No.222849 コードネームはセーラーアン【前編】薄影堂まいな屋さん 2011-06-15 17:40:26 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:1405 閲覧ユーザー数:1400 |
十番街の大型マンション『十番オデュッセイア』のある一室。
その奥の、巨大な宇宙植物『魔界樹』が隠されている真っ暗闇の部屋の中で、
エイルは魔界樹に与えるエナジーを手に入れるための新たな作戦を、
アンに打ち明けようとしていた。
「アン、今回は大丈夫だ。いつも我々を妨害する
セーラー戦士の邪魔は入らないだろう。」
いつもと少し違って、随分と自信に満ちた様子のエイルを
アンは不思議に思った。
「なぜですのエイル?」
「私が調べたところによると、この近辺は我々を邪魔するセーラー戦士達が
現れるよりも以前、セーラーVと名乗る奴等と似たような女戦士が存在し
悪の手から平和を守っていたそうだ。」
「セーラーV・・・?」
「セーラー戦士が現れてからは、活躍の噂はほとんど聞かれなくなったそうだが、
この辺りでは未だにセーラーVの人気は根強いらしい。
・・・これを利用しない手はない。」
エイルは不敵な笑みを浮かべ、話を聞いていたアンもニヤリと笑う。
「なるほど・・・。今回のターゲットはそのセーラーVとやらに憧れる
ファンの人間達ですわね。」
「その通りだアン。偽者のセーラーVを使い、近づいてきた人間からエナジーを
奪い取るのだ。セーラー戦士達も仲間が現れたと考えて特に怪しむ事もあるまい。」
「流石はエイルですわ。ではさっそくカーディアンに変身させて送り込みましょう。」
「・・・いや、偽セーラーVの役は、アンにやってもらう。」
「・・・・・えっ??」
予想もしなかったエイルの言葉に、アンは呆気にとられてしまった。
「アン。残念ながら我々のカーディアンの中には、地球人に変身できる能力を持つ者が
いないのだ。だからこの作戦はアンに頑張ってもらわねばならない。
私も出来れば万一奴等に気づかれた時、アンを危険な目に合わせてしまうかもしれない
事はしたくはないのだが・・・」
鳩が豆鉄砲を喰らった様子のアンをなんとか説得しようとするエイルだったが、
それでワガママな面の強いアンが納得しようはずがない。
「じ、冗談じゃありませんわ!嫌ですわよ。そんな身体を張るような事は!
大体、あの忌々しいお邪魔虫達と同類の地球人に変装するだなんて、
わたくしのプライドが許しませんわッ!!」
ダダをこねるアンに内心呆れながらも、エイルはそっと
アンの肩を抱き、ジッと瞳を見つめる。そして優しくつぶやいた。
「アン・・・わかってくれ。今エナジーを手に入れる事ができなければ、
命の源であるこの魔界樹は枯れてしまい、我々は死に絶えるしかなくなってしまう。
今はワガママを言っても何も得られる物はないのだ。・・・大丈夫だ。
アンならやってくれると私は信じている・・・。」
そう言うとエイルはそっとアンの頬に口を近づけ・・・・・・をした。
すると先ほどまで険しい表情でわめいていたアンは大人しくなり、
頬を赤らめウットリとした目つきになってしまった。
「・・・エイルがそこまでおっしゃるのなら・・・やりますわッ。わたくし。」
どうやら今の・・・だけで説得させられたようだ。
「ありがとうアン。・・・先ほども言ったように、我々の作戦がセーラー戦士に
感づかれる可能性が万一だがあるかもしれん。その時のために、今回は
アンの補佐としてカーディアンを使おう。・・・既に私が選んである。」
エイルはカーディアンのカードを一枚取り出すと空中に向かって放り投げた。
そして愛用のフルートを手に、高らかに唱える。
「いでよ!我らがしもべ!カーディアン・・・『メイ・ジン』!!」
♪~♪♪~~♪~♪~
エイルの奏でる不思議な音色に反応して、空中に浮いたカードは妖しい光を放ちはじめる。
やがてカードは人のような形に変わっていく。
「レンシャレンシャレンシャァア~~~~ッッ!!!!」
二人の前にカーディアン『メイ・ジン』が召還された。
なぜか蜂の絵が描かれたキャップを頭に被り、上半身は裸で葉っぱのパンツ一丁。
しゃくれた顎と丸い団子鼻という特徴的な容姿に、手にはまるでファ○コンのような
コントローラーを持ち、さらに右手の親指からは黄金色の光が放たれている。
どこかで見たことがあるような風貌のカーディアンだ・・・。
メイ・ジンを見たアンはまたまた納得できない様子でエイルに攻め寄った。
「エイル!このカーディアンはエナジーを吸収する能力も無い役立たずじゃないですの!?
