No.223766

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・二話

月千一夜さん

第二章、二話
公開いたします

もう少しだけ、導入編が続きます
今回もまた、混沌としていく蜀国内

続きを表示

2011-06-20 15:26:37 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7215   閲覧ユーザー数:5992

あの日、あの背中を追えなかったのは

“似ている”と、そう思ったから

 

星さんの抱える悩みと、この今の私の抱える悩みが

少しだけ、似ていたから

 

乱世が終わってから、ずっと抱えていたモノ

 

朱里ちゃんは、とっても喜んでいた

もともと朱里ちゃんは、内政のほうが得意だったから

だから、いっぱい頑張って

そんな朱里ちゃんを、皆はいつも頼っていた

 

でも・・・私だって、頑張ってるんだよ

いつも、頑張って仕事して

それでも、皆が見ているのは私じゃなくて

 

いつしか・・・此処に、私の“居場所”なんてないんじゃないかって

そう思ったんだ

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 二話【惑う雛鳥】

 

 

 

 

「雛里っ!」

 

「ひゃ、ひゃいっ!?」

 

 

響く、自分を呼ぶ声

その声に、馬上の主・・・雛里は大きく体を震わせ驚いた

そんな彼女の隣では、その声の主である星が呆れたようにため息を吐き出していた

 

 

「いったいどうしたのだ?

先ほどから何やら、ボ~っとしているみたいだったが」

 

「あ、いえ、その・・・な、なんでもないでしゅ」

 

 

雛里の噛み噛みな答え

星は“なら、いいが”と苦笑した

 

現在、彼女達がいるのは成都から数日ほど離れた場所

目的は、最近多くなってきた“賊”の討伐である

朱里の指示で、総大将を愛紗に彼女達は軍を率いここまで来ていたのだ

 

 

 

「頼むぞ、雛里

何やら皆の様子もおかしいのだ・・・そんな中お前まで“あのように”なられては、堪ったものではない」

 

「は、はい!」

 

 

言って、2人が見つめる先

先頭で馬を歩かせるのは“愛紗”だった

その表情は、いつもよりもどこか“険しい”

彼女だけではない

その隣にいる、魏延こと“焔耶”と蒲公英

さらには、翠までもが同じように表情を険しくさせていたのだ

そんな皆の様子を見つめて、星はわざとらしくため息を吐き出したのだった

 

 

 

「あの日、我々が朝議を抜けている間に何かあったのだろうが

皆に聞いても、教えてはくれぬし

全く・・・いったい、どうしたというのだ?」

 

「そうですね・・・皆さん、何か様子がおかしいです」

 

 

 

“皆の様子がおかしい”

 

そう思ったのは、今から数日前のこと

2人が朝議を抜け出した後のことだった

あれから少しして玉座の間に戻った星

そこで星はまず、何やらオロオロと戸惑う雛里の姿を発見する

“どうしたのだろう?”と思い見つめた先

彼女はその答えをすぐに発見することになる

 

“重い”のだ

 

この玉座の間に流れる空気が

そして何より、ここにいる皆の“雰囲気”が

先ほどに比べ、驚くほどに重かったのだ

 

気になった星は、すぐ傍にいる翠に尋ねる

だが返ってきたのは、“何でもない”という曖昧な返事

“そんなハズはない”

そう思い、彼女の向けた視線の先

雛里は、無言で頷いていた

恐らくは、彼女も同じ返事をもらったのだろう

“ならば他の者に”

そう考え、彼女は苦笑する

無駄だと、そう思ったのだ

たった今・・・翠に聞いた時の、彼女の表情を思い出したのだ

 

“嫌悪”

 

露骨なまでに、表情に浮かび上がる“ソレ”に・・・彼女は、苦笑することしかできなかった

口に出すのすら“嫌”になるほどの出来事が、自分たちがいない間にあったのだろう

ならば、無理に聞けばいらぬ衝突を招く恐れがある

そう判断し、星と雛里は結局その話からはあえて目を逸らした

 

そうしてそのまま、今に至るのだ

 

 

 

「確かに気になる、が・・・今は、ひとまずこの討伐任務に集中すべきだ」

 

「そう、でしゅね」

 

 

“それでいい”と、雛里の頭をポンと撫でる星

それから、見あげた空

 

憎らしい程の青に・・・彼女は僅かに眩暈を覚えたのだった

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「そうか・・・関羽が、出陣したのか」

 

「はい・・・」

 

 

薄暗い部屋の中

一人の男が、告げられた報告に表情を歪ませる

 

 

