No.219664

真・恋姫無双 ある夏の日の金木犀

狭乃 狼さん

はい皆さんこんにちは。

いつも小生の駄文をお読みいただきありがとうございます。

普段、私めが執筆している、

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2011-05-30 20:55:05 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:17677   閲覧ユーザー数:13631

 「暑いな……」

 「暑いわね……」

 季節は只今夏真っ盛り。室内は熱気に包まれていて、座っているだけでも額に汗が浮かんでくる。開け放たれた窓から、時折吹き込んでくる風がわずかな涼をもたらしはするけれど、それも所詮は一時しのぎに過ぎないわけで。

 「……暑いよな……桂花」

 「……お願いだから、そう何度も暑いと連呼しないでよ。その言葉を聞くたびに、また暑くなるじゃない」

 いやまあ、もちろんそんな言葉を聞いただけで、本当に気温が上がるわけじゃあないわよ?けど、暑さも寒さも気の持ち方しだいで、随分体感温度は違ってくる。

 「……心頭滅却すれば火もまた涼し。そんな言葉が天界にはあるって、そう言ってたのはあんたでしょうが」

 「いや、確かにそうは言ったけどさ。……これだけ暑いと、それも本当だかどうか疑わしくなってくるよ……」

 どんだけ精神修養すれば、その境地に達せられるんだか。そう言いつつ、手に持った扇子で顔を仰ぐ一刀。

 「……だから!その言葉を言うなって言ってるでしょうが!」

 「む。出てくるものは仕方ないだろ!実際暑いのに違いはないんだからさ!」

 「そんなことはわかってるって言ってるの!私が言いたいのはいちいち言葉にするなってこと!言わなくてもわかってるんだから黙ってなさいよ!この万年発情期!」

 「今はそれ関係ないだろ!?」

 「ほんとに関係ないのね?!だったら!今から私が下着姿になっても、絶対欲情なんかしないと誓えるわよね!?この歩く孕ませ機!!」

 ……正直言って、この時は多分、あまりの暑さで頭がどうかしていたんだと思う。自分が今なにを言っているのか、さっぱり分かってなかったと思う。

 「あったりまえだ!大体、桂花のまったいらなんか見たって、そんな気になんかなるわけないだろ!?」

 多分、一刀もこの時は熱でおかしかったのだと思う。普段の彼ならば、そんな体型がどうのなんてことを、本人を目の前にして言うはずがない。

 

 けど、お互いに、すでに半日近くこの暑い部屋の中にいたものだから、すでに頭のねじが相当緩んでいたんだと思う。売り言葉に買い言葉。一度走り出した意地の張り合いが止まることも無く、こんな馬鹿な勝負を始めてしまった。

 「だったら一つ賭けでもしようじゃないの!もしあんたが、夕刻まで私に何もしないでいたら、明日一日、あんたの言うことなんでも聞いてやるわよ!」

 「よーし、その勝負乗った!もし俺が負けたら、逆に桂花の言うことなんでも聞いてやるよ!」

 

 夏のとある昼下がり、そんな馬鹿なことを始めた私たちであった。

 

 

 

 「ふぅ~……あ~涼しい(ちら)」

 「う!?そ、そうだな。ちょっとだけ涼しくなってきたかもな」

 はだけた服の胸元を、これ見よがしにパタパタさせて一刀に見せ付ける私。それから、さも興味がありませんよ~という感じで、わざとらしく視線を泳がせる一刀。

 「……そうかしら?ちょっとまだ暑いし、もう一枚脱いじゃおっかなー」

 「そ、そうか?だったら別に、俺なんか気にせず、いくらでも脱げばいいだろ」

 ……ちっ。割と我慢強いじゃないのよ。……だったら。

 「やっぱり暑いわね~。……上着脱いじゃおうっと」

 「?!」

 ふぁさ、と。上着を一枚脱いで、上半身だけ下着姿になる。

 「……なによ?やっぱり欲情したんでしょ?この無節操男」

 「ぐ。……そ、そ~んなわけ無いさ。桂花があられもない姿をしてるくらいで、いちいち欲情なんてしていられやしないっての」

 「ふ~ん、そう?……じゃ、こっちも脱いじゃおっかな~」

 といって、今度は下にはいているズボンに手をかけ、したり顔で彼の方をちら見する。

 「い、いいんじゃ、ないか?す、涼しくなって、さ。は、ははは」

 「そうね~。じゃあ、思い切って脱いじゃおうっと♪」

 「わぷっ?!」

 ぽいっと。それを勢いよく、わざとらし~く、彼の頭に放り投げる。

 「あ、ごめんなさいね~」

 「……」 

 ふるふると。私のズボンが顔かかったまま、肩を震わせる一刀。

 (……さあどうよ?これならもう我慢も限界でしょうが)

 

 と、すでに何のために始めた勝負なのかも忘れ、一刀の反応を待つ私。

 「……桂花」

 「あによ?」

 「……服はきちんと、たたんでおいたほうがいいぞ?しわになったら困るだろ」

 「っ!?……わ、分かってるわよ!!」

 予想に反して、冷静さを保っている一刀からズボンを受け取り、それを横にある予備のいすの上に置く。……ちょっとだけ、予想外だったわね。まさかこいつがここまで耐えるなんて。……まさかとは思うけど、本当に私に魅力を感じていないんじゃないでしょうね?魏の種馬と呼ばれるこの男が、下着姿の可愛い女の子を目の前にして、ここまで反応しないなんて……ん?