これではエナジー集めができませんわ!!」
アンの文句にエイルは冷静に、しかし呆れた感じで返答する。
「・・・今回エナジー収集を受け持つのはアンだぞ?」
「え・・・?」
「セーラーVに近づいてきた人間のエナジーを奪えるのは、そのセーラーVに
変装するアンしかいないではないか。」
「・・・それは・・・そうですわね・・・」
今度はまだ腑に落ちなかったが、アンは自分の中でなんとか無理矢理納得させた。
「え・・・でもこのカーディアンは何のために?」
「こいつはセーラー戦士が現れた時にアンに助力してくれるカーディアンだ。
確かにメイ・ジンはエナジーを吸い取る力は無いが、かわりに高い戦闘能力を
持っている。そしてこいつの特殊能力は手に持つコントローラー『ジョイフダー』で
味方を操って代わりに戦うのだ。」
「味方を、操って・・・代わりに・・・??どういう意味ですの??」
「つまりメイ・ジンがアンの身体を操作するんだ。ここはどう攻めるか、
敵の攻撃からどうやって身を守るか、アンが奴等と戦う事になった時に
アンが考えるべきそれらの行動をメイ・ジンが代わりに思考し実行させる訳だ。
・・・心配するな。メイ・ジンはその名の通り操作の腕前は名人級だ。
的確な反射神経でアンを助けてくれるだろう。」
メイ・ジンの能力について聞かされたアンはその内容に腹が立ったのか、口を尖らせた。
「失礼しちゃいますわッ!わたくしの身体をカーディアンが操るだなんて!!
それにわたくし一人でもセーラー戦士を片付けることなど造作にもない事ですわよ!」
「そう怒らないでくれアン。万が一の時アンの手助けになってくれればと思って・・・。」
「・・・もぅ。わかりましたわ。連れて行ってあげましょう。」
アンは渋々了承した。それを聞いてエイルはホッとしたのか安堵の表情を浮かべた。
メイ・ジンもアンについて行ってよい事がわかり嬉しそうな顔をした。
「レンシャッ!!ありがとうございますアン様!このメイ・ジン、伝家の宝刀ジョイフダーと
ゴールドフィンガーに懸けて!全力でサポートさせていただきます!!」
アンは少し驚いた目でメイ・ジンを見つめ
「あなた喋れるんですのね・・・珍しい」
「ハイ喋れますとも! いやぁ照れるなぁ、僕の声と筋肉が美しいからって
そんな見惚れないでくださいよぉ~」
「・・・」
どう返していいのかわからず、メイ・ジンからアンは目をそらす。
と、その時ある疑問が頭に浮かび、エイルに訊ねた。
「ねぇ、エイル。今思ったのですけど・・・今回の作戦、
わたくしが一番がんばるとして・・・エイルは何をしますの?」
そう聞かれてエイルは一瞬ギクッとしたが・・・
「え!?あ、いや・・・そ、それはだな・・・。私はこの近辺で
セーラーVが現れてもいいような事件は無いかを調べる。なにか事件があれば
私がアンに伝え、アンは現場に行ってセーラーVとして事件を解決してくれ。
そうすればセーラーVの活躍を聞きつけてファンがそこに集まってくるだろうからな。
・・・そういえば先ほどテレビで十番銀行に強盗が人質を取り、逃走用の車を要求して
立てこもっているというニュースがあった。まさにセーラーVが登場するには
打ってつけの事件だ。」
「・・・なにかひっかかりますけど・・・わかりましたわ。ではエイル、行って来ますわね。
さぁ、カーディアンメイ・ジン!ついていらっしゃい!」
「ははぁっ!!レンシャレンシャー!」
アンはメイ・ジンと共にテレポートで部屋から姿を消した。
二人を見送ったエイルはアンへの期待の表情・・・から直後残念そうな顔に変わり
ため息まじりにボソッとつぶやいた。
「ハァ・・・アンがエナジーを手に入れている間、私はうさぎさんに会いに行こうと思っていたのに・・・。」
ここは十番銀行。今この場所は緊迫した雰囲気に包まれていた。
たくさんのパトカーと警察官達が銀行を取り囲んでおり、
彼らの緊張に満ちた視線は銀行の正面玄関に向けられていた。
その目線の先ではサングラスとマスクをつけた一人の中年男が、
銀行の女性職員をつかまえ頭にピストルを向けている。
「オラァ!車はまだかぁ!こいつがどうなってもいいのかぁ!!?」
興奮している様子の男は声を荒げながら女性のこめかみに銃口を押し付ける。
涙目で怯える女性職員。警官達の顔はいっそう険しくなる。
(巡査部長!隙をついて奴を取り押さえましょう!)
