No.22051

雪道

嘉月 碧さん

彼と三度目の冬。彼の心がもう此処にないことは分かっている。
降り始めた雪が美雪の心を慰めるが……。

2008-07-27 23:14:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:500   閲覧ユーザー数:484

 今年もまたやって来る。雪の降る白い季節。

 見上げると、白い雪の結晶が舞い降りてきた。

 

 

「積もったなぁー」

 美雪は白い雪に足跡を付けて歩いた。空はもう晴れ渡り、青い空が広がっている。

「ハー」

 息を吐くと、白く染まった。

 彼と出会って、三度目の冬。今年は一緒に過ごせるのかすら分からない。

 知ってる。彼の心がもう此処にはないって。だけど怖くて問いただせない。

 だってきっと戻らない。どこかで諦めがついてる。

「……っ」

 自然と涙が溢れてくる。

 『ずっと一緒にいようね』って約束したのに。あの頃、あの人は優しくそう言ってくれたのに。

 変わってしまった彼の心。変われないのは自分だけ。

 次々にこみ上げてくる涙が堪えきれずに零れた。

 

 滲む視界に広がる雪道。かつて彼と二人で歩いた思い出の道。

 あの頃はこの道が永遠に続く二人の未来のように感じていた。

「…………っ」

 いつも一緒だったのに。傍にいるのが、彼の隣に居るのが当たり前だって思ってたのに。

 私の心はまだ此処にあるのに……!

 

 ポトンと涙が雪に落ちた。雫は周りの雪を少しだけ溶かした。

 

 今も色褪せることなくある彼への想いは、白い雪のようにキラキラと輝き続けている。 今はその思いが自分を苦しませる。

 美雪はその場に崩れた。冷たい雪が、火照った体を冷やしてくれる。

 本当は、信じたい。彼が戻ってきてくれると。都合のいい女って思われてもいい。彼を愛しているから。いつかまた笑って彼の隣を歩きたい。

 

 俯いている美雪の目の前に雪の結晶が舞い降りた。

「馬鹿……だよね」

 だってもう戻らないって知ってる。それでもまだ彼を愛してる。

 

 涙で滲む目で見た空は、あまりにも鮮やかな青で、白い雪とのコントラストが本当に綺麗だった。

「分かってるよ。分かってる」

 誰に言うでもなく呟く。

 

 舞い散る雪が奏でるのは、別れの序曲。


 
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