしら?」

「それはいいけど、お兄様は優しいからおそらく『みんな美味しい』って言って決まらない気がするわよ?」

「確かに言われてみれば私もそんな気がするわね。ならどうやって決めてもらおうかしら?」

「「なら私達が公平に審議してあげるわ!!」」

「だ、誰ですの!!」

三人が声のする方をみるとそこには、

「霜佳さん!!」

「梢怜、貴女がどうしてここに!?」

「寮母さんと……もう一人の方はどなたですの?」

この寮の寮母であり桂花に料理を教えた霜佳と華琳に料理を教えた梢怜の二人だった。

「いや~、やっぱり心配になったから来ちゃったよ桂花ちゃん」

「い、いえ、それは別に構わないですが………」

「それで見にきたら何か困っているようだからついでに手伝ってあげようと思ってね♪」

「あ、ありがとうございます」

「曹操様、勝手に来てしまい申し訳ありません。ですが曹操様達のことが気になってしまい………」

「はあ~、別にいいわよ梢怜。貴女には色々世話になったのだから構わないわ。それより二人一緒に現れたということは二人は知り合いなのかしら?」

「ま、まあ腐れ縁というやつです」

「そうなの…」

「華琳さん!寮母さんはよろしいとしてそちらの方はどなたですの?」

「そういえば二人は初めてだったわね。彼女は『梢怜』元お母様の部下で今はこの街で料理屋をやっている私に料理を基礎を教えてくれた人よ」

「荀彧です。よろしくおねがいします」

「袁紹ですわ!」

「こちらこそよろしくお願いします。荀彧様、袁紹殿」

「様って!!」

「荀彧様のお母様、荀緄様は私の元上官ですから当然のことです」

「そうなの…」

「今は違うから別に普通に呼んでも構わないって言っているのだけどね」

「いえ!たとえ元とはいえ大変お世話になった曹嵩様と荀緄様のお子!そんなこと私にはできません!!」

「そ、そう……」

「あはははっ!全く、雫(しずく)ったら昔と同じで本当に融通が聞かないわね~」

「そう言う貴女はなぜ荀彧様のことを真名で呼んでいるのですか!!」

「そんなの真名を交換したからに決まっているじゃないの」

「貴女ねぇ!!荀彧様は貴女の元上官のお嬢様なんですよ!!それを軽々しく…」

「あっ!?馬鹿、それは!!」

「えっ!霜佳さんってかあさまの元部下だったんですか!!」

「あら、そうだったの?」

「霜佳、貴女言ってなかったのですか!!」

「ええ、随分昔のことだったから別に言わなくていいかなと思って……それに荀緄様も言っても言わなくてもどちらでも構わないと手紙には書かれていたので…」

「呆れた、昔とはいえ仕えていたのだから例えそう書かれていたって素性くらいは話すべきだったわね!」

「あははは……」

「笑って誤魔化さない!!そしてしっかり謝りなさい!!」

「はい……ごめんよ桂花ちゃん。今まで黙ってて、本当に悪気はなかったんだよ」

「いえ、少し驚いただけです。でもよくよく考えてみたらあの時、かあさまの頼みをすんなり聞いてもらえたのはそういう訳だったんですね」

「まぁ~荀緄様には私も色々とお世話になりましたから、これくらいのこと大したことないですよ。それと話し方は皆さんと同じ話し方でいいですよ」

「わかりまし……わかったわ。これでいいかしら?」

「はい」

「貴女も正体がバレたのだから言葉遣いも直しなさい!」

「はいはい、わかっているわよ!まったく、相変わらずなんだから」

「お互いにね」

「それにしてもここに元軍の大将の娘と軍師の兄妹、そしてその二人の元部下が揃うなんて面白いことも起こるものね」

「そうね」

「兄妹…ですか?」

「そういえばまだ会ってなかったわね。今は鍛錬をしに外に行っているけど桂花には双子の兄がいるのよ」

「荀彧様には兄上がおられたのですか!」

「荀鳳く、「(ギロ)」はいはい、様をつけますよ!様を!荀鳳様はこの私塾で唯一の殿方で、今のところ名のある御仁のご子息の中で一番優秀なお方なのよ雫」

「そうなのですか!!さすが荀緄様のご子息!さぞ素晴らしいお方なのでしょうね!」

「そうよ♪一刀は優秀だから私は必ず手に入れたいと思っているの!」

「あのね~何度でも言わせてもらうけどお兄様は絶対にアンタなんかの臣下になるわけないでしょう!!」

「あら?でも一刀は「ならない」なんて言ってなかったわよ?あの時は「心も体も強くなった時、改めて答えるからそれまで待っててほしい」って言っていたのよ?それって心も体も強くなったら臣下になるって言っているのと同じではないかしら?」

