「♪~~~」
早朝、まだ太陽が昇り少ししかたっていない時間帯
台所で鼻歌を歌いながら料理をする女性の姿があった
一家の“お母さん”こと、七乃である
「♪~~♪~~~~」
彼女はご機嫌そうに笑顔を浮かべ、次々と朝食の準備を完成させていく
それから僅か数分後には、人数分の朝食が出来上がっていた
「これで、よし・・・ですね♪」
言って、彼女は満足そうに頷いた
辺りには、食欲を誘う匂いがただよっている
「あとは、皆さんを起こして・・・」
笑顔のまま、皆を起こしに行こうと歩き出した彼女
だが、その直後のことだった
「え・・・?」
彼女の耳に、妙な音が聴こえてきたのだ
その音に誘われるよう、向けた視線の先
用意していた朝食の中・・・ある茶碗が、無残にも割れていたのだ
「これは・・・」
その光景に、先ほどまでの笑顔が消える
彼女はそのまま、その割れた茶碗を片そうと歩み寄った
「なんだか、不吉ですね~・・・こういうの」
呟き、彼女はその茶碗を片付ける
指を切らないように、なるべく慎重にゆっくりと
やがて片付いたソレを、彼女は部屋の片隅に置いた
「とりあえず、後で捨てに行きましょう」
“折角作ったご飯が冷めてしまいますしね”
そう心の中で呟き、彼女は再び歩き出す
「ひとまず、一刀さんには変わりのお茶碗を準備しましょう」
その胸の内に灯った、“僅かな不安”を忘れたまま・・・
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第一章 十二話【僅かな不安】
「ごちそうさまなのじゃっ」
「ごち・・・」
美羽と一刀の声
それに、七乃は笑顔を浮かべ“はい、お粗末様でした~”と言い皿を片付けていく
2人はそれを見送ると、その場に倒れこんだ
「ふ~、食べたのじゃ~」
「ん・・・お腹、いっぱい」
「くく・・・お主ら、行儀が悪いぞ?」
そんな二人の姿を見て、祭は小さく笑いをこぼす
隣では、夕も同じように笑みを浮かべていた
「ふあ・・・お腹いっぱいになったら、眠くなってきたのじゃ」
「ん・・・俺、も」
「おいおい、ついさっき起きたばかりだろう」
そう言いつつも、夕は一刀の隣に寝転がる
それを見て、祭は“おいおい”と小さく漏らしていた
「お主まで混ざってどうするんじゃ、まったく」
「別にいいだろ?
どうせ今日の仕事は昼からなんだ・・・少しくらい寝ていたって、バチはあたらないさ」
言いながら、夕は軽く欠伸をする
これに対し祭は、“仕方ないのう”と笑っていた
「あれ~?
皆さん、何してるんですか~?」
「おぉ、七乃か
お腹が一杯になったから、ちょっと眠るところじゃったのじゃ♪」
「じゃぁ、美羽様の隣は私ですね♪」
七乃はニコニコとしたまま、美羽の隣に寝転がる
祭はそんな四人の姿に、小さく噴き出していた
“呑気な奴らじゃ”と・・・
「ふぁ・・・」
などと、思っていた矢先である
自分でも呆れてしまう程に、大きな欠伸が零れたのは
“やれやれ”と祭は苦笑を浮かべる
そして、一刀と美羽の間にゴロンと寝転がったのだ
「おいおい、結局混ざるのか?」
「別に、バチはあたらんのじゃろう?」
“そうだったな”と、夕は笑う
そしてそのまま、天井に向い手を伸ばした
「平和・・・だな」
「うむ・・・」
夕の一言
祭は、目を瞑り答えた
「なんか、さ・・・悪くないよな、こういうの」
「く、ははは
ああ・・・悪くない」
言って、祭は両隣にいる二人の頭を撫でる
いつの間にか眠っていた、一刀と美羽の頭を・・・
「続けばいいのう・・・このような、平和で温かな毎日が」
それは、本当に些細な願い
ただ、こんな当たり前の毎日が続けばいいと
彼女は、“彼女達”は願ったのだ
しかし、その願いは・・・
「・・・“くる”」
叶うことはなかった
ーーーー†ーーーー
「・・・ん?」
長い廊下の真ん中
彼女は・・・“凪”はふと、足を止める
その視線の先、今にも雨が降り出しそうな空が広がっていた
「なんだ・・・今の“感じ”は」
胸に手をあて、彼女は呟いた
その手が、僅かに汗ばんでいる
“違和感”とも、“既視感”とも・・・どちらともいえる、不思議な感覚
彼女はその場から、動くことが出来ないでいたのだ
「あらん?