「他には趙雲・魏延・馬超・馬岱、軍師には鳳統が同行しているとのこと」

 

「ふむ・・・」

 

 

続く報告に、男はしばし考えた後

ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、立ち上がったのだ

 

 

「では、我々も動くとしよう」

 

「はっ!」

 

 

男の言葉

もう一人の男は頭を下げると足早に部屋を出ていく

その背を見送り、男は自身の右目に手をそえた

不気味な光を放つ文様の浮かぶ、その右目に・・・

 

 

「今・・・“お前たち”は、どのような気分なのだろうな

全てがこの“私”の言葉通りになった今、いったいどのような夢を見るのだろうな」

 

 

言って、男は嗤う

そうして見つめた先、この部屋に唯一つだけの窓の向こう

憎らしい程の“青”を見つめながら、男は嗤い続ける

 

 

「だから、言っただろう?

劉玄徳では絶対に、天下は取れないと!」

 

 

男は、叫んだ

嗤いながら、怒りながら、嘆きながら

瞳に映った青に、激しい憤りを覚えながら

男は、叫んだのだ

 

 

 

「“愚かな王”・・・そう言ったのは、貴様だろう“桔梗”!!

だから貴様は、全てを捨てたのだろう!!?

それが見ろ・・・これが、貴様の成した結果だ!!!!」

 

 

 

“愚かな王”

そう言って、彼は愉快そうに表情を歪める

その瞳に浮かぶ“狂気”もそのままに

彼は、唯々嗤い続けた

 

やがて、零れ落ちたのは・・・“涙”

 

 

 

 

「王は、2人もいらない!

故に私は、取り戻す!!!

この国を・・・この私の全てを!!!!!」

 

 

 

 

 

その涙に込められた意味を

その真意を

 

知る者は、一人もいないまま

 

 

“闇”は、動き出した・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「着いたぞ」

 

 

先頭に立つ愛紗の言葉

皆の表情が、僅かに引き締まる

それでも先ほどまでの“違和感”は隠しきれていないと、星は一人苦笑していた

そんな中、馬上での作戦会議は続いていく

 

 

「確認できるだけで、賊の数はおよそ五百・・・か」

 

「おいおい・・・よく、こんな集まったもんだな」

 

 

焔耶の言葉に、翠は呆れたようため息を吐き出していた

事実、その通りである

乱世が終わった今、これほどまでの人数が集まるなど考えられなかったのだ

 

 

「しかし、我々の前には実際にそれほどまでの人数の賊がいる

今はまず、そのことに集中すべきではないか?」

 

「星・・・うむ、その通りだな

雛里、何か策はあるか?」

 

 

星に言われ、苦笑し頷く愛紗

それから尋ねたのは雛里だった

彼女はしばし考えた後、静かに口を開いた

 

 

「数は、こちらが圧倒的に上です

ですから無駄な戦闘を避けるべく、全軍でゆっくりと進んでいきましょう

上手くいけば、向こうから降伏してくるかもしれません」

 

「ふむ・・・そうだな

流石にこの兵力差だ

いくら賊とはいえ、勝てないと気付き逃げ出す者も出るだろうな」

 

「だね

幾らなんでも、無謀だし」

 

「なら、それで決まりか?」

 

「そうだな

雛里の策を採用し、これより徐々に全軍を前へと進めていこう」

 

 

愛紗の一言に、皆はそれぞれ自身が率いる軍のもとへと向かっていく

そんな中、ふと星は足を止める

そうして見つめたのは・・・目の前に布陣する、賊の者達

 

 

「なんだ・・・?」

 

 

感じたのは・・・言い知れぬ“不安”

だが彼女は、すぐに首を横に振り溜め息を吐きだした

 

 

「いかんな・・・私まで、愛紗たちの様子に感化されてしまったか」

 

 

“気のせいだ”

彼女は、自分にそう言い聞かせる

やがて響いてきた愛紗の“号令”と共に、彼女はゆっくりと軍を進めていく

それでも、また“不安”を感じるのだ

胸の奥、未だ消えない“不安”を抱えながら彼女は苦笑した

 

 

「ふむ・・・帰ったら、雛里でも誘い一杯やるとしようか」

 

 

そして、この不安を・・・あの、嫌な感じを紛らわせよう

そう決めて、彼女は微笑んだ

“もう、大丈夫”だと、思ったのだ

そんな時だった・・・

 

 

 

「・・・む?」

 

 

 

“ズブリ”と、何やら奇妙な音が聴こえてきたのだ

“いったい、何処から?”