「違うわよ!何勝手に自分の都合が良いように解釈してるのよ!馬鹿じゃないの?」

「なんですって!!」

「何よ!やる気?」

「まあまあ、少し落ち着くのですわ二人共!」

「麗羽、関係ない貴女は黙っててもらえるかしら?」

「そうよ!これは私と華琳の問題なんだからアンタは引っ込んでなさいよ!!」

「お二人共、何言ってるんですの?一刀さんはこのわたくしの臣下となってゆくゆくは婿として袁家に迎え入れるのですわよ?」

「な、な、なんですってぇぇぇぇ!?」

「貴女あの時の話、本気だったの!!」

「当たり前ですわよ、一刀さんなら家柄も能力も申し分ないですからきっと皆さん祝福してくださいますわ!おーっほっほっほ!!」

「そんなわけないでしょう!!アンタなんかにお兄様が嫁ぐなんて万が一にもあるはずないじゃない!!」

「そうね、一刀は私のものだからその可能性はないわね!」

「それも違うわよ!!!!」

「あら?それでは一刀は一生独身でも構わないのかしら?」

「そ、それは………」

「どうなのかしら?」

「(くっ、華琳のヤツ私がお兄様のお嫁さんになれないからって言いたい放題言ってくれちゃって…)」

「(フフッ、兄妹、しかも双子での結婚なんて近親相姦という禁忌とされる行為にほかならない。そんな事幼い頃なら子供の可愛い戯言と受け取るでしょうけど私達はもう私塾に通うことのできる年齢、しかもここの私塾に通っているのは計算や字が読める以上の能力を有する将来有望な子供達、そこらの子供が言うのとは訳が違うわ。おいそれと口にできないわよねぇ?)何か言いたいことでもあるのかしら?」

「うぅぅぅぅ…(確かに私は血の繋がっているお兄様の妹、しかも双子の妹。この気持ちは禁忌の感情なのも知ってる。でも…、それでも…)…………ないわよ」

「ん?」

「それでもアンタ達なんかにお兄様は渡さないわよ!!!!!!」

「ふ~ん、私達とやろうっていうの?」

「当たり前よ!!!」

「おーっほっほっほ!!受けてたちますわ!」

「ふーーーーっ!!」

「フフフフフッ!!!!」

「おーっほっほっほ!!」

「はいはい!!みなさん、そのあたりにしておかないと荀鳳様がお腹を空かせてきても何も出せなくなりますよ?」

「そ、そうだったわね!」

「随分と話が脱線してしまっていたわね」

「そうでしたわね。確か勝敗をどうやってつけるかで困っていたのですわよね」

「心配ないですよ。その為に我々が来たのですから」

「どういうことよ?」

「荀鳳様が判断に迷った時は私達が公平に味を判断させていただきますから心配は無用ですよ」

「そんなの信用できませんわ!貴女がたは元は華琳さんと桂花さんのお母様の部下だそうではありませんか!そんな貴女達がわたくしと華琳さん達を差別しないなんて信じられませんわ」

「そんなこと言われてもねぇ」

「そうですねぇ」

「それは心配無用よ麗羽」

「華琳さん?」

「彼女達は私達が認めた立派な料理人よ。判断にも私情を挟まず公平に審議してくれるはずよ」

「ですが!」

「ならもし彼女達が不正を働いたなら私達がそれなりの罰を受けるわ」

「ちょっ!?アンタ何言って…」

「「そ、曹操様!?」」

「これは二人の元主の娘としての責任よ」

「全く、わかったわよ。しょうがないから私も責任取るわよ!それでいいんでしょ?」

「あら、わかってるじゃない」

「ふん!」

「曹操様!荀彧様!この梢怜、絶対に不正はしないとここに誓わせていただきます!!」

「安心していいわよ。ちゃんと公平に審査するからね♪」

「頼んだわよ」

「「御意」」

「そ、そこまで言うのでしたらみ、認めてさしあげますわ!」

「それじゃあ、そろそろ調理始めましょうか。制限時間は荀鳳様が帰ってくるであろう二刻後までよ!それじゃあ調理開始!!」

霜佳がそう言って手を「パーン」と叩いたのを合図に桂花、華琳、麗羽の三人は料理を作り始めたのだった。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