若い警官が男に聞えないように小声で上司の警官に進言する。
(ばかもの!もし失敗したらどうする!?あの様子では
本当に人質を殺しかねんぞ!・・・あせるな、今取引のための車をこちらに
向かわせてると連絡があった。奴が取引に応じて人質を開放するまでの辛抱だッ。)
そんな小声の会話が気づかれてしまったのか、男がさらに声を荒げた。
「なぁにしゃべくってんだぁ!?女ぁ殺すぞぉ!!?」
・・・と、その時。
ホーッホッホッホッホッ・・・!!!
どこからともなく甲高い女のバカ笑い・・・いや、高笑いが聞えてきた。
驚いた警官達や男は周囲を見回し声の主を探す。
「だ、誰だっ!?」
「どこだ!?」
「あ!あそこやっ!!」
一人の警官が向かいのビルの屋上を指差した。
そこには・・・
「こんな平和な昼下がりに銀行強盗を働くなんて、そんな野蛮な下等生物は
この愛の美少女仮面戦士!セーラーVが許さなくってよ!!!」
太陽の光を背に受け、可愛いミニスカートを風になびかせる勇姿・・・そう、
あのセーラーV!・・・いや、アンの変身した偽セーラーVである。
偽セーラーVはビルの屋上から飛び降りスタッと着地すると強盗男をキッと睨みつける。
「覚悟ッ!!」
そう言うやいなや、男めがけてダッ!と駆け出した。
「うわわっ!?」
焦った男は偽セーラーVめがけて発砲するが、偽セーラーVは
飛んでくるピストルの弾丸を全て華麗にかわし、
男の懐に飛び込むと、男の顎に目にも止まらぬ速さでキックを見舞った。
「ぐへぇっ!!」
男はその一撃でノックアウトされ、その場に倒れ気絶してしまった。
・・・かくして偽セーラーVの活躍で男は逮捕、人質も無事救出され事件は解決した。
「あ、ありがとう。・・・悔しいが君のおかげだセーラーV・・・。」
警察の手柄を横取りされたのが少し癪なのかあまり素直には喜んでいない様子の巡査部長は
偽セーラーVに握手を求める。それに答え軽く握手したセーラーVは
「ごめんなさい、わたくしのおせっかいであなた方のお仕事の邪魔をしてしまって。
でもわたくし、どこかで事件があるといてもたってもいられない性分ですから・・・オホホ♪」
その言い草に内心かなりカチンときた巡査部長だが、もちろん偽セーラーVはそんな事には気づかない。
と、その時若い警察官や婦警がセーラーVの下に集まってきた。
「セーラーV!まだ引退してなかったのね!最近活躍の噂を聞かないからてっきりやめちゃったのかと・・・」
「俺、前からセーラーVのファンだったんだ!まさか会える日が来るなんて感激だなぁ!!」
「やっぱ、まじかで見ると可愛いなぁセーラーVは♪ね!ね!サインくれないかなぁ?」
なんと彼らのほとんどがセーラーVのひそかな信者だった。それ知って巡査部長は
呆れてため息をもらしている。
「まぁまぁ落ち着いて皆さん、ハイハイサインですわね、せっかくですものね。
書いてさしあげますわ。」
嫌な顔をせずファンに好意的に接するセーラーV・・・いや、アンは
表では天使のような微笑を見せているがその裏、内心では
悪魔のような笑みを浮かべていた。
(・・・揃いも揃っておバカさんね。サインと引き換えにエナジーはいただきますわ。)
セーラーVのアイマスクの奥の瞳が、妖しく光る。しかし人間達はそれに気づかない・・・。
セーラーVのサインをもらった後の警官、婦警達は明らかに様子がおかしかった。
顔はセーラーVに会えた嬉しさで笑ってはいるものの、目はうつろになり、顔色は青くなってしまっている。
「では皆さん、また機会があればお会いしましょ!ごきげんよう♪」
そう言ってセーラーVは風の様にその場から去って行く。
「さよなら~せ~ら~ぶいぃ~」
見送る警官達の声からは生気は感じられなかった・・・。
「ウフフ・・・こんなにエナジーが手に入るなんて、今までカーディアンに頼っていたのが
