自分の執務室が赤色に染まる。
いつの間にか、日没近い時刻になっていたらしい。
今日の朝、雪蓮に誓ったあの時から私は前に進むと決心した。
その影響からかいつもより仕事が進んだ。
ただ辛い事から逃げるように取り組んでいた仕事をしていたあの時よりも
幾分気持ちが清々しい。
あと数週間もすれば魏の慰問の使者が来る。
それを利用する手はないと、私は昨日の朝の政務報告会で蓮華様に助言を申し入れたのだった。
------魏と呉による二国の中立条約---------
この条約は[今後五年間、魏と呉両国が互いに戦争を仕掛けない]
という文字通りの内容である。
この理由としてはまず、呉における富国強兵を推し進めたいためである。
理由として魏は大陸の半分近くを保有している。
それゆえ、まず呉の軍備拡張を推し進めなければならない。
5年間というのは、そのための準備期間である。
そして二つ目の理由は・・・・・。
蜀との同盟締結のためである。
先ほど挙げた富国強兵政策が上手くいっても今の呉の兵員動員能力の恐らく2割増しに
しかならない。
魏と違い、こちらの領土はあまり大きくないからだ。
当然それだけでは、あの超大国である魏に到底太刀打ちできない。
故に、蜀との同盟締結が必要なのである。
二つの列強が同盟を組めば三国が互いにけん制しあい、より中立条約の効力が増すであろうと私は、考えたのであった。
恐らく蜀も私達と同じ悩みを抱えているはずだし、蜀の統治方針は
「自国における国民の平和と安泰」
と呉と非常に酷似している。
この話は蜀にとっても、悪くない話だと思われた。
この二つの理由を蓮華様に申し上げたところ、私の考えに同意してくださった。
「実はわたしも冥琳と同じ考えを持っていたのだ。
この件に関しては冥琳を中心に話を進めてほしい。
補佐は、亞莎をつけようと思う。いいな?亞莎?」
急に話を振られた亞莎はオドオドと慌てていたが何とか持ち直し,
ずり落ちかけてる
片眼鏡を直しながら返事をする。
「はっ、はい!!おまかせくださいぃ~」
亞莎---呂蒙---はこの通り極度のあがり症である。
元々武官であった亞莎を私が軍師として引き抜いたのであった。
彼女は穏と一緒で、私の後を継ぐ者として期待を寄せている人物でもある。
・・・・まぁ、あのあがり症がなんとかなれば、もう少し威厳のある軍師に見えるのだが・・・・・。
などと考えていくるうちに蓮華様は的確な指示を家臣たちに出していく。
「そして富国強兵での農政・経済での担当は私が引き受ける。
補佐は穏に頼みたい。穏よろしくね。」
「はい、はい~。よろしくお願いしますねぇ~」
と穏---陸遜---は独特の口調で返事をする。
彼女は私の一番弟子で軍師としての能力は私が太鼓判を押すほどだ。
ただ唯一難点があるのは、穏は本を読んでしまうと性的に興奮してしまうことなのだが・・・・・
「そして軍備拡張の件は祭と思春に任せよう」
「御意!!」
祭殿----黄蓋----は蓮華様の母であった孫堅様の代から呉に仕える宿将である。
つい先ほど北郷の面倒を彼女に頼んでみたところ、快く承諾してくれた。
なお彼女が持つ、指揮官としての能力は絶大でその能力は三国一とまで謳われているほどである。
そして祭殿と一緒に返事をした思春---甘寧---は元々は海賊であったがのちにその高い戦闘能力を蓮華様に買われて
以後仕えている。また彼女は海での戦闘、隠密行動にも長けているため呉の工作部隊と水軍の隊長を兼任している。
「蓮華様。
小蓮様はいかがなさいましょう?」
思春が蓮華様に尋ねる。
小蓮様---孫小香---は蓮華様の妹である。
こちらは雪蓮に似ていて、少々お転婆な性格をしている。
小蓮様は今この報告会に出席していない。
「小蓮様は待機と伝えておいてくれ。
引き続き、鍛錬に励むようにと」
私がそういうと、思春は珍しくバツの悪そうな顔をして私に尋ねてくる。
「この会議を教えられないと?」
「そうだ。
この会議は極秘だ。小蓮様には少々荷が重い」
「まぁ、あの性格ではの・・・・」
祭殿が苦笑いを浮かべる。
残念ながら小蓮様は守秘義務を守れる性格ではない。
このことは極秘に進めたいため、教えることをあえて避けたのである。
それに小蓮様はまだ軍団を任せられる力を持っていないのも理由の一つだ。
今の北郷に似た身分でまだ見習いといったところだ。
「なお当面の方針は自国の富国強兵、及び蜀との同盟締結と魏との中立条約締結に全力を注ぐことにするが、異論はないな?」
「・・・・・・・・・」
沈黙が流れる。それは賛成を意味していた。
「では、各自持ち場につくように。解散!!」
進行役の私がそう云うと皆、担当の部署へと散って行った。
今間諜からの情報を整理しおわったため一息ついていたところ、足音が聞こえてくる。
誰かが私の執務室に向かっているきているようだ。
「冥琳。少し・・・・・良いかしら?」
入ってきた相手は蓮華様だった。
私は彼女が急に来たことに内心驚きながら、顔に出さず、彼女を部屋に招き入れて要件を伺う。
「はい。どうかなさいましたか?」
「その・・・・一刀のことなのだけど」
「北郷が気になるのですか?」
「え、えぇ」
彼女は頬を赤く染めて、小さな声で答える。
「・・・北郷なら心配はいりません。
彼は自分なりに始末をつけようと努力をしています。
・・・・ただ、あくまでも私の推測ですが北郷のあの白い服を着る姿はもう見られないと、
思います」
彼は自分の地位を象徴する物であった、≪天の御使いの服≫は今後着ることはないと私は思っている。
今の彼はその地位に甘んじるであろうか?