そして二刻後、

「終~了~!!」

梢怜の掛け声がかかると同時に三人は手を止めた。

「どうやら無事三人共調理が終わったようね」

霜佳がそう言っていると入り口から濡れた髪を乾かしながら一刀が入ってきた。

「どうやら丁度良い時間だったみたいだね」

「はい!つい今しがた料理の方が完成したところですお兄様!!」

「そっか。あっ、これ食後にいいかなと思って桃を買ってきたよ」

「ありがとうございますお兄様♪」

「それじゃあ早速いただこうかな!ってあれ?寮母さんと……もう一人はどなたですか?」

「そうね、桂花と麗羽には話したけどこの人は………」

華琳は先ほど桂花達に話したように梢怜のこととついでに霜佳のことも話した。

「………ということよ。わかったかしら?」

「うん。そっか、二人共以前華琳のお母さんとかあさまに仕えていたなんて驚いたよ!しかも桂花も華琳も二人から料理を習ったなんて凄いな!」

「ええ、でも私達はそれぞれお母様の手紙の紹介で料理を習ったのだから本当に凄いのはお母様達よ。私達の行動を全て見越して先回りしておくなんて普通の人にはできないことよ」

「確かにね。やっぱり僕達のかあさま達は凄いよね!」

「でもいずれ私はお母様を超えるつもりよ。そしてお母様が作った国以上に素晴らしい国を作ってみせるわ!」

「うん。僕だってそうだよ!かあさまやとうさま、二人を超えて立派になって家族や仲間を守れる男になるんだ!」

「わ、私も一生懸命勉強してお兄様のお役に立ちます!!」

「うん、期待してるね!」

「はい!!」

「頑張ってくださいね曹操様、荀鳳様、荀彧様!」

「ありがとう。そうだこれからは寮母さんも梢怜さんも僕のことは一刀って呼んでください!」

「いいんですか?」

「そんな恐れ多い!?」

「だって寮母さんはすでに桂花と真名を交換したみたいだしそれだったら梢怜さんもと思って」

「ですが!」

「そうよ雫ったら折角一刀様がいいって言ってるんだから受け取れないと失礼よ!」

「霜佳貴女!!」

「霜佳の言う通りよ観念しなさい梢怜。それと一刀を呼ぶなら私も真名で呼びなさい」

「ですが!」

「あら?元大将と筆頭軍師の子供の私達の頼みを聞けないのかしら?」

「ずるいです華琳様は…」

「そう、やればできるじゃない♪ところで桂花と麗羽はどうするの?」

「私は構わないわ」

「わ、わたくしは寮母さんはともかくもう一人の方とはあまり関係ないようなので遠慮しておきますわ」

「あ~実は私達、袁紹殿のお母上ともほんの少しだけ面識があるんですよ」

「「「えっ!?」」」

「ど、どういうことですの!?」

「実は昔、曹嵩様と荀緄様が少しの間でしたが洛陽でお勤めをしていたのはご存知でしたでしょうか?」

「ああ、前にかあさまから聞いたことがある。何でも以前華琳のお母さんの琳奈さんが役人になった時にその付き人としてかあさまも一緒に洛陽に来ていた時期があったって」

「ええ、私も聞いたことがあるわ。確か陳留の太守をやる前、お母様はそれまでの功績を称えられ“大鴻臚(だいこうろ)”として洛陽に勤めていたって。でもすぐに飽きたから他人にその地位を譲って替わりに陳留の太守の座に就いたそうよ」