バカらしく思えてきますわ。」
体内に大量のエナジーを宿し、気持ちいいのか恍惚の笑みを浮かべる偽セーラーVもといアン。
「いやぁひどい事言うなぁアン様。仲間達だってお二人のためにがんばってるのに
そりゃないでしょ。」
傍らにいたカーディアン『メイ・ジン』は笑いながらツッコむ。
「・・・それよりもメイ・ジン。あなたの操作の腕は確かですわね。
飛んでくるはずの弾丸がすべて止まってるように見えましたわ。思ったより身体に負担はかからないし。
今回はあなたの能力を確かめる目的で身体の自由をゆだねましたけど、
これからはいざという時以外は手出し無用ですわよ。
あんな下等生物相手ならわたくしだけでも本気を出すまでじゃありませんし・・・」
実は今回のセーラーV(アン)のアクションは、全てメイ・ジンが『ジョイフダー』で
遠隔操作していたのだった。
「了解であります。エナジーを溜め込めない分、その時は十二分に働かせていただきます。ハイ。」
とその時アンの頭の中にエイルからのテレパシーが届いた。
(アン、十番公園で不良グループ同士が抗争を始めて近辺住民に迷惑をかけているようだ。
エナジーの方、しっかり頼むぞッ。)
「不良の喧嘩・・・そんなのセーラーVがいなくても勝手に終わると思うのですけど・・・。
まぁいいですわ。ツッパリの殿方の血気溢れるエナジーをいただくとしましょう!」
・・・こうして偽セーラーVは十番街を中心に様々な場所に出現。
事件を解決し、そこへ集まってきたセーラーVファンのエナジーを
ファンとの交流と偽り、どんどん奪っていった。
エナジーを奪われた人間の中には倒れこみ病院に搬送される者もいた。
しかし彼らは皆、それが偽セーラーVの仕業であるとは思いもしなかったのだった・・・。
愛野美奈子は全力で走っていた。
学校のクラスメートが病院に運ばれた事を聞かされ、
搬送された芝町立病院へ向かっているところである。
美奈子だけでなく、彼女にやや遅れて猫のルナとアルテミス、
そしてそれよりかなり遅れて必死に後を追う月野うさぎの姿もあった。
「ハァ、ハァ、ち、ちょっと待ってよ美奈子ちゃあ~ん!置いてかないでぇ~」
「待ってられないわよ!ひかるちゃんと天野が大変なんだからッ!!」
汗をかき息を切らしながら走る美奈子の顔は一様に険しかった。
芝町立病院に着いた美奈子とうさぎは美奈子のクラスメートがいる病室へ向かう。
動物は中に入れないのでルナとアルテミスは病院の玄関で待機である。
「えっと、403・・・ここね。」
病室に入ると入り口のすぐ側の二つのベッドに、
美奈子のクラスメート、女子のひかると、男子の天野がそれぞれ横になっていた。
天野は顔を向こうに向けて寝ている為わからないが、
ひかるの方は顔色が悪く頬肉も痩せこけてしまっている。二人の腕には点滴がつけられていた。
「あ・・・美奈・・・」
美奈子に気づいたひかるが弱々しい声を出す。
「ひかるちゃん・・・大丈夫?」
「うん・・・きっとじきに良くなるわよ・・・」
友達の美奈子を心配させまいと元気を取り繕うひかるだが、やはりかなり無理をしているようだ。
「・・・あんまり無理しないでね。」
「うん、ありがとう・・・」
小さい頃からの友達の苦しそうな姿を目の当たりにして、美奈子は涙が出そうだった。
だが自分が泣いたらひかるもまた余計に辛くなるので、涙は堪えているのである。
と、美奈子の後ろにいるうさぎに気づいたひかるは。
「・・・美奈、そのコは・・・?」
「あ、このコは月野うさぎちゃん。隣の十番中学に通ってる私の友達よ。」
「あは、そうなんだ・・・私はひかる。美奈とは小学校の時からの幼馴染なの。
よろしくねうさぎちゃん。」
「はじめまして、月野うさぎです。美奈子ちゃんにはと~ってもお世話になってますです。エヘヘw
こちらこそよろしくねひかるちゃん!」