楽進ちゃんじゃない」
「っ!?」
そんな彼女の背後
突然、野太い声が響いてくる
その声に彼女が振り返った先、ピンクのビキニパンツ一枚の“漢女”の姿があった
「貂蝉殿、ですか」
「どぅふふ♪
こんにちわ、楽進ちゃん
お仕事の帰りかしらん?」
「はい
貂蝉殿は、“治療”を終えた帰りですか?」
「そうよん♪」
挨拶もそこそこに、貂蝉は彼女のもとへと歩み寄る
それから、曇り空を見上げ呟いた
「何か、あったのかしらん?」
貂蝉の言葉
彼女は少し躊躇った後、ゆっくりと口を開いた
「何か・・・妙な“氣”を感じたのです」
「妙な氣?」
「はい
感じたこともない、きっと知らない氣
だけど・・・」
“私は、この氣を知っている”
「“隊長”を、思い出してしまいました」
似ていた
温かさも、思い浮かぶ“色”も
何もかもが、似ていたのだ
彼女にとって、何よりも大切な人に・・・
「おかしな話ですよね
こんなの、知らないはずなのに・・・」
「なん・・・ですって?」
「・・・貂蝉殿?」
凪の言葉
貂蝉は一瞬だけ驚いたように表情を歪めた後、深く息を吐き出した
「そういうこと、ねん・・・納得したわん
あの時貴女も、あの泰山にいたんだものね
“だから”・・・貴方には、“わかるのねん”」
「あの、いったいどうしたのですか?」
「いえ、少し思うところがあったのよん
それはそうと、楽進ちゃん・・・」
「はい・・・?」
≪貴女、御主人様を・・・北郷一刀を、追いかけてみる気はない?≫
ーーーー†ーーーー
「ふぅ・・・」
“コトン”と、机の上に置かれた筆
彼女・・・姜維はそれから、自身の肩をトンと叩いた
「とりあえず・・・今のところ、これで問題はないはずですね」
「はっ・・・兵の準備も、抜かりはありません」
「そうですか
あとは・・・放っていた斥候さんが帰ってくるのを待つだけですね」
姜維の言葉
それに、集まっていた者達は静かに頷いていた
「しかし・・・姜維様
私は、未だ信じられません」
そんな中、一人の武官が声をあげる
その言葉に、全員の視線がその武官に集まった
「信じられない、とは?」
「敵の・・・五胡の軍勢の中、“あの旗”があったという報告です」
“あの旗”
この言葉に、一同は同じように表情を歪めていた
無論・・・姜維も、その一人だった
しかし、それも一瞬のこと
彼女はすぐさま我に返り、その武官を睨み付けたのだ
「では貴方は、あの兵が命がけで伝えてくれたことが嘘だったと・・・そう言いたいのですか?」
「いえ、そういうわけでは・・・!!」
僅かだが、確かな怒気を孕んだ声
その声に、武官の男は慌てて首を横に振った
その時だった・・・
「姜維様!!!
た、大変です!!!!」
皆が集まる中
一人の兵士が、血相を変えて駆け込んできたのだ
その瞬間、場の空気は一気に変わる
「何事ですか!?」
姜維の言葉
兵氏は乱れた息もそのままに、頭を下げ声をあげた
「ここより僅か数理先・・・五胡の兵団を確認いたしました!!!!!」
「っ・・・!!」
兵氏からの報告
姜維は立ち上がり、立てかけてあった剣を腰に差した
「皆さん、すぐに準備を!!!!」
「「「「御意!!!!!」」」」
一斉に返事をし、駆け出していく武官と文官
その背を見送り、彼女もまた駆け出していた
「姜維様!?
いったいどちらへ!?」
「少し、城壁にて様子を窺ってきます!!」
「姜維様!!!?」
兵の呼ぶ声も聞かず、彼女は駆けて行く
部屋を飛び出し、一目散に城壁へと向けて・・・
やがて辿り着いた先、城壁の上
彼女は、見たのだ
「あ・・・あぁ・・・」
遥か遠くまで続く・・・五胡の大軍勢
その中で揺れる、“蒼炎の馬旗”を
そして・・・
「いったい、どうして・・・?」
その旗のもと、軍勢の一番先頭に立つ
見覚えのある、一人の男の姿を・・・
遠くからでも、はっきりと伝わってくる
あの、懐かしい感覚を
「なんで、そこにいるのですか“お父さん”
いえ・・・」
“元・天水太守・・・馬遵”
「さぁ、消し去るぞ・・・全てを、な」
平穏な毎日
当たり前な日々
その全てが今・・・崩れ去ろうとしていた
★あとがき★
十二話です
崩れていく平穏
現れた“敵”
空っぽの青年は、いったい何を為すのか・・・
そして、全てを失った四人は?
次回
【幸せの終わり】へと続きますw
・・・というわけで、ど~もです
月千一夜ですw
今回は、いわゆる次回への繋ぎです
短いです
もうすぐ、戦いのシーンに突入!?
気合が入りますねw
久しぶりに戦闘モノを書くので、たぶんしょぼくなるでしょうが(ぇ
それでは、またお会いしましょう♪
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十二話、公開します
今回は、次回への繋ぎのような感じ
ついに、その脅威は牙をむいた
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