「はい、その通りです。そして実はその時、私達もお二人の護衛としてこの洛陽に来ていたんです」

「そしてその時、司徒として勤めていた袁紹殿のお母上の袁逢(えんほう)殿とお知り合いになったそうです。知り合いと言ってもいつも袁逢殿が曹嵩様と荀緄様に突っかかってきていただけなのだそうですが……」

「「……(チラッ)なるほどね」」

「な、なんですか二人して!!」

「「いいえ、別に……(麗羽が私達に突っかかってくるのは遺伝というわけね)」」

「だから一体なんですの!!」

「…それで袁逢殿と私達とは曹嵩様と荀緄様のご命令で一時袁逢殿の護衛として仕えたことがありまして…」

「そうだったんですの!」

「はい、なので一応は全くの他人というわけではないんですよ」

「なるほどね…」

「それでしたら話が違いますわ!わたくしのことは麗羽と呼ぶことを許可しますわ!」

「それじゃあもう一度全員で真名を交換しようか!」

こうして全員で真名を交換した。

「では話はこれくらいにして料理を食べてもらいましょうか!」

「そうね、そのことで一刀、貴方に一つ提案があるのだけどいいかしら?」

「なんだい華琳?」

「折角三人それぞれが料理をしたのだから誰の料理が一番美味しかったか審査してもらえないかしら?」

「ええっ!?な、なんでわざわざ味の審査なんて勝負みたいなことを?折角みんなが一生懸命作った料理なのにそれに順位をつけるなんて……」

「だからこそよ。折角一生懸命作った料理だからこそ、私達は順位をつけて評価してもらいたいのよ。しかも貴女に!」

「で、でも……」

「安心して、他の二人もすでに承知しているから」

「えっ!?そんな!!桂花も麗羽も本当にそれでいいのかい?」

「は、はい。それに私は華琳にも麗羽にも負けるつもりはありませんから!!」

「もちろんわたくしもですわ!」

「当然私も負ける気なんて微塵もないわね」

一刀が三人をみるとみんな自分の料理への自信に溢れた目をしていた。それを見た一刀は少しの間考え、

「………わかったよ。三人の料理、審査するよ」

「そう、それじゃあ一位の娘には一刀と一日一緒にいられる権利を、そして最下位の娘にはそれなりの罰を与えてもらうわね」

「ええっ!?一位はまだいいけど最下位の娘に罰って…」

「あら?一位の権利は案外簡単に認めてくれるのね?」

「まあ~それくらいだったら、ってそうじゃなくて!罰って一体何なのさ!」

「それは一刀に任せるわ。貴方がその娘にとって罰と思うことをすればいいわ」

「でも女の子にそんなことできないよ!」

「別に何でも構わないわよ。それに一刀の考えた罰には文句を言わないと誓うわ。貴女達もいいでしょう?」

「私も別に構わないですお兄様!」

「麗羽?あとは貴女だけよ?」

「わ、わたくしは……」

「あら、自信がないのかしら?袁家の次期当主ともあろう貴女がまさか、たかが罰ごときで怖気づくのかしら?そうだとしたら名門袁家も大したことないのね!」

「か、華琳さん!?貴女今袁家を侮辱しましたわね!!いいですわ!わたくしも文句を言いませんわ!!まあ~最も華琳さんや桂花さんごときの料理わたくしの料理の足元にもおよびませんことを証明して差し上げますわ!おーっほっほっほ!!」

「ふ~ん、そっか~それじゃあ麗羽の料理楽しみにしてるよ」

「「!?」」

「(か、一刀ってば怒ってる?)」

「(お、お兄様!!)」

一刀は笑ってはいたが内心とても怒っているのが桂花と華琳には感じとれた。それもそのはず、桂花の料理が美味しいのは先日の一件で知っているのでそんなこと言う麗羽に怒ったのだった。そんな一刀の思いに気付いた桂花はすぐに兄の優しさに目がハートになって悶えた。