お互いに笑顔で握手するうさぎとひかる。そんな光景を見て美奈子の心も少し安らいだ。
「ほら、天野君。美奈が私たちのお見舞に来てくれたよ。」
ひかるが隣で眠っている天野に声をかける。その声に目を覚ました天野は
枕の側に置いてあった眼鏡をかけ、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「あぁ・・・本当だ・・・美奈さん、わざわざすみません・・・。」
やはり天野も顔は真っ青だった。それでも美奈子が来てくれたのがよっぽど嬉しい様子である。
天野の顔を見たうさぎは思わず「えっ!?」と声を上げそうになった。というのも・・・
(こ、この天野って人、海野と瓜二つじゃな~い!?まさか腹違いの兄弟だったりして・・・;)
そう、うさぎのクラスメートのオタク男子、海野ぐりおと眼鏡をかけた天野がそっくりだったのである。
天野と海野が腹違いの兄弟なのかどうかはさておき・・・美奈子はひかる達に訊ねる。
「ねぇ二人とも、一体何があったの?二人一緒にこんな状態になるなんて普通じゃないよ。」
「それがね・・・よくわからないの。でも病院に運ばれた日に・・・家に帰ってきた時、
私の顔を見てお母さんがすごく心配してたの。「顔色悪いけどなにかあったの?」て言われて・・・。
それで鏡を見たらビックリするぐらい自分の顔が青白くなってたの。
確かに若干身体がだるいなぁとは感じてたんだけど、でもなぜかそんなに気にならなくて・・・。
でも夕御飯を食べてる時に急に意識が朦朧として・・・気がついたらこの病院のベッドで横になってたの。」
「・・・僕もひかるちゃんと同じです・・・。気づいたら僕もココにいて。隣にひかるちゃんがいた時は
お互いビックリしましたよ。しかし僕のオタク魂は病に勝っていたようです。その日手に入れた
貴重な『セーラーVの直筆サイン』はしっかり肌身離さず持っていたんですよ!ほら。」
「「せ、セーラーVのサイン!!?」」
うさぎと美奈子は驚きの声を上げた。天野が取り出したのは「セーラーV参上」と書かれたサイン色紙だった。
「いやぁ、実はその日新作ゲームを買った帰り道で、セーラーVが近隣住民に迷惑をかける
不良グループを成敗している現場を偶然目撃しましてね。後から知って駆けつけてきたファン達が
皆こぞってサインを求めているので、一ファンの僕もいてもたってもいられなくてすぐ近くの文房具屋で
サインペンと色紙を買って、サインを貰ったんですよぉ。いやぁでも最近はセーラーV活躍の噂が
めっきりなくなって凄く寂しかったんですけどね。まだ健在だった事がわかって嬉しかったですねぇ」
自分の身体が弱ってるのも忘れて天野は喋る喋る。するとひかるも
「・・・そういえばあの日、私もセーラーVに会ったわ。小さい子どもを苛めてる中学生をやっつけてるところを
偶然見て、私感激して握手してもらったの。」
二人の話を聞いていたうさぎと美奈子は顔を見合わせた。
((・・・まさか、やっぱり・・・。))
「ねぇ、天野、そのセーラーVのサイン、ちょっと貸してもらえないかな?」
突然美奈子がそんな事を言い出した。
「え!?な、なんでですか美奈さん・・・」
「明日また見舞いに来た時にちゃんと返すから。ね!」
と、強引に天野からサイン色紙を奪い取る美奈子。
「そ、そんなぁ~それはないですよ美奈さん・・・。」
病院から出てきた美奈子とうさぎにルナとアルテミスが駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「やっぱり・・・関係ありそうかい?」
「えぇ・・・そしてこれを調べてみれば、確実にわかりそうだわ。」
と、天野から奪い取った・・・借りたセーラーVのサイン色紙を見て美奈子は言った。
「ねぇねぇ美奈子ちゃん、そのサインをどうするの?」
うさぎが訊ねる。
「うさぎちゃん、これで奴の正体がわかるかもしれないわ。」