 「……ちょっと。なんで前かがみになってんのよ?」

 「ぎく。……そ、それはその、だな。えと」

 「……ふ~ん。そういうこと」

 表面上は冷静さを保っているけど、この男、やっぱり……そういうことなら。

 「……え~っと。確かさっきの書類はこっちに置いたわよね~」

 といって、わざとらし~く、一刀から背を向けて、彼からよく見えるように、お尻を高く上げて下のほうにおいてある書類を取ろうとする。

 「うおっ!?」 

 ふふ。反応した反応した。ほらほら、さっさと我慢を止めちゃいなさいって。でもって私を……と、そう思ったときだった。

 

 ……服を脱いだ分、いくらか本当に涼しくなったせいか、急激に頭が冷えていく感じがして、私は自分がしていることにいまさら気がついた。

 (……ちょっと待って。何で私、北郷の前で下着姿になんかなって、こんな挑発的な格好を)

 ……そう思った時には、もう完全に手遅れだった。

 

 

 

 「…………もう……もう……もう、限、界、だあ~っっっっ!!」

 「ひっ!?ちょ!ま、待って!これは何かの手違」

 「けいふぁ~!!」

 「馬鹿!止め!ちょ!北ご」

 「馬鹿で結構!もうとまらない!こんな可愛い桂花を前にして我慢なんか無理!」

 「か!可愛いだなんて何馬鹿言ってんのよ!この万年発情期の無節操!全身精液の自動孕ませ機!ど変態種馬ーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~中略~

 

 

 

 

 

 

 「……なあ、桂花」

 「……なによ」

 「……暑いな」

 「……誰のせいよ」

 

 真夏の真っ昼間。とある一室にて、全身で息をしながら、思いっきり汗をかいて、すっ裸で重なり合う男女二人。 

 

 「……水風呂でも、入りにいく?」

 「……腰、抜けちゃってるんだけど?」

 「お姫様抱っこして運ぶさ」

 「……誰にも見つからないようにしなさいよね?」

 「……恥ずかしいから?それとも、邪魔されたくないから?」

 「……馬鹿///」

 

 

 

 でもってその翌日。

 

 「な~、桂花~。まだあるのか~?」

 「あったりまえよ!今度は華琳様への贈り物を買うんだからね!ほら!文句言わずにちゃっちゃと歩く!」

 一応、例の賭けは私の勝ちだったわけなので、今日はこうして、一刀を荷物もちとしてこき使っている私。

 「せめてどこかで、お茶ぐらいしよう?……手がめちゃくちゃ痛いんですけど」

 「だ~め。ほらほら、日が暮れるまでにあと六軒、回るからね?」

 「うへ~……」

 がっくりと、肩を落としてため息をつく一刀。そんな彼を後ろ目に、私は上機嫌で街を歩く。 

 「……一日くらい、あんたを独占したって、たまにはいいじゃないよ」

 「へ?なんか言った?」

 「なーんにも。ほら!さっさと次のお店に行くわよ!」

 

 そう。

 

 普段、貴方のことが嫌いだと、そんな“演技”をしているのだから、たまには独り占めする日があったっていいわよね?

 

 たとえ言葉は素直じゃなくとも、たとえ態度はそっけなくとも。たとえ昨日のように、貴方に愛してもらえる日が少なくても。けっして、この本心を打ち明ける日が来なくても。

 

 荀文若が、北郷一刀を愛している。

 

 それは変えようの無い真実だから。

 

 「ちょっと!何ぐずぐずしてるのよ!荷物もちもろくに出来ないわけ!?この種馬は!」

 「……馬にだって、重いのが嫌いなやつが、どっかに居るかも知れないだろ?」

 「屁理屈言わない!ほら!早く来なさいよ!」

 

 へばりかけている彼を叱咤しつつ、私は街の通りを歩く。そんな私に、嫌そうにしながらも、なんのかんの言いながらついてくる彼のその優しさに、心の充足感を感じつつ。

 

 

 

 

 金木犀(きんもくせい)は秋の花。

 

 けど、夏に花開く金木犀があってもいいと思う。

 

 桂花。

 

 夏に咲き誇る、ちょっとだけひねくれた、ただ一人のためだけの金木犀。

 

 

 

 北郷一刀の傍に咲く、この世でたった一輪だけの、ね?

 

 

 

 ~えんど。


 
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