「(お兄様が私の為に怒ってくれた♡♡♡♡♡♡)」

「おーっほっほっほ!!期待して待っていてください一刀さん!」

「(あらら、麗羽ったら見事に一刀の逆鱗に触れちゃって。これで麗羽が最下位だったらきっと凄い事になるわね)」

そんなやりとりを見ていた梢怜と霜佳は一刀の変化に恐怖していた。

「(ね、ねぇ?一刀様って怒ると凄く怖いわね?)」

「(え、えぇ。まるで昔の荀緄様みたいでした)」

「(うん。荀緄様普段はとても優しい人ですけど曹嵩様を悪く言う人がいたり傷つけようとする人には容赦なかったものね)」

「(さすが荀緄様のお子、普段は優しいですが怒るととても怖いですね。一応私達も注意しておきましょう)」

「(そうね…その方が賢明ね)」

「話も済んだことだし、それじゃあ始めようか!」

そう言う一刀はいつもよりニコニコして席についた。麗羽以外は普段の一刀からは感じない圧力を感じ、強張りつつ準備を始めた。

「(どうやら一刀は怒るときはいつも以上にニコニコするようね。これは覚えておいたほうがいいわね)」

「それじゃあ最初は誰だい?」

「お、お兄様私です!!」

一番手は桂花だった。ちなみに料理を出す順番は調理を終えた人からで桂花、華琳、麗羽の順番だった。

「そっか、始めは桂花か!この前の料理も美味しかったから楽しみにしているよ!」

「はい!今お料理をお持ちいたしますね!!」

そう言って桂花は厨房に戻っていった。しばらくして桂花がお盆に料理を乗せて戻ってきた。

「お兄様!私の料理はこれです!!」

「うわ~、凄く美味しそうだよ桂花!!」

桂花の作った料理はラーメンと餃子と干燒蝦仁と炒飯だった。

「それじゃあ麺が伸びちゃうからまずはラーメンから…ズルズル~……うん!!美味しい!やっぱりさすがだね桂花!!」

「お兄様にそう言ってもらえて嬉しいです♪」

「他のも、あむ……むぐむぐむぐ……もちろん美味しいよ!」

「それでは私達も…」

霜佳と梢怜も桂花の作った料理を食べてみた。

「やっぱり美味しいですよ桂花様!」

「美味しいです(ふむ……)」

「うん、やっぱり桂花の料理は美味しいね!点数はもちろん満点だよ!!」

「ありがとうございますお兄様////」

「それじゃあ次は私ね!」

華琳は厨房から料理を持ってきて一刀の前に置いた。

「へえ~華琳は焼売と蟹の餡かけ天津飯に青椒肉絲か!」

「そうよ。味も折り紙つきだから冷めないうちに食べなさい」

「うん、じゃあいただきます。あむ……むぐむぐ!?…………………………」

「お、お兄様、どうしたのですか?まさか華琳の料理が凄く不味くてどうしようか悩んでいるのですか!!」

「貴女本当に失礼な娘ね」

「うっさいわね!そんなことよりお兄様大丈夫ですか?」

「………………す」

「す?」

「すっっごく、美味しい!!」

「えっ!?」

「この料理とっても美味しいよ華琳!!」

「ふふふっ当然よ♪」

「そ、そんな!?こ、こうなったら……お兄様失礼します!あむっ……むぐむぐ!?………………」

兄の反応に驚いた桂花は自分も華琳の料理を食べてみることにした……が、少し食べたところで桂花は動かなくなってしまった。

「あら、どうしたのかしら桂花?」

華琳はニヤニヤしながら桂花に尋ねた。まるで始めから答えがわかっている問題を聞いて答え合わせをするように…

「折角なのだから貴女の感想も聞いてみたいわ桂花?」

「おっ、美味しいわよ!私のより!!これで満足でしょう!!」

「そう。貴女にそう言ってもらえるなんて私も嬉しいわ桂花♪」

「ふんっ!!(くっ、屈辱だわ!でも……本当に私のより美味しかった……お兄様に喜んでもらえるよう一生懸命作ったのに華琳の方が美味しかった……)」

「それでは私達も、あむっ……もぐもぐもぐ(残念だけど華琳ちゃんの料理の方が美味しいわね)」

「あむっ……もぐもぐもぐ(やはり華琳様の料理の方が勝っていますね)」

「あらあら♪どうやら桂花さんは華琳さんに負けたようですからあとはわたくしと華琳さんの一騎打ちということですわね?おーっほっほっほ!!」

「はあ~~。なら、じゃあさっさと料理を持ってきなさいよ」