答えは否だ。
多分あの服を着るときはもうないかもしれない。
「そうか。やはり・・・・」
蓮華様は悲しい顔をしている。
彼女も思い出しているのだろう、あの時のことを・・・・。
「しかしご安心ください。朗報もあります」
私がそう云うと、彼女は意外そうな顔をして私に促す。
「・・・・・?
何?云ってみて?」
「北郷は[あなたを守れるような存在になる]・・・・・と私と雪蓮に誓いを立てました」
「一刀が姉さまと冥琳に?」
「はい。もう二度と大切な人を失いたくないから・・・・だと」
私が云うと彼女の顔がみるみる赤くなっていく。
そして無意識であろうか?
ボソッと小さな声で彼の名前を呼ぶ。
「一刀・・・・・・・」
ほんのりと上気した頬、うるんだ瞳。
その姿は一国の王ではなく、一人の恋する少女の姿であった。
「・・・ふふっ。惚れ直しましたか?」
私が笑いながら茶化すと彼女は、急にハッと意識を取り戻し恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
「イヤ!これは、その、違うの・・・」
目をあちこちに動かし、弱々しい声で否定する。
どうやら姉譲りで嘘をつくのが下手らしい。
私はそれが可笑しくてついつい笑ってしまう。
それをみた彼女は拗ねた少女のような顔をして怒りだす。
「冥琳!!」
「すいません。少々可笑しかったものですから・・・」
「うぅ・・・。放っておいてちょうだい」
「とりあえず蓮華様。彼なら大丈夫です。
ですが、もし彼が迷ったりしたらどうか彼に手を差し伸べてやってください・・・」
「冥琳・・・」
「それは私達ではなく、あなただけにしかできないことなのですから・・・・」
「ええ。わかったわ」
彼女は私の真意を察したらしく、真剣なまなざしで私を見て頷いた。
そのあと、蓮華様といろいろと政のことでいろいろと相談を受け、それに対して私は助言をした。
「さて、もう部屋に戻るわ。
大変なのに、すまないわね」
一通り相談が終わると彼女はそう云い立ち上がった。
「いえ。何か困ったことがあればいつでも承ります。
遠慮なさらないでください」
「ありがとう冥琳。じゃ」
「ええ。また後日」
蓮華様が部屋から去り、私一人が部屋に残された。
また静寂が部屋を支配する。
しかし、以前の様に不快に感じることはなかった。
「さて・・・、最後の詰めに移るか・・・・・」
私はそう云い、任せれた役目を全うするため仕事を再開した。
どうも第五話いかがでしたか。
四話と同時進行で作っていたのですぐ投稿できました。
よかったぁ(汗)
シリアス抜けられて(笑)
ほんと今まで暗かったですからねぇ~。
よかったです。
次回も冥琳中心で話を進めたいと思っています。
ついに彼女の外交手腕が発揮される時が来ました!!
魏との条約締結はうまくいくのか?
お楽しみに!!
ついでなんですが、何故条約で五年なのかっていうと、あの時代よーく考えると
今よりも人口も少ないし、戦争するのだってお金や食料、そして時間がかかるはずなんです。
よって魏が100万もの大軍を用意するには相当時間がかかるというだろう結論に至ったわけですよ。(史実での赤壁の戦いで魏はどのくらいの戦力かはわかりません。あくまでもゲームがベースなので)
だから5年が妥当かなと・・・(汗)
ついでに一刀が強くなるにもそれくらいかかるかなと・・・・。
一応春蘭ぐらいのレベルまで強くなる予定なので・・・・。
あと蜀との同盟だってゲームでは直ぐ決まっちゃうけど現実そんなに上手くいかないだろうという作者の勝手な推測があるのも理由の一つなのですが・・・・・(^_^;)
なんとなくスケールが大きくなっちゃいそうですが、頑張ります。
どうかこれからも宜しくお願いします。
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続きです。
ようやくシリアスから抜け出せました(汗)
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