ここは火川神社。ここに五人のセーラー戦士の少女が集まっていた。
巫女姿の火野レイが、美奈子が持ってきたセーラーVのサイン色紙に向かって念じている。
「・・・どう、レイちゃん?」
美奈子がレイに声をかける。
「・・・美奈子ちゃんの予想通りよ。このサインにはかすかに妖気の痕跡があるわ。」
「・・・原因不明の体調不良による入院患者の激増と、ほぼ同時の偽セーラーV出現はやっぱり関係があったのね。」
確信した水野亜美に続いて木野まことが声を上げる。
「思った通り偽セーラーVは敵って事か。」
「きっと、エイルとアンがカーディアンを変装させてエナジーを奪わせているんだわ。」
ルナが言う。続けてアルテミスも
「早く偽セーラーVをやっつけないと被害がどんどん大きくなるぞ。」
これ以上の敵の横暴をなんとしても阻止せんと、うさぎ達五人は頷きあった。
「亜美ちゃん、次に偽セーラーVが現れそうな場所は特定できる?」
「恐らく・・・85%の確率で・・・ここ。」
神社の床に広げたタウンマップのある所を亜美は指差した。
「『芝中央ワイワイ通り』よ。最近この辺りは、近隣の学校の不良がたむろする事が多くて
治安が悪くなっているの。まだ偽セーラーVはこの辺りには出現していないから、
いつそれなりの事件が起きてもおかしくないこの場所にターゲットを絞る可能性はあるわ。」
それを聞いた美奈子はアルテミスに言った。
「・・・ねぇ、アルテミス。私がセーラーVに変身する時に使ってた変身ペン、
まだあるわよね?」
「・・・あぁ。・・・み、美奈。まさか・・・!?」
「そのまさかよ。」
アルテミスだけでなくルナやうさぎ達も驚く。
「み、美奈子ちゃん!?」
「ダメだ美奈!パワーはどう考えてもセーラーヴィーナスの方が上なんだ!
わざわざ総合力の劣るセーラーVでカーディアンと戦うだなんて、無謀すぎる!」
アルテミスは美奈子の無茶を戒めようとする。しかし美奈子の決心は固い。
ハッとアルテミスは気づいた。美奈子の瞳の奥で、怒りの炎がメラメラと燃えているのを。
「・・・私は許せないの。セーラーVの名を語って、ファンの皆の想いを平気で踏みにじる敵の卑劣さが。
そしてなによりも、私の大切な友達のひかるちゃんや天野をあんな目にあわせた偽者を!
どうしても許せないの!
愛と平和を願う美少女戦士としての私のプライドが許さないのよ!!
これは、この事件は、本当のセーラーVである私が、セーラーVとしてかたをつけなくちゃいけないのよ!!」
美奈子の決意の言葉を皆は黙って聞いていた。やがて大きく頷いた。
「・・・そうだね!美奈子ちゃん!いや、セーラーVちゃん!!私、協力するから!
皆を騙した悪い子ちゃんのカーディアンを、絶対にやっつけようね!!」
うさぎは美奈子の手をがっしりと握った。
「うさぎちゃん・・・。」
「協力するのは、もちろん私もよ!」
「絶対に許さないぜエイルとアン!」
「がんばりましょう美奈子ちゃん。」
他の三人も美奈子の手を握る。美奈子は仲間達との強い友情を確信するのであった。
それをルナと美奈子のパートナーであるアルテミスも感慨深く見ていた。
(初めて出会った頃は、どうなることかと思っていたけれど・・・
正義の戦士としてはもうすっかり一人前になったみたいだね。美奈!)
~後編へ続く~
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※過去に僕が別のSNSサイトで投稿した二次創作作品の転載です。(一部修正を加えています。)魔界樹編のアンが好きすぎてこうゆう作品を作りました。別のサイトで最初に書いた時は五回に分けて投稿したのですが、ここでは前後編に分けています。こちらは前編です。※続きの後編はこちら→ https://www.tinami.com/view/222853