「そうですわね!ではただ今お持ちいたしますわ!おーっほっほっほ!!」

そして麗羽も料理をお盆に乗せて持ってきた。

「おーっほっほっほ!!わたくしの料理はこれですわ!!」

持ってはきたのだが……

「え~っとこれは?」

「あら、おわかりにならないのですか?」

「う、うん…」

「みなさんったらこのような高級料理は食べたことがないからわからないのですわね!これは仏跳牆と特大乾鮑の姿煮ですわよ!!」

「「「「「ええっ!?」」」」」

五人はその場で氷ついた。なぜなら麗羽が持ってきたのは壷の中でボコボコと音を立てている真っ赤な液体と赤黒い液体のかかっている黒い塊の乗っているお皿だったからだ。

「麗羽!!貴女これのどこが仏跳牆と特大乾鮑の姿煮のなのよ!!仏跳牆は数日かけて戻した乾物をさらに長時間煮込むことで油っぽくなく、透き通るような見た目の出汁料理で、乾鮑の姿煮はこちらも数日かけて戻した乾鮑を出汁で煮てそれに餡をかけるものよ。それなのに仏跳牆は色が濃いどころか真っ赤でドロドロしているし、乾鮑の姿煮に至っては乾鮑に火が通りすぎていて硬くなっているし、餡は濃すぎるしで二つともとてもじゃないけど一刀に食べさせるわけにはいかないわね!!」

「そ、そんなはずは」

「ないわけないでしょう!全く、麗羽ったら貴女今まで何していたのよ!!貴女のところの料理人達に料理を習っていたはずでしょう?それなのにどうしてこんなものしか作れないのよ?」

「そ、それは……」

「大方、アンタの作る料理を料理人達は美味しい美味しいって言うだけで指導らしい指導なんてしてくれなったんでしょう!もし不味いなんて言ったら麗羽の性格から『不味いなんて言った貴方なんかいりませんわ!』なんて言われると思って誰もしっかり教えてくれなかったんでしょうよ」

「そんな!!」

「そういうことで麗羽は食べられないから失格でいいわよね一刀?」

「ああ」

「ということは今回の料理対決の勝者は私。最下位は麗羽ということで決まりね!」

「おめでとうございます華琳様!!」

「くっ、くやしい!!!!」

「残念だったね桂花ちゃ(キッ!)…様」

「………………………」

「それじゃあ賞品として一刀、今度の休みのは私に一日中付き合ってもらうわよ!」

「わかったよ。それじゃあ次の休みの日はよろしくね華琳!」

「ええ、楽しみにしているわ一刀♪」

「ううぅぅぅぅぅぅ」

「ふふっ♪見苦しいわよ桂花?」

「うっ、うっさいわね!!今回は負けを認めるけど次は絶対に勝ってやるんだから!!」

「次も返り討ちにしてあげるわ!ところで最下位の麗羽には罰をあげないといけないわよね~?」

「(ビクッ!?)」

先ほどの華琳に指摘で気落ちしていた麗羽だったが華琳の一言で硬直した。それもそのはずで麗羽は先ほど一刀に大見得をきってしまい、なおかつ桂花の料理まで馬鹿にしたのを思い出したのだった。

「そうだね。麗羽、君はついさっき桂花の料理を馬鹿にした。それなのに実際に蓋をあけてみれば君の料理は桂花の足元にも及ばなかった。それは理解しているかい?」

「はい…」

「ならお仕置きされても仕方がないよね?」

「そ、それは……」

「仕・方・ない・よ・ね?」

「………はい」

「それじゃあお仕置きの定番のお尻百叩きの刑を「うぅぅぅぅぅ」麗羽?」

すると麗羽は下を向き肩を震わせ始めたと思った次の瞬間

「うぅぅぅぅぅうわああぁぁぁああぁぁぁぁあああぁぁああああん!!」

「「「「「!?」」」」」

泣き始めてしまった。それも号泣。

「ごめ゛ん゛な゛ざい゛でずわ゛!わ゛だぐじがわ゛る゛がっだでずわ゛!!うわあぁぁ~ん!!」

「れ、麗羽!?」

「あら!」

「へ~♪」

「あらあら」

「おやまあ!!」

麗羽の突然の号泣に一刀はうろたえ、華琳と桂花は面白いものが見れたと喜び、大人二人は驚くといった三者三様の反応を見せた。

「ど、どうしよう?」

「一刀が泣かせたのだから自分で何とかしなさい」

「でも悪いのはアイツじゃない!私の料理を侮辱したのに自分はそれ以下だったのだから当然の報いよ!それなのに泣かせたからってお兄様が責任を取るのは納得いかないわ!!そうよね霜佳!!」

