「さて、偵察もこんな所でいいだろう」
辺りを見回しながら孫権は並走する女性に話しかけた。
「はい、十分だと思います。しかし、世も荒れてきましたね」
答えたのは彼女の一の家臣である甘寧である。
「仕方もないことだろう……官匪の圧政、盗賊の横行、挙げればキリがないほどだからな。今の王朝になって数百年…、色々と持たなくなってきているのだろう」
孫権の言葉に甘寧は首を縦に振り肯定の意を示す。
「だからでしょうかね、蓮華様は最近巷で話題になっている噂をご存じですか?」
「いや、思い当たる節がないな」
「私も警邏中に小耳にはさんだだけで詳しくはないのですが、何でも、黒天の夜を一筋の流星が切り裂き、天の御使いを運んで来るそうです。その上、その御使いは乱世をも鎮静するとか。管輅の占いらしいので信憑性に疑問符は付きますが」
「確かにエセ占い師として有名な管輅のではな…。だが、庶民はそのような占いにでも縋りたくなるほど疲弊しているということか……」
そこで、孫権は一回深く嘆息し、再び甘寧に話しかける。
「それにしても天の御使いか…本当にいるとしたらどんな人かしらね?」
「私には分かりかねます。それに存在が未確定なものを考えたところで栓のないことでしょう」
「まあ、思春の言う通りね。まずは現実に迫ったことから片づけていきましょうか」
直後、孫権は不意に止まった。
「どうかされましたか?」
心配そうに甘寧が尋ねる。
「いや、何か聞こえた気がしてな」
孫権は辺りを注意深く見回しながら答える。
それに釣られて甘寧も辺りを見回すが何の異常も見られない。
「……どうやら気のせいだったみたいね。無駄に警戒させてしまってごめんなさい」
「いえ、お気になさらないで下さい。それが私の仕事ですから」
そう言って再び歩み始めようとした時だった、今度は軍全体の動きが止まる。
まるで金属同士を打ち合ったかのような音が響いてきたからだ。
「これはっ!?」
「蓮華様、お下がりください!!」
甘寧は一瞬の間を置くことなく自らを孫権の盾とすべく矢面に立つ。
その直後、まるで昼間の太陽のような白光が辺りを包んだ。
「ご無事ですか、蓮華様!?」
光りが止んだ後、眩暈を気にすることなく甘寧は己が主の無事を確認する。
「え、ええ。大丈夫よ。何も異常は無いわ」
孫権の無事が確認されると甘寧はホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても何だったのだ、今の光は?」
甘寧は光の原因を探すべく、再び辺りを見回す。
だが、周辺の異常に先に気が付いたのは孫権であった。
「…ねえ、思春。さっきまであんな所に人なんて倒れてなかったわよね?」
そう言って孫権が指をさす方には確かに人が倒れていた。
「はい、あれが起こるまで周りには我らを除けば人一人いなかったはずです。となると、あの光と何か関係があると考えるのが普通でしょう」
「思春もそう考えるか……。これはあの者に聞くのが一番早そうね」
「蓮華様!?お待ちください!」
言うが早いか孫権は甘寧の制止も振り切り、駆け出していた。
「男?」
「自重して下さい。この者の素性も知れないのですよ。どうやら気絶しているから良いものの、もしもの事があったらどうするつもりですか!」
「ごめんなさい。でも、何か胸騒ぎがして……。ふふ、これじゃまるで姉様みたいね」
謝罪をしながらもどこか自嘲気味に笑う孫権。
「さて、問題はこの男です。どうしますか?」
「…思春、もしかしたらこの男が天の御使いなんじゃないかしら?」
「確かに占い通りではありますが…」
甘寧は渋い顔で答える。
「それにこの服はどう見てもこの世のものではないでしょう?あと、そこに転がってる車のようなのも見たことがないわ」
「どうするおつもりで?」
「孫家で保護をする。天の御使いが降り立ったとなれば今後の役に立つだろう」
「妖という可能性も十分にあると思いますが?」
「その時は仕方ないが切り捨てるしかなかろう。無論、人に害を為した妖としてな」
「どっちにしても損はないということですか…分かりました」
甘寧は納得すると、すぐに配下の者に男と謎の車を運ぶよう指示をする。
程なく作業は終わり、一同は帰路へとつくのであった。
これが後に天御使いとして名を馳せる北郷一刀と孫呉の姫、孫権の最初の出会いであった。
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真・恋姫の二次創作です
主人公は北郷一刀のまま。能力は原作準拠です
オリキャラは数人出てきます