彼女がそう思うのと同時に、聞えてきたのは兵士の叫び声

だが、何かおかしい

自分のすぐ後ろにいるはずの兵の声が、何故か遠くから聞こえるのだ

 

次いで、腹部に走った・・・鈍い“痛み”

何故?

そう思い見つめた先、自身の腹部

 

そこに・・・深々と刺さる、“一本の剣”

 

 

「ああ、そう、か・・・」

 

 

 

 

“これが、あの音の正体か”

 

 

 

 

彼女がそう気づくのと同時に

辺りには、恐ろしいまでの“悲鳴”が響き渡った

 

 

 

“異変”

それは、すぐに起こった

 

“誰もいないハズなのに”

“まだ、賊までは距離があるはずなのに”

 

 

「な、なんだ・・・?」

 

 

自分たちが、“攻撃”を受けている

 

弓ではない

“剣”や“槍”で、攻撃を受けているのだ

 

 

「な、なんだというのだ!!?

何が起こっている!!?」

 

 

叫ぶ愛紗に迫る剣

彼女はそれを自慢の偃月刀で砕き、すぐさまソレを振るう

しかし、手応えがない

舌打ちし、見つめた先

 

宙に浮かぶ幾つもの剣や槍が、自分たちに襲い掛かってきているのだ

だが確かに、誰かの“気配”を感じる

しかし、その姿が見えないのだ

 

その光景に、もはや兵は皆戦意を失くしてしまっていた

 

 

「くっ・・・皆、恐れるな!!

落ち着いて、武具を狙い武器を振るえ!!」

 

 

叫び、偃月刀は目の前に浮かぶ剣を切り裂く

しかしやはり、“手応え”はない

 

 

「くそ・・・いったい、何が・・・」

 

「ワケがわからない、といった顔をしていますねぇ?」

 

「っ・・・!?」

 

 

不意に聞こえてきた声

彼女は慌ててその場から距離をとる

だが・・・そこにはやはり、誰もいない

しかし、眼前に浮かぶ武器が今までと違うのだ

自身の持つ偃月刀ほどに大きくはないが、それでも他のモノに比べれば大きい部類にはいるであろう“一本の偃月刀”

それが、彼女の目の前に不気味に浮かんでいるのだ

 

 

「これはこれは、少々驚かせてしまったようだ

まずは、ご挨拶を

私・・・“李厳”と申します」

 

 

“以後、お見知りおきを”と、響く声

その声は、その浮かんでいる偃月刀のもとから聞こえている

 

 

「この怪異・・・貴様が、原因か?」

 

「ええ、まったくもってその通り

いかがですか?

私の率いる“幻影兵団”のお味は?」

 

「最悪だ・・・」

 

 

言って、彼女は武器を構える

それに合わせる様、浮いていた偃月刀の切っ先が愛紗へと向けられた

 

 

「それは良かった

では・・・もう少し、お付き合い願えますかな?」

 

「できるものなら、な!!!!」

 

 

 

叫び、一閃

それが、戦いの合図となったのだ

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

嫌な予感がした

それこそ、普段の私なら絶対に・・・こんな無茶なことを

たった一人、戦場に飛び込むなんてしないのに

そんなことをしてしまう程に、嫌な予感がしたのだ

 

眼下に広がる“凄惨な光景”の中、唯一人で駆けて行ったのだ

 

宙に浮かぶ剣や槍

それに襲われ、戦意を失う味方

 

信じられないような・・・恐ろしい景色の中

 

私はやがて、“見てしまったのだ”

私の目の前に、見つけたのだ

 

見慣れた、あの青い髪を

白い服を

彼女が愛用する、あの立派な槍を

 

そして・・・

 

 

「星さんっ!!!!!」

 

 

私の瞳に映った彼女の姿

私は、大声で叫んでいた

 

信じられなかった

此処までで見た、あの凄惨な光景よりも信じられなかった

 

その、瞳に映ったのは・・・

 

 

 

 

「ひな、り・・・」

 

 

 

 

その腹部を、深々と剣で刺し貫かれた・・・星さんの姿だったのだ

 

 

 

★あとがき★

 

ども、こんにちわ

月千一夜です

 

二章・二話を公開しましたw

 

いやぁ、舞台が変わればそれだけで書く時のテンションが違いますねw

 

 

 

今のところ、次回で導入編は終わる予定

ここまで、かなり重たいお話が続いておりますw

 

次回・・・さらに混沌とする蜀国内

そんな中訪れるのは・・・“光”

物語はいよいよ、その道筋を照らし始める

 

 

 

それでは、またお会いしましょう


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
44
9

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択