「それはその…」

「霜佳!?まさか貴女もお兄様が悪いと思っているの!?」

「泣かせてしまったのでやはり一刀様が悪いかなと……」

「そんな!?それは「わかったよ」お兄様!?」

「…そうだよね。たとえどんな理由があろうと女の子を泣かせるのは男としてよくないよね」

「そうね。わかっているじゃない」

「うん、それじゃあ行ってくる」

「お兄様…」

「麗羽」

「ぐすん、一゛刀゛ざん゛。ごめ゛ん゛な゛ざい゛でずの゛。ゆ゛る゛じでぼじい゛でずの゛!」

「うん、わかったよ。それより先にごめんね麗羽。さっきはすごく怒っていたから麗羽のこと怖がらせちゃったよね」

「ぐすん、ぞれ゛ばわ゛だぐじがわ゛る゛がっだがらどう゛ぜん゛でずわ゛」

「それでもどんな理由があろうとも友達を怖がらせるなんてしちゃいけなかったんだ。弱い者達や大事な人達を守るために鍛えているのに僕は仲間である麗羽を威圧してしまった。だからやっぱり悪いのは僕だよ」

「一゛刀゛ざん゛………ぐすん、一刀ざんや゛っぱりわだくしにお仕置きじでくだざいですわ!」

「麗羽?」

「わ゛たぐしはお友゛達であ゛る桂花さんを馬鹿にしまじたわ゛。ぞれはじではいけないごどだっだと今な゛らぞう思いまずわ゛!ぐすん。ですから二度どしないようお仕置きしでくだざいですわ!そ゛れに最下位の人に゛は罰を与える約束でし゛ょう?ならそれを反故にずるのは袁家の゛次期当主どして恥ずべきものですし、何より一刀ざんに嫌われたくな゛いでずわ!!ですからお願いします一刀ざん!!」

「麗羽、わかったよ。でも百回は多いから二十回にするね」

「ぐすん、わがりましたわ゛」

「それじゃあこっちにきて」

「はいですわ」

泣き止んだ麗羽は正座した一刀の膝にうつぶせになった。

「それじゃあいくよ」

「は、はい…」

「一!」

ばちん!!

「あうっ!!」

こうして麗羽は一刀によってお尻叩き二十回という罰を受けたのだが…

「二十!!」

ばちん!!

「ああっ♡」

「はぁ、はぁ、はぁ、これで罰は終わりだよ。って麗羽大丈夫かい?なんか顔が赤いようだけど?」

「はぁ、はぁ、えっ!?な、何でもありませんわ!!お、おほほほほ!!た、叩かれすぎて臀部少し痛いだけですからお気になさらないでくださると助かりますわ」

「そ、そっか。ごめんね麗羽…」

「謝らないでください一刀さん。わたくしがお願いしたことですし元々悪いのもわたくしなのですから気にしないでください」

「わかった」

「そ、それでその……」

「ん?」

「も、もしまたわたくしが悪いことをしたときはそ、その…また、お、おお、お仕っ、お仕置きしてください!!」

「えぇっ!?」

「あっ!?そ、その……!?そ、そうですわ!わ、わたくしまだ袁家の当主になるにはまだまだ未熟ですので今回のように間違ったことをした時はまた一刀さんにお仕置、じゃなくて正してもらいたいのですけ・ど……」

「あっ!え~っとそういうことならわかったよ。もしまた麗羽が悪いことをしたら次も僕が止めてあげる。……それでいいかな?」

「は、はい!!よろしくお願いしますわ!!」

「……ねぇ、なんなのかしらあれ?なんだか麗羽が一刀に従順な気がするのだけど……」

華琳は自分の目を疑った“あの”いつも傍若無人で自分勝手で自己中心的な麗羽が顔を赤くして一刀にまた今度お仕置きして欲しいと頼みこんでいたからだ。

「きぃぃぃぃ!!何なのよ麗羽のヤツ!私のお兄様に色目なんか使って!しかもお兄様にまた今度仕置きしてほしいなんて一体何考えてんのよ!!」

「ほら、桂花ったら少し落ち着きなさい。麗羽は別に色目なんて使っていないと思うわよ」

「そうね。多分麗羽ちゃんったら一刀様に叩かれて気持ちよくなって感じちゃったのね♪」

「「???」」

「今は別に知らなくていいわよ♪どうせそのうち知ることになると思うからね♪」

「ちょっと霜佳!何二人に変なこと教えているのですか!お二人にはまだ早すぎます!というか知らなくていいことです!華琳様も桂花様も雫の言ったことは忘れてください!いいですね!!」

「え、ええ…」

「は、はい…」

さすが元とはいえ琳奈の部下、華琳も桂花も雫の本気の気あたりには勝てずただただ頷くことしかできなかった。

「ならいいです。それじゃあ勝負も終わったことですし残りの料理はみんなで食べましょうか!」

雫はそう言って一刀と麗羽の下に向かった。

「ところで麗羽の料理ってどこにあるの?」

「そこにあるわ。あんなもの取っておいてもしょうがないから捨てるの」

「(しょぼ~ん)」

「そっか、それじゃあ…ぱくっ…もぐもぐもぐもぐもぐ…………」

一刀は麗羽の作った仏跳牆と乾鮑の姿煮を凄い勢いで食べた。

「お兄様!?」

「一刀さん!?」

「一刀!?」

「へえ~やるじゃないの!」

「か、一刀様!?」

「ずずずずず、ごっくん……ご、ご馳走様………で…した(がくっ)」

そうして一刀はみんなが制止する間もなく麗羽の料理を食べきってしまった。

「ちょっと!?そんなものわざわざ食べなくても!!」

「はぁ、はぁ、そうはいかないよ。さっきは頭に血が上ってたからあんなこと言ったけど、失敗ちゃったとはいえ麗羽は僕のために一生懸命料理を作ってくれたんだ。だからそれを食べないのはやっぱりダメだと思うんだ」

「一刀さん♡♡」

「(あ~あ、これは完全に落ちたわね。全く、一刀ったら誰にでも優しいからみんな勘違いしちゃうじゃないの、本っ当に一刀は天然の女たらしなんだから!)」

「(あぅ~またお兄様を狙う悪い虫が増えちゃったよぉ~!!)」

「(一刀様って大人しそうに見えて案外、英雄の素質あるわね)」

「(そうですね。あっ!そういえば荀緄様の旦那様の蒼燕様もご結婚される前はだいぶおモテになられたとか…)」

「(血は争えないわね)」

「(えぇ)」

こうして色々あったものの料理勝負は華琳の勝利、麗羽の敗北によるお仕置き、そして麗羽の本気惚れで幕を閉じた。しかし実はこの時、桂花、華琳、麗羽達三人の預かり知らぬところで一刀がまたフラグを立てていたことを三人は次の日知ることになる。

~次の日~

「おはよう」

いつものように一刀、桂花、華琳が教室に入りそれぞれの席に着くと一刀の前の席の風里がおずおず後ろを向いてきた。

「あ、あの…おは、おはようございます!“一刀さん”!!」

「「「!?」」」

「うん、おはよう“風里”!!」

「「「!?!?!?」」」

「ふみゅ~~~~//////////////」

風里は一刀に挨拶をすると顔を真っ赤にして体を前に戻した。

「お兄様!!い、一体いつの間に彼女と真名の交換を!!」

「そうよ!!」

「そうですわ!!」

「ああ、それはね………………………」

一刀の話、それは戦いの開始を告げる狼煙となるのだった…

~予告~

とあるきっかけで真名を呼び合う仲になった一刀と風里。そんなある日、風里から一刀へ相談が……

次回[真・恋姫†無双~二人の王佐~]一章第九話 「花嫁は一刀!?」

『覇王、名家、王佐VS狗、少年少女編最大の戦いが今始まる!!』なんてね!

※狗の意味がわからない人は『WIKI』で調べてみてください。

 


 
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